他人の所為
それからすぐに村に到着しましたぞ。
前回来た時の活気は何処へやら、なんとも陰鬱な空気が村を支配しており、アレだけいた冒険者は人っ子一人おりません。
教会の方では葬儀が執り行われているのか、暗い表情をした者たちが墓に棺桶を埋めている様ですぞ。
そして俺達を乗せた馬車は村に入りましたぞ。
「これは……まさかお尋ねしますが、過去に一度村に来た神鳥の聖人様でよろしいでしょうか?」
「ああ、そうだ」
お義父さんがローブを羽織って、馬車から乗りだして答える。
「た、助かった。聖人様! どうか村を御救いください。この村は今、疫病が蔓延し日に日に住民が亡くなっております!」
「わかっている。だが……」
村人が急いで病人のいる場所へ向かって行きますぞ。
合わせて村長らしき者がやってきます。
「おお! 聖人様! どうか村を御救いください」
「その前に、俺は一言、言わなきゃいけない事がある」
「なんでしょうか?」
「俺がこの村から立ち去る時に言った事を……貴方達はちゃんと理解して、この結果を招いた事を自覚してほしい」
詰問する様な口調で、お義父さんはローブの合間から鋭い眼光で村の連中を一瞥しましたぞ。
「そ、それは――」
「酒場のマスター、巨大なドラゴンの死骸の前での責任者、そして貴方に俺は何度も注意をした。その時の事を覚えていないとは言わせない」
お義父さんの言葉に村長は咳をしながら汗を拭いますぞ。
同時に、村の連中は村長に視線を向けましたぞ。
「誰か一人を吊るし上げろと俺は言ったか? 連帯責任だ。君達は、自業自得である事を自覚すべきだ」
「言わせておけばずけずけと! ガハ!」
おや? お義父さんに向かって殴りかかろうとした者が吐血しましたぞ。
因果応報ですな。
そんな事だから疫病が蔓延したんですぞ。
神に等しきお義父さんの言葉を蔑ろにした罰ですな。
「どうやらずいぶん強力な疫病のようだ。俺達が何もしなければ……君達はどうなるか……」
やれやれとお義父さんは嘆く様に呟きますぞ。
「まあ、俺達はそんな君達に手を差し伸べに来た。だけど自覚してほしい。誰が悪いのか? それは君達自身だと俺ははっきりと言うよ」
倒れた意識の無い愚か者にお義父さんは治療薬の上である特効薬を飲ませますぞ。
それだけで愚か者の呼吸が静かになり、顔色がみるみる良くなって行きます。
「おお……噂通り奇跡だ……」
村人の目に希望が宿るのが一目で分かりましたぞ。
「聖人様! どうか、どうか村を御救いください!」
「与えられる事に慣れ切った君達を救う価値が……本当に……あるの?」
「そんな!」
お義父さんの冷酷な返答に村人達は唖然とします。
きっと助手の事を思って、厳しく諭しているのでしょう。
助手は恨みがあるこの村を助けてほしいと言いましたからな。
なので、次はこんな事にならない様、お義父さんは助手に代わって注意しているのです。
「何度だって言う。俺の忠告を無視し、利益を求める。君達の生き方を客観的に見て、神が施すと思う?」
「おお……」
村人が全員、胸に手を当ててからお義父さんに向けて頭を垂れますぞ。
「君達の宗教がどんなものかは知らないけれど、正しくあろうとする意思は、絶対にあるはずなんだ。これは傲慢だった君達への天罰では無いと言い切れる?」
「その通りでございます。ですが……どうか猶予を、聖人様!」
「……うん。その為に俺達は来たんだ。さあ、病人を見せてほしい!」
「こちらです。聖人様」
それから俺達は隔離された建物に案内されましたぞ。
弱り切った患者、裏手には真新しい墓地と……雰囲気は戦場のそれよりも悲惨な状況だと言えましょう。
鳳凰との戦いの後に行われた救護施設と葬儀を思い出しますな。
アレよりも……陰鬱な嫌な臭いがしますぞ。
フィロリアル様達もその匂いを嫌がっているご様子。
お義父さんはその中で、盾の技能を使って一気に治療して行きます。
特効薬を事前に作っていたお陰で、現場に居た治療師共々、素早く病人の治療は進んで行きますぞ。
快方へと向かって行く中、お義父さんの表情はどんどん険しくなって行きますぞ。
「自業自得とは言え、病で苦しむ人を見るのは見ている方も苦しくなるもんだね」
「気持ちはわかりますぞ」
ループする前の世界でもこの辺りはきっと疫病が蔓延したと思いますぞ。
その時もきっとお義父さんはここに来て人々を救ったのでしょう。
でなければ国民が盾の勇者は悪人ではないと言うはずもありませんからな。
こういう小さな……それでありながら奇跡に等しい偉業を成し遂げたお陰でお義父さんは信用を得て三勇教を倒す事が出来たのだと思いますぞ。
ですが……この死の匂いと言うのでしょうか?
