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盾の勇者の成り上がり 作者:アネコユサギ

外伝 槍の勇者のやり直し

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商業通行手形

「で、まあキールくん達のお陰で調合のレシピとか色々と手に入ったよ。自作もしなきゃいけないけど、中々調合も面白くてね」


 お義父さんが世間話とばかりに経過報告をしてくださいます。


「それでですね。お義父さん。忘れていたのですが、お義父さんが冒険初日に泊った宿を教えてくれませんか?」

「ん? どうして?」


 少々不愉快そうにお義父さんは俺に尋ねますぞ。


「もしもに備えてですぞ」

「ああ、なるほど」


 意図を察してお義父さんは頷いてくださいました。

 そう、お義父さんが泊まっている宿さえ知っていれば、もしもループした時に有益な情報となりますぞ。

 どの様に使うかは考えておりませんが、きっと役に立ちます。


「じゃあ用事まで少し時間があるからついでに行こうか」

「そうですな。で、サクラちゃん。コウに代わり、これからお義父さんを守る役目をお願いしますぞ」

「グア!」


 サクラちゃんがお義父さんの方へ歩いて行って、お義父さんにじゃれますぞ。


「あはは、くすぐったいよサクラちゃん」

「グアアア……」


 お義父さんと再会してサクラちゃんもとてもうれしそうにしてますな。

 楽しげな空気を持ったまま俺達は移動して、お義父さんに宿を教えてもらったのですぞ。


「この宿の部屋……そうそう、あそこだよ」


 お義父さんが指差した部屋を俺は記憶いたしました。

 もしも次があった時、この情報があるとないとでは大きな違いが出てきますからな。


「盾の勇者様ですね?」

「そうだけどー……」


 待ち合わせの場所に行く途中、お義父さんに声を掛ける亜人がいましたぞ。


「何? 俺に何か用?」

「折り入ってお願いがあるのですが……我等が国、シルドフリーデンに来国して頂けないでしょうか?」


 おや? お義父さんに二度目の勧誘ですな。

 俺の方もそれらしい連中が居たのを覚えていますが、シルドフリーデンからも勧誘が来ていたのですな。

 黙って見ていると、お義父さんは考えるように呻きましたぞ。


「悪いけど、お断りさせてもらうよ」


 未来の知識をお義父さんに話をしております。

 シルドフリーデンにはタクトとその取り巻きであるアオタツ種の女がいたはずですぞ。

 行ったら飛んで火に入る夏の虫ですな。

 むざむざ罠を踏む必要などありませんぞ。


「そう言わずにどうか来ていただけないでしょうか? 来て頂いた暁には特別に優遇する準備が整っております」

「んー……」


 お義父さんが俺の方に目を向けます。


「それでも断るよ。やらなきゃいけない事があるんだ」

「そこをなんとか! どうか、来て頂けませんか? 一緒にいらっしゃる亜人の為にもなりますよ?」

「そうは言われても……というか、しつこいな……」


 眉を寄せてお義父さんは不快感を表しますぞ。

 おそらく、荒れていた頃のお義父さんはここで罵倒でもしたのではありませんかな?


