通常攻撃
「エアストバッシュ!」
「セカンドアロー!」
錬と樹を見るとあまり強いスキルは使っておりませんな。
まあ、この頃は程々の強さを持つスキルしかありませんでしたからな。
「ガアアアアアアアアア!」
次元ノキメラ相手に錬と樹達が善戦しております。
俺の記憶よりもダメージが無い様に見えますな。
まあ、三人で挑んだのですから短い戦闘時間で済んだのですかな?
あまり強い方の魔物では無いですから、それもありえますぞ。
「やっと来たか! 元康、お前は何をしていたんだ?」
錬がキメラの攻撃を避けながら駆けつけた俺に言いましたぞ。
「どうせ怠けていたのではありませんか?」
「避難誘導をしていたのですぞ。ここの近くには村がありますからな、被害を最小限に抑えねばならないのを錬や樹は知らないのですかな?」
「ふん。そんなものは城の連中に任せれば良いんだ」
「ええ、僕達の目的は波を逸早く鎮める事です。それこそ、攻撃が出来ない尚文さんにでも任せておけば良いのですよ」
言いましたな?
お義父さんがどれだけ大変なのか、まったく考えずに良く言いますぞ。
みんなを守っていたお義父さんに向かって騎士団は火の雨を降らした事を錬や樹は理解しているのですかな?
「お義父さんの悪口はやめてほしいですぞ。お義父さんは攻撃こそ出来ませんが、相手の動きを止めて、俺達が戦いやすいようにする事だって出来るのですぞ」
そうですな。
今回の様にキメラを相手にした場合、お義父さんはどう動きますかな?
俺の頭の中でお義父さんがどう動くかイメージします。
まずはキメラの前足辺りを掴んで動きを止める等でしょう。
次に反撃能力のある盾で相手にジワリジワリと状態異常辺りを付与しますかな?
後は俺やお姉さん等の仲間に頼んでトドメを指示しますぞ。
うん。これだけで俺やお姉さん等の仲間は、避ける事に意識を裂く必要もなく攻撃に専念できます。
これがどれだけ効率に差が出るのか……樹達はわかっているのでしょうか?
間違いなく理解していないでしょう。
「それに錬と樹だけでは村が滅んでしまいますぞ」
「そうなる前にボスを倒せばいい!」
「ボスを倒さなければ無限に湧くのですから、最低限の被害は我慢しなければいけませんよ!」
「フッ……これだから錬と樹は……」
勇者が命を救うのではなく、命を選ぶなどとは……傲慢も極まりですな。
お義父さんと、そしてフィーロたんと約束したのですぞ。
誠実で、皆に優しく、真の平和を手に入れると。
どんなに苦しもうとも、助けられる命は全て救うのですぞ。
それがお義父さんとフィーロたんとの約束です。
己の快楽の為に戦うなど、以ての外!
「なんだと?」
「文句があるなら言えばいいじゃないですか!」
「なんでもありませんぞ。言っても無駄ですからな」
とにかく、今は少しでも早くキメラを倒す事が先決ですな。
ですが、樹達よりも遥かに強い事がばれてしまうと未来の知識が役に立たなくなりますぞ。
なので今回はスキルを使わずに行くとしましょう。
ユキちゃん達に人差し指を立てて、加減するように指示をします。
「ガアア!」
獅子の咆哮が轟き、キメラの尻尾の蛇が狙いを定めますぞ。
ボウっとドラゴンの頭部が火を吐き、山羊の頭が角を振りかぶります。
俺は特にスキルを使わず、通常攻撃で何度も突きますぞ。
その度にズブズブとキメラの毛皮を貫き、骨を砕き、目に見えてキメラが弱って行きます。
「元康! 本気でやれ! スキルを……」
「遊びで来るなら帰ってくだ……」
錬と樹の声が途中で止まりましたぞ。
通常攻撃といえど、今の錬や樹よりも遥かに強いですからな。
威力の高さに絶句しているのでしょう。
「ああ、スキルが使用できない代わりに強靭な攻撃力を得る、あのスキルを放ったのか!」
「なるほど! あのスキルを使うなら納得です」
ベルセルクの事を言っているのですかな?
残念ながら使ってませんぞ。
まあ、そういうスキルがあるのは認めますが。
効率やスキルの仕様を考えると割に合いませんですからな。
俺の攻撃力は錬や樹に比べれば遥かに高すぎますぞ。
現に思い切り加減してこの強さなのですからな。
それをスキルと勘違いするとは……とんだ道化ですぞ。
俺が強化方法を教えてもどうせ信じないですからな。
今の錬と樹には通常攻撃がスキルに見えるのでしょう。
今のはスキルでは無い。
タダの突きだ。
ですぞー!
