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盾の勇者の成り上がり 作者:アネコユサギ

外伝 槍の勇者のやり直し

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 東の村を出てから一時間もしない頃。

 馬車はメルロマルクの城下町へ向けてゆっくりと進んでおりました。

 まだ時間的余裕はありますからな。急ぐ必要も無いのですぞ。


「ナオフミー」


 ですが、しばらく進んだ所でサクラちゃんがお義父さんを呼びましたぞ。


「どうしたの? サクラちゃん」

「あのね、前に城でナオフミと戦った弓の人が前から歩いてくるよ」

「ゲ!」


 お義父さんが外の様子を見て声を出しますぞ。

 俺も確認すると樹一行が仲間と共に歩いている光景が見えますぞ。

 赤豚はいますかな?

 と思ったのですが遠くてよくわかりませんな。


 樹自体、地味な格好をしていますな。

 普段はあんな格好でいるのですかな?

 腰には剣を下げていて一介の冒険者のフリでもしているのでしょう。

 もう少し近づけば良いのですが、お義父さんが焦ったようにサクラちゃんに言いますぞ。


「樹に神鳥の聖人が俺達だってばれたら何を言われるかわかったもんじゃないし、変な因縁つけられたら面倒だ。ルナちゃんみたいに変身で誤魔化せない?」

「んー? わかったー」


 そう言うとサクラちゃんがクイーン形態からフィロリアル形態に変身して馬車を引きますぞ。

 ユキちゃん達も倣いましたな。


「みんな、声を出さない様にね」

「わかったぜ、兄ちゃん。あの弓の兄ちゃんオレ達にだけ態度わりーもんな」


 キールの言う通りですな。

 まあ樹は赤豚の息が掛かっているのですから、しょうがないとも言えますが。

 そんな所にライバルに乗って空を飛んでいた助手が降りてきて聞きましたぞ。


「あれなに?」

「弓の勇者とその一行だよ。正直言って剣の勇者よりも見つかったら厄介な連中なんだ。ウィンディアちゃんとガエリオンちゃんは大人しくしててね」

「わかった」


 それとなく助手はライバルに乗って高く羽ばたいて行きましたぞ。 

 後は息を殺し、お義父さんと俺達は、仲間と談笑している樹達とすれ違いました。

 特に注意される事もなく、普通に通過出来ましたな。


 それにしても、やはり赤豚は同行していませんでした。

 城で豪遊でもしているのでしょうか。


「ふう……どうにか誤魔化せたね」

「気付かなかったようでしたな」

「それなら良いんだけどね。あっちも道行く行商の馬車とか思ってくれれば良いでしょ。ところで……樹達は何処へ向かおうとしてたんだろう」


 お義父さんが馬車の後ろ側から既に遠い樹達の後姿に目を向けましたぞ。

 樹が向かっている先ですか。


「あっちは東の村だけど……もしくは国境の方にでも行くのかな」

「生憎とわかりませんな」

「うーん……早めに村を出て良かったかもね。仮に樹が来たら何を言われるか……疫病を流行らせたのは俺達だって因縁つけられたらたまったもんじゃないし」


 ボソッとお義父さんが毒づきましたぞ。

 まあ樹ですからな。

 一見すると可哀想な被害者の方に肩を持ちますぞ。


「アレが弓の勇者なんだ」


 助手がライバルと共に降りて来て聞いてきましたな。


「うん。川澄樹っていう弓の勇者。正義感は強いみたいなんだけど、正直、自己満足で自分勝手かな」

「……」


 遠い目で助手は樹が去って行った方角を眺めておりました。

 剣の勇者である錬に並々ならぬ感情がある助手ですからな。

 勇者に思う所があるのでしょう。


「私達よりも先に弓の勇者が村に来たら……お父さんや村はどうなったのかな?」

「うーん……樹にも俺達と同じ技能があるからね。結果として村は救われたかもね」

「……そっか」

「だけど、俺達が先に来る事に意味はあったと思うよ」

「うん、お父さんと一言話が出来た。それだけで……私には意味がある」


 と、助手は優しげな笑みを浮かべてライバルの頭を撫でましたぞ。


「ガウ!」


 ライバルの方は嬉しそうに声を出していますな。

 いや、これはライバルではなく助手の魔物の方ですかな?

