世の中には、実質賃金=平均賃金というデマが存在します。
このデマは、国民にデータの読み方を誤認させる、つまり国民の愚民化を狙ったものであり、極めて悪質なものです。
このようなデマを流布し、あまつさえ全く反省も謝罪もしないような人間は、社会的に処罰されて然るべきであり、いくら言論の自由が保障されているとはいえ、法律による処罰対象にしても良いくらいの悪質さであると断言できます。
このようなデマを放置することは、日本の国益に反するどころか、棄損することは間違いありません。
以下に実質賃金の正しい定義と、このデマの発信源を告発したいと考えます。
実質賃金とは
実質賃金というのは、名目賃金を消費者物価で割ったもののことで、指数で表されます。
指数とは、ある年の基準を100として、%で示された数字のことです。
つまり、
名目賃金指数 = 名目賃金実数 / 基準となる名目賃金実数 × 100
となるわけですね1)。
消費者物価の指数は、ご存知の方も多いと思いますが、CPIと呼ばれます2)。
実質賃金は、名目賃金指数、消費者物価指数を用いて算出されます。
すなわち、
実質賃金指数 = 名目賃金指数 / 消費者物価指数 × 100
また、名目賃金は、
現金給与総額(所得税、社会保険料、組合費、購買代金等を差し引く以前の総額)
と、
きまって支給する給与(ザックリ言えば基本給+残業・夜勤等の手当)
の二パターンで算出されるます3)。
この二つに分ける理由は、
現金給与総額 = きまって支給する給与 + 特別に支払われた給与(特別給与、ザックリ言えばボーナス)
であり、ボーナスは景気の動向によって増減しやすく、業種によってもバラツキが出てしまうため、そういった変動の少ない基本給で見る方が、全体の経時的な変化を追うのに合理的なためです。
ちなみに、名目賃金は、あくまで支給された給与の総額を示すものであり、雇用者の人数という要素は含まれていません。
そもそも、企業が支払った(労働者が受け取った)給与を合計して出すだけであり、人数をカウントする必要がありませんからね。
実質賃金は、あくまで名目賃金と物価の関係を示すものであって、単純に「貰っている給料」を示すものではないわけです。
平均賃金とは
平均賃金とは、労働基準法に規定されているもので、休業手当や解雇予告手当などを算定する場合に、解雇、あるいは休業が決まった日から3か月を遡った期間に、その労働者に対して支払われた賃金の総額を、その期間の日数で割ったものです4),5)。
例えば、解雇が決まる前3か月間に貰った給与が合計で90万円だったとすると、1か月30日として計算した場合、
平均賃金 = 90万 / 90日 = 1万円
となります。
ザックリ言えば、個人の労働者が貰う給料の一日あたりの平均を平均賃金というわけですが、
そもそもこの平均賃金という概念は労働法上の概念、つまり法律用語であり、
実質賃金が経済指標、つまり経済用語であることを考えても、両者の間には全く関連性はありません。
消費者物価はどこいった
平均賃金は、平均給与のことを言いたいのだ、と解釈したとしましょう。
だから何?
という話です。
平均給与とは、厚労省ではなく国税庁が集計している民間給与実態調査と呼ばれる統計の一指標です。
給与の総額、つまり厚労省の指標で言う現金給与総額の平均であり、しかも
この調査は民間の給与所得者の給与について源泉徴収義務者(事業所)の支払額に着目し集計を行ったものであり、その個人の所得全体を示したものではない。
例えば、複数の事業所から給与の支払を受けている個人が、それぞれの事業所で調査対象となる場合、複数の給与所得者として集計される。
つまり、国民一人当たりの平均を算出したものではない、ということです。
そもそも、実質賃金というものが、あくまで名目賃金と物価の関係を示すものである以上、平均給与は統計上名目賃金と同じ扱いになるわけですから、全くお話になりません。
平均賃金が平均給与だろうと、消費者物価というファクターが介在しない以上、実質賃金が平均賃金だなどというのは、デマ以外のなにものでもありません。
もしデマでないと言いたければ、この平均賃金という指標自体、このブログ主が考案したオリジナルの指標ということです。
国賊級のデマの発信源
この国賊クラスのデマの発信源は、どうやらこれ。
いまだに「実質賃金ガー」って言っている人いるんですね ひろのひとりごと
このブログ、上念司氏の腰巾着の方が書いているようなのですが、ツイッター上ではこのデマがかなり拡散しておりまして、これを信じた惰弱がクソリプしまくっています。
年収500万円の人が2人います。平均賃金は500万円です。経済が上向き、2人の年収は550万円に、そして年収300万円の新入社員が1人増えました。しかし平均賃金は460万円に下落しました。
— ダリ (@_dalidali) 2018年5月9日
実質賃金の下落を語る人は雇用が増え新入社員(平均賃金を下げる人)が増えたことを考慮していないのです。
主に安倍信者の連中が、実質賃金の低下に対する反論の根拠として、この信じられないくらいバカバカしいデマを持ってくるのです。
彼らの頭には、本当に脳みそが入っているのでしょうか?
