最弱の竜帝
その日は東の村の者達の介抱にお義父さんは追われていましたな。
さすがに病から立ち直っても体力までは回復しきれないので、その補佐的な薬を処方していましたぞ。
俺もある程度は手伝いましたがな。
「さて、後は……汚染された土地の浄化とかだけど、これは国の連中に任せるしかないね」
「ですな」
ドラゴンの所為で汚染された土地を浄化するのは色々と面倒な手順、浄化の魔法等が必要なのですぞ。
まあ、未来でもやったのか知りませんが。
暗雲立ち込める土地にはなりましたが、それ以外は大きな問題はないっぽいですぞ。
人間慣れると不吉な空でも平然としてしまいそうになりますな。
夜、村の中心で疫病が静まった祝いとばかりにキャンプファイアーが焚かれましたぞ。
細々とした祝いの席ですな。
お義父さんは治療師と遅くまで処方する薬の相談をしておりました。
「ふう……疲れたー」
助手は魔物と一緒に村の隅の方で、じっとしていましたぞ。
今日の出来事を反芻しているのか山の方を遠い目で見つめておりました。
さすがの村の者達も懲りたのか弾劾等はせずに大人しくしていたのですぞ。
お義父さんは村が用意した宿でぐったりと椅子にもたれ掛かりますな。
「兄ちゃんお疲れー」
「ナオフミお疲れ様ー」
キールとサクラちゃんがお義父さんにお茶を持ってきましたぞ。
「ありがとう」
ズズっとお義父さんはお茶を飲んでから一息吐きますぞ。
「さてと……ウィンディアちゃんは?」
「疲れて寝てんぞ。ふぁ……俺もそろそろ寝るな」
「おやすみ、キールくん」
「ピヨ!」
ルナちゃんは寝ようとするキールの元へ行き、一緒に寝るようですな。
ユキちゃんとコウは外で寝ております。
尚、別にハブられている訳ではないですぞ。
自主的に外を守る様に寝ております。
さすがフィロリアル様ですぞ。
「さーてと、明日には出発だね。時期的にそろそろ一度城下町に行こうか」
「そうですな。錬と落ち合う約束の日に近付いておりますからな」
一ヶ月くらいした頃に一度合流するとの話でしたからな。
その時はリユート村で話をしようと決めております。
忘れガチでしたが、お義父さんが細かく日程を見せてくださったので覚えております。
「そうだね。とはいえ、もう少し時間はあるよ」
「なんだかんだで波の一週間前でしたな」
「錬の方も大変だろうって決めていたからね。あっちはどうなっている事やら」
「ゼルトブルは生活するなら割と簡単な方の国ですぞ。まさしく強ければどうとでもなりますからな」
未来の落ちぶれた、あの樹でさえ容易に受け入れた国ですからな。
生活するだけなら俺達でも余裕で可能でしょう。
「そうなんだ? いずれは行ってみたいけどね」
「名物はフィロリアルレースですぞ!」
「わー……元康くんが好きそうなレースだね。完全に競馬しかイメージが浮かばないよ」
「お義父さんは好きですかな?」
「んー……ゲームならやった事あるけど実際は無いかな」
「そうですか」
「サクラも走るの?」
フィロリアルレースの話をしているとサクラちゃんが会話に入ってきましたぞ。
サクラちゃんが会場を颯爽と走る姿を想像します。
最高の瞬間ですな。
「どうかな? その時にでも決めたら良いんじゃないかな?」
「そっかー……ユキが好きそう」
「だね。ユキちゃん。走るのにプライドあるみたいだし」
「そう言えばユキちゃん達を売って下さったフィロリアル生産者に全然会いに行ってませんな」
「色々と忙しいからね。メルロマルクの事件が全て片付いたら行こうか?」
「ですな。あの生産者が驚く顔が見物ですぞ」
という所で、部屋の窓をたたく音がしましたぞ。
「ん?」
お義父さんが窓際に立つと、窓を叩いた……魔物が顔を覗かせますぞ。
「ガエリオンちゃん?」
お義父さんが窓を開くと魔物は……淡い光と共に小さな姿になって部屋に入ってきましたぞ。
「ウィンディアちゃんのお父さんからから何か力をもらっていろんな技能を覚えたみたいだね」
「まあ、そうなる」
「!?」
お義父さんが喋る助手の魔物の声を聞いて唖然とした表情になりましたぞ。
「驚くのも無理も無い。だが聞いて欲しいのだ。我にも事情があってこうして話をしている」
「しゃべ――」
「ガウ! おお、そうだったな。改めて自己紹介と行こう。我はガエリオン。まあ娘であるウィンディアが名付けた義妹も同名の様だがな」
「娘……?」
「そうだ。盾の勇者と槍の勇者、汝らには感謝してもしきれん。よくぞウィンディアを守り、育ててくれた」
パタパタと羽ばたいて魔物……いや、これはフィーロたんのライバルであるドラゴンですぞ!
