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盾の勇者の成り上がり 作者:アネコユサギ

外伝 槍の勇者のやり直し

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パンダ獣人

「すいません。この子は獣人に変身する資質があるらしいのですけど、やり方をご存じではありませんか?」


 と、お義父さんは道行く人に聞くのですが、怪訝な目で遠ざかられてしまいますぞ。

 その途中で差別主義の亜人がお義父さんの正体に気付かず喧嘩腰で胸倉を掴む事態がありましたな。

 まあ、現在のお義父さんは防御力が相当ありますから傷一つ付きませんでしたがな。

 その中で……一人の狼男と言うのですかな?


「ん? 変身の方法? なんだ、そんな事も出来ねえのか……しょうがねえな」


 が、お義父さんの頼みに気前よく応じてくれましたぞ。


「本当? じゃあお願いできませんか?」

「良いぜ」

「ブー!」


 話は上手くまとまりそうでした。ですが、大きな問題が聳え立ちましたぞ。


「おい……コイツ、何処の国の言葉をしゃべってんだ?」

「え? あ……」

「ブ?」


 そうでしたぞ。

 キールはメルロマルクの言葉を話す亜人でした。

 シルトヴェルトの言葉は違うらしくて話が通じませんな。


「じゃ、じゃあ俺が翻訳すれば……」

「魔法的な側面までアンタは説明できるか?」

「う……」

「悪いが無理だな」


 と言って親切な獣人は去って行きましたぞ。

 難しい問題ですな。

 どうやら変身には魔法の習得も関わっているご様子。

 現在のお義父さんは魔法が使えませんぞ。

 しかも言語にまで問題があるとなると、メルロマルクの言葉が話せる変身能力持ちの亜人に聞かねばなりません。


「元康くん。何か心当たりは無いの?」

「お姉さんのお姉さんが適任ですがー……」

「ブ?」

「誰だって」

「キールと同じ村出身のシャチの様な獣人ですぞ」

「ブブ?」

「サディナさんって言うの? その人は何処にいるか分かる?」

「見当も付きませんな」


 お姉さんのお姉さんが現在どこにいるのか、俺は知りません。

 そもそも俺がお義父さんの村で生活する頃には、お姉さんのお姉さんは既に村にいたので、いつお義父さんの仲間になったのかわかりませんな。

 霊亀との戦いよりは後だったはずですが、どこで何をしておられるのか……。


「キールくんの変身は後回しにするしかないのかなー……」


 なんて話をしているとキールの腹が鳴りましたぞ。

 同時に一緒に連れてきたコウやサクラちゃんもお腹を鳴らしております。


「どっかで食事でも取ろうか」

「魔物を仕留めてくるのですぞ」

「いや、ついでに酒場とかでそう言う器用な人がいないか聞いてみよう」

「わかりましたぞ」


 で、俺達は酒場に行きました。

 夜行性の亜人もいるシルトヴェルトは眠らない国でもありますからな、酒場ではまだ日が落ちていないのに酒を飲んでいる連中がそれなりにいますぞ。

 みんなで食事をとりつつ、お義父さんは辺りを確認しています。


「ブー? ブブブ」

「キールくんは気にしなくて良いよ。環境を整えるのが俺の役目なんだからさ」

「ブー……」


 お義父さんはそう言いながら、酒場を見渡していると、ある地点でピタリと顔を止めましたぞ。


「元康くん! 元康くん。アレ! アレ!」

「どうしましたかな?」


 俺の肩を叩いて、お義父さんが指差しております。

 その方角を見ると、数人の獣人と共に威勢よく酒を飲んでいる……パンダがおりました。


「パンダ! 異世界にはパンダ獣人なんていうのも居るんだね」

「んぁ? なんだぁ?」


 お義父さんが指差しているのが不快だったのか、パンダ獣人がこっちに酔った歩調でやってきますぞ。

 なんですかな?

