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盾の勇者の成り上がり 作者:アネコユサギ

外伝 槍の勇者のやり直し

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謝礼

「これからどうしますかな?」

「波の後の掃除を手伝いに行った方が良いんじゃない? 昨日は放置して帰っちゃったし、城の兵士とかが掃除とか……する訳じゃないんでしょ?」

「よく知りませんぞ。ですがお義父さんの言う事なのですから確認に行くのは良いと思いますぞ」

「決まりだね。とはいえ、しばらくはまた城下町に戻る予定は無いから親父さんの所に顔を出してから出発しようか。武器のお礼とかしたいし」

「わかりましたぞ。ではみんなで行きましょうぞ」


 俺達は裏路地を抜けて武器屋に顔を出しましたぞ。

 お義父さんが店の扉を軽く開けて挨拶だけをする様ですぞ。

 俺達は店の外でお義父さんを待っています。


「おう! アンちゃんじゃねえか! 聞いたぜ、色々とやり遂げたみたいだな」

「まあね。親父さんのお陰で助かった所もあるよ」

「そう言われると嬉しいぜ。今日は何の用で来たんだ?」

「ただ顔を出すだけかなー……一応は援助金をもらったから武器を作ってもらうのも良いけど」

「今の所、新しい武器を作るにしても素材が足りねぇのは元より、アンちゃんの仲間のLvを上げた方がいいと思うぜ。今の装備でどうにかなるだろ」

「だろうね。まあ……しばらくしたらまた顔を出すと思うけど、その時はよろしくお願い」

「おうよ! ってアンちゃんちょっと待った」


 立ち去ろうとするお義父さんを武器屋の親父さんが止めましたぞ。

 おや? 何か他に用事があるのですかな?


