挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
盾の勇者の成り上がり 作者:アネコユサギ

外伝 槍の勇者のやり直し

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました
438/916

縁談

「さて、お風呂に行きますぞ!」


 シルトヴェルトの者が用意した浴場があるらしく、入る事にしましたぞ。

 今回もユキちゃん達の成長を影ながら覗きますぞ。

 そんなに日が経っていないので、ほとんど差は無いかもしれませんが、何を隠そうこの元康、フィロリアル様の成長ならばミリ単位で把握する事ができます。


 例えばフィーロたんは村で生活する様になってからお義父さんの配下である奴隷達のレベリングに付き合っている関係、戦う事が増えた為に若干戦いに必要な筋肉がスラリと成長しておりました。

 反復練習は重要である事を示しており、日々の繰り返しで元々強く美しいフィーロたんは更に強くなったのですぞ。

 そんな生活を続けていた影響か、羽根の艶も素晴らしく、非常に健康的な状態でした。


 さすがはお義父さん!

 フィロリアルマスターですな!


 そういう訳でフィロリアル様達は一日単位で目まぐるしい成長を遂げているのです。

 だから俺は機会さえあれば毎日の様に覗くのですぞ。

 などと考えながら城内を歩いているとサクラちゃんを連れたお義父さんがこちらに半裸で駆けて参りました。


「あ、元康くん!」

「どうしたのですかな?」

「風呂の準備が出来たから来てくれと言われて案内された豪華な風呂に女性が沢山集まってて俺に群がってきたんだ!」


 息も尽かせぬ焦りに満ちた言葉でお義父さんは辺りを警戒しながら俺の後ろに回り込みました。


「ありがとう、サクラちゃん」

「どういたしましてー」


 すると前方から大量の豚がやって来ました。

 あまりの臭さに鼻が曲がりそうです。

 しかも豚の中でも極度に臭い、腐臭が混ざっておりますな。

 ついさっきお義父さんと純潔の大切さを説いたばかり。

 この元康、豚を全て駆逐してみせますぞ!


「ブー!」

「ブブー!」


 などと考えていると豚共が親しげに詰め寄って来ますが、何を言っているか理解できませんな。


「悪いけど、まだそういう事を考える暇は無いから! 世界の為に戦わないといけないから!」


 と断り続けるお義父さんと、ブーブー騒ぐ豚。

 う……豚臭くて気持ち悪くなってきましたぞ。

 その中には、子犬が混じっておりますな。

 他にも豚以外の生き物が喋っておりますぞ。


「そうは言いましても盾の神様……私達は神様と愛を育みたいのです」

「だからー……君達は俺の事を何も知らないでしょ? いきなり混浴とかこっちが困るの!」


 パンと大きな音がしましたぞ。

 するとそこにはエクレアが眉を寄せて立っておりました。


「シルトヴェルトの姫君と貴族の令嬢諸君。悪いがイワタニ殿……盾の勇者殿は疲れているのだ。もう少し礼節を持って対応を願いたい」


 キッと剣の柄に手をかざしながら脅し気味にエクレアが告げる。

 すると豚共が騒ぎ始めましたぞ。


「だまらせますかな? いい加減豚臭いですぞ?」

「い!? 元康くんは何もしなくて良いからね? こんな所で暴れたらまた当ても無く逃げる羽目になっちゃうよ」

「キタムラ殿、すぐに静かにするから落ちついてくれ」


 エクレアが俺にそう言うとほぼ同時でしたかな?

 シルトヴェルト代表をしているシュサク種の者がやってきましたぞ。


「何を騒いでいるのです」

「風呂でこの女性たちが待ち構えていて、俺に詰め寄ってきたんだ」

「それはそれは、真に申し訳ありません。最大限のサービスを提供しようと様々な種族の美女達を派遣させたのですが盾の勇者様のお眼鏡に適うものはどうやらいなかったようですね」

「いや……そうじゃなくて……」


 コイツが黒幕か、と俺は思いましたぞ。

 お義父さんに豚や逸れに匹敵する獣を宛がうなど笑止千万!

