消し炭
「お前は――お前は!」
パズルのピースが埋まるように、思い出してきました。
フィロリアル様達を亡き者にし、お義父さんに重傷を負わせた元凶が目の前にいて、お義父さんやみんなを傷つけようとしている。
この元康、動かずには……居られないのですぞ。
槍を奴の攻撃の射線上に合わせて弾き、奴の豚に当てますぞ。
「ブヒ――!?」
ブシュッと豚の一匹に当たって血が飛び散りましたな。
同時に、飛行船のデッキに穴が空きましたぞ。
「え……ヴァーンズィンクローが……弾かれた……それに武器が奪え……俺は今……」
放心するように、ビクンビクンと痙攣する豚をタクトは見つめておりますな。
「何のつもりか知らないけれど、俺達に何の恨みがあって――」
お義父さんがタクトに向けてなにやら呟いておられます。
ですがこの最低のクズ相手にはそんな言葉、意味がありませんぞ。
「てめぇええええええええ――」
ぶちぎれたタクトが『ツメ』を振りかざしてこちらに近寄ろうとしています。
ですが――。
「元康くん! 何をするつもり!?」
「コイツは……コイツだけは生かしておいてはいけないのですぞ!」
最大限出力を上げたブリューナクを俺はタクトに向けますぞ。
全ての力を全開まで引き出し、当てて見せますぞ。
「ブヒィイイイ!」
メイド服を着た豚が俺とタクトの間に立ちますぞ。
「ブリューナクⅩ!」
槍から放たれた高出力の分厚い閃光がメイド服を着た豚を貫き。
「うわ――」
タクトを消し炭にしましたぞ。
豚一人が庇った程度で俺のブリューナクは止まりませんぞ。
シューっと音を立てて部屋に風穴が生成されましたな。
……思わず殺してしまいましたが、ループしませんぞ?
ふふふ……どうやらループの起点となっているのはお義父さんや錬と樹だけの様ですな。
ならば、こやつ等を殺しても問題ないですぞ。
「「「ブヒィイイイイイイイイイイイイイイ!?」」」
豚共の喧騒が騒がしいですな。
安心すると良いですぞ。
等しく皆殺しにしてタクトのいるあの世に送ってやりましょう。
「よくもタクトを!」
「タクト……タクトは何処に行ったの!?」
と、ドラゴンとグリフィンが豚から正体を露わして騒ぎ始めましたぞ。
「タクトは元より、父上まで殺した槍の勇者! 絶対に殺してやる!」
狭い室内で、グリフィンが俺に向かって突撃してきましたぞ。
「父上? 知りませんな……ああ、そういえば山で遭遇した大きなグリフィンがいましたな。ドロップが優秀でしたぞ?」
「ぶっ殺す!」
突然現れてブツブツとよくわからない事を呟いていた根暗なグリフィンですか。
その子供らしいですな。
タクトと共に居たという事は同罪、その命を持って償ってもらいましょう!
