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盾の勇者の成り上がり 作者:アネコユサギ

外伝 槍の勇者のやり直し

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不穏

「はい?」


 この混乱に乗じてメルロマルク軍が攻め込んできているとの事。

 どうやら事態は急を要する事になってしまった様ですぞ。


「……こんな時に……状況はどうなっているの?」

「現在、シルトヴェルトに向けて宣戦布告をしながら進軍中! その数――」


 中々の大部隊の様ですな。

 ただ、確かメルロマルクの軍はもっと多かったと思いますぞ。

 正確な数を測った訳ではありませんが、最初の世界での戦いの数々ではもっと多かったはず。


「シルトヴェルトの本城にまで来るのにどれくらい掛る?」

「……地域での衝突を視野に入れると早くて三日と推測されます」

「わかった。まずは数分後に起こる波の対処、波を鎮めた後は戦争の準備に入ってほしい。問題は……」


 お義父さんの言いたい事をシュサク種の長は理解しているご様子。


「はい。我が国は、勇者様を戦争に利用はしません」


 これはお義父さんが懸念している事であり、エクレアとゲンム種の老人と共に決めた決まり事ですぞ。

 ですが、お義父さんを傷付けようという者が現れればその限りではありません。

 この元康が必ず倒して見せましょう。


 それに……このタイミングでメルロマルクが進軍してくる。

 タクトと関係している可能性が高いですな。

 どんな敵が現れようと皆の無念を晴らすべく、俺は戦いますぞ。


「ただし……」

「相手が勇者を派遣したのならその限りでは無い。ですね。承知しております。厳重に調査の末に、報告いたします」

「……違反時には俺は国を出ていくからね。俺がやるのは世界を救う為に波と戦う事で、君達の戦争の名目じゃない」

「心得ています」


 当初こそ、お義父さんの言葉に不快感を持っていたシュサク種の長ですが俺の強さを目の当たりにし、それでも乗り越えられない時が来る事を悟って、今では素直に応じます。


「じゃあ元康くん。ユキちゃん達を連れて……波をすぐに鎮めるよ!」

「わかりましたぞ!」

「後、鞭の勇者の残党の追跡も併行して……凄く、イヤな予感がするんだ」

「御意」


 視界の数字がゼロに近づいて行きますぞ。

 今日はとんだ事件に巻き込まれましたな。


 鞭の勇者を主張する罠を掛けた張本人との戦闘の後に、波……意図的に俺達を攻撃したのは明白ですな。

 戦闘が長引いたら、波で場所を変えて、殺すつもりだったのでしょうな。

 確か、前回はドラゴンの聖域、グリフィンの聖域で逃亡を阻害していたのを覚えていますぞ。


 ですが、今の俺の前では無力!

