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盾の勇者の成り上がり 作者:アネコユサギ

外伝 槍の勇者のやり直し

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裏路地にて

 ポータルでメルロマルクの城下町近くの村に到着しました。

 登録していたのがちょうどここだったので、その足で俺は城下町の方へ歩いて行きますぞ。


 おや?

 城下町近くの村……リユート村でしたかな?

 が、廃墟となってますな。


 黒焦げになった建物や、魔物に荒らされてしまった牧場……食い荒らされた家の残骸、に破壊された家屋。

 もはや村の原型を留めていないようですな。

 仮設でテントが張られていますが、村人の表情が暗いですぞ。

 ま、中に入る必要は無いので通り過ぎますがな。


 しかし……思えば城の近くで波は起こるのでしたな。

 んー……記憶を紐解くと、こんなに被害が出ておりましたかな?

 もう少し村の体裁を保てていたような覚えがあるのですが、記憶違いでしょうか?

 それとも、メルロマルクの波に参加した勇者の数が少ないせいでしょうかね。


 気にしてもしょうがありませんな。

 俺は暗い雰囲気を持った村を後にして城下町の方へ行きましたぞ。

 さあさあ! 今日の目的は魔物商のテントでフィーロたんを見つける事ですぞ。

 金は潤沢にあります。

 あのテントに居るフィロリアル様の卵を全て買い取るつもりで来ましたぞ。


 スキップ混じりに城下町の商店を通り過ぎます。

 んー……所々閉まっておりますな。

 薬屋と魔法屋が閉まってますぞ。

 ま、行く必要なんて全くない店ですがな。

 そのまま裏通りを進んで魔物商のテントに行きますぞ。


「お、お前は元康!?」


 なんと、裏路地を歩いていたら、何故か錬と遭遇しましたぞ。

 ふむ……どうすればいいですかな?