フィロリアル様が忌避するこの空気をずっと吸っていると気持ちも陰鬱としたものになりそうですな。
原因がドラゴンなのですから早めに処分したいと思いますぞ。
「剣の勇者さえ来なければこんな事態には……」
と、呟いた村人に向けてお義父さんは鋭く睨みましたぞ。
「観光地にまでして人の所為? 剣の勇者が倒した後、ドラゴンの亡骸を放置したのは君達でしょ? 嫌だったんなら剣の勇者に亡骸の処分を言うべきでしょうが!」
「い、いえ! 申し訳ありません!」
反省が無いとプリプリとお義父さんは怒っておりました。
自業自得である上に責任を錬に擦り付けようとするこの精神、俺が魔法で焼き払って根絶やしにしてやっても良さそうですな。
その時、馬車に隠れていた助手が心配そうに馬車から顔を覗かせましたぞ。
「お前は! ドラゴンの巣穴にいた亜人の娘じゃないか!」
村人兼冒険者の生き残りだという奴が助手を指差しましたぞ。
何を当然の事を言っているのですかな?
神鳥の聖人であらせられるお義父さんが保護したのですから、居て当たり前ですぞ。
それとも何か? お義父さんが保護した人間を売るとでも言うのでしょうか?
やはりこやつ等、始末した方が良いかもしれませんな。
「あ……」
「お前の所為で村はこんな事態に――」
その生き残りにお義父さんは手を伸ばして吊るし上げますぞ。
「よし、皆! 帰ろう」
「え……」
「……責任を人の所為にするのは本当に楽だよね? 猶予を与えると言ってもこれじゃあ先が思いやられるよ」
「ぐあ……!?」
「忘れたのかな? その子は俺が保護をしたって事を。行くあても無かったから保護をしていたんだよ。本当なら傲慢な君達を見捨てても良かったけど、その子が是非にと俺達に君達を助けて欲しいと言われたから来たんだ」
「や、やめて……お願い」
助手が絞り出す様にお義父さんにお願いしておりますぞ。
お義父さんはパッと吊るしていた生き残りを掴む手を放しましたぞ。
「ああ……もしかしたら神鳥の聖人がこの事件を起こした黒幕だとか……ふざけた事を思う、言う奴がいるかもしれない。それならここで、俺達は去るけど良いかな? 今は良くなっても根本的な原因が処理されていないよね」
お義父さんが腕を組んで村の代表を叱りつけております。
「ねえ? 国からの援助はどうなってるのかな? こういう時こそ人々の為に三勇教が救いに来るんじゃないの?」
「そ、それは!」
「ああ……既に見捨てられているんだっけ?」
お義父さんがブラフをしましたが、どうやら図星だった様ですぞ。
村人が黙って視線を逸らしますな。
「ま、下手に蔓延するよりも放置した方が安全かもしれないもんね。魔物も凶悪そうだし」
代表は目線を逸らしながら山の方へ目を向けますぞ。
「まだ治療も途中だし、根本的な原因は取り去られていない。あとね、ここに滞在している治療師に良く聞くんだ。今回の病がどんなものなのか」