 お義父さんに被害を与えようと言うのでしたらこの元康、お前を血祭りにしてやりますぞ。


「元康くん落ちついて、別にそこまで敵意がある訳じゃないでしょ」


 俺を引き止めてからお義父さんは立ち上がってパンダ獣人に会釈しますぞ。


「すいません。何分、田舎から来たもので、珍しい亜人の人がいると興奮してしまいました」

「ふん……そういう理由であたいを指差していたと」


 声が高めですな。

 どうやら獣人の女だったみたいですぞ。

 ですが、ガタイが良いので男にしか見えませんな。

 俺が男と勘違いする程の獣人……中々やりますな。


「本当に申し訳ない」

「ブー!」

「あ? なんだお前、こっちの方が被害者じゃねえか!」

「ブーブブブ!」

「気持ちよく酒飲んでたのに邪魔したのはそっちだろうが……チャラチャラした服を着やがって」

「ブ、ブブブブ!」

「何が好きでこんな格好してねーだ。なら脱げば良いだろ。そんなナヨナヨした格好の何処が良いんだ」


 キールが怒り狂って飛びかかろうとするのをお義父さんが止めますぞ。

 同時にサクラちゃんも立ち上がろうとしましたが、お義父さんが止めます。


「まったまった。キールくんも落ちついて」


 キールを後ろに降ろしてお義父さんはパンダ獣人の方に振り返りましたぞ。


「ちょっとお聞きしたいんですけど、キールくんと話が出来ていたと言う事は、二カ国語が出来るとお見受けしてよろしいですよね?」

「あ? まあ、傭兵やってたら話しくらい出来るだろ、普通」

「傭兵……なるほど、いろんな国へ戦いへ行く方、で良いんですよね?」


 お義父さんが営業トークに入りましたぞ。

 パンダ獣人が何やらお義父さんの空気に飲まれて一歩下がりました。


「そりゃそうだろ。傭兵ってのはそんなもんだし、あたいはそうやって生きてきた」

「なるほど、では一つ聞きたい事なのですが……俺が指差したのに気づいたのもそうなのですけど……さっきから何故、俺の仲間であるキールくんにばかり視線を向けているのか……教えてくれませんか?」


 おや? そういえばこのパンダ獣人はずっとキールに視線を向けていますな。

 気に食わないとかでしょうか?

 それともコウがキールくんの尻尾を見ているように美味しそうとでも思っているのでしょうか?


「お義父さん」

「何? 元康くん」


 俺はお義父さんに耳打ちしましたぞ。

 お義父さんの疑問に対して、俺なりの見解ですが。

 するとお義父さんは納得したように頷きました。


「ありがとう。じゃあちょっと黙って見ててよ」


 お義父さんがそう自信満々に答えたと同時でしょうか。

 パンダ獣人が焦りながら答えますぞ。


「そ、それは……なよなよした奴があたいは嫌いだからに決まってんだろ!」

「……本当に?」

「てめぇ! 何が言いたい!」


 お義父さんはキールに着けるように用意していたリボンを取り出して蝶結びをして見せますぞ。

 それをパンダ獣人に渡します。


「気になっているからじゃないんですか? キールくんの格好を」

「だーかーらーチャラチャラした格好だから気に食わないんだっての!」

「じゃあ、俺が渡したリボンを何故捨てないので?」

「あ……」


 言われてからパンダ獣人はポイっとお義父さんに返しました。


「ちげぇ! あたいはそんな服装見ちゃいねえ!」

「元康くん。この人に似合う服装とか用意できる?」

「出来なくはありませんぞ」


 フィロリアル姿で服を着たいというフィロリアル様が時々いらっしゃいますからな。

 サイズさえ分かればどんな服だって作れますぞ。


「あの服を縫ってくれたのは彼なんだ。だから服くらいなら用意できるよ。怒ったんなら譲るから許してほしい」

「ふ、ふざけんな! 誰がそんな服を着るってんだ! こんな体で似合うはずないだろ」


 お義父さんがニヤッと笑っておられます。

 俺も過去に豚を追い掛けていた頃の事を思い出してなんとなくですが理解しましたぞ。

 周りのイメージで真面目でそういうのに興味が無いと見せかけてファンシーが趣味な豚がおりました。

 その豚の部屋には可愛い小物が沢山あったのを覚えております。


 最後にポロっと漏らしたのが本音ですぞ。

 自分には似合わない。

 そう言ってしまったのが敗因ですぞ。


 俺の推測と、相手の自白からお義父さんは相手がどうしてこちらに絡んで来たのか完全に理解したのです。

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