FGOのマスターの一人 作:sognathus
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つい先ほどまでナイチンゲールから執拗な診断要求を躱す事に注力していた事もあって、上手くやり過ごしたと確信した時点でドッと強い疲労感に襲われた。
ハッキリ言って、症状は悪化していた。
「あー、マーちゃんだぁ。どうかしたのー? なんか凄く調子悪い感じぃ?」
「……ちょっとね」
「……じー」
「何?」
「ねぇ、もしかしてマーちゃん今すっごく攻め時って感じ?」
「確かに弱ってるけど、そんな事したら人から嫌われるよ?」
「別に酷い事しようってわけじゃないよ? ただちょーっとお願い聞いてもらいたいなぁみたいな?」
「引き籠りたいとか?」
「そうそれ!」
「いいよ。じゃ、暫く休みね」
「えっ」
即断即決だった。
姫は思わずポカンとした顔をした。
仕事をサボりたいのは本心だったが、まさかこうもあっさり要求を受け入れてくれるとは思ってもいなかった。
「じゃ、俺はこれで」
「え、あ、ちょ、ちょっと待ってよ。ね、ホント? ほんとーに引き籠っていいの?」
「さっき構わないって言ったじゃないか。姫の代わりは誰かにお願いするよ」
(そ、そんなあっさり……)
「え、えー? で、でもぉ? ほ、本当に、本当にそれでいいのかなぁ? ほらわたしってこれでもやれば結構出来る子系のサーヴァントじゃん? そんなに簡単に代わりの子見つかるかなぁ?」
(え、ちょっと本当に勘弁してください。俺は調子が悪いのよ。引いたら引いたでしがみ付いてきたよ)
マスターは姫の対応が面倒で仕方が無かった。
他のサーヴァントと同様あまり話した事はなかったが、それでも性格とかの特徴はある程度抑えていたので、最も効果的な対応を本人はしたつもりだったのだが……。
「いや、本当に大丈夫だし怒ってもないから。休みたいっていうなら俺は無理に働かせたりはしないよ? メンタルケアも大事だからね」
「へ、へぇ……」
あくまでマスターは本心から自分の言う事を聞いてくれるのだという。
だというのに姫はそれでも何か自分が凄く要らない子扱いされているようで、不安とも寂しさとも言える感じに心がチクチクした。
「あ、あっ! そ、そういえばー、マーちゃんとわたしってあまり話した事がなかったよね? 休みをくれるのも嬉しいけどぉ、先ずはほら、シフトとか予定とかそういうのしっかり確認したりしてわたしと打ち合わせした方が良いんじゃないかなぁ?」
「えー……」
(何故こんな時だけ真面目ぶる。こっちは気にしないでいいよって言ってるのに)
この時正に、カルデア史上最大規模のマスターとサーヴァントの心の乖離が発生していた。
「あぁ……まぁ、そうだね。じゃあ後で俺から連絡するから。その時話そ」
「あ、後でってどれくらい?」
「大丈夫。ちゃんと連絡するから」
「……」
姫はマスターの服を掴んで逃すまいとした。
何故こうも必死なのか、体調不良のマスターには残念ながらこの時冷静に考える余裕が無かった。
「離してくれるかな」
無意識に強い言い方になっていた。
その威圧感に服を持っていた姫はビクりと震えたがそれでも離さなかった。
「姫?」
「……」
マスターは姫の目尻に涙が滲んている事に気付いた。
彼は自分が彼女を泣かせてしまう程に追い込んだらしい事実に流石に驚いた。
「えっ、姫。ちょ、ちょっと……あーえっと」
(どうしたら、どうしたらいい?)
姫はまだ服を掴んだままだったが、泣いている自分に気付いて空いていた片手でフード被り顔を隠した。
(これはもう子供だよな。なら相応の対応をしよう)
ポン、という優しい感触で頭の上に何かが乗ったのを姫は感じた。
その正体は半ば判ってはいたが、しかしそれでも確認せずにはいられなかった彼女は伏せていた顔を上げて再びマスターの方を見る。
「ごめんなさい」
そこには自分の頭に手を乗せて、とても困った顔で謝るマスターの顔があった。
その表情は凄く大変な事をしてしまったという焦りがよく出ており、見れば少なからず脂汗まで浮かんでいた。
そんな困った顔をしたマスターを見たのは姫は初めてだった。
そして何故かその表情が姫にはとてもおかしく見えた。
「ぷっ……」
「姫?」
思わず吹き出してしまった姫の声を聞いてマスターが申し訳なさそうな目で姫を見る。
「……お薬貰ってきてあげよっか?」
「え?」
「調子悪いんでしょ? 仕方ないからわたしが貰ってきてあげる」
「え、いいの?」
「お部屋で待ってるんだよ?」
姫のあまりにも早い機嫌の直り様にマスターはそれ以上何も言えず、恐らく医務室へと向かったと思われる姫の背中を見送る事しかできなかった。
そして、これは余談となるが、姫が持って来たのは風邪薬だった。
マスターはそれに対して特に何も言うことなくお礼を告げて薬を服用したという。
連投になりますが、次は間が空くような空かないような。
思い付けば良いのですが。