核軍拡に逆戻りする危険な決定である。米国が中距離核戦力(INF)廃棄条約の破棄を通告したのに対抗し、ロシアも条約の履行義務の停止を表明した。軍縮路線に立ち返るよう両国に求めたい。
米国は離脱の理由として、第一にロシアが条約に違反して中距離ミサイルを開発・配備したと主張している。
加えて、INF条約に縛られずにミサイル戦力を急速に増強する中国への警戒もある。ポンペオ国務長官は「米国が決定的な軍事的優位を中国に譲るべき理由はない」と息巻く。中国のミサイルを脅威と見なす点はロシアも同じだ。
米ロともにINF条約に代わる新たな多国間の枠組みへの参加を中国に呼び掛けているが、中国は後ろ向きだ。米ロは中国を説得して、三カ国で軍縮協議を始めてほしい。
INF条約は米国と旧ソ連が初めて特定の核兵器の全廃や、現地査察受け入れで合意した画期的な軍縮条約である。
米ソが条約に署名した一九八七年当時、世界中の核保有数はピークだった。全米科学者連盟の専門家クリステンセン氏の推計では、退役済みを含めて約七万発の核弾頭があった。
昨年の時点でまだ約一万四千五百発もあるという。世界の安全のために核廃絶の歩みを止めてはならない。
米ロは二〇一〇年に新戦略兵器削減条約(新START)に調印し、配備済みの核弾頭をそれぞれ千五百五十発以下に削減したが、これを最後に足踏みを続ける。
INF条約をめぐってもあらわになった相互不信が、二一年に期限を迎える新STARTの延長問題に及ばぬよう双方に促したい。
ただ、残念ながら現実は、歯止めのない軍拡競争が起きかねない事態だ。米国が「使いやすい小型核」の開発を打ち出せば、ロシアも極超音速ミサイルの年内配備を計画している。
トランプ大統領の看板政策の大型減税で米国の財政赤字は膨らんだ。軍拡路線を突き進めば財政悪化は深刻化する。
それに、核戦力を増強しながら北朝鮮には核廃棄を求めても説得力はあるまい。
ロシアは欧米の経済制裁のあおりもあって経済低迷が続く。中国も格差拡大が進む一方で経済成長は減速している。各国とも軍拡よりも民生の安定・向上に資金を投じるべきである。
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