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盾の勇者の成り上がり 作者:アネコユサギ

外伝 槍の勇者のやり直し

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怠け豚

 シルトヴェルトの使者から約束通り、商業通行手形をもらって俺達の行商の旅はスタートしたのですぞ。

 手始めにお義父さんと俺が作った回復アイテムを並べ、キールに売り子をさせます。

 最初こそ恥ずかしそうに何かあるとお義父さんに頼っていたキールでしたが徐々に慣れてきたのか臆することなく売る事に成功しているようでしたぞ。


 徐々にですが、金銭が手元に入ってくるようになりました。

 その金銭を元手にして調合の機材を買い集め、お義父さんが徐々に薬作りを覚え始めました。

 ユキちゃん達フィロリアル様の姿が珍しい事もあって、徐々に口コミで広まってきている様ですぞ。

 神鳥が引く薬売りだそうです。


「ユキちゃん。もう少しゆっくりお願い。揺れる」

「わかりましたわ」


 お義父さんの命令に従って馬車を引く速度を遅くして旅は続きますぞ。

 一応、馬車を引く順番を決めての旅です。

 ユキちゃん、コウ、サクラちゃんの順番で馬車を引いております。


 やはりというかサクラちゃんはお義父さんの役に立ちたい一心なのか、サクラちゃんが引くと揺れが少ないですな。

 行商を始めた翌日にはサクラちゃんの服が出来ましたぞ。


 あまり手の込んだ感じでは無い、お姉さんが着ていたような服ですぞ。

 鎧までは再現できないですからな。

 完璧にお姉さんと同じではありませんが、腰に二振りの剣を差している姿は何やらカッコよさを感じますな。


「元康くんはこの世界の文字に精通してる? 俺も文字を覚えた方がいいよね?」

「そうですな。未来のお義父さんから学んでいますぞ」


 俺はメルロマルクの文字表を作ってお義父さんに渡しました。

 暇な時に覚えてくだされば問題ないと思いますぞ。

 何せ、俺に文字を教えて下さったのはお義父さんですからな。

 やれば出来ると思いますぞ。


「やっぱり異世界文字理解とかの技能は無いんだね」

「そうですな。俺もあるのではないかと思っていましたが、今までに出た武器の中にそのような技能はありませんでしたぞ」


 楽は出来ない仕様ですな。

 覚えるのは大変でしたが、お義父さんの命令だったので苦ではありませんでしたぞ。


「まあ良いや。後々覚えて行くとして……」

「ブブー!」


 キールが嫌そうな声を出しながら到着した村で売り子をし始めましたぞ。

 お義父さんはその姿を確認しながら薬を調合しております。

 俺達はその間に、近隣で見つかる薬草の採取に出ましたぞ。

 買い取りをするのも資本がいりますからな。


 お義父さんが薬屋に張り付いて手頃な薬草の買い取り金額を書き写していたので、それを参考に集めます。

 上位の薬は俺の技能で製作したりもしていきますぞ。

 品揃えは程々にあるつもりですな。

 値段も相場よりも安めで中々の売れ行きの様です。


 採取が追いつかない程ですな。

 これも魔物のドロップとかで入手する方法があるのですが、不自然に所持していると怪しまれますからな。今の所は出来ないのが厳しい所ですぞ。

 で、採取から帰ってくるとお義父さんが馬車の中で手招きしております。


「どうしたのですかな?」

「あの……何か俺達の仲間になりたいって子が来てるんだけど……」


 お義父さんが困った様子で俺に相談しております。

 仲間ですかな?

 亜人の類は宗教上の関係やスパイとか怪しんでお義父さんは拒んでいたはず。

 更に言えばお義父さんを相手に人間が仲間になるとは考え辛いですぞ。

 ここは一発、俺が確認して秘密裏に消す案も考える必要がありそうですな。


「ブ……」


 何やらやる気のなさそうな豚が、気だるそうに近くの切り株に座って待っていました。

 なんですかな? この豚は。

 俺が怪しんだ目で見ていると、これまた低いテンションで豚は鳴いてますぞ。

 ……どこかで見た様な反応ですな。


「彼女はエレナさん。メルロマルクの貴族で、親に言われて勇者の誰かに力を貸す為に来たんだって」


 エレナ? 聞き覚えがある様な気がしますな。

 誰でしたかな?

