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盾の勇者の成り上がり 作者:アネコユサギ

外伝 槍の勇者のやり直し

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シルドフリーデン

 翌日の事。

 フィロリアル様達を孵化させる作業は滞りなく進んでおりますぞ。


「では孵化したフィロリアル様達をユキちゃんとコウは背に乗せてLv上げとお食事をさせるのですぞ」

「了解ですわ!」

「ラジャー!」

「「「ピヨピヨ!」」」


 敬礼して、様々な色合いをしたフィロリアル様達を乗せてユキちゃん達は駆けて行きましたぞ。

 今の所、全体の三分の一、せめて色合いだけでもフィーロたんがいれば、育成を……中断できませんな。

 フィロリアル様の孵化作業を途中でやめることなど出来ませんぞ。


「うわぁ……元康くん。凄い事になってるね」


 お義父さんが、俺に割り当てられた部屋に来訪して下さりましたぞ。

 部屋の中はフィロリアル様の雛達でいっぱいですぞ。

 皆、ピヨピヨと元気に鳴いておられます。


「明日にはまた増えますぞ」

「うー……ん。集めすぎじゃないの?」

「何を言うのですぞ? もっと一杯育てるのですぞ」

「凄いいっぱいだね。サクラも楽しくなってきたー」

「フィロリアル軍団が出来そうな勢いだよ……食費とかどうするのかな?」

「フィロリアル様達で独自に調達しますぞ」

「……近隣の魔物が駆逐されそうで怖いよ」


 お義父さんは何を言うのですかな?

 魔物の数が減ってフィロリアル様が増える。

 楽園が生成されるのですぞ。


 それにこれくらいならまだ問題ありませんぞ。

 そんな感じで、俺はフィロリアル様の孵化作業を続けたのですが……。

 フィーロたんに該当するフィロリアル様の色合いがありませんでしたぞ!


「おおう……」


 俺は両手を地面に付けて嘆きましたぞ。

 まさか、魔物商からフィロリアル様を全て買い占めたと言うのにフィーロたんに出会えないとはどういう事ですかな。

 お義父さんは、あの魔物商から買ったという話は間違いだったのですかな?


 どうしましょう。

 このままではフィーロたんが誰とも知らない馬の骨に買われてしまいますぞ。

 どうしましょう!


 金をシルトヴェルトからもらうのは限度がきてますな。

 次の作戦を考えねばなりませんぞ。


「じゃあ交代でLv上げに行くよー」


 クラスアップをとっくに終えたユキちゃん達がフィロリアル様達を順調に育てております。

 槍の技能で、潜在能力を向上させたユキちゃん達に敵う魔物など、並大抵の事ではいませんぞ。

 ですが、まずは色々と算段をしていかないといけませんぞ。


 ああ、フィーロたん、愛しい貴方はいずこにおられるのですか!

 この元康が貴方の元へ飛んでいきたいと心が叫んでおりますぞ。

 まずは盗賊狩りに出た方が良いですな。


「という訳で、ツメの勇者を探しながら盗賊狩りをしてお金を集めるのですぞ」

「わかりましたわ」

「ねえ盗賊って美味しい?」

「元康くん、お願いだからツメの勇者の探索を優先してね。後、コウは食人を覚えないでね」

「んー……」


 サクラちゃんがお義父さんにおんぶしてもらってうとうととしておられです。

 俺はそっとサクラちゃんの寝顔を見つめますぞ。

 おや? 気のせいですかな?

