勇者密会
「……次の波は大丈夫なのか?」
「まあ……何も出来ない訳じゃないから」
と、お義父さんは錬の心配をそつなく流しますぞ。
「とにかく、最低限の費用を……いや、勇者を公平に扱うべきだ」
錬がクズを指差して言いました。
「……ふむ。どうやら盾の勇者と槍の勇者にギルドの者が私情をはさんでいた様じゃな。ギルドに代わってワシが謝ろう」
とか言いつつ頭は絶対に下げませんな。
このクズ、本心はお義父さんが苦しむ様を見たくてしょうがないのはわかりきっていますぞ。
「ギルドの連中があの茶番を信じて、尚文に何も仕事を寄越さなかった……ね」
ポツリと呟いた錬、まあ一応は筋がありますから納得しかねる状況ですが一応は頷いてますぞ。
「ではその代償として銀貨300枚を賠償として追加で与える。受け取るが良い」
ジャラジャラと金袋が追加で来ましたぞ。
クズが不快そうに眉を寄せているのが印象的ですな。
赤豚は作り笑顔をしているのが一発ですぞ。
錬では無いですが、茶番にウンザリして来てこの元康、吐き気を堪えるので精一杯ですぞ。
「……さて、今回の援助金の配布はこれで終わりじゃ。次の波まで勇者達はそれぞれ精進をするように。これにて解散!」
おや? お義父さんに手切れ金と称して言い放つのは無いのですかな?
ふむ……さすがにそこまでやったら錬に突っ込まれるのを理解しているのでしょうな。
そうなれば、既に手遅れな状況ですが、樹にまで国への不信感を持たれかねないのでしょう。
とりあえず、ここで手を打つのが得策ですな。
俺達はその足で、城を出たのですぞ。
「おい……邪魔だ! どけ!」
「すいません。それは――」
錬が俺達の方へ行こうとして仲間に遮られてしまった様ですぞ。
そこにお義父さんが機転を利かせて近寄ります。
「どうしたの?」
「ああ、尚文。お前達に話しかけようとしたらこいつ等が邪魔をしてな」
既に手遅れと察したのか錬の仲間達は下がっております。
これは……前回の周回を参考にするなら、こんな町の往来で話すのは危険ですぞ。
「話をするならもう少し静かな所が良いと思いますぞ。もちろん、そちらの仲間は別ですな」
「ああ……わかった。じゃあ、どこか良さそうな場所へ行くか。お前等は酒場で待っていろ」
「で、ですが……その……」
錬の指示に仲間達が脅えた様子で食い下がりますが、錬は不機嫌に溜息をしましたぞ。
「なんだ? 俺に知られちゃいけない事でもある様な物言いだな。勇者同士で連携を取る必要があるんだ。狩り場で遭遇したら無駄だろ?」
ま、一介の冒険者では錬を止められませんな。
「これ以上、付いてくるならお前等を解雇する」
「そ、それは困ります!」
渋々と言った様子で錬の仲間達は離れていきましたぞ。
錬も中々に思い切った事をしますな。
「では案内は俺がしますぞ」
「お願いできる? 元康くん」
「お任せられましたぞ」
で、俺はユキちゃんとコウ、そしてサクラちゃんにそれとなく近づいて耳打ちしますぞ。
「辺りに隠れた連中がいないか警戒しながら裏路地の方へ行きますぞ。もしもいる様だったら合図をしてほしいですな」
「わかりましたわ」
「かくれんぼ?」
「いない所を探すの?」
フィロリアル様は隠れている者を察知する技能が高いですからな。
もちろん、フィロリアル様の察知をくぐりぬける者がいないとも限りませんが、今度は俺が見つけるので問題ないですぞ。
最悪、消せば良いですからな。
そうして錬を連れて俺達は裏路地に入って、進みましたぞ。
まあ、こんな所ですかな?
