世界の憂うつを晴らそうとでも言うのか。ドイツのメルケル首相が来日する。一国に絞った訪問で、米国頼みではなく、国際協調主義などで日本との連携を深めたいとの強い意志が感じられる。
約二年半ぶりとなる訪日には、はっきりとした外交戦略がある。
この半年に独閣僚らが相次いで訪日した。マース外相は都内の大学での講演で、自由、民主主義、法の支配などの価値観を共有する日独が、多国間協調主義を掲げる同盟の核となり得ると強調した。
アルトマイヤー経済・エネルギー相は財界人らを前に、自由で開かれた市場が脅威にさらされているとして日独の連携を訴え、人工知能(AI)や自動運転技術などでの協力を呼び掛けた。
これら地ならしをした上でのメルケル氏訪日だ。日本と欧州連合(EU)の経済連携協定(EPA)発効直後で、EUを代表したメッセージとの意味合いもある。
今年、日本は二十カ国・地域(G20)首脳会合の議長国で、ドイツは国連安全保障理事会非常任理事国。ともに国際的リーダーシップを発揮できる立場で、足並みをそろえたいとの思いは強い。
背景には、トランプ米大統領への大きな懸念がある。米国第一主義を掲げ、自由貿易に反対し、地球温暖化防止のためのパリ協定からの離脱を表明するなど、これまで米国が主導してきた国際協調主義に背を向ける。米国は、もはや当てにできない。
知的財産権侵害や海洋進出などによる中国の脅威も高まる。
EU自体も三月に迫る英国の離脱などの難題を抱え、フランスのマクロン大統領も減税などを訴える「黄色いベスト運動」の抗議行動で、求心力が低下している。
独仏は先月、協力を強化する新条約「アーヘン条約」に調印、EUの結束のため中軸となる決意を改めて示した。足元の基盤を固めた上での日本訪問となる。
メルケル氏は与党党首の座を譲り、次期総選挙以降の政界引退を表明しているが、まだ二年の首相任期を残す。レームダック(死に体)と見るのは早計だ。
日米同盟を最重要視する日本にとっても、トランプ氏の暴走に歯止めをかけるためには、欧州との連携は不可欠だろう。
訪日中、メルケル氏は安倍晋三首相との首脳会談のほか、学生らとも討論する。
国際秩序をどう守るか。メルケル氏と率直に語り合いたい。
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