 どうもぼんやりとしか思い出せませんが、赤豚の近くにそのような豚がいた様な覚えがありますぞ。

 殺、ですな。

 それしか考えられません。


「ブブブブヒー……」

「そんなやる気が無い感じで言われても……」

「なんて言っているのですかな?」

「えっと『凄く面倒なんだけど、親の命令には逆らえないのよ……』って」

「ではこの世から消して見せましょうか? 痛みも何もないですぞ」

「ちょっと元康くん、あんまり過激な事はしないで!」


 俺が槍を強く握って豚を仕留めようかとした所でお義父さんが止めますぞ。


「ブヒー」

「『で、勇者の中で一番楽そうなのは盾と槍の勇者かなと思って頼みに来たの』だってさ。なんともすごい人だね」


 この豚はやる気が全く感じられませんな。

 ならサッサと殺されないうちに、家へ帰るのが良いですぞ。


「ブブブ」

「『まあ、母親が商売をしてるから物を売るのは出来なくはないわ。それくらいはやるわ』とは言ってもねー……キールくんで間に合ってるし」

「ブブブー!」


 キールが何やら喚いていますな。

 見た感じだと、仲間になるのに肯定的な雰囲気ですぞ。


「え? まあ、キールくんだけで売るのは今後の事を考えると大変かもね。だけどなー……ねえ、なんで俺達の仲間になるのが一番楽だと思ったの? 貴族ならわかってるはずだけど、一番大変だと思うよ?」

「ブブヒブーブブ……ブブブ――」


 その後、豚はしばらくお義父さんに向かって鳴いてましたぞ。

 内容はお義父さんが俺に分かるように訳してくださいました。


 何でもこの豚は親の言いつけ以外にもお義父さんの仲間になるのに理由がある様ですぞ。

 豚曰く、今回の騒動はクズ側に問題が多く、そちらにいると最終的に立場が悪くなる可能性が高いとの話。

 盾の勇者だけならまだしも、槍の勇者との関係も良いとは言えない状況。

 更にエレナを名乗る豚独自の情報によると剣の勇者……錬も国に対して思う所があるらしいですな。


 そしてメルロマルクでも有数な商人というバックボーンがあるこの豚からしたら、クズの権力もそこまで怖くは無いそうですぞ。

 父親も女王側に協力的な貴族である為、財産没収や貴族の地位剥奪までの暴走は今の所は取れない。

 家柄の面では問題なく、後は豚自身の好み。


 そしてもっと重要なのは、勇者達と自分の相性、だそうです。

 弓の勇者は各地で世直しの旅らしき悪徳貴族の討伐を行なっており、剣の勇者は魔物退治を優先している。

 どちらも選べる状況ではあるそうです。

 そんな折り、盾の勇者が槍の勇者と共に行商を始めた。


 で、豚曰く、遠くから観察した所、樹は正義的な面について行けず、錬は普段一人で戦っていて、時々仲間と一緒に行くそうですが、色々な場所で面倒な魔物退治を強制させられてしまう。

 必然的に馬車の旅という楽そうな俺達の所へ来るのが道理らしいですぞ。

 何が道理なのかさっぱりわかりませんがな。


 これからこの豚の事を怠け豚と呼びましょう。


 補足すると、豚はお義父さんだけでなく、俺も一緒にいる事が重要らしいですぞ。

 つまり盾の勇者だけでなく、槍の勇者もいる事が、怠け豚が俺達を選んだ理由という事ですな。

 まあ、お義父さんだけだった場合、世間の風当たりが強いでしょう。

 実際、最初の世界でお義父さんが行商して名を上げたのは、もう少し後だったかと思います。

 その様な状況では他の勇者の方がマシだと踏んだのでしょう。


「『あと、今回の騒ぎを乗り越えて女王が帰って来た時、盾と槍の勇者が一番地位が上がりそうだし……』だってさ。いろんな意味で凄い人だね。どうする?」

「この世から消してやるのが一番ですかな?」

「い!? あのね元康くん、話聞いてた? 出来る限り穏便にお願い。戦争にしない為にループしたんでしょ?」

「そうですな。わかりました。では穏便に消しますぞ」

「だから……ああもう……」

「ブー……」

「俺達は色々とやる事があるし、スパイとかされたら困るんだけど?」

「ブー……」

「え? 信用されるためになら奴隷になっても良い? スパイはしないからそれで良いんじゃない? その代わり、女王派が勝ったら家族や国に口添えしてほしいって……まあ、それなら……」


 お義父さんは俺に視線を向けますぞ。

 ふむ……奴隷なら逆らえませんし、情報をリークする事を防ぐ事も可能ですな。

 奴隷に口無し、秘密を話させる事は出来ないですが……そこまでして俺達の仲間になりたいというのは、どうなのですかな?


「ブブー……」

「まあ、色々とする予定だけど、人手が足りないのは事実なんだよね。奴隷になってくれるなら嘘は吐けないだろうし……わかったよ。あんまり信用出来ないけど一緒に来てもらうよ。なんか商売人としては素直に話す所は信用できそうだし」

「ブブ」


 こうして、怠け豚が奴隷として加わりました。

 馬車の中がまた一つ、豚臭くなってしまったのですぞ。

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