「ん? どうしたの?」

「昨日のアンちゃんの活躍で礼がしたいって知り合いがいるんだ。顔だけでも出しておいて欲しいぜ」

「そんな……気にしなくて良いのに」

「リユート村の連中はアンちゃんのお陰で大した被害も無く済んだと思ってんだ。礼をしなきゃ、気分よく商売出来ねえんだとさ」

「なるほど……借りがあるって少し遠慮しちゃうからね。分かったよ……だけどその理屈だと俺は親父さんに借りがこれでもかとある事になるんだけど」

「俺とアンちゃんは問題ねえよ。金での関係だろ? 頼まれた物を提供してるだけさ」

「良い物を安く売ってくれていると思うんだけどな」

「俺も良い仕事が出来ると満足してんだ。遠慮なんてすんじゃねえよ」

「そっか……うん。わかったよ」


 何やらお義父さんと親父さんが友情を確かめるように頷き合っていますぞ。

 確かに気前の良い人ですな。

 それだけに未来のお義父さんさえ信頼しているようでしたぞ。


「で、俺達に礼がしたいって何処の店なの?」

「ああ、薬屋と魔法屋だ。アンちゃん達も行った事があるだろ?」

「薬屋……行商を始める前に何度か行ったあの店かー……魔法屋はサクラちゃんの服の材料を作って貰った所だね。行ってみるよ」

 俺達はその足で薬屋に顔を出しましたぞ。

「えっとー……武器屋の親父さんにここへ行けと言われて来たのですけど」


 と、お義父さんが薬屋の気難しそうな店主に声を掛けました。

 何度かお世話になっている程度なので、遠慮をしているようでしたぞ。

 ただ、表情は優しげですな。

 普段とはどうも違うご様子。


「ああ、武器屋のから聞いてきたか。じゃあ話は早いな。リユート村の親戚がアンタに助けてもらったと言いに来てね。出来れば力になってくれと言われているんだ」

「ああ……なるほど」


 代表としてお義父さんが話をしに行ったのですが、どうやら調合のレシピを下さったそうですぞ。

 文字を学習中のお義父さんは少しだけなら読めると言っておりました。

 渡されたレシピ書を軽く目を通した限りでは自作するのに重要な要素や用途によって使い分ける調合比率、薬草の差異などかなり詳細に書かれたものでしたぞ。


「中級レシピ以外にもついでに渡しておく」

「そんな、これ……結構値が張るか、秘伝の物とかじゃないのですか?」

「村の被害がほぼ無いのは盾と槍の勇者一行のお陰だって言うじゃないか。それくらいはさせて欲しい」

「はぁ……」

「それに……盗み見て作ったにしては程々の売り上げが出ているようだし、正式に学ぶには良い機会だろ」


 ビクッとお義父さんが仰け反りましたぞ。

 ああ、お義父さんはここでどの草が薬草なのかを見て、ついでに調合を見よう見まねで覚えたのですな。

 で、武器屋の親父さんからお義父さんが行商をしていると聞いて、何をしているかを察したとかそんな所ですな。


「下手な奴が良く知りもせずに調合して薬を売ったら信用に関わる。これで学んでくれ」

「は、はい。も、問題は無い様に心がけます」

「ま、噂を聞く限りじゃ大丈夫だと思うがね」


 武器の技能で作成しますからな。問題はまず起こりませんぞ。

 ですが自作する事で品質に差が出るのも事実、馬車の退屈な時間には良いかもしれませんな。

 まあ、シルトヴェルトでLv上げ等をしている事が多いので、技能任せに成りますが。

 お義父さんは凝り性ですから、もらったレシピで腕を磨くかもしれませんぞ。


「薬苦いからコウ嫌いー」

「よし、じゃあ薬を体に塗りたくればコウは俺を狙わなくなるな」

「キールくんとコウ、変な事はしないでよ?」


 クンクンと二人揃って薬の匂いを嗅いでいたのをお義父さんが注意致します。

 ユキちゃんはハーブが練り込まれた香水の辺りで匂いを嗅ぎ、サクラちゃんは眠そうにしています。


「高貴な香りですわね」

「香水も扱っているんですね」

「一部だな。レシピに載っているから興味があるならやってみろ」

「は、はい。がんばります」

「魔法屋には顔を出したか?」

「まだです。これから行こうかと思っています」

「そうか。あの守銭奴が何をくれるか知らねえが気を付けろよ」

「気の良いおばさんのように見えましたが」

「それがアイツの手口だ。昔からアイツはそういう要領の良い所がある」

「はぁ……」


 商売はお義父さんの専売特許ですぞ。

 容易く利用される事などありますまい。


 確か……未来の村で奴隷達に魔法を教えていたのがあの魔法屋だったかと思いますぞ。

 まあ、村の近くにある町で今よりも大きな魔法屋を開店していましたがな。

 弟子にしたお義父さんの奴隷に店番をさせていたのを覚えています。

 そういう意味では確かに要領はすごく良いのでしょう。


 ですが、誰か損をしているのですかな?

 お義父さんも了承済みだったようなので、問題は無いですな。

 逆に薬屋は魔法屋に強引に連れられてお義父さんの領地で店を開く事になったのではありませんでしたかな?


 俺も詳しくは知らないのですぞ。

 フィロリアル様達は噂が好きでしたから、そこから聞いたに過ぎませんぞ。

 で、魔法屋に行くと魔法屋がお義父さんに親しげに話をしているようでしたぞ。


「ブブー!」


 俺には何を言っているのか全然わかりませんぞ。

 商才のある豚とは厄介極まりないですな。

 話が通じませんからな。

 本当に商才があるのですかな?

