東京都が築地市場跡地(中央区)の再開発方針の素案を公表した。そこには、小池百合子知事が掲げた「食のテーマパークを有する市場」の文字はない。なぜ消えたのか、説明が不足している。
素案によると、市場跡地は二〇二〇年東京五輪・パラリンピックで車両基地として活用後、再開発する。中核となる国際会議場や大規模集客施設のほか、高級ホテルやレストラン、駅や船着き場などを整備する。
小池知事は一七年六月の会見で「築地は守る」と訴え、「食のテーマパーク機能を有する新たな市場」と説明していた。「(仲卸業者が)築地へ復帰する際のお手伝いはさせていただく」とも発言し、この地に愛着を持つ人々が期待したのも無理はない。
都議選の告示三日前だったから実質的に選挙公約だ。小池知事が率いた都民ファーストの会が大勝したのは記憶に新しい。
小池知事は今月一日の定例会見で記者に問われても、「築地に戻りたいというご意見はしっかり聞いていく」などと述べたくらいで、食のテーマパークや築地市場の復活は口にしなかった。
そもそも築地市場の取扱量が減少する中、築地と豊洲市場(江東区)の二つの市場が必要か疑問の声はあった。豊洲の観光拠点施設を運営予定の業者が食のテーマパークとの競合を懸念し、撤退を検討する事態も招いた。
もし小池知事が都議選の人気取りのため、熟慮を欠いた案を口にしていたなら、有権者はたまったものではない。
思い出すのは四半世紀前の青島幸男・元知事の例だ。一九九五年の選挙で「経営破綻した信用組合への財政支出反対」を訴えた。乱脈経営の責任を重く見て、「都民の税金で救済するなんてとんでもない」と断言していた。
当選後、預金者保護などのため二百億円支出にかじを切る。この時、都議会でこう述べた。「私の公約は認識に不十分な点があったと率直に認めたい」
公約撤回は褒められたことではないから「青島さんを見習って」とは言いたくない。ただ、非があれば認めて丁寧に説明するのは最低限の義務だろう。
銀座に近い都心の一等地を、海外の賓客が集う経済成長の拠点に-。今回公表した素案の是非を論じる前に、まず小池知事の誠実な説明を聞きたい。
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