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盾の勇者の成り上がり 作者:アネコユサギ

外伝 槍の勇者のやり直し

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潜伏

 婚約者に頭が大丈夫か、と言われてしまいましたぞ。


「まあ、少し話す事は変だけど、結構当たるんだよ。俺が冤罪に掛けられそうになったのを助けてくれたり、未来で起こる事件とかを教えてくれて、その通りに起こったりするからね」


 今にも泣きそうな表情で婚約者はお義父さんと俺を見つめますぞ。

 その通り、俺は何度もループしていますからな。

 起こる事件を当てる事など容易いですぞ。


「メルティちゃん、よーく覚えて。別に俺はこの国を滅ぼしたいとは思ってない。何だかんだで良い人はいる。それに滅ぼすんだったらシルトヴェルトへ行ってそこの代表に堂々とメルロマルクを滅ぼせ! って宣言すれば良いだけなんだ。そうしたら……メルティちゃんは凄く困るでしょ?」

「うん」

「同様に俺も困るんだ。別に戦争がしたくて異世界に来た訳じゃない。頼まれた通り、波から世界を救うためにここにいる」


 お義父さんの言葉に婚約者がホッとしたような表情を浮かべましたぞ。


「で、話は戻すけど、元康くんの話だとメルティちゃんのお母さんである女王が俺の指名手配に関しては数日以内に取り消してくれるらしいんだ。後に残るのは三勇教の暴走だけ……ここを乗り越えられれば騒ぎは収まるんだ」

「父上と……姉上は?」

「それはー……」

「罰はありますぞ。未来でお義父さんが王にはクズ、赤豚にはビッチという改名の罰を与えるのですぞ」

「……」


 何故か婚約者の目が半眼になっておりますな。

 サクラちゃんが宥めるように婚約者を後ろから抱き締めますぞ。


「メルちゃん、泣かないでね」

「大丈夫、サクラちゃん」

「むしろ改名の罰が信用できないって事かな?」


 何故か婚約者は素直に頷きますぞ。


「名は本人の人格を表すのですぞ。あの二人には良い改名だと思いますな」


 クズと赤豚はその事でずいぶん不快な表情を浮かべるのですぞ。

 思い出すと楽しくてしょうがありませんな。

 まあ、豚がどんな顔をしても不快であるのは変わりませんが。


「そこは……他に良い手が無かったとかかな? 曲がりなりにも国の代理王と姫を間接的に関わっているから処刑……は女王の立場的に難しいし、精々権力を剥奪だけど、それもするらしいしね」

「そっちは信じられるわ」

「ある意味俺の機嫌取りをして、且つ家族を死なない様に守った、妥協案だと思えば納得……できるのかなー? 未来の俺と今の俺は大分違うらしいから、その時にならなきゃわからなそうだね」


 お義父さんの推測に婚約者は何度も頷きましたな。

 あの女王、最初は豚に見えましたが婚約者の親という事で人だったのを認識出来たのですぞ。

 後の世でもお義父さんとそれなりの関係を築いていた所を考えるに相当な人物なのが窺えますな。


「とりあえず、俺達は何も国を滅ぼしたい訳じゃない、という事を理解してほしいんだ。で……その女王が帰還するまでの間、国に潜伏しているフリでもしていれば良いのかな?」

「ポータルで簡単に国外逃亡は出来ますからな。三勇教に俺達が逃げられるのを隠していたのが実を結びますぞ」

「そうだね。かといって……シルトヴェルトにメルティちゃんを連れて行くのは危ないかな?」


 敵国の姫ですからな。

 お義父さんが同伴していると言っても何をするかわからない危うさは確かに存在しますぞ。


「とは言ってもいつ刺客が襲ってくるかわからないメルロマルクにいるよりも安全かもしれませんぞ」

「灯台元暗し……とは違うか。相手の予想しない場所にいれば確かに安全かもしれないね。じゃあ見つからない様に活動拠点を変えるよ。帰ってくるのは騒ぎが収まってからか、女王の居場所がわかるまでにしよう」