間違いありません! 俺の宿敵!
「お義父さん、コイツですぞ! コイツが未来で限界突破と龍脈法の習得を補佐したドラゴンですぞ」
「え……でもガエリオンちゃんって……ああ、あのドラゴンの核石が原因かな?」
「概ね間違いは無い。我は竜帝の一匹、ガエリオン」
「フィーロたんから聞いてますぞ。最弱の竜帝なのですぞ」
「そうだ。我は竜帝の中で最弱。だからこそ他の竜帝が近付かない人里近くを根城にしていたのだ」
「そ、そうなんだ……自分で最弱……」
お義父さんが呆れるようにボリボリと頭を掻きましたぞ。
確かに間抜けですな。
しかも自分で弱いと認めましたぞ。
これは滑稽、笑いが止まりませぬ。
「ハハハーですぞ!」
「元康くん、おかしいのは認めるけど笑い過ぎ」
お義父さんに注意されてしまいました。
ですが、これは笑わずにはいられませんな。
これでもかと言わんばかりに笑ってやりますぞ。
こんな雑魚がフィーロたんのライバルとは……嘆かわしいですな。
「とにかく、話を戻すね。昼間のドラゴンゾンビがガエリオンちゃんに胸にあった輝く石を渡したお陰でいろんな変化を起こしたけど、アレはどういう現象が起こったの? 親である君が子供の意識を乗っ取っちゃったの?」
「それは違うぞ。我が娘の体に我の人格と記憶を共有させてもらっているに過ぎん。肉体の所持者はあくまでも娘だ」
「へぇ……これがリアルTS……ちょっと違うか……」
「力を得た事ですぐに喋り出すであろうな。楽しみにしているがいい」
まったく心が躍りませんな。
そもそも最初の世界のガエリオンは喋っていなかった気がしますぞ。
ハッ! もしや、お義父さんの好みに合わせていたのでは!?
お義父さんがペットは喋らないから良いんだ。
みたいな事を言っていた覚えがあります。
実際、村で生活していたフィロリアル様達の中には喋れるのに、喋れないフリをしている子達がいましたからな。
く……卑劣なり、ドラゴン。
フィロリアル様達もやっていた?
フィロリアル様はいいんですぞ!
「あー……まあ、ウィンディアちゃんに翻訳してもらう手間が省けるね。それで俺達に何の用?」
「ふむ。こうして共有状態になったお陰で、娘の目で色々な記憶を見させてもらった。それでだ、わかっているかも知れんが」
「知れんが?」
「我は強くなりたい。そして強くなるのに汝らの協力は必要不可欠。なので改めて今後とも協力を申し込みたいのだ」
「あー……うん。それはわかったけど、君はウィンディアちゃんの育ての親なんでしょ? 結果的にだけど生き返ったみたいなんだからウィンディアちゃんと話をしないの? きっと喜ぶよ」
「……酷な願いを言うのだな。我はな……いずれあの子を人の世に旅立って貰いたいと思っていたのだ。これはある意味、またとない機会でもある。我が結果的にこうして舞い戻ったのは、あの子には伝えるのはいかん。あの子の為にならん」
ライバルは助手の身の上話をしましたぞ。
亜人の行商の集団が山賊に襲われて、赤子だった助手を助手の親はライバルがドラゴンである事に気付かずに預けたと。
それからライバルは助手に取って親代わりで、掛け替えの無い愛娘となったとの話ですな。
「所詮どんなにがんばってもあの子はドラゴンの世界では生きていけん。人の世を学び、生きて行くのだ。その為に、我が近くで見守っていると知るのは……成長の阻害にしかならん」
お義父さんは椅子に腰かけて考え込みますぞ。
「そんなものなのかなー……」
納得出来ませんな。
例えドラゴンであろうと親と子が同じ時を生きれないなど、悲しいですぞ。
ならば、コヤツの我が侭に付き合う理由などありません。
「では俺が助手を起こして事情を説明しますぞ!」