着飾るパンダ
翌日……隙を見て俺達はシルトヴェルトの方へ行きましたぞ。
お義父さんはキールとサクラちゃんを連れ、パンダのいる酒場の方へ行きました。
卵はまだ孵化していませんが、すぐに孵りますぞ。
「お? 久しぶりだな。調子はどうだ?」
酒場でカードゲームを嗜んでいたパンダ獣人がお義父さんを手招きしていますぞ。
「ボチボチって所だね。ラーサさんはどう?」
「そうかそうか、こっちは戦争の匂いを嗅ぎつけて滞在してんだが、音沙汰無しで退屈気味だな。アンタと気まぐれに狩りに行くとかしないならゼルトブルへ行ってた所だ」
「戦争……」
お義父さんが戦争という言葉を聞いて黙りこみましたぞ。
そうですな。お義父さんの扱いの悪さを考えればシルトヴェルトが何時、戦争に乗り込んできても不思議では無いのですぞ。
ですが心配は御無用ですぞ。
メルロマルクの女王が外交で出来る限り戦争にならない様に努力しているのですぞ。
「風の噂なんだけどな。メルロマルクで盾の勇者への露骨な差別をしているって話なんだ。国民が、戦争ムードへ移りつつある。お前等も気を付けな」
「うん。出来る限り気を付けるよ。まあ……キールくんがいるから大丈夫だとは思うけどね」
「小さい犬っころがいるからどうだとは思うぞ」
「なんだと! 俺が頼りねえってのか?」
キールがワンワンとパンダ獣人に威嚇しますぞ。
「まあまあ、だからラーサさんの所に厄介になりに来たんでしょ」
「あたいに頼りに来るとか……一度優しくしたら調子に乗りやがって、あたいだって暇じゃねえんだぞ」
「ここでカードをしている人が暇じゃない……?」
「う……うるせえな。どうだって良いだろ」
「まあ、そんな訳で余裕があるなら一緒に狩りとかに行くのはどうかな? と思って誘いに来たんだ」
「とは言ってもな……」
「もちろん、お礼は弾むよ。元康くん」
「ハイですぞ」
俺はお義父さんに注文されていたパンダ獣人に似合うデザインの服を取り出しましたぞ。
キールに着せる服のデザインに良く似た物を作りましたぞ。
酒を飲もうとしていたパンダ獣人がブーっと服を見て咳き込みました。
「ゲホッ! ゲホッ! な、なんだその服は!」
「もちろん。ラーサさん用の服だよ。あ、キールくんとお揃いだね」
「カッコいい姉ちゃんがこれを着るのか? 似合わないと思うぞ?」
「大丈夫だよ。キールくんと同じで似合うって」
「俺は好きでこんな格好してんじゃねえ! 兄ちゃんが頼むから着てんだ」
犬の姿でもキールは行商用の服を着させていますぞ。
そろそろ魔力で作られた衣装にするか考え時ですな。
「あたいに似合うはずねえって言ってんだろ! 聞いてたのか!?」
「だから前にも言ったでしょ。似合うから、作ってもらったんだよ。それに、今の姿も俺は可愛いと思うよ?」
と、言ってお義父さんは俺から服を受け取ってパンダ獣人に渡しましたぞ。
「あ、あたいが……その……だから、柄じゃねえって言ってんだ!」
なんとなくですが、赤くなったような気がするのは気のせいですかな?
「その姿だと、とりあえずリボンとか付けたら良いかな? ネコオトモみたいな感じで、帽子とか服とかも実は似合うかもしれないね。キールくんみたいに、子犬形態でもメイド服が似合うみたいに」
「だから! ああもう……聞け! いい加減にしないと怒るぞ!」
「あ、落ちついて、じゃあファンシーじゃないラインでまずはバンダナ辺りを頭に巻いてー」
お義父さんがパンダ獣人の頭にバンダナを巻きますぞ。
パンダ獣人は特に抵抗する気配は無いですな。むしろ若干諦め気味に溜息をしてますぞ。
「で、ここでリボン。腰にはアクセントをして大きくリボンをしてと――」
やや大きめのリボンがパンダ獣人の背中に結びましたぞ。
「なんでこんなのを……ああもう……」
とか言いながらパンダ獣人はお義父さんの着付けを拒みませんでしたぞ。
その後、ウンザリした様な歩調で自らの姿を見ていますぞ。
「あたいをこんなにして何が楽しんだ?」
「ギャップ萌えが上手く行くかとかー……色々と着飾る楽しさがあるよ。ラーサさんは亜人の時の姿は可愛いんだから、今度見せてね」
「あ、あたいが可愛いわけねぇ!」
ですが、パンダ獣人はお義父さんに鏡を見せられて、動きが止まりましたぞ。
「これが……あたい?」
「うん。キールくんと同じく可愛らしいと思うよ。前回俺が言った通りに毛に気を使ってくれているみたいだし、ふわふわになってきてるね」
「これが……嘘みてえだ」
そこでパンダ獣人の部下がお義父さんの胸倉を掴みましたぞ。
「おい。てめえ! 何のつもりだ! これ以上の干渉は俺達がお前をぶっ飛ばすぞ!」
「お前等何をしてんだ!」
パンダ獣人がハッと我に返って部下に怒鳴りましたな。
「よくも姐御を淫乱な雌豚に変えやがったな! お前と出会ってから歩調を意識したり、毛に気を使ったり、今までの姐御は見る影もないんだぞ!」
「淫乱な雌豚って……元康くんじゃないんだから……」
おや? 俺が何かしましたかな?