「うん、俺は俺のやりたいようにするから付いてこないで。盾の勇者として宣言する」

「チッ! 後悔しても知りませんよ!」


 何やら舌打ちをしながら亜人は去って行きましたぞ。

 さすがはタクトの支配下にある国の連中ですな。

 全てが片付いた暁には、この元康が直々に処分するとしましょう。

 タクトやその取り巻きと一緒に、ですぞ。


「感じ悪いなぁ……シルトヴェルトの人の方が礼儀正しかったよ? まあ似た感じでしつこい感じはしたけど」

「そうだったのですかな?」

「うん。やるべき事があるから君達の国へは行けないと言ったら食い下がってきてね。交渉するのが大変だったよ」

「これから再度交渉するのでしたな」

「まあね。元康くんがいてくれた方が良いかと思って明日、もう一度話をすると言ったら引いてくれたけどね」


 じゃないと盾の勇者として断るというあの切り札を使うのですな。

 さすがお義父さん、荒れていないのなら安易に断る事はしないのですな。


「ブブーブブブヒ?」

「ああ、ごめんね。キールくんは行きたかった?」

「ブー……」


 お義父さんとキールが話をしていますが俺は理解できませんぞ。

 ですがキールは首を横に振っているようですな。

 会話の前後からシルドフリーデンには行かなくて良いとかそんな所でしょうな。


「さて、じゃあシルトヴェルトの使者と話をしようか」


 お義父さんの案内で、俺達はシルトヴェルトの使者と話をしに行ったのですぞ。


 城下町の裏路地にある酒場……亜人の冒険者が多いようですな。

 メルロマルクにもこのような場所があるのですな。知りませんでしたぞ。

 あまり繁盛しているようには見えませんが、ここでお義父さんは使者と待ち合わせをしていたようです。

 酒場の前でユキちゃん達は待機して見張りをしてもらいますぞ。


「盾の勇者様、昨日の件、どうか考えていただけたでしょうか?」

「その事なんだけどー……」


 お義父さんはシルトヴェルトの使者に俺へ視線を向けるように指し示しました。


「まずは自己紹介からだね。彼は北村元康くん。槍の勇者として召喚された人だよ」

「愛の狩人、北村元康ですぞ」

「少し変わってるけど、とても頼りになる人なんだ」


 俺は愛に生きる狩人ですぞ。

 それは未来永劫変わりません。

 何故か、お義父さんは俺の事を変わっているとは言いますが、何処かおかしな所がありますかな?


「各所から話は伝わっております。盾の勇者様を擁護してくださり、真にありがとうございます」

「当然の事をしたまでですぞ」


 そう……真実を知らなかった俺が犯した罪は、例え何度ループしても許される物では無いのですぞ。

 ですが、目の前でお義父さんが罠にかけられようとしているのを見逃す事はもう出来ません。

 例え何度ループしたとしても、俺は何度だってお義父さんを守る為に行動するのですぞ。


「で、本題に戻るけど、やっぱり俺はシルトヴェルトに行く事は出来ない」

「そ、それはなんでですか?」

「この国の膿という訳じゃないけど、俺はこの亜人排他主義の国を嘆いて、どうにかしたいんだ。だから安易に君達の国へ行くつもりは無い」

「……」


 シルトヴェルトの使者が困ったように眉を寄せております。

 まあ、彼らの役目はお義父さんをシルトヴェルトに送り届ける事ですからな。

 あまり強くは無いのは緊急で、現地近くにいたからだそうですが。


「ではこの国で何を成すつもりで?」

「盾の勇者ってだけで警戒されるからしばらくは正体を隠して行商でもしようかと思ってるよ」

「なるほど……ですが、商業通行手形はあるのですか?」

「商業通行手形?」


 お義父さんが俺の方に目を向けますぞ。

 俺は迷わず首を横に振りました。

 知りませんな。

 お義父さんは行商で財を成し、信用を得たとしか俺の知識にはありません。

 もしかしたら、お義父さんはどこかでその商業通行手形を手に入れていたのですかな?


「商業通行手形の無い行商人は多額の手数料を町ごとに払う事になります」

「そうなの?」


 どうやら計画の穴が判明してしまいましたぞ。

 最初の世界でお義父さんが行商をしていたので、問題無く出来ると思っていました。

 しかし、それでは行商した分だけ損をする事になりそうですな。


「盾の勇者様の考え、理解出来ました。ではせめてシルトヴェルトの協力として、この国で友好関係にある貴族から商業通行手形を発行してもらえるように掛けあってみます」


 呆気に取られる俺達にシルトヴェルトの使者達は善意的に応じてくれているようですぞ。


「あ、ありがとう……だけど俺は盾の勇者として君達の国へ行く事は、まだ出来そうにないけど……」

「盾の勇者様の意志、確かに承りました。此度の波での一件以降の、メルロマルクの行動は目に余る物があります。それを盾の勇者様が恵みと同時に神罰を与えると言うのなら、我等が国も同意してくださるでしょう」

「理解してくれてうれしいよ」


 しかし……行商するのも結構面倒な物が必要だったのですな。

 俺は何も知りませんでした。

 お義父さんは不言実行の所もあるのですな。

 まあ、未来のお義父さんは俺に不必要な事を教えてくださる事はありませんでしたがな。

 HAHAHA!


「後……まあ、盾の勇者がシルトヴェルトに来たというのを隠してくれるなら……もしかしたら少しの間だけ行くかもしれないけど」

「なんと!?」

「えっとね……」


 お義父さんはシルトヴェルトの使者に俺のポータルスキルに関して説明しましたぞ。


「ここ最近、俺はシルトヴェルトの方でLvを上げているのですぞ。いずれお義父さんも秘密裏に行く予定なのですぞ」

「まあ単純にLv上げと仲間のクラスアップの協力をお願いする程度かもしれないけど……ね」

「わかりました。内密に来て頂くのならこちらも拒む理由は無いでしょう。我が国の首脳陣に、伝えておきます」

「よろしくね」

「では、話を通しておきます。数日中には商業通行手形を渡せると思います」


 こうしてシルトヴェルトの使者との話を終える事が出来ましたぞ。

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