 ブヒブヒと騒いでいるだけに見えます。


「サクラちゃんの服を作る時はどうもありがとうございました。それで、俺達に何のご用で?」

「ブブブ」

「ああ、魔法資質ですか?」

「ブブブ」


 魔法屋がキールを見ていますな。


「ああ、キールくんの資質を見たいと」

「俺? 俺も魔法が使えるのか?」

「ブブブ」


 お義父さんがキールを抱え上げて、魔法屋が占う様に水晶玉を凝視させましたぞ。

 その後、お義父さんは俺の方を見ましたな。


「ねえ元康くん、元康くんは魔法を覚える必要がある?」

「既に使えますぞ」


 俺は勇者にしか使えないリベレイションクラスまで使えますからな。

 ここでもらう必要はありませんぞ。


「え? 魔法を見せてほしい? 元康くん。威力の無い強力な魔法とか使えない?」

「わかりましたぞ。では使って見せましょう」


 俺の資質は火と回復魔法ですからな。

 お義父さん程特化した回復の魔法は使えませんが、高威力の回復魔法は唱えられますぞ。


「リベレイション・ファイアヒール!」

「ブヒ!?」


 俺の発動させたリベレイションクラスの魔法に魔法屋が驚いて後ろ向きに倒れましたぞ。


「だ、大丈夫ですか!?」


 お義父さんが倒れる魔法屋に声を掛けます。

 すると魔法屋が起き上がって何度も頭を振りながら腕を組んでいる様でしたぞ。


「凄い魔力だって、元康くん褒められてるよ」

「お義父さん程ではありませんぞ」


 まあ、攻撃魔法でしたら負けませんですがな。

 しかも強化をしていない回復魔法。

 まだまだ先がありますぞ。

 ですが、この程度で驚いているのでしたら見せる必要がありますかな?


「ブブー……」

「ブブ」

「はい。元康くんやエレナさんは魔法が使えますし、新しく覚える必要は無いですね」


 そういえば先ほどから怠け豚がついて来てはいるのでしたな。

 面倒そうに欠伸をしていますぞ。


「ブブ」


 魔法屋がフィロリアル様達を指差しますぞ。


「元康くん、サクラちゃん達は魔法を教える必要ある?」

「基本、本能的に覚えるので今の所必要ありませんな」


 ドライファクラスも自然とフィロリアル様は覚えますな。

 状況次第で教える必要があるらしいですが、俺は今の所不便を感じた事はありませんぞ。


「ブブ……」

「はい。俺とキールくんだけですね。それが何か?」


 魔法屋はお義父さんに何冊かの書物を渡しますぞ。


「これ……確かこの前は買って欲しいと言ってたものでは……?」

「ブブブ」

「あ、はい。ありがとうございます」


 後でお義父さんに聞いた所、リユート村を守ってくれたお礼としてくれたそうですぞ。

 で、最後に魔法屋は何やら鉱石の欠片をお義父さんに下さいました。

 ピカッと鉱石は光って、お義父さんが瞬きしています。


「今のは……? なんか不思議な感覚がしたけど……」

「ブブ」

「ああ……おまけで魔法の玉の欠片をくれたんですか。魔法習得の役に立つと……何から何までありがとうございます」

「ブブブ!」


 魔法屋が機嫌よくお義父さんの背中をポンポンと叩きますぞ。

 態度がとても柔らかいですな。


「そ、それじゃあ失礼します」


 魔法屋を後にした俺達。お義父さんは馬車にもらった書物を置いて汗を拭いますぞ。


「みんな良い人だったな!」

「そうだね。少しずつ信用が得られている実感が湧いてくるね。困っている人を助けると気分が良いけど……こうまで良くしてくれると悪い気がしてくるなぁ」

「恩には恩で返せば良いだけですぞ」

「そうだね。じゃあリユート村の人達にお礼を言いに行ってから行商再開だね」

「おう! また薬を売って困っている人を助けるんだろ?」


 キールが笑みを浮かべでお義父さんに同意しましたぞ。


「うん、そうなるね。こうしてみんな仲良くできるように、錬やシルトヴェルトの人にも言ったように、国を内側から変えていけるようにがんばろう!」

「「「おー!」」」


 停めていた馬車に乗り込んで、俺達は出発したのですぞ。


 全ては順調に進んでおります。

 細かい所で差異はあるのでしょうが、良い方へ向かっている確信がありますな。

 お義父さんのお言葉通り、次の波までに沢山の人を救うのですぞ!

盾一行の善行値:15(5)

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