餅は餅屋
ポータルでシルトヴェルトへ飛んだ俺達は龍刻の砂時計の方へ行きましたぞ。
もちろん、俺は何処にあるか知らなかったので、道行く人にお義父さんが尋ねて所在を聞き出しました。
メルロマルクと同じく、教会の様な建物に立っている様ですな。
前回はお義父さんがユキちゃん達のクラスアップをしてくださったのでしたな。
勇者が仲間なら大きなフィロリアル様の羽も効果があるのですぞ。
ですが、今は持っていないので別のクラスアップになります。
「あのー……クラスアップの儀式をしたいのですけどー」
シルトヴェルトの龍刻の砂時計のある教会に入ってお義父さんは受付をしている者に声を掛けます。
どうやらメルロマルクの様に教徒が関わっている訳ではない様ですな。
「紹介状は?」
人間差別が強い国ですからな。態度が露骨ですぞ。
お義父さんへの態度、状況次第じゃ殺すのも悪い手ではありませんぞ。
お義父さんへの無礼は死によって報いを受けさせるのですぞ。
「えっと……」
お義父さんはシルトヴェルトの使者が寄越した紹介状を受付の者に渡しますぞ。
最初は流れ作業のように書いてある文字を目で追っていた受付の者でしたが信じられない物を見る目でお義父さんを凝視します。
「た、ての勇者……様?」
「うん。証明するのにはこっちも必要かな?」
お義父さんは盾を受付の前でポンポンと変え、ついでにスキルを唱えましたぞ。
エアストシールドですな。
「まだ証明にならない?」
「わ、わかりました! ではクラスアップの前に我等が城に――」
「ごめん。お忍びで来ているのは国の上層部は知ってると思うんだけど」
「は、はい……そのように特別に仰せつかっています。こちらの紹介状にも書かれておりますが、かの国を内側から変える偉業をしている最中だと……」
「そう。だから表向きに行く事は出来ないんだ。全てが片付いてから……ね?」
内密にクラスアップとLv上げをこの国でしているのですぞ。
ですから秘密裏に首脳陣と話などの提案がありそうですが、下手な失言をするのを忌避したお義父さんはそれすらも断ったのですぞ。
「は、はぁ……わかりました。盾の勇者様の願い。全力を持って我等は応じる所存です」
「ごめんね」
「では、どの方がクラスアップを望んでいるのでしょうか?」
「さ、キールくん」
「ブー!」
お義父さんに指示され、一歩踏み出したキールが物怖じせずに手を上げますぞ。
「ではこちらへ」
「ブ、ブ?」
「ああ、キールくんはシルトヴェルトの言葉がわからないのか……盾の力で翻訳されているから忘れてたよ。こっちへ来てくれだって」
その後、お義父さんが翻訳して受付の言葉をキールに伝えますぞ。
キールが砂時計に触れると砂時計が淡く輝いてクラスアップが始まりました。
「キールくん、目を閉じていると見えてくると思う。俺はキールくんの未来の可能性を勝手に決めるとかは出来ないから自分で決めてね」
「ブ……ブー!」
そういえばお義父さんはクラスアップを本人に任せる方針でしたな。
俺もお義父さんに倣って、自由にさせていましたぞ。
で、キールのクラスアップは問題なく終わり、サクラちゃん、ユキちゃんとクラスアップは問題なく完了しました。
「これで、また強くなれるね。波まで後一週間……がんばって強くなろうね」
「うん!」
「ブー!」
「がんばりますわ!」
「さあ! まだまだがんばるのですぞ!」
クラスアップを終えた仲間達を見据え、お義父さんが宣言し、馬車に戻る予定の時間までLv上げにお義父さん達は出発して行きましたぞ。
俺の方はお義父さんの強化素材の調達と、シルトヴェルトでお義父さんに高く売って貰う用の素材の確保をしていますぞ。
サクラちゃんのLvが上がっているので、現在はユキちゃんが俺の乗り物としてがんばっておられます。