 面倒ですからライバルと統一して呼びましょう。

 さて、とお義父さんは言いましたぞ。


「樹が見えて焦ったけど、些細な買い出しだけならポータルスキルでどうにかなるんだよね」

「そうですな」

「合流する場所を決めて手早く進むのも悪い手じゃ無いか」

「兄ちゃん移動するのか?」

「何処へ行くの?」


 助手が聞いてきますぞ。


「メルロマルクの城下町、そのついでに剣の勇者と話を……」


 と、呟いた所で助手とライバルの表情が曇りますぞ。

 まあ助手からすれば親の仇であり、ライバルからすれば自分を殺した相手ですからな。

 当然の反応でしょう。


「私、行かない」

「……まあ、そうだね。じゃあウィンディアちゃんはガエリオンちゃんと留守番をお願いするね」

「うん」


 という所で、遠くからフィロリアル様の鳴き声が聞こえましたぞ。

 俺は馬車から身を乗り出して辺りを見渡しますぞ。


「あー……野生のフィロリアルとかがこの辺りに生息してるのかな?」

「そうかもしれませんぞ!」


 そういえば、メルロマルクにはフィロリアル様の生息地がありますからな。

 野生のフィロリアル様は、それはそれで見ごたえがありますぞ。

 人が育てたフィロリアル様とは違った引き締まった体躯をしていますからな。

 どんなフィロリアル様であろうとも、俺は愛してみせますぞ。


「元康様はとても愛が深いですわ」

「キタムラの目がきらきらー」

「ピヨ?」

「そういやフィロリアルの匂いがすっぞ……まあ、みんなの匂いで気付かなかったけど」

「何だかんだで俺達の仲間にフィロリアルは多いからねー……」


 お義父さんが呆れた様な目で俺を見ておりますぞ。

 すると、遠くにフィロリアル様の群れがありましたぞ。


「「「グア!?」」」


 こちらを見つけて警戒の声を上げている様ですぞ。

 お待ちくださいフィロリアル様方、俺たちは貴方様方に危害を与えるつもりは無いのです。

 自然体で、どうかいらしてください。

 との思いも虚しく、フィロリアル様達は全力で走り去ってしまいましたぞ。


「お義父さん、野生のフィロリアル様を追いかけてみましょうか?」

「そんな事してどうするの。あっちも嫌がるよ、きっと」


 む、言われて見ればそうですな。

 触れ合えば仲良くなれると思っていたのですが。


「そういえば野生のフィロリアルって思いのほかいないよね。俺、シルトヴェルトとメルロマルクで色々と見てきたけど、初めて見たかも」

「んー?」

「他人の縄張りに無闇に足を踏み入れるほど無粋ではありませんわ」

「そうそうー」


 サクラちゃんが首を傾げ、ユキちゃん達が自慢げに言い放ちましたぞ。


「そんな事よりも元康様! 野生のフィロリアルよりも私達を見てください」

「俺はみんなを見てますぞ」


 ああ、野生のフィロリアル様達はもう見えなくなってしまいましたな。


「元康様ー……」


 何やらユキちゃんが遠い目をしてこちらに手を伸ばしております。

 だから俺はユキちゃんの頭を優しく撫でて上げましたぞ。


「甘えたい盛りですな。ハハハ」

「えーっと……ユキちゃんはそういう意味で言ったんじゃないと思うけど」

「コウも撫でてー」

「良いですぞ」


 甘えてくるコウも撫でますぞ。

 するとユキちゃんが頬を膨らませて拗ねてしまいましたぞ。

 どうしたのですかな?

 ああ、親が兄弟を可愛がってやきもちを焼いているのですな。

 なんとも可愛らしい反応ですぞ。


「ブー……」


 何故か怠け豚がやれやれと言った様子で首を振っていましたぞ。

 なんて楽しげな談笑をしている最中、馬車に近づいてくる一団がおりましたぞ。

 馬車に並走して声を掛けてきました。


「たのもー」

「ん?」


 お義父さんが首を傾げながらキールに応答をするように指示を出しましたぞ。


「なんだー?」

「神鳥の聖人様の馬車だとお見受けする。どうか我等が姫との謁見をして頂きたいのだ」


 馬車の幌から僅かに顔を覗かせて相手の顔を見ますぞ。

 するとそこにはメルロマルクの騎士が、何やら馬車を連れていたようでしたな。

 姫とは赤豚の事ですかな?

 状況次第では断った方が良いですぞ。

 お義父さんは一度俺の方を見て頷いた後、深くローブを羽織って馬車から顔を出しますぞ。


「姫とは大層な方が俺達と話をしてくださるのですね」

「そうだ。身に余る光栄だと思う事だ」


 なんとも高圧的な態度ですな。

 この場でその姫……赤豚と一緒に消し飛ばしてやっても良いのですぞ。


「で? そのお姫様とはどんな方で? 名前をお聞きしたい」

「聞いて敬服するがいい。かの御方はメルロマルク第二王女、メルティ=メルロマルク様であらせられる」

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