 サクラちゃんからフィーロたんに良く似た匂いがした様な気がしますぞ。

 まあ、気のせいですな。


「では行ってきますぞー」

「いってらっしゃい。俺も少ししたらサクラちゃんと一緒に出かけてくるからー」


 こうしてシルトヴェルトの日常は過ぎていきましたぞ。

 その日からお義父さんはシルトヴェルト内をサクラちゃんに乗って色々と見て回ったのを俺に教えてくださいましたぞ。

 このようなお義父さんを見るのは初めてのような気がしますぞ。


 異世界での戦い、実戦経験、サクラちゃんに乗っているだけでは無い、冒険譚をお義父さんは話してくださいました。

 シルトヴェルトの者達もお義父さんには協力的で、事件に対して真摯に対応するお義父さんの人望はウナギ登りだとか。


 そんな、一見すると平和な日常が過ぎ……シルトヴェルトの波まで、後三日まで近づいた……ですぞ。


「波かー……不謹慎なんだろうけど、少し楽しみだな」

「私も初めての波に挑んだ時は心躍りましたぞ」


 今でも覚えております。

 ゲーム知識を頼りに波で出現したキメラに向かってスキルを放った時の事を。

 とても楽しい戦いだったと覚えております。

 ただ、お義父さんはとても不満そうな顔をしておられましたな。


 あの後、赤豚にお姉さんが奴隷としてコキ使われている、是非助けましょう等と……お義父さんとお姉さんが通じ合っているのを知らずに決闘を申し込んだのでしたな。

 この元康、一生の不覚でしたぞ。

 しかもお義父さんは知恵を振り絞って、この元康を背を地に付けさせるという偉業を成された。


 対人経験豊富なお義父さん独自の戦い方でしたな。

 なのに俺は負けを認められず降参せずに逆転の方法を考えておりました。

 お義父さんは攻撃の方法が無いのに決闘を申し込んだ俺はどれだけ愚かだったのか。

 ですがお義父さんは、魔物を使って俺に傷を付けた。

 それだけで勝負は付いておりますな。


 俺の負けですぞ。

 あのような、反骨精神を俺はお義父さんから学ばねばなりません。

 例え泥水をすする様な事があっても、フィーロたんと出会って見せますぞ。


 盗賊狩りで多少の金銭が溜まりました。

 次はメルロマルクの何処の魔物商で買えばよいですかな。



 なんてのどかな日々が続いておりました。

 その翌日の事。


「シルドフリーデンとフォーブレイを管轄している七星勇者を派遣?」


 朝の会議でシュサク種の代表が俺とお義父さんにそう報告しましたぞ。


「え? でも、シルトヴェルトには俺と元康くんがいるから大丈夫なんじゃないの?」

「そうなのですが、何分……我が国と近隣国を守護するはずのツメの勇者様が行方知れずの現在、各国が警戒の為にと派遣するとの話になりました」

「へー……」

「我が国も盾の勇者様がいらっしゃるだけでも波に対処する事は可能と申したのですが……」

「まあ、念には念をって奴?」


 お義父さんが何度も頷いております。

 それからお義父さんは俺に耳打ちするように招きますぞ。


「ぶっちゃけさ……シルトヴェルトって国は思いのほか過激な国だよね。俺は勇者だから特別待遇を受けているけど人間が奴隷として扱われているのを見るとさ……」

「そうですな」


 確かにこの元康もメルロマルクと一部の国しか行った覚えはありませんが、人間の扱いはあまり良くない印象を覚えますな。

 盗賊狩りをしても亜人の盗賊が大半ですぞ。

 まあ、亜人の国だからしょうがありませんが。


「なんて言うのかなー……俺の世界基準で言う所の元々バイキングの国みたいな? 連合王国みたいな血筋重視と言うかね」

「そうなのですかな?」

「うん。この国は血筋がかなり重要視されるんだってさ」


 お義父さんはシルトヴェルトで学んだ事を教えてくださいましたぞ。

 シルトヴェルトと言う国は盾の勇者を信仰する事によって建国した国で、その上層部は代々続く有名な種が担っているそうなのですぞ。

 言わば貴族の地位が血筋として受け継がれている。


 この世界では何処でも似たようなモノとお義父さんは説明なさいました。

 その中でも最上層に位置する四つの種族が、シュサク、ゲンム、アオタツ、ハクコという俺達の世界でも有名な四聖獣に似た種族なのだそうですぞ。

 ですが、ハクコは過去の大戦の責任を負って勢力的に弱体化、今では四つの最上層の中で一番権力が低い地位にあるそうですぞ。


 この四つの種族はシルトヴェルトの亜人でも高い戦闘力を有し、シルトヴェルトの波を早期に対応して被害を抑えたという実績から、現在でも国内の支持を受けているとの話なのですぞ。


