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【社説】

野田女児死亡 命の安全網強くせねば

 救えた命ではなかったか。千葉県野田市の事件で、死亡した女児のSOSの詳細が明らかになるにつれ、その思いも強くなる。今もどこかで助けを求める子はいないか。安全網を強くしなければ。

 千葉県警は、既に傷害容疑で逮捕されている女児の父親と共謀したとして、母親も同容疑で逮捕した。母親も夫からドメスティックバイオレンス(DV)を受けているという情報を、以前住んでいた沖縄県糸満市は把握していた。

 転居後に、千葉県の児童相談所や学校などで把握した情報を突き合わせれば、父親が、母親や子どもを暴力や恐怖で支配していた可能性が浮かび上がる。担当機関同士が情報を共有していればと悔やまれる。

 罪深いのは、SOSを命を救うのではなく、危険を高める方向で使ってしまったことだ。学校で実施したいじめのアンケートで、女児は父親の暴力を訴えていた。児相での一時保護には結びついたものの、逆上した父親に迫られ、野田市の教育委員会はアンケートのコピーを渡してしまった。

 アンケートは二〇〇〇年代後半に全国に広がった。いじめ自殺が社会問題となったことを契機に、文部科学省が統計の取り方を「発生件数」から「認知件数」に改め、早期の実態把握に努めるよう促したことが背景にある。

 しかし、いじめの場合もアンケートで発せられたSOSを生かせず、自殺などの重大事態に至ってしまう事例もある。虐待となると、学校や教育委員会では対応できない懸念がさらに高まるのではないか。今回のことを教訓に全国の教委や学校は、情報を把握したときに、どう対応するか策を練り上げておくべきだ。

 教員と連携して学校トラブルの解決にあたる弁護士「スクールロイヤー」を導入している自治体もある。学校が子どもの命を救うとりででもあることを自覚し、教委は自らの弱点を補う組織改革を図っていく必要もあるだろう。

 児相の虐待相談対応件数は年間十三万件を超え、十年で三倍強に増えた。弁護士の配置など体制強化のための法改正が実施され、子どもを保護する「介入」機能を強化する方向での議論も進む。一時保護の必要性を判断するための人工知能(AI)を試験導入する自治体もある。

 制度や体制が現実に追いつけない現状を克服するため、可能な限りの措置を行う覚悟を社会全体で共有したい。

 

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