挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
盾の勇者の成り上がり 作者:アネコユサギ

外伝 槍の勇者のやり直し

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました
439/916

 日が落ちて静まり返った頃。

 部屋から外を見ていると、まだまだ騒がしい感じに城も町も起きている人がいるご様子。

 遠くから遠吠えが聞こえますな。

 眠らない国、シルトヴェルト……中々大変ですな。

 ちなみにお義父さんは夜、吸血鬼と夢魔に寝込みを襲われそうになってサクラちゃんに助けてもらったそうですぞ。



「こう……四六時中誘惑トラップがあると却って興味を引かなくなるね、元康くん」

「そうなのですかな?」


 シルトヴェルトに到着して三日目の朝。

 お義父さんがそう呟きましたぞ。

 この三日間の間、お義父さんにはそれはもう、色々な所から色々な豚に熱烈なアタックを受けたそうですぞ。

 その度にお義父さん自身が逃げたり、サクラちゃんに助けてもらったりして切りぬけたそうです。

 もちろん、この元康も可能な範囲で手伝いました。


「なんとなく元康くんの気持ちがわかってきたよ。俺もこう色目を向けながら近づいてくる人が段々と豚に見えて来てる」

「ナオフミ、段々モトヤスみたいな目になってきたもんね」

「それはそれでイヤだなぁ……いい加減、城での見合い話にウンザリしてきたし、Lv上げの旅に出たいって言ってるんだけどね」

「お望みならこの元康が、振りかかる火の粉を払って手伝いますぞ」

「うん。そう言うだろうから言わない様にしてたんだけどね。今日の昼にシルトヴェルトの七星勇者が会いに来るらしいんだ。それが終われば一応、俺もシルトヴェルト内で自由に活動できるようになるらしいよ」


 朝の会食に向かう途中でお義父さんは俺達にこれからの方針を話してくださったのですぞ。

 ああ、ちなみに俺はこの辺り特有のフィロリアル様の生態調査を行っておりましたぞ。

 さすがシルトヴェルト、この地にしかいない固有のフィロリアル様がおられるようで、お義父さんを護送する手伝いをしてくださった使者が、俺に色々とフィロリアル様の飼育している牧場を案内してくださいました。


「ではユキちゃん達のクラスアップはその後ですかな?」

「そうなるんじゃないかな? 昼過ぎには終わるから、クラスアップが終わればしばらく元康くんともお別れになるのかな?」

「ポータルで毎日会えますぞ」

「そうだね、拠点を決めておけば打ち合わせもしやすくなるし、何だかんだでLvもそれなりに上がってるから波は簡単かな?」

「そうですな」

「ホント、何から何まで元康くんのお陰で助かったよ」

「もったいなきお言葉!」

「謙遜しなくて良いよ。俺がここまで来られたのは元康くんのお陰なんだから」


 と、お義父さんと一緒に朝の会食をする専用のテラスに到着しましたぞ。

 ユキちゃんとコウ、サクラちゃんも一緒です。

 シルトヴェルトの料理人がそれぞれ料理を皿に乗せてテーブルに並べております。

 他、シルトヴェルトの重鎮も集まっておられるようですな。


「ではこれからお食事をしましょう」


 お義父さんが席に着くのを確認してから重鎮が立ち上がって宣言しますぞ。

 みんな、両手を合わせ、深く祈るようにして何か呟いております。


「全ては盾の神様の御心のままに……我等はここに食物を、生命を得ることが出来ました。世界を守る神の願いを代行する力へと……」

「「「力へと……」」」


 なんとも変わったお祈りですな。

 それからカチャカチャと食事をし始めたのですぞ。


「サクラちゃん、あーん」

「あーん」


 お義父さんに食べさせてもらっているサクラちゃんの姿は微笑ましいですなぁ。

 在りし日のお義父さんとフィーロたんを思い出します。

 確か、そんな光景があったような……気がしますな。


「サクラちゃん、自分の皿に乗ったのを食べないけどどうしたの?」

「え? だって毒だしー、あとー他にも色々」


 サクラちゃんは自分様にと差し出された皿とコップを指差しましたぞ。


「……毒?」


 一瞬でこの場にいる全ての者が凍りつきましたぞ。

 お義父さんはサクラちゃんの皿にスプーンを近づけて凝視しております。

 道中で色々と技能を覚えましたからな、おそらく目利きで毒物判定をしておられるのでしょう。


「速効性の暗殺毒……神経性……いや、これだけじゃないか。判定項目をフィロリアルに拡大……」


 おお! さすがお義父さん!

 人間には無毒でもフィロリアルには毒になる食材を調べている様ですぞ。

 そういえばユキちゃんもコウも意図的に食べずにいる物がありますな。

 許すまじ蛮行!