 瞬殺してやりました。

 これで世の中も少しは静かになるでしょうな。


「元康くん、任せたよ! 俺は被害を最小限に抑えるように頑張るから」

「任されましたぞ。何、まだ初期の波ですぞ。そこまで危険な事は無いと思いますぞ」

「念の為だよ」


 さすがお義父さん、石橋を叩いて渡る慎重な精神は健在。

 赤い砂時計のメモリがゼロになり、シルトヴェルトの波に召喚されましたぞ。


「ここは……」


 辺りを確認するとシルトヴェルトの山の様ですな。

 ボスは、ダイダラボッチのような巨大な魔物が山から黒い影をこちらに向けておりますぞ。

 見た目の割にそこまで強くないと俺の勘が囁いておりますな。

 目算ではLv35あれば余裕でしょう。

 ですがお義父さんの言葉通り、念には念を入れますぞ。


「ユキちゃん達!」

「わかりましたわ! みんな、一斉攻撃」

「「「おー!」」」


 フィロリアル様達が駆け抜けていきますぞ。

 シルトヴェルトの亜人たちも我こそはと、波からあふれ出る魔物達に向かって突撃して行きます。

 今回の魔物は、黒い影を持った……ボスはダイダラボッチ、他にぬりかべや、べとべとさん等の和風な魔物が多い様ですぞ。


 近隣には村もあるようで、お義父さんはサクラちゃんに乗って避難を優先させていますぞ。

 ですがシルトヴェルトの亜人達は戦闘に適した猛者達、例え村人であろうとも善戦しているようですな。

 とにかく、今は俺が先陣を切るときですぞ。


「エイミングランサーⅩ!」


 視界に浮かぶ魔物をロックオンしてスキルを放ちますぞ。

 一瞬で魔物共を蹴散らし、波のボスと波の亀裂に向かって駆け寄りますぞ。


 まあ……結果は、圧勝でしたな。

 怪我人は最低限で済みましたぞ。

 正味戦闘時間は30分に達する前に終わりました。


 ですが警戒を解いてはいけませんぞ。

 波の魔物は何だかんだで生き残りがいる可能性がありますからな。

 しかも波の亀裂から何が出てくるか分かりませんぞ。

 とまあ警戒に警戒を重ねたのですが、今回は特に異常なく終わりましたな。



「ふう……それじゃあシルトヴェルト軍は戦争に備えて! 俺達は城に戻って会議に参加するから!」

「「「ハ!」」」


 シルトヴェルトの兵士達が敬礼し、戦争に備えて出撃しましたぞ。

 怪我人も少なく、被害も最小限に抑えきれましたぞ。

 アッサリすぎるほどの幕切れですが、まだ戦いは続きますな。


「で? メルロマルク軍はどうなったの?」

「それが……突然、後退をして、戦線から離脱。追撃に出るかを審議している最中です」


 城に戻り、お義父さんと一緒に会議に参加しましたぞ。


「敵前逃亡?」

「陽動の可能性が非常に高いと思われます」


 なるほど、確かにその可能性は捨てきれませんな。

 メルロマルク軍の兵士の総数よりも少なかったので、わかりますぞ。


「あの英知の賢王が目撃されているんだ。何をするか分からないぞ!」


 英知の賢王……ああ、クズの呼び名ですな。

 ですが、あの無能相手にそこまで警戒する必要があるのですかな?


「元康くん、メルロマルクは錬……剣の勇者は別の国へ行ったんだっけ?」

「そう聞いてますぞ」

「じゃあ樹……弓の勇者がメルロマルク軍にいるのかな?」

「いえ、その可能性は低いと伝令が来ました!」


 シュサク種がホッとしたように言います。

 樹が戦争に参加していない。

 なんとなく違和感がありますな。


 まあ俺は樹の事を詳しく知りません。

 最初の世界でも、以前の世界でもほとんど話をしませんでしたからな。

 そもそも知りたいとも思っていませんでしたが。


 ……思い出しましたぞ。

 確か豚……ではなくヤンデレっぽい豚を不当に解雇した所為でお義父さんが激怒していました。

 その事を報告したのは愛に目覚める前の俺ですがな。

 それから村に住む様になって、お義父さんが樹の事を傲慢な正義バカとか、言っていた覚えがあります。


「樹は参加していない?」

「メルロマルク国内で活動しているのを、我が国の密偵が報告しました!」

「となると完全に俺達は戦いに出る必要はなさそうだね」

「ですが何やらキナ臭いと、思われます」


 シュサク種の長が、深く考えるように地図に陣形を模した駒を乗せて考え込みますぞ。


「戦争の方もあるけど、城の方の被害は?」

「飛行船自体の炎上に因り近隣の森に飛び火いたしましたが、直ぐに消火する事が完了いたしました。ただ……鞭の勇者を主張した敵の配下が逃亡……その所為で被害者が出ています」

「そう……」

「錯乱状態で銃器を発砲する者、鞭の勇者が育てていたドラゴンの被害等……槍の勇者様のお陰である程度抑える事は出来たと思いますが……」

「元康くんのお陰で助かったね」

「……はい、ですぞ」


 この元康、とんだ失態をお義父さんに見せてしまいましたぞ。

 今度は失敗しない様に頑張らねばなりませんな。

 とりあえずはあの豚共の皆殺しですな。


「現状は城の修繕を最優先し、防衛体制を維持……メルロマルクに攻め込む準備を整えよ!」

「何度も言うけれど、勇者が関わらない限り俺達は戦争に力を貸さないからね」

「心得ております! 皆の者! この戦いは盾の勇者様の言葉により、宿敵を屠るにあらず! それを忘れるべからず!」

「「「は!」」」


 さて、今は出来る事を一つでも多くする時ですな。

 手段を選んでいる場合ではないでしょう。


「お義父さん」

「何? 元康くん」

「あのドラゴンの亡骸ですが……実は非常に不服なのですが、育てたドラゴンに奴の核石を与えればLv100越えの儀式ができるようになります」

「そうなんだ。でも、今は育てている暇が無いんだよね……でも核石だけは採取しておこう」

「わかりましたぞ」

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