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盾の勇者の成り上がり 作者:アネコユサギ

外伝 槍の勇者のやり直し

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彼は何故笑ったのか?

 リユート村の方へ行くとやはり波での魔物の死骸を処分していましたぞ。

 村人達は死骸を一箇所に集めている最中の様です。


「コウがご飯に欲しいって言ってたよね。分けてもらおうか……って」


 お義父さんはキメラの死骸に目を移しましたぞ。

 当然ながら俺が素材を回収した時よりも様々な部位が剥ぎ取られ、ボロボロになっています。

 頭は錬や樹が取っていったのでしょう。


「結構ボロボロになってるけど、アレが波のボスだったのかな?」

「そうですぞ」

「頭を持ってきてたもんね。だけど……村の人達が処分に困ってるみたいだね」


 お義父さんは馬車を降りて交渉に行きましたぞ。

 それから村人に何やら交渉している様です。

 すぐに俺が手招きされました。


「処分に困ってるって言うからもらって行こう。元康くん、解体を手伝ってもらって良いかな?」

「わかりましたぞ」


 お義父さんと一緒にキメラの死骸をスパスパと素早く解体して行きますぞ。

 何、俺の槍は切れ味が良いので、骨だって容易く切断できるのです。

 不必要とあらば俺の槍やお義父さんの盾に吸わせれば良いですからな。

 ある意味、異次元ゴミ箱ですぞ。


「元康くん、少しは村の人に譲るんだから骨は綺麗にしてね」

「了解ですぞ」


 で、お義父さんはキメラの臓物を盾に入れて処分し、綺麗な肉にしました。

 その一部をお義父さんは盾に吸わせ、残りに目を向けます。

 しかし残りの部位をどうすれば良いのか? とでも悩んでいる様な表情です。


「当面の食料になるかな? 新しく買ったフィロリアルの餌にも良さそうだし」

「おお……ですがキメラの肉は筋張ってそうですな」

「今までそういう肉を加工してきたんだから問題ないって」


 そうですな。

 魔物の肉は種類によって様々ですが、筋張っているのも多いのです。

 一見臭みのありそうなこの肉をお義父さんがどう処分するのか見物ですぞ。

 そもそもキメラは合成獣と書くのですが、食べても大丈夫なのでしょうか?

 ……合挽き肉というのもあるので、必ずしもダメという事はないかもしれませんな。


「あ、元康くんはこの村の牧場の柵を壊してたんだよね? 一応謝罪しに行かないとね」

「では俺一人で行ってきますぞ」


 フィロリアル様達を守る為とはいえ、器物破損をしたのは事実。

 どんな理由があろうとも謝罪しなければいけませんな。

 俺は村の牧場の方へユキちゃんに乗って謝罪しに行きましたぞ。


「昨日の件で謝罪に来ましたぞ」

「あ、槍の勇者様」


 牧場主が俺を見て、表情を緩めましたぞ。


「フィロリアル様を助けるためとは言え、柵を破壊して魔物を逃がした事、誠に申し訳ないですぞ」

「いえ、私達も自身の身を守る事で精いっぱいで魔物達を逃がす事を忘れていました……お陰で柵の一部以外の魔物達も大きな被害は無くて助かりました。謝罪なんて滅相も無い」