ここでお金を貯めるのには意味があるのですぞ。
強化方法に金銭が必要なのがあるのは元より、全ての問題が片付いた時にフィロリアル様を買い占めるためですぞ。
国から金をもらうのも限度額がありますからな。
出来る限りフィーロたんを見つけるためにお金を貯めるのは重要ですぞ。
これを忘れては大問題となりますな。
翌日はキールとユキちゃんが留守番でコウと豚がクラスアップをしたのですぞ。
そんなこんなで波まで、後四日になりましたぞ。
「ブ……ブー!」
馬車の中でキールが四つん這いになって呻いていますぞ。
「そう、サクラが変身する時は力をギュッとして人に成りたいって思うの」
「サクラちゃんの説明だと分かり辛いんじゃないの?」
「でもコウも似た感じだよー?」
「ユキちゃんも?」
「そうですわね」
ユキちゃんは馬車を引く番ですぞ。
「何をしているのですかな?」
「ブブ! ブブブブブ!」
フィーロたんを描いていた俺はその輪に入って尋ねますぞ。
するとキールが何やら鳴いております。
「なんと言っているのですかな?」
「元康くんに認識してもらえるように獣化をするんだって言ってるんだけどねー……」
なるほど、思いのほか上手く行かないと。
時期的にはそろそろなのですが、変身が出来ないみたいですな。
「ブブブブ!」
「うーん。でも元康くんがキールくんは犬に変身するって言ってたからね。出来るんじゃないかな」
「ブブ……」
豚……エレナが何やらキールにポツリと呟きましたぞ。
「ブブブブブ!」
「喧嘩しないの。エレナさんも」
「ブブー……」
「そうなんだけどね? 元康くんに男だって認めさせるってがんばってるんだから温かく見守ってあげようよ」
お義父さんがボリボリと頭を掻きましたぞ。
「キールくんの変身を上手くさせるためにはどうしたら良いのかな?」
「フィロリアル様流ではダメな様ですな」
俺が知っている頃には既にキールは変身できたと思いますからなー。
どのような経緯があって変身できるようになったのかは俺も良く知らないのですぞ。
ただ……お義父さんの領地で変身技能持ちの亜人はどれくらいいましたかな?
筆頭はキールですな。
一番ポコポコと姿を変えていた覚えがありますぞ。
次点はお姉さんのお姉さんであるシャチですな。
他で知っているというとお義父さんと一緒に寝たと言われるハクコですぞ。
この中で考えられるのはお姉さんのお姉さんですな。
フィーロたんも頼りにする、みんなのお姉さん分の方だと俺も知っておりますぞ。
フィロリアル様達にも優しく、とても頼りになる人だったと覚えております。
「餅は餅屋。シルトヴェルトの亜人に聞くのが一番早いのではないですかな?」
「そうだね。じゃあ今日はシルトヴェルトの人に聞いてみようか」
「ブー!」
ポータルで飛んでシルトヴェルトに行きましたぞ。今回はユキちゃんと豚が留守番ですな。
「うーん……とは言っても……」
お義父さんは道行く亜人に向けて質問するか悩んでいますぞ。
盾の勇者であるお義父さんが当たり前の様に亜人に聞いていては、シルトヴェルトの貴族に嗅ぎ付かれる可能性がありますぞ。
もちろん、その辺りを回避する術をお義父さんは持っておられでしょう。
ですが、余計な騒ぎを起こす可能性がありますな。
かといって、城の方へ謁見に行くのも難点がありますぞ。
お義父さんの話を曲解してメルロマルクに乗り込まれるかもしれませんからな。
全てが片付いてからで良いでしょうな。
となると一般冒険者の振りをして道行く亜人に聞くのが妥当な所ですが、変身技能を持つ亜人がどれほどいますかな?
「まあ、気さくに話しかけて聞いてみるしかないね。元康くんは大人しくしててね」
「わかりましたぞ」
「ブー……」
キールがとぼとぼとお義父さんについて行きました。