「で、そんな血筋重視の方針に付いていけない層がシルドフリーデンって国を作ったんだってさ」


 シルドフリーデン。

 この国の歴史はシルトヴェルトに比べてとても浅いそうですぞ。

 設立して百年かそこらの新参の国で……言わばフロンティア精神の果てに生み出された国なのだそうです。


「この国の人から聞いた話だと、下賎な血筋の種族共が、我が国の伝統的な方針に従えずに国を出て建国した……って言ってたよ」

「良くわかりませんな」

「まあ……低賃金の労働者が一念発起して移民して出来た国と思えば良いんじゃない? 人間至上の国らしいメルロマルク程じゃないだろうけど、亜人は色々な種族がいるから血統主義もあるし、小さな差別は昔からあるんじゃないかな?」


 これは俺達の世界にも似たような歴史を持った国がありますな。

 どこの世界もそう変わらないという事でしょうか。


「なるほど……俺のいた世界にも似た歴史の国がありますな」

「うん。そんな感じで作られた国なんだってさ。だからあっちの国は国内で昔、奴隷戦争ってのをやって人間と亜人で、表面上は差別が無い国なんだとか」

「表面上とは、お義父さんも変わった言い回しをするのですな」

「まあ……本当かどうか怪しいからねー……俺の勝手なイメージだけどね。何だかんだで亜人が国の指揮をしているのは揺るがないらしいから間違ってないのかもね」

「シルドフリーデンの方へ行きたかったですかな?」


 俺の問いにお義父さんは考え始めましたぞ。

 もしも次があるのならば、場合によってはシルドフリーデンに行くのも手段の一つですな。

 もちろんお義父さんが望むのなら、ですが。


「うー……ん。どちらかと言えば、もしもまたループしてしまった時の事を言っているんだよね。その為に元康くんもシルドフリーデンがどういう国か知っておいた方が良いんじゃないかな?」


 なるほど、お義父さんの言葉はもっともですな。

 どのような国なのかを知らねば、仮にループしてしまった時に失敗する事になってしまいますぞ。


 聡明なお義父さんがループしているのなら心配はありませんが、残念ながらループをしているのは俺ですからな。

 ループしている俺が世界の情勢などを覚えなければ、同じ様な失敗をしてしまうかもしれません。

 お義父さんはそれを心配してくれているのでしょう。


「で、そのシルドフリーデンって国の統括というか、上層部に食いこんでいるのがシルトヴェルトでも上位に位置するアオタツ種って種族なんだって」

「アオタツ種」


 アオタツ種ですか。

 何処かで見た様な気がするのですが思い出せませんな。


「そう、シルトヴェルトにもいない訳じゃないけど、ハクコ種と同じく権力は低めなんだってさ。何でも過去のハクコ種が追い出したらしいんだけど、詳しくは調べきれてないんだ」


 という事は実質シルトヴェルトはシュサク種とゲンム種の亜人の血筋が仕切っていると。

 おや? たしかー……この二種はどちらかと言うと穏健派だと誰かから聞いた覚えがありますぞ。

 ま、その中でも過激派とかが台頭していると思えば不思議ではありませんな。

 お義父さんは耳打ちをやめてシュサク種の代表に笑顔で応じますぞ。


「で、その七星勇者はいつ頃来るのかな?」

「明日の昼には謁見するとの事です」

「そう……わかったよ。その時間には城に居るようにするね」

「ありがたき幸せ」


 こうして会議は終わりましたぞ。

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