バッドステータス
「うおおおおおおおおおおおおお!」
「はぁああああああああああああああ!」
お義父さんが盾を前に向けながら樹に向けて駆けだします。
合わせて樹はスキルでバックステップをしながら弓で矢を放ちました。
矢が一直線にお義父さん目掛けて飛んでいきますが、お義父さんは片手で矢を掴んで止めました。
「なに!?」
樹が驚愕の表情で声を出しました。
ですが、即座に立て直して続けざまに矢を何度も放ちます。
数が多く、さすがのお義父さんも捌ききれないようです。
「エアストシールド!」
お義父さんは命中する前にエアストシールドを唱えて矢を無効化させましたぞ。
遠距離攻撃がメインの樹と他者を守る事が仕事のお義父さんでは役割が違います。
お義父さんの攻撃は通常では樹に蚊程の傷すら負わせられないでしょう。
ですが、お義父さんはあれこれと、俺と戦った時でさえいろんな手段で攻撃をしていました。
バルーンなどをマントの下に隠して俺に噛みつかせたのは秀逸ですな。
ネットゲーム用語ではモンスタープレイヤーキラーに該当する行為ですが、対人の攻撃手段の無いお義父さんにはぴったりの攻撃でしたでしょう。
今回のお義父さんはマントの下にそのような品は隠していないご様子。
何を……するのかこの元康、お義父さんの知恵に興味津々ですぞ。
「逃げながら矢を放つ事しか出来ないのか? 芋だな。コンシューマーゲームだったら良い攻撃なのかもしれないが程度が知れるぞ樹」
芋……聞き覚えがある様な気がしますぞ。
ネットゲームの中には銃撃戦を楽しむ物があったと思います。
その銃撃戦のゲームで前面に出ず、後方で射撃ばかりしている奴を呼ぶ蔑称だったかと。
「言いましたね! これでも喰らいなさい! バンカーショット!」
お義父さんの挑発に怒りを露わにした樹が近づいてお義父さんの胸目掛けてスキルを放ちましたぞ。
近ければ近いほど威力が増すというスキルでしたかな?
まあ、樹のプレイスタイルからして滅多に使うスキルでは無いのでしょう。
あと、初期のスキルでしょうな。
近づかれた時の緊急で使うものだと推測できますぞ。
まだ、発展して行った覚えがありますな。
未来では全く使わなかった死にスキルなのです。
俺がゲームだと思っていた頃のスキルでは特化型のステータスにすれば程々に強いと言われるスキルでしたが、弓系の職業でそれをするくらいなら近接職をやれと言われていましたな。
しかし、弓でソロならば取得しても良いスキルと言えるでしょう。
まあ俺達勇者は装備さえ解放すればいつでも使えますが。
ドスンとお義父さん目掛けて衝撃が発生しました。
「……ふむ。耐えられなくはないな」
平然とした表情でお義父さんは樹の攻撃を受け止めきりました。
「な……傷一つ、付いていない!?」
笑みを浮かべていた樹が絶句したような表情をしましたぞ。
今のお義父さんと樹では月とスッポンくらい強さに差がありますからな。
何せ俺が教えた強化方法を全て実践なさっているのです。
対して強化を怠っている樹相手では、四聖の強化方法を全て習得していても敵いませんな。
「次は……こちらの番だ」
「盾に何を出来ると思っているのですか!」
ガシッとお義父さんは樹の胸倉を掴み、樹に盾を向けます。
するとお義父さんの棘の付いた盾が鋭く尖って、樹に突き刺さります。
「ぐ……」
ですが、樹に深く突き刺さる事はありません。
精々、微弱にダメージが入った程度でしょうな。
「う……これは……」
樹は目眩がするように頭に手を当てています。
そのままお義父さんは樹を押し倒し、動けない様に拘束しましたぞ。
関節技ではなく、あくまで上から乗っかる形で樹が起き上がれず、何も出来ない様にですな。
これには見覚えがありますぞ。
アレは俺にもした攻撃ですな。
俺の顔と股間に執拗な攻撃をしようとしていたお義父さんの策略……ああ、なんか興奮してきた様な気がするのは気のせいですな。
お義父さんの勇姿に、この元康、涙で見えませんぞ。
「さて、ここで降参するならやめてあげるけど?」
「だ、誰が降参なんてする物ですか!」
「そうか……じゃあお前が降参するまで俺はお前を組み伏すだけだ」
「ふ、ふん。盾の尚文が何をしたって僕の勝利は揺るぎません!」
「いつまで言っていられるか」
お義父さん目掛けて樹が何度かスキルを放とうとしますが、体勢の関係で何も出来ない様ですぞ。
俺もこの時はそうでしたな。
力技で圧し掛かりを外そうにもお義父さんは意外と力が強くて俺は何も出来ませんでした。
一見すると、お義父さんが圧し掛かって勝負が長引く様な気配がありますが……違うでしょうな。
「う……く……」
徐々に抵抗する樹の動きが鈍くなってきていますぞ。
樹が意識を集中させて何か魔法を唱えようとするのをお義父さんは手で口を押さえ、同時に暴れる樹に再度盾の反撃で意識の集中を阻害します。
