東京都内の人材紹介会社が、11月2日から、あることを条件に、保育士に月額3万円を支給する取り組みを始めました。
その背景を取材しました。
■保育士に月額3万円を支給する“ある条件”とは
2日に立ち上がったサイト「シンデレラ保育士求人」です。
保育士に輝いてほしいという願いが込められています。
“泣くほど辛かった出来事”、“保育士不足解消のためのアイデア”。
サイトを運営する会社を通じて、新たに採用された保育士にこうした記事を発信してもらうことを条件に、最大で1年間月額3万円を支給します。
この企画のリーダー、田中恒平さん(41)です。保育士の求人サイトの運営を担当しています。
2人の子を持つ田中さんは、日ごろから保育士の高い能力に驚かされていた一方、保育士の処遇の低さに疑問を感じていました。
田中さんは「怪獣のように泣き叫んでいる私の5歳の息子を、一瞬で『いいよ、いいよ』って抱っこして、ぱっと持っていったんです。泣きやませて。ものすごい大事な仕事をしている」と、体験を交えて語ります。
■保育士へのアンケートにつづられた悲痛な声
保育士の現場に何が起きているのか。
田中さんたちは、保育士を対象にアンケートを実施したところ、瞬く間に300人近い声が集まりました。
“待遇・環境・賃金、すべてが低すぎ、身体もボロボロ”。
“『保育士になる!』と決めた学生の頃の自分を何度も恨み、後悔しました”。
そこにつづられていたのは、悲痛な声でした。
アンケートを読んだ田中さんは、「自分はこの道を選んだことを後悔しているという声が、おひとりだけじゃなくて、複数あがっている。無力さしか感じなかったですね」と振り返ります。
■フルタイムで働くも、手取りは月12万円ほど
アンケートに答えた1人、神奈川県の40代の女性を自宅に訪ねました。
若い頃から保育士になりたいと思い続け、育児に余裕が出てきた5年前に勉強を重ねて保育士資格を取得し、平日フルタイムで働き始めました。
しかし、催し物の準備や書類作りなどサービス残業は当たり前。
家事や育児にも影響が出ました。
にもかかわらず、給与明細では手取りは月に12万円ほどです。
一時は仕事を辞めようと考えましたが、子どもが好きで保育園側の引き留めもあり、いまは勤務を週3日に減らして続けています。
女性は「時給ベースで300円から400円ダウンです。どこで自分たちが思っていることを発信すればいいのかわからないから、もうしょうがないから辞めるっていう手に、みんなが結局出ている気がします」と訴えます。
■現場の声を広く共有、業界全体の改善に期待
実態に衝撃を受けた田中さんたちは、企業としてどんな支援ができるか議論を続けました。
何にもできないけれど、何とかしたい。
その結果、保育士に情報発信してもらう取り組みを行うことになりました。
事業としては赤字になりますが、会社として話題づくりにもなると考えたのです。
発信される記事は匿名で、あらかじめ各保育園から了承を取り付けます。
都内で園児80人を受け入れている保育園では、現場の声が広く共有されることで業界全体の改善につながるとして、取り組みに期待を寄せています。
保育園運営「風の森」の野上美希統括は「現場のリアルな情報が実際見られるっていうのは、すごくいい機会なんじゃないかと思いますし、国の方も見ていただいて、問題意識を持っていただければ」と、期待を寄せています。
田中さんは「保育士は毎日命を預かっているから緊張の連続です。なのにお給料が低いという、この現状を少しでも変えていく。その歯車の一つ目になってほしい」と話しています。
この会社では、保育園側と調整しながら取り組みを広げていきたいとしています。