「エアストジャベリンⅩ!」
ブリューナクはクールタイム中ですからな。
狭い室内でエイミングランサーなど放とうものなら、ユキちゃん達に当たりかねません。
それならば俺が直接狙った方が良い結果になります。
なにより、この程度の攻撃であの時の鬱憤は晴れませんぞ。
「ガアアアアアアアアアアアアアアアア――」
ブチャっと音を立てて、グリフィンの頭を消し飛ばしましたぞ。
「ハハハッ! 親と同じ殺し方をしてやりましたぞ!」
近かった所為で返り血が俺に振りかかってしまいましたな。
穢らわしい。
「ええい! この乗り物が邪魔じゃ! タクトの仇、ここで晴らしてくれる!」
バキバキとドラゴンが巨大化して、飛行船を崩壊させていきますぞ。
こんな化け物も隠しているとは……腕がなりますな。
ドラゴンというだけで生きる価値が無いのに、その上タクトの仲間と来たら殺しても殺し足りませんぞ。
「みんな、今すぐここから逃げるんだ!」
「は、はい!」
シルトヴェルトの重鎮達は頷いて、俺が開けた穴から逃げましたぞ。
「ブヒ――」
「死ね! ですぞ」
俺も合わせて逃げますが、その合間にタクトの豚共をついでに突いて仕留めますぞ。
やがて火を放ちながら飛行船は落下し、辺りは火の海になりました。
城目掛けて巨大なドラゴンが飛来し、シルトヴェルトの者達は右往左往し始めましたぞ。
「元康くん!」
俺は逃げる豚にエイミングランサーのターゲットを何度かしたのですが、タクトの豚の数は多く、しかも威力の低いエイミングランサーでは殺しきれ無い状態でしたぞ。
お義父さんに声を掛けられて振りかえります。
「一体どうしたの! それに、鞭の勇者を殺すなんて大問題……いや、状況的にそうしないとダメだったか……」
「思い出したのですぞ! 奴は……鞭の勇者だけではなく七星の武器を集めている、未来の世界でお義父さんが倒した敵だったのですぞ!」
「だからって……今の状態がわかる?」
お義父さんに言われて辺りを見渡しますぞ。
辺りは今まさに火の海になっていて、城の近くにあった森に火が燃え移っております。
シルトヴェルトの者達が必死に消火活動をしておりますが、空を飛来してくる巨大なドラゴンを相手に戦場は混乱を極め始めました。
辛うじてフィロリアル様達によって城は守られておりますが、いつ被害が増大するかわかったものじゃありません。
俺は火の海の中で……そっと槍を下に向けましたぞ。
「奴の所為で……未来のお義父さんは泣いていたのですぞ……フィロリアル様も死んでしまって……」
「うん……その気持ちはわかったから、それにどうやったかわからないけど行方不明だったツメの勇者を殺したのもどうやらタクトだったみたいだしね」
お義父さんが炎の中で俺を抱きしめてくださいました。
遠くでユキちゃん達がドラゴン相手に指揮をしてくださっています。
「今は少しでも被害を抑えるべく、暴れている敵を倒そう。波までの残り時間も少ないから……」
「はい! ですぞ!」
お義父さんに言われ、俺はドラゴン……怒り狂った竜帝に向けて駆けだしますぞ。
狙うはドラゴンの頭部……。
そこに全力でスキルを放ちますぞ。
「ブリューナクⅩ!」
「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
一直線に距離のある状況ではブリューナクは紙一重で避けられてしまいましたぞ。
チッ!
ならば、被害が出る前にやる事は一つですぞ。
エイミングランサーの上位スキル……威力、命中精度を誇る神々の有名な槍の名を冠するスキルを放ちますぞ。
槍が黒く輝き、俺の視界に飛んで行く軌道が現れますぞ。
「グングニルⅩ!」
黒い一筋の、曲がる槍が……巨大なドラゴンの頭部目掛けて飛んで行くのですぞ。
「ガアアアアアアアアアアア――グガ!?」
ドスッとグングニルが巨大なドラゴンの眉間に命中し、音を立てて内部に入り込んで通り過ぎると……ドラゴンの頭部は炸裂しましたな。
ヒューッと音を立てて、巨大なドラゴンが城の中庭に落下致しました。
「やった! やったよ元康くん!」
「当たり前ですぞ! さあ、後はタクトの豚共を駆逐するのですぞ!」
「待って! もう逃げられちゃってるし……波までの時間を見て!」
お義父さんに言われて視界の砂時計の数字を見ますぞ。
そこには後10分と言う数字が刻まれていました。
「10分もあれば、何匹か仕留められますな」
「落ちついて元康くん! 君は……タクトの連れていた女達の区別が付くの?」
「……なんと」
そうでした。
俺は……あの場に居た豚の区別など付きません。
今行けば、判別が付かず無関係な豚共も皆殺しにしてしましょうでしょう。
「今は少しでも波に備えて準備をしよう。じゃなきゃ世界が大変になるよ」
「わかりましたぞ」
「大変です!」
ドラゴンの死骸を前にしているとシュサク種の長が空から舞い降りて獣人から亜人に変わってお義父さんに頭を垂れました。
「どうしたの? 波の準備を急いでしなきゃいけないんだけど」
「……メルロマルクが軍を引き連れて、我が国に攻め込んでまいりました!」