卵くじ
「行っちゃったね。俺達はどうしようか? 具体的には時が来るまで行商をしていれば良いんだとは思うけど、臨時収入をどう運用する?」
裏路地で俺達はこれからの方針を話し合いますぞ。
とはいえ、そこまで深く話をするのは馬車で良いでしょうな。
「フィーロたんを探しますぞ」
「またか……まあ、それが元康くんの行動目的なんだろうから文句は言わないけどね。じゃあ……フィーロって子を探す?」
「そうですな。時期的に考えて未来のお義父さんは今回もらった金でフィーロたんを手に入れたと思うのですぞ」
「んー……問題は何処でどうやって手に入れたか、だね?」
「ですぞ。前回は魔物商から買い占めをしたのですが、いませんでしたぞ」
「買い占めたのか……元康くんはやる事が凄いね。だけど難しい問題だと思うよ。何か目印になる変わった特徴とかあれば良いんだけど……」
「フィロリアル形態はサクラちゃんとほぼ同じ色合いですな。クイーン形態は完全に逆ですぞ」
「サクラに似てるの?」
サクラちゃんの言葉に俺は頷きますぞ。
フィーロたんは白を基調として桜色が混じっていますからな。
「そういえば馬車に乗っている時にスケッチしてたよね」
「天使の姿は全然違いますな。ユキちゃん達と同じ背格好で金髪碧眼のとても愛おしい姿をしております」
「サクラちゃんは目の色は青いけど……髪は桜色だもんね。だけど天使の姿になった時の色合いがそこまで違うのって確かに変わった特徴だね。元康くんが描いてたのを覚えてるよ」
お義父さんの意見はもっともですぞ。
フィロリアルの時の姿と天使の姿の時の色合いがここまで違うのはフィーロたん以外じゃかなり珍しいものだったと思いますぞ。
ですが、仮にフィーロたんが誰かの物になってしまっていた場合、確かめる手段がフィロリアル様の姿である時しか無いのですぞ。
天使の姿やクイーン形態は勇者が所有しなければ判明しません。
判断基準がフィロリアル姿の色合いと目の色……そして匂いですから難しいのは事実ですな。
「未来の俺は誰も助けてくれる人がいなくて荒れていたらしいからね……頼りに出来る、信頼できそうな人からしか買わないと思う。多分、奴隷商人から買ったのは間違いないと思うよ。何処かで衝動買いとかされない限りはね」
「あの奴隷商人から兄ちゃんが買ったのか?」
「なんとなくはわかるんだ。あの人、こう……金には正直というか、未来投資の意味も込めて力を貸してくれる様なそんな感じがね」
さすがですな。
お義父さんを裏で支えたのはあの魔物商だと言うのは俺も知っていますぞ。
お姉さんを斡旋したのも魔物商だと言う話だったかと思いますし、村の再興でお姉さんと同郷の奴隷たちを集めるのに尽力したのもそうだと聞きましたな。
それに未来ではお姉さんが奴隷紋を解除されたと言う話だったかと思いますぞ。
ですが次にあった時にもお姉さんは奴隷ではありませんでしたかな?
詳しく確認は致しておりませんが、お姉さんから聞いた様な気がしなくもないですぞ。
となると奴隷紋を掛け直しをする為に魔物商の所へ行った可能性は捨てきれませんな。
ですが、その先はわかりませんぞ。
「あんまり行きたくないけど元康くんのお願いだし、顔を出してみようか?」
「お義父さん、ありがとうございます!」
フィーロたんを見つける為の手間なら惜しみませんぞ。
俺達はその足で魔物商のテントに行ったのですぞ。
ユキちゃんやコウは魔物商のテントに入るのを躊躇いましたぞ。
確かになんか陰鬱な空気がありますからな、フィロリアル様は総じて近寄りたがりません。
怠け豚は面倒臭がってユキちゃん達と外で待つとの話でした。
「これはこれは勇者様方。今日はどのような用事で?」
魔物商のテントに入ると、魔物商が出迎えますぞ。
揉み手をしておりますな。
負けずに俺もお義父さんに揉み手をして見せます。
「元康くん、なんで張り合ってるの?」
「なんとなくですぞ」
さあ、俺にフィーロたんを出会わせて欲しいですぞ。
そう思いながら俺はお義父さんに揉み手をずっとしますぞ。
「なぁ、槍の兄ちゃんってやっぱり……」
「キールくん、その続きを言っちゃ可哀想だから……」
「わかったぜ、兄ちゃん」
何やらキールが俺を可哀想な物を見る目で見てきますが俺は気になどしませんぞ。
サクラちゃんはぼんやりとテントの中を見渡していますな。
「おや?」
魔物商はキールを見つめて首を傾げますぞ。
「獣人に変身する能力を所持していたのですか。ハイ。では買い取り金額を上乗せすべきですね」
「い!? 俺を売るのか兄ちゃん!?」
「売らないよ! なんでいきなりキールく――を売る話になるんだ!」
商売人モードに強制的に入ったお義父さんがキールの前でくん付けをしないようにしていますぞ。
「さすが盾の勇者様、頑丈に育つ奴隷を選定していたのですね。勇者様の慧眼に完敗です。ハイ」
どうやら魔物商はキールの成長を見て、分析をしたようですな。
「そうですね。これだけの毛艶、少々頼り無い体躯をしていますが愛玩用としてなら良い値が付くかと思いますです。ハイ」
魔物商が何やら機材を弾いていますな。
見た感じソロバンですかな?