やがてキメラは俺の攻撃に耐えかねてバタンと倒れましたぞ。
その足で、俺は波の亀裂に向かって槍を突き立て、即座に亀裂を閉じさせました。
「まあ、こんな所ですな」
「そうだな。今回のボスは楽勝だったな」
「ええ、これなら次の波も余裕ですね」
「そう思っているのは錬と樹だけですぞ」
「……さっきからなんなんだ!」
「言いたい事があるならハッキリ言えばいいじゃないですか!」
む、怒られてしまいましたぞ。
次の波で吹っ飛ばされる二人に忠告しただけなのですが。
まあ、気にする必要はありませんな。
「では素材ですな!」
さーて、さっそくお義父さんへの手土産が出来ましたぞ。
俺はこの時、一番攻撃力が上がりそうな獅子の頭を切り取って武器に入れたのですな。
ドラゴンの頭でも良かったのですが、それは錬が頑なに欲したので譲ったのですぞ。
樹は情報通を気取って山羊の頭を欲したのでした。
後は毛皮とかを適当に剥いだのを覚えていますぞ。
「じゃあ獲物は分割ですな。獅子の頭と尻尾の蛇は頂きますぞ」
「コラ! 勝手に決めるな!」
「では別の部位が良いですかな? 竜の頭をくれるならそっちでも良いですぞ」
「いや、それは……」
錬は竜の頭を狙っていますからな。
こう言えば引き下がるでしょう。
これが未来の知識を役立てる瞬間ですな。
「なんで元康さんが一番に取って行こうとするんですか!」
「ファーストアタックは俺が取ったんだぞ!」
「MVPは俺だと思いますぞ?」
俺の突きで見る見るキメラは弱って行きましたからな。
ゆるぎない事実ですぞ。
「それにお義父さんのお陰で村は救われたのですから、分け前は頂くのですぞ」
「ちょっと待て、尚文は村人を守っていただけだろ」
「猪の様に突っ込む事しか出来ない錬と樹では村を守る事は出来ませんからな」
「なんですって!」
「実際、騎士団が来る頃には避難はほとんど終わっていましたからな。もしもお義父さんがいなければあの村は既に壊滅していたでしょうな」
「なに?」
「そもそも騎士団がお義父さんやその仲間、そして俺達に炎の雨を降らせましたし」
「……それは本当なのか?」
俺が頷くと、錬は直前まで不快そうにしていた顔を思考に耽る様な表情に変えました。
やがて、落ち着いた声で錬は言いました。
「まあ、尻尾はハズレ素材だしな。元康の活躍も見て……良いか」
と、錬は妥協したようです。
しかし、対照的に樹は顔を真っ赤にして俺に突っかかってきますぞ。
「そんな事を国がするはずが無いじゃないですか! 適当な事を言わないでください!」
「どちらにしても尚文にも素材は回すべきだろ? 実際、村を守ったのは尚文と元康だ。それで助かった人もいるだろう。それとも樹は独り占めしたいのか?」
「くっ……わかりました。それよりも欲しい部位があるので譲りましょう」
「では頂いて行きますぞー! ハアッ!」
俺は颯爽とキメラの獅子の頭の首に槍を突き刺してスパッと切り取り、尻尾の蛇も同様に手に入れましたぞ。
「ではユキちゃん、コウ。お義父さんに獅子の頭を届けに行きますぞー!」
「はーいですわ!」
「はーい! わっせわっせ!」
俺は尻尾の蛇を槍に入れてキメラヴァイパースピアという武器が項目に増えましたぞ。
毒効果のある槍の様ですな。
性能は思いのほか悪くは無いですが、今は必要ないですぞ。
後で解放しておきましょう。
「は、早い……」
「一突きで頭を切り落としましたよ!?」
錬が自分の剣と立ち去る俺を交互に見ながら樹と話をしております。
今はお義父さんに素材を届けるのが先決ですぞ。
「さあ! 行きますぞー」
こうして俺達の最初の波は問題無く終わりましたぞ。
お義父さんがサクラちゃんとキール、怠け豚と共に波から出た魔物の残党を倒しております。
騎士団の連中もまだ戦っている最中の様ですな。
すぐに魔物の殲滅も終わると思いますぞー。
「お義父さん、御土産ですぞ」
「ああ、倒してくれたんだ? これで戦いが楽になる……ね。ってデッカ! 大きなライオンの頭?」
「キメラの頭ですぞ。ささ、お義父さん、盾にお納めくださいですぞ」
「う、うん。ありがとう、元康くん」
ユキちゃん達に運んでもらった獅子の頭をお義父さんは盾に入れましたぞ。
これでお義父さんは程々に優秀な盾が解放されると思いますぞ。
「あ、これ……前提にキメラの素材の盾を複数解放しなきゃいけないみたいだね」
「そちらの素材も多少は持ってきましたぞ」
「何から何までありがとう。元康くんは?」
「既に解放させているので問題ないですぞ」
これでお義父さんとおそろいですな。
キメラライオンスピアでしたかな?
程々に優秀な槍だったのを覚えていますぞ。
まあ、今の槍とは大きく攻撃力に差がありますがな。