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【社説】

日欧EPA 恩恵の影も忘れずに

 日本と欧州の経済連携協定(EPA)が発効した。関税がほぼ撤廃されるが、ワインやチーズの「値下げ」に目を奪われず、生産者の不安や痛み、貿易自由化の負の側面は最小限にすべきだ。

 自由貿易協定のひとつである日本と欧州連合(EU)のEPAでは、農林水産品と鉱工業品の輸入関税を日本は94%、EUは99%撤廃する。

 欧州産のワインやチーズの値下げは始まっており、消費者には恩恵だ。チョコレートや革製品などでは十年以上の時間がかかるものもあるが、衣類はただちに関税が撤廃された。一方、日本の輸出では自動車で現在10%の関税が八年目に撤廃される。

 日欧の人口は合わせて約六億人。貿易総額は世界の四割弱。協定発効で世界最大級の自由貿易圏が生まれ、日本は国内総生産も雇用も増えると政府は試算する。ただ現実はどうか。

 日欧とも発展途上国ではなく、経済も市場も成熟している。それどころか日本では人口が減り始め、将来不安や所得の目減りで消費は長く停滞している。 

 値下げはワイン好きには朗報だが、国内の酒類市場は若者の飲酒離れもあり縮小を続けている。ワインが増えれば日本酒や焼酎、ビールなどの消費に響く。市場の小さいチーズは、チーズ好きが急増しない限り国産チーズの消費は減り、北海道を中心とした酪農への影響は避けられない。自動車市場は日欧ともに飽和状態といえる。

 市場が成熟した日欧の貿易自由化は、一方の利益がそのまま他方の損失につながる、いわゆるゼロサムゲームになる懸念がある。このため日欧は必ずしも協定に積極的ではなかった。その流れを変えたのが米トランプ大統領の保護主義だった。

 強まる保護主義に歯止めをかける国際協調として、EPAの持つ意味は決して小さくない。ただ、生産者の痛みや不安から目を離してはいけない。世界では今、その「痛み」が自由貿易やグローバル化への強烈な反発になり、国際協調体制の根幹を揺さぶっているのだから。

 これも試算だが、農林水産省はEPAで国内の農産物生産が最大六百八十億円減少、その三分の一はチーズなど乳製品としている。成熟した大人の日欧には、生産者への支援策も含め痛みを伴う「ゼロサム」ではない成果を生み出す工夫がほしい。それが自由貿易への信頼回復にもつながるはずだ。

 

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