俺は辺りにみんなが聞こえない様に小さな声で火の魔法を唱えますぞ。
「リベレイション・ファイアフラッシャー」
ふわりと辺りに隠れている者を……あぶり出す魔法を唱えました。
ちなみに攻撃性能があるので、下手にここで隠れているとリベレイションなので一瞬で燃え尽きますぞ。
「それで、錬は何の用ですかな?」
「ああ……今までの出来事を見て来て、俺はこの国がどうもキナ臭いと思えてしょうがなくてな。露骨に差別されている尚文達に話を聞きたいと思ったんだ」
「なるほど」
お義父さんが俺に目を向けますぞ。
既に錬の疑惑は確信へと至っているご様子。
ここで多少の情報の共有は必要な手順でしょうな。
「実はこの国は……盾の勇者が宗教的に敵らしいんだ。だけど表立って俺を差別するのは周辺諸国や世界中から非難される。だから秘密裏にいろんな罪をでっちあげて暗殺したいというのが……目的なんじゃないかな」
「……そうか。確かに、今までの出来事を思い返せば辻褄が合う」
錬は何度も頷いておりますな。
確かにこの状況で、アレだけの証拠がそろっていたら疑う余地はありませんからな。
「強姦をしたってのもその一環だったって事なんだな?」
「うん。俺はやって無いし、奴隷と言ってもこの子達を無理やりには戦わせてないよ。必要だから奴隷になってもらっているだけ」
「そうだぜ! 兄ちゃんは奴隷紋を一度も起動させて無いぜ!」
キールが我が事のように答えますぞ。
「わかった。じゃあなんでこの国から出ないんだ?」
「それは……」
ここから先の話は錬が信用するのは難しいと思いますぞ。
俺が未来から来ていて、シルトヴェルトに亡命するとメルロマルクが戦争を始める。
その挙句に勇者が戦争に巻き込まれるなどとは信じてもらえるか怪しいですな。
「こっちにも色々とね。俺はこの国を内側から変えたいと思っているんだ。その為に行商をしてるんだよ?」
良い切り返しですな。ウソでは無いですぞ。
さすがお義父さん。咄嗟の言い訳は天下一品ですぞ。
「……面倒な方法を選んでいるんだな」
錬の台詞はもっともですな。
考えてみれば確かに面倒な手段ですぞ。
クズや赤豚の暴走を考えれば怒りを堪える方が大変ですな。
何より樹が激しくウザいですぞ。
お義父さんに負けて無様に転がったあの時を思い出して笑みを浮かべるのが良いですかな?
「――!」
ボワッと火の手が後方で上がりましたな。
どうやら割と早い段階で刺客が来ているようです。
ですが俺達に暗殺など不可能ですぞ。
「なんだ? 裏路地じゃ野蛮な喧嘩が横行しているんだな」
「そうですな」
錬は、まさか秘密裏に近づいている者がいるなど露とも思わなかったようですぞ。
「……余計な権力争いになんて巻きこまれるのはごめんだ。俺は適当にギルドの仕事をしたら様子を見てゼルトブルへ逃げる」
「わかりました。では……そうですな。この騒ぎももう少ししたら収まると思うので、その頃に合流するのはどうですかな?」
「悪くは無いが、時期はわかるのか?」
む……具体的に説明するのは危険ですな。
錬は少しあまのじゃくの所がありますからフォーブレイの方へ行ってはいけないと言うと行ってしまう様な気がしますぞ。
とりあえずゼルトブルを拠点にする間は放置していても良いかもしれませんぞ。
「そうですな……もう少しで転移スキルが使えると思うので一月単位で一度会うのが良いのではないですかな?」
「……確かに悪い手ではないな。ゼルトブルの方でお前等の噂とかも流れてくるかもしれないし、状況を見て行動すればいいか」
こんな所でしょうな。
今の錬では話になりませんぞ。
「しかし……よく樹に勝てたな。尚文、相当やり込んだのか?」
「その事なんだけど錬、武器にはいろんな強化方法があるんだ。それこそ錬の知らない強化方法が一杯ある。まずは――」
お義父さんが錬に武器の強化方法を教えていますぞ。
無駄な事を……今の錬は自分の知るゲームの世界にいると思いこんでいるので、聞き流されるだけですぞ。
「そんな複雑なシステムな訳が無いだろう。尚文が精進していただけだ。現に出来ないだろ。ウソを吐くのはやめろ」
錬が聞きながら何度か強化方法を試す様な動きはしていましたぞ。
ですが、心から信じないと出ないのですから毛頭出来るはずもありませんな。
「しかしこの状況で尚文が嘘を吐くとは思えない……いや、仮に出来るとしても尚文の武器はそうなんだろう。俺と樹の世界が違う様にやっていたゲームが違うのだから武器もそうなのかもしれないな」
と、錬は決めつけてしまったご様子。
これでは成長は見込めませんな。
とはいえ……ここで長話するのはあまりお勧めできないですな。
「まあ、俺の武器じゃ出来ないし、尚文の強さもLvによるものなんだろう。元康と一緒にがんばったんだな」
「そうだけど……うーん……」
言葉を濁しながらお義父さんは錬と話を終えましたぞ。
「国境には気を付けるのですぞ」
「舐めるな。その程度は察知できる」
そして錬はサッと去っていきました。
お義父さんと話をしているのを聞く限りだと、ある程度この国でやる事を終えたら移動するそうですぞ。
盾の勇者であるお義父さんが国境を超える事は出来ないでしょうが、錬は……まだ出来るでしょうな。
少し危険ではありますが、まだ疑っていると思う範囲だと認識されていると思う事にしましょう。
これで錬も命を狙われるようになったら、お義父さんの所に来るでしょうからな。
さすがに今の錬でも一般の冒険者や国の兵士程度じゃ倒せない程度の強さは得ているはずですからな。
儀式魔法クラスを受けたらそれ所では無いでしょうが、錬を始末するよりもお義父さんを先に攻撃するでしょう。
婚約者をお義父さんが誘拐したと見せかけて、勇者同士で戦わせてから、錬を始末しようとするはず。
それまでは猶予があると思いますぞ。