note.muからnote.comへ。わざわざ費用をかけてまでメジャードメインを取得を推し進めた理由とは。
ピースオブケイク
クリエイターのコンテンツとユーザーをつなぐメディアプラットフォーム「note」を運営するピースオブケイクは、noteにアクセスするドメインとして、既存のnote.muに加えて、「note.com」および「note.jp」を2018年12月に取得したことを正式発表した。
noteの新ドメイン取得については、家入一真氏などいち早く察知した一部のWebサービス系のインフルエンサーの間で数週間前から話題になっていた。
今後、note.muからnote.comへのサービスURLの移行は「検討中」とのことだが、基本的には移行が既定路線なのは間違いないだろう。
急成長中のメディアプラットフォームnote事業。note.com取得の先にある世界をピースオブケイクCEOの加藤貞顕氏に聞いた。
「note.com取得は、気軽に買える価格ではなかった」
ピースオブケイクCEOの加藤貞顕氏。「もしドラ」や堀江貴文氏の「ゼロ」などさまざまなヒット書籍を手がけてきた敏腕編集者としても知られる。
noteの運営元ピースオブケイクは、2018年7月に日本経済新聞社から約3億円の出資を受けて資本業務提携し、「COMEMO」など日経サービスとの連携も強化してきた。
2019年1月30日には、noteのアクティブユーザー数が月間1000万MAUを突破したことも公表。同社はこの1年で規模がおよそ2倍になったとしており、プラットフォームとしても急成長している。
2018年1月に500万MAU近かったアクティブユーザー数は、1年後、1059万MAUまで拡大した。広告などの力技は使わず、100以上の細かな改善の積み重ねの結果だという。
提供:ピースオブケイク
加藤氏によると、note.jpとnote.comの取得は、実は同社のCXOに深津貴之氏が就任した2017年10月当初から、サービス改善の最重要項目の1つとして認識していた。
「(noteのサービス改善において)“まずやることリスト”のボスキャラだった」(加藤氏)
一般名詞で4文字程度の「覚えやすいメジャードメイン」は、すでに誰かが取得しているケースが多く、その移転(取得)は一般的に高額なものになりがちだ。
東京・外苑前にあるピースオブケイクの新オフィス。12月3日に移転したばかりだ。
社内のカフェスペース。執務スペースはこの奥にある。
加藤氏によると、note.com、note.jpのケースでも、すでに国内外で取得していた人物がいた。価格交渉の詳細については、現段階ではあまり語らない方針と断った上で、価格感について「気軽に買える価格ではなかったので、株主や関係者と調整をした上で決断した」とコメントしている。
一定のコストをかけてでも、メジャードメインを取得したかったのには明確な意図がある。
加藤氏はその理由は主に3つだと言う。
1. 短期的にはSEOをより強化するため
SEO、つまり検索エンジン最適化の強化は、Webサービスにとって重要な課題だ。さまざまな手法があるが、「なかでも.comや.jpというメジャードメインの取得は、非常に有効な手法の1つ」(加藤氏)。
noteのようなコンテンツプラットフォームの場合、グーグル検索からの誘導を強めることは、Twitterなどのソーシャルでの拡散効果を改善するのと同様に、非常に重要な要素だ。
2. 「コンテンツプラットフォームとして」の覚悟
ピースオブケイクでは、noteを「すべてのクリエイターのホームグラウンドにしていく」という目標を持っている。その実現のためには、.comや.jpなどの、いわゆるメジャードメインであることは、信頼感のブランディングの上でも非常に重要な意味をもつ。
「例えば、ある芸能人の近況を知りたいとき、『あの芸能人のnoteってあったかな』と、まず最初に探す、というくらいの場所にしたいと思っています。そういう立ち位置を目指すなら、まずメジャードメインの取得は絶対にやるべき」(加藤氏)
3. 中長期目標としての海外展開のため
まだ具体的なアクションはないが、noteは中長期目標として、海外展開も視野に入れている。そのとき、note.comというプレーンな名称は、認知の高さで強力だ。「note.comというドメインは、究極的には海外のブログプラットフォーム“medium”などとも勝負できる(強い)ドメイン」だと加藤氏はいう。
noteは、さまざまな書き手と、そのコンテンツに興味を持つファンを抱える、ブログともTwitterとも違う独特のコミュニティをつくっている。
noteが目指すものについて、加藤氏は次のように答えた。
「noteがやっていることは、実はかつて出版社がやっていたことと同じです。ただし、違うのはそれを民主的にやっていること。
(出版社や放送局では、いわゆる)尺の制限があるから、コンテンツをセレクトしていた。尺の概念がなくなったのが、インターネットの一番すごいところです。
(そうした前提で)noteは、スーパージェネラル(一般的)なメディアプラットフォームになることを目指しています。本、テレビ、新聞、雑誌、映画、音楽。こうしたジャンルのメディアがこれまでやってきたことを、もっと民主的に発信できるようにしていきたい」
その上で、インターネット以後のまだ最適解が見えないメディアのエコシステムそのものを担うような存在を目指しているという。
「“note”というサービス名は、実はかなり考え抜いてつくりました。非常にジェネラルな名前です。人は、誰かに何かを伝えるために、思考を記録(note)します。そもそもメディアというのは、かつて、人々の思いの拡声器として創られてきたわけです。
既存のメディアシステムのまま、インターネット上に置き換えるのは限界があります。検索最適化(SEO)、アドネットワークを駆使して、ネイティブ広告に力を費やした先に、果たして(インターネット以前にあったような)ジェネラルなメディアの世界が来るか? 僕はそういう気がしないんです。
テクノロジーを使ってインターネットの良いところを活かせば、もっと優れたメディアのエコシステムが作れるはずです。noteの事業では、それをやろうとしています。今回のnote.comやnote.jpドメインの取得は、その理念を実現するための意思表示です」
(文、写真・伊藤有)