「軽く査定した感じでは金貨5枚でどうでしょう? 亜人時の姿でまだ値上げが可能です。その毛艶、上手く外見も育っているのでしたら金貨12枚は手堅いでしょう。ハイ」
「兄ちゃん!」
キールが売られるフィロリアル様みたいな目で見ていますな。
おや? テントの外で退屈になったユキちゃんとコウが歌い始めましたぞ。
なんとなく、ある晴れた昼下がりに市場へ連れてかれるあの歌を連想しますな。
「あの二人は……偶然にしても空気を呼んで欲しい……」
舌打ちしながら外を睨むお義父さんが縋りつくキールを宥めながら答えますぞ。
「わ、悪いが役に立つくらいに成長したコイツを売る気は無い」
「そうですか……非常に残念です。しかし……」
魔物商はキールをじろじろと見つめますぞ。
「もっと私共のような方かと思っていたのですが期待はずれでしたな」
キールが心配そうにお義父さんに引っ付いていますな。
そんなにも怖いですかな?
「生かさず殺さず、それでいて品質を上げるのが真なる奴隷使いだと答えてやる……」
お義父さんも商売人モードで答えますぞ。
この考え、俺に当て嵌めてみますかな?
フィロリアル様は等しく愛すべき存在なのですぞ。
生かさず殺さず……品質を上げる?
そう……我が子のように、早い子も遅い子も、強い子も弱い子も、賢い子もおバカな子も等しく大切に育てるのですぞ。
ここに品質など介在する余地などありません。
どの子も個性を持っているのですぞ。
争い、競う必要などありませんな。
全く理解できませんぞ。
「お前の知る奴隷とは使い捨てるものなのだろうな。そんなのでは生産性が無いだろ。奴隷共に、奴隷紋無しで忠誠を誓わせて死地へ行かせる事こそ、真の奴隷使いだと思わないのか?」
ですがお義父さんの返答に魔物商は満足したようですぞ。
「……ふふふ。そうでしたか、私ゾクゾクしてきましたよ」
「に、兄ちゃん?」
キールがお義父さんの言葉に表情を青くさせてますぞ。
前日の出来事がありますからな……。
お義父さんはキールの方に振り返って内緒とばかりに人差し指を立てて魔物商へ視線を向けますぞ。
するとキールは理解したのかコクリと頷きました。
「して、今回はどのような用で私共の所へ? ハイ」
「ああ、そうだな……今回は……」
お義父さんはテントの中を見渡しましたぞ。
「新しく魔物を育ててみようと思ってな。なんだかんだで戦力が欲しいからな」
「そうでしたか! ではどのような魔物を所望で? この際、飛竜などはどうでしょうか? 少々値が張りますが、拝見いたしますですか? ハイ」
早口で魔物商はお義父さんに詰め寄りますぞ。
お義父さんは眉を寄せつつ、負けずに眼力で返しますな。
「ドラゴンも悪くは無い……が、フィロリアル辺りが欲しいな。詳しい品種はアリア種だったか?」
「迷っているようですね。では魔物の卵くじに挑戦するのはどうでしょうか? ハイ」
「魔物の卵くじ……?」
魔物商はテントの隅にある卵の入った木箱を指示しますぞ。
銀貨100枚で挑戦で、何が入っているか分からない物みたいですな。
「ああ、あの中には当たりが無いって所か。あこぎな商売をしているな」
「なんと! 私達がそんな非道な商売をしていると勇者様は御思いで!?」
「違うのか?」
「私、商売にはプライドを持っております。虚言でお客様を騙すのは好きでありますが、売るものを詐称するのは嫌でございます」
「騙すのは好きだけど、詐称は嫌いって……で、当たりは何なんだ?」
「勇者様が分かりやすいように説明しますと騎竜でございますね」
「えっと……確かフィロリアルの様に、馬代わりになるドラゴンか?」
「今回は飛行タイプ……飛竜です。ハイ。人気があります故……貴族のお客様が挑戦していきますです。ハイ」
お義父さんが唸りますな。
ここで興味なさげにするのは商売の点で評価が下がるのですな。
俺も黙って見ているとしましょう。
「もしも……元康くんがいなくて奴隷が一人しかいなかったら……」
お義父さんはぶつぶつと呟いていますな。
色々と考えてくださっているのは伝わってきますぞ。