「わかったぜ、兄ちゃん! な? メルティちゃん!」

「……はい。理解したわ」

「どれくらい掛かるかわからないけど、可能な限り早く解決するからね?」


 婚約者はサクラちゃんに抱きついてお義父さんの言葉に頷きました。

 こうして俺達はそれとなく行商を切りあげてシルトヴェルトに移動を完了したのです。

 指名手配されている当人である俺達はとっくに国を出ているにも関わらず、三勇教は血眼になって俺達を探し、国の革命運動が広がって行く……のでしたぞ。




「あははー!」


 シルトヴェルトの方へ移動して数日が経過しました。

 既に金もLv、装備が整っている俺たちは休息を取っていたのです。

 婚約者はサクラちゃんやフィロリアル達、そしてキールや助手と楽しげに追いかけっこをしておりました。


 微笑ましい光景ではありますな。

 フィーロたんがいない状況では俺と婚約者との間に敵対関係は無いのですぞ。

 フィロリアルを好きな者に悪人は存在せず。


 婚約者は敵ではなく、我がライバル。

 むしろこの様な高貴に溢れる姿を見れば見る程、俺の向上心も上がるというもの。

 フィーロたんと出会うという目的のモチベーションがぐんぐん上がりますな。


「んー……不謹慎だけど、こうゆっくりとしていると悪い気がしてくるね。かと言ってメルロマルクで騒ぎの鎮圧なんて出来るはずもないし……」


 お義父さんが宿の部屋で窓辺に立って、フィロリアル様と婚約者、そしてキール達が遊んでいる光景を見て呟きましたぞ。

 外はもう夕暮れですな。


 こうして見ていると婚約者は完全に子供ですな。

 あのような子供がどうしてフィロリアル様達と仲良くなれるのか……おそらくフィロリアル様達が純粋な者達だからですな。


「そういやラーサさん達、いなかったなー……」

「あのパンダですな。何処へ行ったのでしょう?」

「さあ……彼女達は傭兵だからね。何処かで仕事を見つけたのかもね」

「ただいまー!」


 婚約者が元気よく帰ってきましたぞ。


「おかえり、じゃあこれからご飯でも食べに行こうか?」

「いくわ!」


 だいぶ慣れたのか婚約者の口調も遠慮が無くなりつつあります。

 ただ、それでも何処か敬語と言うか、未来の様に腹を割って話している様な感じはしませんぞ。

 あえて言うなら距離感があるように見えるのですが、お義父さんと婚約者は何も違和感が無い様子。



 それからみんなで食事を終え、宿の部屋でゆっくりとしていますぞ。

 婚約者は最初に宥めてくれた影響かサクラちゃんと仲良くなっているようですな。

 どたばたと部屋でもサクラちゃんと追いかけっこをしております。


「あははは、サクラちゃんまってー」

「こっちこっちーメルちゃーん」

「コラコラ、あんまり暴れないの。追いかけっこをするなら外でね」

「ご、ごめんなさい」


 ハッと我に返った婚約者がお義父さんに謝ります。

 サクラちゃんはぼけーっとした表情で謝る婚約者の頭を撫でますぞ。


「サクラも悪かったー、ナオフミごめんー」

「良いんだよ」

「メルティちゃんはホント気さくで良い子だな!」


 キールがそんな様子の婚約者を見てお義父さんに言いましたぞ。


「姫ってのを笠にしないし」

「必要なら使うわ。だけど、ここでは必要ないでしょ?」

「じゃあこれから何して遊ぶ?」

「あんまりドタバタしない奴ね? ここに来るはずは無いけど、一応俺達は潜伏しているんだから」

「はーい」


 婚約者達は部屋で静かに遊べるゲームを選んで興じている様でしたぞ。

 サクラちゃんやユキちゃん達も参加してそれはそれで楽しげですな。

 俺も参加しましたぞ。この世界独特のカードゲームなどをしました。

 やがてお義父さんはゲームを終わらせて注意致します。


「そろそろ夜も更けてきたし、寝ようか」

「はーい」


 お義父さんに言われて婚約者とサクラちゃんはベッドに入りますぞ。

 それはキールや助手も変わりませんな。

 ああ、キールにべったりのルナちゃんはキールと寝ておりますぞ。


 助手はライバルが馬小屋で寝ているのですが、一緒に寝ようとして怒られたそうですぞ。

 人とドラゴンは違うのだとか。


 俺の方はコウが外で寝ていますな。

 馬小屋では寝る気は無く、かといって部屋で寝るのは嫌だとか。

 ユキちゃんは俺が寝る予定である、隣の部屋で既に就寝しております。

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