 血祭りに上げて差し上げましょう。

 安心するといいですぞ。お義父さんの慈悲に免じて半殺しで許してあげましょう。

 と槍に手を伸ばすと慌てた様子でお義父さんが俺に言いました。


「元康くん落ちついて!」

「落ちついてますぞ!」


 お義父さんの命令は絶対ですが、猶予くらいは与えますぞ。

 エクレアの方に目を向けると、首を横に振りました。

 どうやらコヤツではないご様子。

 すると……コツコツと杖で地面をたたく様な音が聞こえてきましたな。

 振り返ると初老の男性が杖に手を乗せてゆっくりと歩いてきましたぞ。


「これは盾の勇者様、遠路遥々遠いメルロマルクから良くおいでなされた。お会いできて光栄の極み」

「はぁ……」

「して、此度の騒ぎはどんな出来事だったのですかな?」

「はい。どうやら盾の勇者であるイワタニ殿のお眼鏡に適いたいと同じ風呂に入りたいと言う者達が殺到したようでして……」


 エクレアが深く頭を下げながら事情を説明しましたな。


「ふむふむ、盾の勇者様が困っているようではありませんか。これ以上の接近は……我が国の教義に反すると思うのですが、どうなのですかな? シュサクの長よ」

「く……」


 シュサク種の者が悔しげに呻きましたぞ。


「ささ、うら若き乙女達よ。そのような醜態を晒さずに、礼節を持って盾の勇者様の相手をなさりませんと罰があたりますよ」


 これが鶴の一声となったのでしょう。豚共はゆっくりと立ち去って行ったのですぞ。


「それでは我等が城でごゆっくり……」


 シュサク種の者も立ち去りましたな。


「ありがとうございます」


 お義父さんがゲンム種の老人に礼を言いましたぞ。

 すると老人は気にしないようにと手を振りましたな。


「盾の勇者様相手に礼節を欠いた者達へ当たり前の助言をしたまで」

「エクレールさんもありがとう」

「気にしなくて良い。何だかんだで私はこの国で権力など無いのだ。だから頼れる方に逸早くコンタクトしたのだ」

「頼れる人なんだ?」

「頼られる程の権力など、私にはもう無いがのう……」

「何を言っておられるのですか、今回の出来事は貴方の言葉添えがあってこそではありませんか」

「ふむ……」


 ゆっくりとゲンム種の老人は自らの顎を撫でておりますぞ。


「盾の勇者様はこの国で何を成したいと思っておられるのですかな?」

「俺? 一応は召喚された理由である波と戦う事だけど……他に何かあるの?」

「理由は……わかると思いますのう」

「……ああ」


 お義父さんが何やら察しましたぞ?

 何でしょうかな?

 この元康、今一つピンときませんな。

 ユキちゃんはわかったようですが、コウとサクラちゃんは首を傾げてますぞ。


「何個かは想像できます。言葉には出来る限り注意します」

「なるほど、今回の盾の勇者様はご理解が早いご様子。同行している槍の勇者様もご注意してくださるとうれしいですのう」

「なんの事ですかな?」

「難しい国際問題に関わるかもしれないから発言には注意して話……例えば他国を攻めろとか言っちゃダメだし、頷くなって注意してくれてるんだよ」

「なるほど。わかりましたぞ」

「まあ、この国において槍の勇者様は盾の勇者様程の発言力はありませんが、注意はして頂きたい」


 色々と面倒なのですな。

 未来のお義父さんはこのような問題をくぐりぬけてきたのですかな?

 良くわかりませんな。


「こっちは俺を大事にしてくれるみたいだけど、肩が凝りそう……。早めに強くなる為の冒険に出た方がいいかもね」

「それがよろしいですかの。何なら孫娘を仲間として同行して頂くのも手ですかの」

「ご老公……」

「わかっておる。あくまで話……我が孫娘なら間違いなどせぬよ。アレは奥手であるしの」

「イワタニ殿、私はこれからご老公に協力を仰ぎ、メルロマルクの女王とコンタクトを取る。メルロマルクの暴走を私自身が止める手助けをしたいのだ」

「わかったよ。今までありがとう、エクレールさん」

「何、心配ない。全ての事が片付き……私の罪が許されたら、イワタニ殿とキタムラ殿に出来る限り協力しよう」

「うん、その時を待ってるから」

「ところでイワタニ殿……いい加減風呂に戻った方が良いと私は思うのだが」

「え? あ!」


 お義父さんは恥ずかしそうに、タオルで隠された腰に手を当てて、サクラちゃんと共にお風呂へ戻って行きましたぞ。


「まあ、しばらくの間は私もこの国に滞在するがキタムラ殿も注意していてくれ、何だかんだで三勇教は過激派であるが、シルトヴェルトも過激な国なのだ」

「わかりましたぞ」


 俺の敬礼に合わせてユキちゃんとコウも合わせて敬礼しましたぞ。

 風呂を終えて、食事になった時も、お義父さんの周りには豚が集まっておりましたな。

 さすがにお義父さんも困ったような表情を浮かべながら断ると、豚共が泣いてすがりつく場面がありましたが……気にしない方がよろしいですな。


 お義父さんは悶々と、顔色を青くさせて食事をしておられました。

 この国の料理は野生的ですぞ。

 豪快に豚型の魔物の丸焼きが出てまいりました。

 豚とは僅かに違うので、見分ける事は可能ですぞ。


 あ、生肉も出されましたが俺もお義父さん断りましたな。

 さすがの俺も生肉は食いたくありません。

 ですが、ユキちゃん達には大好評!

 凄く美味しそうに食べておりました。


 そのお顔を見て、俺は自然と笑みがこぼれたのですぞ。

+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。