強欲の都市
「それじゃあ、噂で聞いていると思うけど、商品を買ってくれると助かる」
「神鳥の馬車が引く食料販売だ! みんな! 喜べ!」
お義父さんの偽者が起こした騒ぎが収束すると、食料に村人達は群がってきますぞ。
何だかんだで貧困な状況にありますからな。
最初の……俺がループする前の世界でもこの頃は、食糧問題が付いて回っていたと耳にした覚えがありますぞ。
全ては波の所為だと。
まあ、その後のお義父さんの開拓と食料自給で問題は完全に解決したのですがな。
とりあえず、今は信用を得るのが一番ですぞ。
お義父さんは馬車の奥へと戻って行きました。
が、同時に助手を馬車に招きました。
「良い? ウィンディアちゃん、俺の真似をして脅すのは、あまりしない方がいいよ」
「でも……盾の勇者を騙っていて……我慢できなくて……」
「気持ちは嬉しいんだけどね。そんな事を当たり前の様にするようになっちゃ、俺は君のお父さんに顔向け出来ないよ」
お義父さんの言葉に助手は最初は不快そうにしていましたが、お父さんに顔向けできないと言った所で、萎んだようにケモノ耳を寝かせております。
話を聞く限りでは溺愛していた様ですからな。
亡き親が望んだように育ちたいと助手は思ったのだろうとお義父さんが後で俺に教えてくれました。
「……ごめんなさい」
「ちゃんと反省してくれるなら良いよ。次は気をつけてね」
「はい……」
「ガウ」
「ガエリオンちゃんも!」
「ガウ?」
魔物の方は完全にどこ吹く風でしたがな。
俺は忘れませんぞ。
コウが怒られている時に何か言ったのを。
「まったく……」
助手は魔物の頭を優しく撫でております。
魔物も大分成長しておりますな。
お義父さん曰く、利発で賢いそうですぞ。
ドラゴンがそんなに頭が良いのは納得できかねますな。
サクラちゃんに十円剥げが出来ているのを俺はそれとなく教えております。
ドラゴンが近くにいる事でストレスが溜まっているのでしょう。
お義父さんがそれとなく発散させる術を模索している最中ですな。
その後は普段通りにキールと怠け豚が売り子をして食材を売りつけております。
しかし……盾の勇者を騙る偽者の活動が活発化している傾向がある様ですぞ。
行く先々でそのような活動を耳にする事が増えてきております。
「今度は何処へ行きますかな?」
「国の北の方かなー……エレナさんの話じゃ、良い値で売れるみたいだしね」
ま、どちらにしても後少しの辛抱ですな。
そんな感じで北の方の町へ行くと商業通行手形を受け入れない町がありましたぞ。
お義父さんが門番と軽く会話をしております。
渋々お義父さんは町に入るのを諦めて迂回する事にした様ですな。
ゴトゴトと馬車が揺れ、隣の……若干貧相な町の方へ向かいました。
「なんか……町の人達の様子がおかしいね?」
「うん、なんか変だぞ?」
お義父さんとキールが馬車の外の様子を見渡しております。
「そうなのですかな?」
正直、俺にはその変化を全く理解できませんな。
「うん、なんかみんな上の空というか、不満そうな感じに見えるんだけどね……」
という所で、何やら注目を集めている男と豚が金袋を持ちながら歩いて行きます。
お義父さんはその様子を黙って見つめておりますぞ。
「なんだろうね? あの方角は物凄くがめつい貴族がいるらしい町だけど」
「買い出しではないですかな?」
「そうなのかなー? まあ良いやここでキールくん。売る準備を進めて」
「わかったぜ兄ちゃん。ほら、エレナ姉ちゃんも寝てねえで開店の準備!」
「ブー……」
キールと怠け豚が店の準備を始めましたぞ。
最近では俺の作ったアクセサリー、フィロリアル様を模したグッズが売れてきております。
ただー……この村はずいぶんとケチくさいですな。
見には来るけど全然買いに来ませんぞ。
さすがにお義父さんも不審に思って、様子をうかがっております。
「兄ちゃん、なんで全然来ないかわかったぜ。この村の人達、全然お金が無いんだってさ」
キールが物々交換に応じて食料と薬を売ってからお義父さんに言いましたぞ。
「何があったの?」
「なんでもこの町、盗賊の襲撃に良く遭ってて、略奪が多いんだ。それで隣町の連中に頼んで用心棒を――」
キールの話を掻い摘んで説明すると、隣町の連中が貿易や商売の邪魔を良くしてくるそうですぞ。
