転生者の苦労人(一時凍結) 作:sognathus
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モモンガはここで彼に戦闘力の一端を見せろとの事だった。
ランドは十分にこの展開を予想していたので、特に緊張した様子もなく指定された位置に立ち腕を突き出した。
「メラガイア」
本当は『メラガイアー』と最後に語尾を伸ばすのだが、伸ばさなくても魔法が発動するのを知ったのは実はそんなに昔ではなかった。
ランドの掌からミニバンくらいの大きさの火球が放たれ地面に着弾した。
すると着弾した個所から凄まじい火柱が吹き出しその炎は5秒ほどで消えた。
「ふむ……」
モモンガは魔法が当たった個所を確認した。
着弾個所には半径1メートルくらいのサークルが出来ており、そこには硝子化した砂や溶けて溶岩となった石が発生しており、魔法の発動が終わった後でもそこは暫く真っ当な生き物が近寄れない場所へと変貌していた。
「なかなかの威力だ。もしその魔法だけを撃つとしたらどれくらい放つ事が出来る?」
「20発以上ですね」
サラリーマンの格好をしたランドは事も無げに答えた。
「ほう」
再びモモンガは考える姿勢をした。
(これはなかなかに強力そうだ。ゲームが違うからユグドラシル基準の正確な威力の判断が付かないけど。パっと見局所的な威力はフォールン・ダウンに並ぶ気がする)
「お前は何かの職業には付いていないのか? その、ゲーム内での」
「全てのステータスが MAX で特技も魔法も全て使える時点で職業の意味は無くなっているようでして。私自身が確認できるステータス欄は、そこは空白ですね」
「なるほど……では魔法だけでなく戦士、近接戦もこなせるわけか」
「いや、それが……」
そこでランドは何やら困った顔をした。
聞くと確かに身体的パラメーターの値が最高値なので単純な運動に関してはそれなりのものらしいが、自分自身が元々運動神経が良くなく、またスポーツや格闘技に関するスキルも専門的な域のものは持っていないので、職業戦士的な働きに関してはハッキリいって自信がないとの事だった。
そしてそれは魔法に関しても同じだった。
魔法こそ使えるが、ド〇クエはユグドラシルのようにリアルタイムで戦闘を行う形式ではなくターン制なので、戦術的な魔法の行使はできても戦略レベルは、これもまた自信がないとの事だった。
「何というか……器用貧乏だな」
少し脱力したモモンガの言葉にランドは申し訳なさそうにペコペコした。
「で、お前は差し出した見返りによって我がナザリックの庇護下に入って安寧に暮らす事だけが望みだと?」
「恐れながら、必要でしたら勿論私自身もゴウン陛下のお役に立たせて頂ければと愚行する次第です」
「うむ」
モモンガは満足げに頷いた。
良い答えだった。
あとは……。
『信用』だった。
役に立てることをそれなりに見せ、庇護を望む対価として相応の物を用意したとはいえ、信用は全く別の問題だった。
何しろ目の前の男はユグドラシルプレイヤーでないどころか自分より過去の人間だったので、そもそも信用できる材料が根本的に無かったのだ。
だからモモンガはいつもの通り便利な信頼する部下の名前を口にした。
「デミウルゴス」
「は」
名を呼ばれるのを予想していたのか何時になく一切の無駄が無い動きでデミウルゴスはモモンガの前に跪いた。
「ランドをナザリックが信用できる仲間と判断できるまでお前の配下とする。そして奴に決して身体的にも精神的にも危害を与えるな」
「御拝命、一切承知致しましたアインズ様」
側近中の側近の大悪魔は深くお辞儀をしてモモンガの拝命を受諾した。
こうして突然現れた転生者ランドはナザリック所属(仮)のデミウルゴス預かりとなり、新たな人生の一歩を踏み出すことになったのである。
案外三話目も書けました。
あんまり間を置かずにできますように。