早急にCTかMRIで確認したいところですが、それよりも簡単な、このデマの発信源、「ひろのひとりごと」というブログ記事について、検証してみましょう。
序盤は割とまともだが…。
いまだに「実質賃金ガー」って言っている人いるんですね ひろのひとりごと
記事の序盤は、割とまともな説明になっています。
実質賃金の説明を、なぜか指数ではなく変化率で説明している点については疑問が残りますが。
月収が20万円から21万円に10%増えました。しかし物価が10%も上がってしまうと、これまで毎月20万円かかっていた生活費が22万円も必要になる。1万円給料が増えたけどこれでは実質的に1万円の給料が減ったことと同じだ~ってことになります。
物価が上がると同じお金で買えることができるモノの量が減ってしまうので、実質賃金が下がるということは実質的に国民の購買力が落ちているということになります。
実質賃金が低下=国民が貧しくなっている
うん、まぁその通りだよね。
しかし、デマは突然訪れます。
実質賃金を強調する人はそう主張しているわけなのですが、これらの方々には実質賃金が平均賃金であるという認識がゴッソリと抜け落ちている感じがします。
!!!!!?????
なぜそうなる?
続いて
実質賃金が低下=国民が貧しくなっている
という主張に対する反論が始まるわけですが、そもそも実質賃金の定義、すなわち前提条件が完全に間違っているわけですから、論理的に正しい結論など出ようはずもありません。
いくら小学生レベルの算数の文章題みたいな例を持ち出したとしても、前提が間違っていれば正しい結論など出ないことは、自明の理です。
理由も説明せず、実質賃金=平均賃金などというパワーワードをいきなり持ち出してきて、アホな小学生の屁理屈みたいな能書きをダラダラと垂れまくるわけですが、
このパワーワードから屁理屈の流れ、デマ情報の構築には、実はかなり効果的なのではないか、とも思うわけです。
実際、頭の弱い惰弱どもは、このパワーワードのインパクトにすっかり騙されてしまっています。
安倍政権の経済政策を擁護したいあまり、自分に都合のいい論を探すうちに、このデマに飛びつきたくなった、という背景もあるでしょうが、
何しろ、実質賃金=平均賃金という関係性は、頭が悪く、小難しい(とはいっても、小学生レベルの算数が理解できればなんてことはない)ことを考えたくない惰弱な怠け者にとっては、大変解りやすく、厚労省の説明などより遥かに飲み込みやすい話になっていることでしょう。
さらに、このパワーワードの後に続く説明も、小学生レベルの理解力があれば飲み込める内容となっているわけですから、頭が小学生未満の惰弱成年に対しては、極めて効果的なデマ話であると言えるでしょう。
実質賃金
でググってみよう
さて、彼のデマは、実質賃金≠平均賃金という話で一発論破が可能なわけですが、
何が一番の問題かというと、「実質賃金」でググると、なんとWikipediaの説明の次、2番目に、このデマ記事が出てくるということです。
御覧になればお分かりのように、一個人ブロガーの胡散臭い記事が、コトバンクより上に来てしまっています。
そして、このデマ記事拡散の最大の功労者は、上念司氏です。
この上念氏のツイートは、この記事を書いた時点で140回もリツイートされています。
さらに、前掲した惰弱のツイートは、以下のツイートへの返信としてリプされたものです。
リツイート数の多いツイートのタイムライン上に、デマ記事へのリンクが貼られてしまっています。
これは平松氏や竹田氏の責任ではありませんし、Googleの検索順位は、ツイッターやフェイスブックなどSNSによるリンクは評価されないようですが、これだけでもデマ情報の拡散という意味では十分脅威でしょう。
前述したとおり、彼の真意がどうあれ、これは国民にデータの読み方を誤認させる、つまり国民の愚民化を狙った、いわば情報テロとでもいうべき悪質なデマ拡散であり、日本国民の知性に対する挑戦とも言えるものです。
我々国民は、このようなデマにこれ以上騙されないよう、常日頃から警戒していなければならない時代になっているのです。
<参考リンク>
1) 毎月勤労統計調査全国調査で作成している指数等の解説 厚生労働省
2) 消費者物価指数のしくみと見方 -平成22基準消費者物価指数- 総務省統計局
3) 毎月勤労統計調査で使用されている主な用語の説明 厚生労働省
5) 労働基準法ワンポイント解説(平均賃金) 厚生労働省大阪労働局
<おまけ>
近年の経済成長率と賃金上昇率の動向 - バブル崩壊後の直近20年間の動向を中心に - 厚生労働省(PDF)
日本の平均年収、高すぎる平均と中央値の乖離について 日本の平均年収