町の人達は渋々、隣町まで買い出しに出る事が多くなり、必然的に金が枯渇しているそうですな。
挙句、何故か頻繁に盗賊の襲撃が多くなってきていて困っている状態なのだそうで。
盗賊の襲撃から守ってもらうために用心棒を雇おうとしたのだけど、その用心棒が盗賊だった。
とか色々と複雑な事情があるそうですぞ。
「それで?」
「さっきの人達がこの町の貴族らしいぜ」
「言ってはなんだけど幸薄そうな感じだったけど……それがどうしたの?」
「なんか、娘が隣町の貴族から金を借りる担保にされてて、みんなが金を出し合って支払いに行ったんだってさ」
「町の人達がカンパをして集めるって事は良い人達なんだろうね。だからか……みんな見るだけで買えないのは」
「そうみたい。食べるのにはまだ困って無いけど金が無いんだって」
「うーん……何かして上げられれば良いんだけど、下手に動くと盾の勇者ってばれちゃうし、そうなると何もできなくなるからどうしたものかな」
お義父さんは困ったように呟きましたぞ。
中々難しい問題ですな。
「とりあえず日も傾いてきたし今日は、この町で一泊して行こうか」
「わかりましたぞー」
で、その日の晩の事、宿でみんな休んでいると町の連中が広場で騒いでおりました。
「どうしたんだろう?」
お義父さんがそれとなく広場の方へ行って事情を聞いてきますぞ。
「何かあったんですか?」
「ああ……それが……」
俺達も近づいて聞き耳を立てますぞ。
「夜までに貴族様が帰ってくるという話だったのですが……何の音沙汰も無く……ですから調査に行こうと話し合いをしていた所で……」
「はぁ……隣町まで少し遠いですよね? しかも既に日は落ちて……魔物は元より盗賊の夜襲を考えたら難しいんじゃないですか?」
夜の行軍はかなり危険ですからな。
魔物の出現率が跳ね上がりますので、腕に覚えが無いと命に関わるでしょうな。
まあ、最初の世界で俺は夜の間にLv上げをしていましたが。
どちらにしても戦いの心得の無い者が出たら怪我で済んだら良い方でしょう。
「一応は、武芸に覚えのある者もいるのですが、盗賊との戦闘での傷が治りきっていなくて……」
「うーむ……」
お義父さんが顎に手を当てて考え込みますぞ。
「……俺達が確認に行ってくるよ」
「神鳥の聖人様が? よろしいのですか?」
「ああ、ついでに用事があったから、ちょうど良い。護衛しよう」
「お願いできますか?」
「任せてほしい。くれぐれも危険な事はしないで欲しい。君達の信じる貴族もそう思っているはずだからね」
「は、はい! 聖人様達が護衛してくださるなら心強いです」
こうしてお義父さんは町の人の為に護衛をかって出ましたぞ。
「みんな聞いてた?」
お義父さんが振り返って尋ねてくるので、みんな頷きますぞ。
ああ、怠け豚は既に宿で就寝しております。
「という訳で、行こう」
「わかったぜ兄ちゃん!」
「サクラ達もがんばる」
町の馬車をサクラちゃん達が引いて行く事になりましたぞ。
「もしかしたら盗賊が略奪に来るかもしれないらしいから、元康くんとユキちゃん、コウとウィンディアちゃんとガエリオンちゃんは残って」
「わかりましたぞ!」
お義父さん達は町の人達を馬車に乗せて隣町まで出発しました。
それから数時間……夜も大分更けた頃にお義父さん達は帰ってきました。
「ただいま」
「どうでしたかな?」
「んー……何か危険な目に遭っているかと思っていたら隣町で普通に居たよ。で……ついでに樹が居てね。どうやら今夜、あそこの貴族を退治する算段をしていたよ」
「ほう……」
「あまり関わり合いにならない様に遠目で確認したんだけどね……町の人に話されそうになって困ったよ」
「大丈夫でしたかな?」
「うん、明日には……きっと解決してるでしょ」
お義父さんの話ではみんなで手分けしてこの町の貴族を探している所に樹一行を酒場で見つけたそうですぞ。
さりげなく近づいて何を話しているか聞いて転びかけたそうで。
「樹って……世直しの将軍様みたいな事してるみたいなんだ」
「そういえば未来で樹は全然活躍しているのを聞きませんでしたな」
「え? そうだっけ? 何だかんだで騒ぎになっているよ? 姿を隠して正義を執行してるって」
おかしいですな。
未来では錬と俺の活躍で国中が湧きたっていたと聞きましたぞ。
それ以外の話題でお義父さん事、神鳥の聖人が各地で奇跡を振りまいていると聞いたくらいですかな?