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盾の勇者の成り上がり 作者:アネコユサギ

外伝 槍の勇者のやり直し

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運命の相手

「……中学生で一人暮らしって大丈夫だったの? 生活は元より、社会的にも」

「問題ありませんでしたな。近所の豚が毎朝起こしに来ましたし、地主の令嬢とか呼ばれていた豚が学校にも融通を聞かせてくれたのですぞ」

「へぇ~色々と凄いね。元康くんって実はギャルゲーの主人公とかだったりしない?」


 何かお義父さんの関心に触れたのですかな?

 興味深々な様子で俺を見てくださっております。

 未来のお義父さんでしたら、背筋がゾクッとするような鋭い眼光でこの元康を値踏みするかのように、フィーロたんに相応しいか鑑定してくださる所でしょう。


「でもそれだけ環境が整っていたのに進展とかしなかったの?」

「進展? 豚相手にですかな? 御冗談を」

「いや、個人的にその頃の元康くんに興味がね」

「上京して男を磨いてくると言ったらみんな笑顔で見送ってくれましたぞ」

「そ、そうなんだ?」


 まあ、それから二年以上距離を空けてしまった訳ですがな。

 思い起こせばなんだかんだで自分勝手な豚共でしたな。

 気にくわない事をするとすぐにムクれて、俺が機嫌取りをする事になるのですが、非常に大変でした。

 しかもすぐに解決できるような簡単な問題を深刻に捉えておりましたな。

 当事の俺はそれ等を必死に解決する事に尽力していました。

 なんであんな下らない事に労力を割いていたのか、今にして思うと不思議でしょうがありません。


 そうですな。

 精々豚共から教わって役に立った事と言えば、ネットゲーム位でしょうかね。

 これが無ければ俺はフィーロたんと出会う事ができなかったかもしれません。

 だから、その事だけは感謝してあげましょう。


「帰りたいとか思わないの?」

「微塵も思いませんな。どうせ私がいなくても私に似た誰かと仲良くやっているでしょう。豚とはそんな生き物なのです。私を失った悲しみを乗り越えてーとか抜かしているのではありませんかね?」