 安易に殺してはループしてしまいます。

 ですが、騒がれると喧しいですぞ。

 よし、では死なない程度に黙らせましょう。


「ま、待て! 俺はお前と争うつもりもないし、ここで騒ぐ気も無い!」


 俺が槍を強く握りしめようとすると錬が手を前に出して抑制してきますぞ。

 ふむ、この頃の錬にしては殊勝な心がけですな。

 錬に敵意が無いなら話程度はしておくのが得策でしょうか。

 もしかしたら良い情報を持っているかもしれません。

 あるいは時間稼ぎをしている間に戦う準備をしている可能性もあります。


「どういう風の吹きまわしですかな?」

「吹きまわしも何も、戦う気が無いんだ。それよりなんで元康がここに居るんだ? シルトヴェルトに行ったんだろ?」

「ここにフィーロたんがいるからに決まってるでは無いですか」

「は、はぁ……よくわからんが、少し話でもしないか?」

「そう言って、城の連中を呼ぶつもりですな!」

「だから聞けって! 呼ぶつもりはない」


 うーむ……。

 どうも信用を置けないですぞ。

 と、よくよく考えてみれば、後顧の憂いは先に潰しておくのが一番ですな。

 既にお義父さんをシルトヴェルトに案内する事は済んでいるのです、お義父さんの命を狙った三勇教にはその報いを受けてもらいますかな。


「なんならこの場でもどこでも、元康の案内する場所で良いから少し話を聞いてくれ」

「わかりましたぞ。で? 何の話ですかな?」

「ここで良いのか……まあ、色々とな。尚文の方にもお前が伝えておいてほしいんだ。この国がどうなってるかって話をさ」


 錬は俺に向かって話始めましたぞ。

 なんでも俺がお義父さんを追い掛けた後、メルロマルクは錬と樹を大事に扱ってくれたそうですぞ。


 そして、錬は援助金を元手にして装備を買って、Lv上げに行って強くなろうとしました。

 この間にも俺達の噂を耳にしましたが、それよりも自分の知る知識でどれだけ早く強くなれるか試したそうですぞ。

 まあ、そこまでは順風満帆だったそうですな。


 ですが錬曰く……最近、不穏な空気が辺りを支配し始めたそうです。

 樹の仲間の一人がお義父さんを信仰する盾教を名乗る亜人によってリンチにあって殺害されたとの話でした。


 錬は証拠を集めていたのですが、どうも怪しいそうです。

 まず、お義父さん達はシルトヴェルトへ向かっている最中で、お義父さんの指示で勇者の命を狙う意味が理解できない。

 そんな話を錬は語りました。


「で、元康。尚文が本当に俺達に危害を加えようとしたのか? って思ってな……元康、お前は俺達を殺しに来たのか?」

「全然違いますな。私が今回、メルロマルクに来たのはフィーロたんを買うためだけですぞ」

「……まあ、俺達を殺すのが目的なら既にやっているか」


 何やら錬は勝手に納得したご様子。

 その通り。

 錬や樹を殺しても何の意味もありません。

 むしろここまでやってきた事が無意味になってしまいます。

 殺すならクズと教皇ですな。


「話を続けるが、どうもこの国は色々とおかしいんだ。樹の方は王女様に気に入られてドンドン調子に乗ってきてる気がする」

「そうなのですかな?」

「ああ、王と王女はかなり怪しい。初日に元康が罠に掛けられた事を問い詰めたら、どうも嘘臭い演技で『誤解を与えてしまいました。我が国総出で助けますわ』とか言っていてたのに、結局は国境を強行突破されたって話だろ? 協力するって言っているのに強行突破って誤解だとしても……矛盾しているだろ」


 錬はどうやら俺が話した話を信じてくれた様ですぞ。


「挙句……昨日の夜、波のボスを倒して城のパーティーに出席したんだが、なんて言われたと思う? 『勇者殿達は修業が足りないご様子、もう少し精進ください』だぜ?」


 錬は何やらストレスが溜まっているのか愚痴って来ますな。

 ですが、色々と情報が得られるので相槌を打っておきましょう。


「なんで修業が足りないのかと聞いたら『伝承の勇者はもっと強いのです。もっと神の如き強さを習得なさってください』だとさ。元康が砦を吹き飛ばしたとかいう噂を基準にして俺達を物差しで測ってる感じがして不快だった」

「ウソではありませんぞ。あの程度の砦、一撃でしたぞ」

「……噂に尾ひれがついてるのはわかっている」


 どうやら錬は、勇者の強さを理解していない様ですな。

 まあ、最初の世界で俺もそうだったように錬達もお義父さんの話を信じていませんでしたからな。


「援助金こそくれたが、俺はこれからゼルトブルへ亡命……というか身を隠そうと思ってる。何かあったらゼルトブルで探してくれ。じゃあな」


 と、錬は言いたい事を言ってその場を去ろうとします。

 しかし錬は途中で振り返り。


「元康! メルロマルクに気を付けろ! 不穏な動きがある!」


 と言い残して走り去っていきました。

 きっとこれから裏路地を抜けてゼルトブルへ向かうのでしょう。


 しかしゼルトブルですか。

 まあ、あの国なら隠れるにはもってこいですな。

 少々治安が悪いですが、龍刻の砂時計もありますし、悪い場所では無いでしょう。

 それよりもまず、フィーロたんを購入する事が先決ですぞ。



「これはこれは、新たなお客様ですか? ハイ」

「今度こそフィーロたん」

「はい?」


 テントに入ると見覚えのある魔物商が出迎えてくれましたぞ。


「フィーロたん」

「ハイ? えー……」


 魔物商は俺を頭の先から足先まで凝視していますぞ。

 それから何やら全身から汗を流したかのように焦り始めましたぞ。


「え、えっと。その御姿は槍の勇者と噂される方だったかと思いますです。ハイ」

「そうですそ! 槍の勇者である北村元康ですぞ!」


 カクッと魔物商は何故か転びかけました。


「し、して……そのメルロマルクで砦破壊の首謀者として指名手配されている槍の勇者様が何の御用ですか、ハイ?」


 指名手配?

 ああ、お義父さんに儀式魔法をぶっ放そうとしたのを返り討ちにした時の出来事ですな。

 ですが、振りかかる火の粉を払っただけですぞ。


 それに仮に指名手配されていたとしても、城下町の連中も道行く人も何の反応しませんでしたぞ。

 人間、案外顔など見ていないものですな。

 似てるである程度、補正するようですぞ。

 指名手配犯が真昼間の城下町を歩いているとは思わなかったのでしょう。


「フィーロたんを買いに来たのですぞ」


 今日はメルロマルクの波の翌日なので、逆算するとお義父さんがフィーロたんを購入した日のはずなのですぞ。

 ですから、今日ここにフィーロたんがいるはずなのです。


「フィーロタンとは……」


 という所で、魔物商の隣に配下が囁きましたぞ。

 それからうんうんと何度か頷いた魔物商が俺に尋ねました。


「そのフィーロタンとは、フィロリアルの事でしょうか?」

「そうですぞ。それとも俺には売れないとでも?」


 俺は槍を力強く握って見せますぞ。

 お義父さんから教わった交渉術です。


「わ、わかりましたです。ハイ。こちらに……」

「このテントにあるフィロリアルのアリア種の卵を全て買いますぞ」

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