「ユキちゃん達もわかっていたのですかな?」

「みんなで食べるものだから、食べると痛いのは無視してますわ」

「うん!」


 ですがサクラちゃんの皿は特に色々と盛られていた様ですぞ。

 愚か者共ですな。

 フィロリアル様に毒など効きませぬ。

 以前、お義父さんの村の井戸に毒が盛られた時もフィロリアル様が陰謀を止めたのですぞ。


「モトヤスのお皿にも何かある?」


 そういえば昨日からこの元康の皿に微弱な毒が盛られておりますな。

 ですがこの程度、独特の調味料と言われれば無視できる範囲ですぞ。

 しかも俺は勇者ですから毒耐性は万全、生半可な毒ではビクともしませんぞ。


「……これはどういう事かな?」


 皿をテーブルに戻したお義父さんが昔の痺れるような鋭い視線で辺りを見渡しますぞ。

 シルトヴェルトの重鎮が凍結から覚めるように表情を変えますぞ。

 それにしてもお義父さんの声は非常に冷たいものですな。

 以前のお義父さんのそれとも違う、別種の迫力があります。


「なんと恐ろしい! 今すぐこの料理を提供した者を処刑せよ!」

「作った人だけを罰するのが正しい対処!? 違うでしょ?」


 お義父さんの指摘に目を回している様ですぞ。


「そうですな。このような、フィロリアル様目当ての暗殺を行うなど笑止千万! この世に生まれてきた事を後悔する様な処刑をしなくてはなりませぬ」

「そうだね。下手をすればサクラちゃん達が死んじゃうかもしれなかったんだし……」

「おお! では生きながら皮を全てはぎ取って、苦しむ様をお義父さんに提供させましょうぞ」

「誰がそこまでしてって言ったの!? やっぱ元康くんは大人しくしてて」

「ですが、ユキちゃん達に暗殺を行おうとした罪、万死では軽すぎますぞ」


 それから辺りは大混乱に成りましたぞ。

 怒ったお義父さんにシルトヴェルトの重鎮は土下座をして謝罪しておられます。


 やがてすぐに料理は元より、何処で盛られたのかの調査が行われました。

 お義父さんはシルトヴェルトの玉座に座らせられて不快そうに腕を組んでおります。

 先日、公務などで玉座に座ったお義父さんは困った表情でしたが、それとは対照的ですな。


 尚、刺客はサクラちゃんや俺を狙っていたとの事で、サクラちゃんはお義父さんの膝の上に乗せられて、これ見よがしに可愛がられておられます。

 敵の嫌がる事をする。

 さすがお義父さんです。これで敵をあぶり出すのですな。


「ナオフミーもっとー」

「ああはいはい、ちょっと待ってね」


 撫でられてご機嫌なサクラちゃんがお義父さんにもっと撫でて欲しいと頼んでおりますな。


「今から犯人候補のリストを持って来させますのでお待ちを」

「ダメだね。政治的な敵を因縁付けて処分とか、安易な事を考えてる可能性があるし」

「ヒィ!」


 お義父さんの鋭い眼光で、重鎮は背筋が凍りついておられるご様子。

 シュサク種の代表も、困惑しておられます。


「盾の勇者様、今回の暗殺未遂……我等に任せてお怒りをお鎮めください」


 ですが、お義父さんは一歩も引きませんな。


「俺達に危害を加えない限りは怒らないように我慢してたんだよ? 四六時中、俺に縁談とか卑猥な事をしようとする子達にだって、出来る限り迷惑が掛らないようにそれとなく帰ってもらってた。シルトヴェルトは俺を受け入れてくれたからね? だけど、俺の一番近くに居る異性であるサクラちゃんを暗殺すれば近づけるとか安易な事を仕出かすような人が出てくるなら話は別でしょ?」


 とても早口でお義父さんは捲くし立てます。

 そうでしょうとも、敵に反撃する余裕など与えてはいけませんぞ。


「こっちだって発言には気を使っているんだけどその辺りちゃんと理解してくれてる? それともこう言えば良いのかな? 安易に俺に近づいて、周りに危害を加える様な奴は例えどんな奴であろうとも命を持ってその代価を……違うね。関係各所全て命を持って代償を支払えとでも言えば、こういう事態は収まるのかな?」

「そ、それは……どうか盾の勇者様! 落ちついてください」


 うろたえいている重鎮達にお義父さんは尚も続けますぞ。


「メルロマルクとの戦争よりもまずはこの腐った国の膿を最大限吐き出して、上手く回るようになる方が先なんじゃないかと……ここから出て大声で言い放ちながら道行く亜人に命令して良い?」

+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。