転生者の苦労人(一時凍結) 作:sognathus
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それは聞いただけなら胡散臭いの一言に尽きる能力だったのだが、それを証明する為にランドが過去にその力で知り得たある情報をデミウルゴスに話す事で強い信憑性を得る結果となった。
「デミウルゴス様が生産しております羊皮紙の原材料の
「……」
ランドの確信の篭ったこの言葉にデミウルゴスは暫し真面目な顔で沈黙した。
ナザリックで生産している羊皮紙の原材料については、自分の個人的嗜好による表現によってモモンガすらその事実を知らないものであった。
加えて
(……と、いけないな。アインズ様が羊の正体を知らないわけがないか。先ず間違いなく羊の正体を認識した上で私の嗜好に合わせて下さっているのだ。何という慈悲深いお方だ……)
デミウルゴスはそう一人で内心、先ず主人への不敬に反省し、改めて畏怖と感嘆の念を新たに抱くと、そこでようやくランドに再び意識を向けた。
「なるほど。一応気にする価値はある能力の様だね。それで、今度はその力で知り得たというアルベドに関する事を教えてくれるかな?」
「畏まりした。それは……」
常に冷静沈着、主人を慮る感情に駆られた時くらいにしか強い感情を露わにしないデミウルゴスでも次に話したランドの話は驚くべきものだった。
それはアルベドが、モモンガを除く自分たちの造物主である神に等しい至高の40人に対して負の感情しか持っていないというものだった。
聞けばアルベドの部屋にはアインズ・ウール・ゴウンのギルドフラッグはあるものの、それは埃まみれとなって部屋の隅に放置されており、その代わりにモモンガの旗のみが高々と掲げられているとの事だった。
アルベドはナザリック内の清掃を一手に受け持っているメイドたちにも己の部屋への立ち入りは禁じていた。
デミウルゴスはそれは、彼女の個人的な拘りによるものだと自分なりに結論し、それ以上関心を持たずに自己完結していた。
それだけにこのランドのこの新たな話には内心の動揺を抑えるのに苦労した。
しかしランドの話はそれでは終わらなかった。
次に彼は、アルベドが個人的な依頼としてナザリック支配下の八本指という元大犯罪組織に、恐らくシャルティアを洗脳したと思われるマジックアイテムを捜すように指示しているという事も伝えた。
これに関しては守護者という立場上、主人に配慮した行動の一つとして取れなくもなかったが、最初にアルベドのギルドや造物主に対する感情の話を聞いた後だと、その行動に対して不穏さは無いと断言しきれないのが苦しいところだった。
「……一概には信じられないな。しかし、まぁ、アルベドが自分の部屋に誰も立ち入らせない理由としては、一つの説として……」
デミウルゴスはそこで『解る』と言うつもりだったが、それは造物主への忠誠心が容易には許さなかった。
しかし普段からのアルベドのモモンガへの妄執、盲従、恋慕、忠誠、あらゆる感情が収束した態度を思い返せば、口惜しい事にランドの話も安易に一蹴できないのも事実だった。
ランドはその心情を察したのか黙って彼の言葉を慇懃な態度で待った。
「……失礼。説としては解らないでもないが、そもそもそれについてはその話が事実だと証明できる証拠が無いからね」
自分でも思考逃避だと自覚していたが、それも忠誠心を示す一つの選択だと思い直し、デミウルゴスは一応は筋が通った事を言った。
それに対しランドも一方的にはそれを事実だと肯定するようなことはせず、あくまで自分だけが知り得ているつもりに過ぎない妄想という可能性もある、とかなりデミウルゴスに配慮した返事をした。
「ふむ……」
デミウルゴスは顎を撫でて改めてランドという男を評価する事にした。
(守護者と同等かそれ以上の力を持ち得、加えて我々ですら知り得てないかもしれない情報を持つ男、か……)
デミウルゴスは宝石の瞳で彼を見て先ず断定した。
(危険だ)
この男はナザリックの脅威になり得る男だった。
しかしかと言って主人が危害を加えることなく自分の配下とするよう絶対の命令を下しているし、存在こそ危険と言えたが、今に至るまでのランドの自分たちに対する態度と情報を伝えてきた姿勢には敵対的なものは感じられなかった。
端的に行って厄介な人間だった。
これは主人が自分に彼を預けると言ったのも頷けた。
(は!)
そこまで考え至ったところでデミウルゴスの心中に雷のような衝撃が走った。
(そうか、アインズ様はそこまで看破した上で私に……。敵になり得ないと確信したからこそ有能な手駒としてしっかり管理するようにという仰せの意だったんだ……!)
それは単なる考え過ぎだったのだが、残念ながらこれまでその暴走とも言えるデミウルゴスのモモンガへの過大評価を窘める者は、ナザリック内どころか世界のどこにもいなかった。
「……」
デミウルゴスが主人に対する感動と尊敬の念に打ち震えるその様子を、ランドは何となく察しているような微妙な表情で見ていた。
「――分かった。今までの話は私の心の裡に留めておこう」
今までの警戒の色が強かった雰囲気は何処へやら、デミウルゴスは全てが解決したという様な晴れやかな表情でランドに向き直って言った。
「ではランド」
「はい」
「教えて欲しい。君はまだ私に話せる事はあるかね?」
「あります」
「ふむ、それは?」
ここに来てランドを戦闘力以上に有益にして貴重な情報の
ランドはそれを知ってか知らずか、今度は正にデミウルゴスが期待する話を切り出した。
「それはこの世界に関して現状私が知り得る全てです」
ランドさんの戦闘力そっちのけでメタっぽい話の続きとなりました。
次もこんな感じになりそうな気がします。
戦闘描写は……多分ある、書く事はある、と思います。