そうですな。
このパンダ獣人には言わなければいけない事がありますぞ。
「勘違いしてもらっては困りますぞ」
「なにが?」
「彼女はパンダであって豚ではありませんぞ!」
「……」
お義父さんが疲れた様な顔をしました。
「元康くんは黙っててね」
「わかりましたぞ」
そしてお義父さんは再度パンダ獣人達に視線を向けました。
「と、とにかく姐御が鏡を前にしてポーズを取る姿……それを見る俺達の気持ちになれ!」
「そ、そうだな! やっぱりあの服装はねえよな! あたいも気の迷いでこんなふざけた格好を――」
とパンダ獣人が言うのと同時だったですぞ。
「後はあの衣装を着れば完璧!」
お義父さんが親指を立てると、部下も同じく親指を立てました。
仲が良いですな。
「ああ……あの男勝りの姐御がああも魅力的になるなんて……すげえぜ。是非兄貴と呼ばせてくれ」
「はぁ!?」
パンダ獣人の声が裏返りましたぞ。
「まだまだ……ラーサさんの魅力はこの程度じゃ収まらないよ。亜人の時は元より、獣人の時の姿だって、もっと魅力的になるはずなんだ!」
「なん、だと! 兄貴! いや、伝道師様! 是非姐御を人々を魅了する淫乱な雌豚に育て上げ、俺達に良い子いい子してくれる最高の女にしてください! お願いします!」
「お前等、後で拷問スンぞ! 覚えてろ!」
ゴツンとお義父さんを含めて部下全員にパンダ獣人はげんこつをしましたぞ。
ああ、お義父さんには全く効果が無かったようですな。
「はぁ……どうしてこうなっちまったんだ?」
「素材は良いんだから、もっと磨こうよ」
「はいはい。じゃあ行くぞ。今日は何処へ行くんだ?」
ウンザリしたようにパンダ獣人はボリボリと頭を掻いてお義父さんとパーティーを結成しましたぞ。
「定番の、金になる様な魔物を倒しに行くか?」
「んー……元康くん、何か心当たり無い?」
「山奥のドラゴン辺りがお勧めですぞ」
「ドラゴンって……どんだけ物騒な所へあたいを連れて行く気だ! いや、あたい達を殺す気か!」
そこまで強いドラゴンなんていましたかな?
今のお義父さんの実力なら100Lvの冒険者が勝てないドラゴン程度容易く、仲間を守り切れると思いますぞ。
「その前に、植えた植物の成果を確認してからで良いのではないですかな? 国の者にはあまり近寄りすぎない程度に管理を任せましたぞ」
「ああ、そうだね。上手く行けば食糧事情が解消するんだっけ?」
「ですな。念の為に人里から離れた場所に植えるように頼みましたぞ」
「じゃあ、確認してから行こうか。ラーサさんも付いて来てくれる?」
「いや、国に何かしてもらえてるって……あんた等、何者なんだよ」
という事で俺達はバイオプラントの種を植えた土地へ行きましたぞ。
シルトヴェルトでも人の踏み入らない荒野を選んで、俺はバイオプラントの種を植えました。
ですが現在、俺が植えた場所には密林のような植物の森がありましたぞ。
様々な実が実り、豊穣と恐怖を振りまく幻想的な森です。
なんとなく、森の中に花の様な人型の生き物が闊歩しているように見えますぞ。
「最近巷で騒ぎになってる所じゃねえか! あんた等何をしたんだ!」
パンダ獣人が騒いでいますな。
「国は何も取り合わないし、少しずつ勢力を拡大してるって話だぞ。まさかあんた等が犯人だったのか!?」