「おっと、今の君に魔法が使えるのかな? ま、この反撃効果で魔法も無効化したみたいだけどね」
おそらくはお義父さんが使っている盾は毒か麻痺、沈黙の追加効果が発生しているのですな。
後は毒が樹の体力をジワリジワリと削り、麻痺か沈黙で抵抗する事すら出来なくなる。
なんと……もしもお義父さんがその類の盾を所持して居たら俺と戦った時、赤豚の不正行為が無くても俺は完全に敗北していたのでしょう。
これが盾の勇者の戦い方……素晴らしい。
この元康、お義父さんの勇姿に涙が止まりませんぞ。
「槍の兄ちゃん、さっきから気持ち悪い泣き方すんのやめろよ」
「感情が豊かなのです。元康様はナオフミ様の勇姿に感激しているのですわ」
「気持ちはわかるけどなー兄ちゃんすげー!」
樹の動きが徐々に鈍くなり、これで勝負が付くと思った矢先。
バスっという音と共にお義父さんのマントが不自然に揺れましたぞ。
いや、揺れる前から何が起こったのかは誰の目にも明らかでしたが。
やはり観衆に紛れて赤豚が風の魔法、ウイングブロウをお義父さん目掛けて放ちました。
ですが、今回のお義父さんは俺の時の様なLvも装備もギリギリではありませんからな。
命中したのは理解しましたが仰け反る事はありません。
お義父さんは完全に無傷。
飛んできた魔法に気付いて不快そうに赤豚を睨みつけましたぞ。
審判は完全に見て見ぬふりをしていますな。
いや、効果が無い事に対してうろたえているようにも見えますぞ。
「皆の者、弓の勇者殿を盾から救うのじゃ!」
クズが宣言すると同時に、観衆の周りにいた魔法使いが魔法の詠唱を始めましたぞ。
「な……ふざけんな!」
各々の魔法使いがお義父さんに魔法を放ちますぞ。
火や風、土、水、雷、光……様々な魔法がお義父さんへと飛んでいきます。
しかし命中する瞬間……。
「流星盾!」
「うわ――」
樹がお義父さんの放った流星盾に押しつぶされて完全に動けなくなってしまっています。
お義父さんの作り出した結界に魔法使い共の魔法が命中して煙が発生して行きます。
「おい!」
少し離れた所で見ていた錬がクズと赤豚に駆け寄りますぞ。
ここは印象の悪い俺が出るよりも錬に詰め寄ってもらった方が良いでしょうな。
己の行動が原因でなにもかも悪く転がる恐怖を味わわせてやりますぞ。
「何をやっているんだ! 正々堂々の一騎打ちに何故、姫の援護魔法や城の魔法使いが尚文を攻撃する!」
「盾の勇者は毒という卑劣な攻撃を使った。であるからしてこの勝負は弓の勇者殿の勝利に決まっているのじゃ!」
「毒攻撃も立派な戦略だろ! じゃなきゃ攻撃手段の乏しい尚文に勝利する可能性なんて無いに等しいじゃないか!」
錬が剣を抜いて即座に戦えるようにクズと赤豚を睨みます。
「今すぐ尚文への攻撃をやめさせるんだ。この勝負はお前等の所為で無効……違うな。誰がどう見ても尚文の勝利だ!」
「じゃが盾の勇者は不正な方法で弓の勇者殿の動きを阻害した! それでは正当な決闘にはならん!」
「そんなルール最初に提示していないだろう! お前等の決闘とは公開処刑の事なのか!」
さすがの錬も怒りを隠さずに叫んでおります。
しかしクズは何処までも言い訳を繰り返しそうですな。
「ブー!」
赤豚が涙目で錬に詰め寄りますぞ。
ですが、錬は赤豚に剣を向けて近寄るなと警告します。
「幾らなんでも限度を知れ。卑怯にも観衆に紛れて魔法を放ち、挙句誤解? 無理があるだろ!」
「ブブブブブ……」
「助けてくれた樹が負けそうになっている姿に居た堪れなくて、だと? それにしてもこれは無い! 姫なら今すぐやめさせろ! お前等の樹は負けたんだ!」
物凄く不快そうにクズは手を上げて魔法使いに攻撃をやめさせますぞ。
樹はお義父さんの放った流星盾に抑えられて、動く事もままならないようですな。
「驚いたー……で? 今回の勝負は俺の勝ちで良いのかな?」
「ま、まだ……僕は……負けてなんて居ません」
「その状態でよく言えるね。さすがは勇者って事なのかな?」
「残念だが、姫と王の所為で負けだ。それにそのままだと毒でどっちみちダウンだろ」
「く……う……」
ぐったりした樹が、完全に意識を失ったようですな。
お義父さんは樹が戦闘の継続不可能と判断してから動き、樹を自由にさせました。
国の魔法使いと兵士が樹に駆けよって回復と解毒の魔法を施しましたぞ。
「これで良いでしょ?」
「ぐぬ……」
「ブブ……」
クズと赤豚が悔しげに呻きましたぞ。
錬も疑いの目を強めています。さすがにこれ以上の暴論は疑いを強めすぎますぞ。
既に手遅れなような気もしますがな。
辺りの空気はとても悪くなっているご様子ですな。
「樹の意識が戻ったらちゃんと言い聞かせるんだ。お前は尚文に負けたんだ。それに尚文の奴隷も尚文を本当に慕っているようだから無理に引き離そうとするんじゃない」
この中では錬が一番発言力があるようですからな。
俺が出るまでも無いでしょう。