「……確かにそういう女の人は嫌だよね。でも元康くんって結構ドライな所もあるんだね」

「そうですかな? 豚との恋愛などそんなものでしょう」


 ですが、俺は違いますぞ。

 豚に現をぬかしていた俺は真の愛を知らずにいたのです。

 ああ、愛するというのはこんなにも晴れやかなのですな。


 相手が不機嫌にならない様に自分を取り繕うというのは時には必要でしょう。

 ですが、取り繕った自分ではいずれボロが出ますぞ。

 しかも豚は俺の顔が良いから付き合いたがっていたのは明白な事実。

 耳触りの良い事を囁けば大抵の豚は俺を容易く信用いたします。


 だけどフィーロたんは俺の顔など全く気にも留めずに、俺を正してくれた希少な存在なのですぞ。

 あそこまで俺に意識をせずに、励ましてくれたのはフィーロたん以外おりません。

 豚は俺の弱みに付け込んで、他の豚から一歩リードしようと致します。


 そんな下心はフィーロたんからは全く感じなかったのです。

 ですからこの元康、フィーロたんとフィロリアル様一筋と心に決めたのですぞ。


「まあ……って、また話が脱線したね。もう一度戻すよ。だからシルトヴェルトって国は勇者をどんな扱いにするか考えて用心しようと思っているんだ」


 なんと、さすがお義父さん。

 俺の知るお義父さんは石橋を叩き割ってでも念には念を入れるような慎重な時と、肉を切らせて骨を断つような大胆さがありました。

 荒波に揉まれて目つきが厳しくなる前から用心深さを所持しているその御姿に、この元康感激して涙があふれてきますぞ。


「なんで泣き始めるの元康くん? 人の話聞いてた?」

「モトヤスどうしたの?」

「大丈夫ですぞ。俺は用心深いお義父さんに感激しているだけですぞ」

「なんか馬鹿にされている様に感じるんだけど気のせい?」

「滅相もありませんぞ」

「……まあ元康くんの場合、本当にそう思ってるんだろうけどね」


 お義父さんが深いため息をしますな。


「差し当たってありそうなのはエクレールさんと旅の間に話した。シルトヴェルトの人と婚姻を結ばれるとかかな」


 ありえなくはありませんな。

 俺も召喚された頃には色々と縁談が来ましたぞ。

 その頃の俺も槍の勇者というだけで股を開く豚に不快感を持ちましたな。

 全て赤豚が追い返しておりましたが。


 あの頃の俺は信頼する仲間である豚達と肉体関係を持ちたいと、思っておりましたからな。

 後はライトな関係でハーレムを夢見ていましたな。

 ナンパは男の甲斐性だと信じておりましたぞ。

 世界を救った暁には世界中の豚は全て俺の物だくらいの……吐き気を催す夢を見ていました。

 う……豚の事ばかり考えていて気持ち悪くなってきました。


「元康くん、コロコロと表情変えるのやめて。話すこっちが不安になるから」

「わかりましたぞ」


 なーんにも考えず、お義父さんの話を聞きましょう。

 そう、いつもの様に。


「差し当たって、明日辺りから縁談とか会談とか会食とかに呼ばれるようになるんじゃないかとかね。世界を救う為に召喚されたのに、種馬扱いされそうでさ……まあ、俺も童貞だし、一回くらいは経験してみたいんだけど」


 なーんにも考えておりませんぞ。


「元康くん、聞いてる?」


 ぼー……。


「元康くん!」

「なんですかな?」

「話聞いてないなら帰るけど?」

「聞いてましたぞ。ですがお義父さんが表情を変えるなと言うから何も考えずにいたのですぞ」

「……」


 ふむ、どうやらお義父さんは童貞を恥ずかしいと思っているようですな。


「では先ほどの相談ですな。童貞というのは清き事なのです。豚に捧げてはいけません。私は今でも思い出すだけで悪寒がしますぞ。初経験が豚なんて反吐が出ます」

「うわー……これほど相談した相手を間違えたと思った事は無いよ、元康くん」

「褒め言葉ですな。ありがとうございます!」

「褒めてないよ! で……こう、俺に運命の相手とかいるなら元康くんは知ってるかな? とか思ってさ」


 運命の相手ですか。

 最初に上がるのはフィーロたんのお姉さんですな。

 後はお姉さんのお姉さんも候補だったのかもしれません。


 俺としてもフィーロたんとお義父さんが近親相姦の禁忌に走るのだけは阻止しなければなりません。

 そう考えると一番妥当なのはフィーロたんのお姉さんでしょうか。

 ですが、お姉さんとお義父さんは随分長い間一緒に居たのにそういう話をまるで聞きませんでしたな。

 というのも以前、村で生活していた頃にフィロリアル様達が話していたのですが……。


「未来のお義父さんは……確か男性と寝ていたと聞きましたぞ」

「え!?」


 お義父さんの顔が引きつりますぞ。

 確かそうですぞ。

 お義父さんは確か……女性と寝るのが嫌でフィーロたんや村の奴隷達に見張りを立てて男と寝ていたと思いますぞ。

 あのハクコ種の男です。


「未来の俺って、裏切られた所為で男色家になっちゃったの?」

「確か……白い虎男になる奴隷だったと思いますぞ」


 フィロリアル様達がおっしゃっていたのを覚えております。

 お義父さんが男性と一緒に寝てるのを聞いたと。

 その頃はお義父さんに命じられて色々な事をしておりましたから、お義父さんが誰と関係を持っていたのか……良く知らないのですぞ。


「いやだ……男とヤルなんてイヤだ……」


 お義父さんが頭を抱えて悩み始めましたぞ。

 よく考えればお姉さんはお義父さんにとって恋人ではなかったのかもしれません。

 お姉さんもお義父さんの娘のような間柄でしたからそのような関係では無かったかと思います。

 難しい問題ですな。


「とにかく、私は声高々に言いますぞ。童貞と処女は等しいものですぞ。むやみに捨ててはいけませんぞ」

「そういうモノ?」

「童貞はステータスですぞ!」

「初めて聞いたよ、そんな台詞!」


 お義父さんが項垂れます。

 何をそんなに悲しんでおられるのでしょうか。

 童貞は一度しか失う事ができない尊い物です。

 処女の様に明確な証が出る事はありませんが、心にしっかりと刻まれるのですぞ。

 つまり運命の相手に自分は清い身体の持ち主だと胸を張って言える証なのです。


 そもそも処女だけが特別とされるのが気に食わないですな。

 社会的にも処女雪なる言葉などがありますが、何故童貞雪はないのか疑問ですぞ。

 ともかく、この元康が一生取り戻す事のできない、フィーロたんに捧げたかった純潔の話です。


「元康くんに相談したのが間違いだったよ……」

「何を言うのですかな。大事な事ですぞ。下手に豚とやって性病に掛ったらどうするのですか? 童貞と性病を天秤に掛けたら童貞が良いに決まっているではありませんか」

「そこは……処女とか?」

「この世界で初めて関係を持った豚は処女を偽装していましたぞ」

「そんな事まで出来るの!? うう……わかったよ。男は嫌だけど、出来る限り縁談の話は避けてみるよ」


 お義父さんは疲れた様子でとぼとぼとサクラちゃんを連れて出て行かれましたぞ。

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