「逃げてしまったフィロリアル様達は保護出来たのですかな?」

「ええ、波で出た魔物達がいなくなったのを確認してから割とすぐに……」


 さすがフィロリアル様、知能が優れていますな。

 誰が主人なのか理解しているのでしょう。


「それは何よりですぞ」

「ありがとうございました」

「ははは、フィロリアル様は世界の宝ですからな、当然の事をしたまでですぞ」

「「「グア!」」」


 柵の近くまでフィロリアル様達が寄ってきて挨拶をしてくださいました。

 ユキちゃんが合わせて手を上げて敬礼しているようでしたぞ。



「うーん……」


 牧場から戻ってくるとお義父さんが唸りながら馬車に載せるか悩んでいるご様子。

 確かに量が量ですからな。

 かなり国が採って行ったとは思いますが、それでも余っていますぞ。


「あの……何なら、村の使っていない台車をお譲りします」

「え? 良いの? なら助かる……かな? 元康くん、馬車を引く子を増やせるかな?」

「馬車と台車の二台程度なら天使一人でも余裕で引けますぞ」

「当然ですわ!」

「うん」

「コウも余裕ー」


 むしろ軽過ぎだとフィロリアル様達は答えますぞ。


「そうなの? じゃあ、お願いするね」


 お義父さんはリユート村の連中からもらった台車にキメラの肉を積載させますぞ。


「何から何までありがとうございます」

「他に何か出来る事はある?」

「いえ、村の建物も盾と槍の勇者様一行のお陰で被害は無く、波で出た魔物の死骸の処理以外は普段通りの生活が出来ます」


 俺達が来ているのを知ったリユート村の連中が集まってきましたぞ。


「そっか……被害が無くて何よりだよ。あと、城下町の店で色々と良くしてくれて、ありがとう」

「いえいえ、こちらこそ私共を守ってくださりありがとうございました。盾の勇者様が噂で聞いた様な方では無い事を知れて嬉しく思います。むしろ礼をしなければ自分達が許せませんよ」

「……じゃあ、ありがたくお礼を使わせてもらうね。それじゃあ元気で」

「あ、盾の勇者様」

「何?」

「他に出来るお礼は無いでしょうか? 馬車での旅や行商をするのでしたら商業通行手形を発行するのに力を貸せると思います」

「……大丈夫、既に持ってるから」

「そうでしたか、余計な心配でしたね。それではお元気でー、盾と槍の勇者様方!」


 リユート村の村人総出で俺達を見送ってくださいましたぞ。


「多分、この流れだとリユート村でもらったのかな? 商業通行手形」

「そうなのですかな?」

「おそらくね。行商に関しても何処かで閃いて、この村で発行してもらったんだと思うよ。村でも、今よりも被害が出ていたと思うししばらくは復興の手伝いか何かをして小銭を稼いだり……したんじゃないかな?」


 なるほど、思えばこの頃でしたぞ。俺がフィーロたんに出会ったのは。

 具体的には二、三日後でしたかな?

 今でも思い出す、フィーロたんと初めての邂逅、全てはあの出会いが始まりでしたぞ。


 あの時の俺はお義父さんが台車をフィーロたんに引かせている姿が、何故かツボに嵌って爆笑したのでしたな。

 今にして思えば、何故笑ったのか理解に苦しみますぞ。

 うーん……本当に謎ですな。


 おそらく、お義父さんが不機嫌そうにしているのと、フィロリアル様達へのイメージで笑ったのでしょうな。

 馬や騎竜の方がカッコいいとか思っていた所で、お義父さんがフィロリアル様……フィーロたんと共にトコトコと進んで行く姿を見た瞬間に吹いたのです。


 ですが、今はあの出来事こそ至高。

 ゲラゲラと愚かに他者を罵倒する俺を罰するために、フィーロたんは俺の股間に強烈な一撃を加えました。

 全身を通り過ぎるかのような電撃とロケットの様に吹き飛ばされるあの世界がゆっくりと流れる感覚はかけがえの無い出来事ですぞ。


 ああ……フィーロたん。

 貴方はいずこ。


「モトヤスがまたうっとりしてるよ。ナオフミ」

「そうだね。ほっといてあげなよ。何かとても幸せそうだし」

「槍の兄ちゃん、何を考えてんだろうな。美味しい物かな?」

「キールくんのソース添え?」

「いつまでそのネタを引っ張る気だ! ワンワン!」

「ブー……」


 怠け豚がそのやり取りを見て深く溜息を吐いている様でしたぞ。


「あ、そうだ、元康くん。今日買ったフィロリアルかドラゴンの卵はどっちが飼い主になる?」

「ドラゴンは嫌いですぞ」

「うーん。だけど元康くんはそのフィーロって子の親になりたいんじゃないの?」


 そうですなー……。


「わかりましたぞ。では私が登録を致しますぞ」

「共有する事も出来るんだろうけど、元康くんが預かっていた方が安全だろうしね」

「ははは、今のお義父さんの方が安全だと思いますぞ」


 俺はフィロリアル様の卵に血を落とし、登録を完了させましたぞ。

 こうしてその日、馬車はトコトコと早めに移動をして行ったのでしたぞ。

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