紅白が終わると息つく暇もなく、ライブの前半戦がスタート。カウントダウンの生中継が始まる午後11時45分の直前まで、Perfumeは通常のツアーとは異なる曲を交えながら歌い踊り、会場を盛り上げた。その間、ライゾマのメンバーは紅白、ライブ、そしてカウントダウンと全てのデジタル演出に関わっている。NTTグループの人たちは、間もなくやって来るカウントダウンまでの時間をハラハラしながら待っている。

 2019年に全員30歳になるPerfumeの3人は、平成最後の大みそかのラストソングとして、デビュー初期のヒット曲「ポリリズム」を歌った。ここでいったんライブは中断。カウントダウンの生中継に向けて準備に入った。

Perfumeの腕の動きで、観客のLEDライトの色が変化

 横浜と渋谷の光の共有は、会場に詰めかけたPerfumeファンの協力が欠かせない。ここからはPerfumeの3人がファンに直接語りかけ、フリフラを使った光の演出の用意が始まった。

 カウントダウン中継の見せ場は、1万2000人のファンが持つフリフラと、渋谷交差点の観客が身に着けた腕輪をリアルタイムに同期させて、光を共有することだ。しかも光の色のコントロールを、Perfumeの3人がするのが肝である。彼女たちはそれぞれ右腕に白いデバイスを巻いている。腕を振るとその動きに応じて、フリフラやPixMobの色が変わる仕組みになっている。このPerfume向けのデバイスは「我々が手作りした」(ライゾマの石橋素氏)。

 3人の腕に巻いたデバイスにはそれぞれ、色の3原色(RGB=赤・緑・青)が割り当てられている。3人の腕の振りや体の動きに応じて色が混じり合い、LEDライトの光がさまざまなカラーに変化する。この体験はかなり斬新、かつ美しい。「光の無線制御が我々の腕の見せどころだった」(真鍋氏)。というのも、ソフトウエア上では何度も光のシミュレーションを重ねてきたが、1万2000人のファンが実際にフリフラを持った状態になるのは当日が初めて。ライゾマの担当者さえ、一度も経験していない。まさにぶっつけ本番だ。

 Perfumeの3人は自分たちの腕の振り具合で、会場のフリフラの色が変わるのをステージ上で面白がっていた。自ら楽しんで腕を動かしている。こうしたアーティストとのインタラクティブな交流は、ファンにとってかけがえのない体験になる。みんな大喜び。しかもこの光、つまり光に変換したPerfumeの体の動きまで渋谷に遅延なく届けるのである。

 渋谷は場所が離れているだけでなく、配布しているデバイスが横浜とは異なる。しかも観客は自由に動き回るし、「光は肉眼で見たときと映像で見たときとでは微妙に違って見えるので、本番中に光の微調整が必要だった」(真鍋氏)という。非常に細かいことだが、そうした作業の積み重ねが離れた場所をつないだ光の演出や、2つの場所のライブ映像のデジタル合成を可能にしている。

 横浜アリーナのモニターには随時、渋谷の様子が映し出される。その間、生の映像や音声、光のデータが横浜と渋谷を遅延なく行き来している。幸い、大きなミスもなく、光の演出は成功した。

 観客にも筆者にも分からないことだが、横浜にいるライゾマの担当者らが身に着けていたインカムの音声も、5Gで渋谷とつながっていたという。重たいライブ映像と音声に加えて、光の演出データを渋谷に伝送しつつ、その状況をスタッフはインカムで確かめ合いながら作業を進めていた。「インカムの声がスマホで話すよりも早くクリアに聴こえるので、渋谷にいる同僚がすぐ隣にいるような感じで作業できたのには驚いた」(石橋氏)。

 午後11時45分。いよいよ、世界に向けてカウントダウンの生中継がスタート。0時までの15分間はPerfumeと観客のおしゃべりタイムになっていた。横浜アリーナのファンはもちろん、渋谷に集まった約2000人の観客や、スマホで生配信を見ている人たちに向けて、Perfumeが語りかけていた。その間、Perfumeの腕の動きに合わせて光が変化し、渋谷にも同時に伝わっているのが横浜のモニターで見ていて分かる。

 真鍋氏によれば、5Gを含むネットワーク部分はNTTグループにお任せだったという。光が遅延なく、横浜にいるPerfumeの右腕から横浜アリーナと渋谷交差点に瞬時に伝わっていくのを目の当たりにして、「今後は腕輪だけでなく、渋谷交差点全体を光でジャックするといったことも、5GとIoT(インターネット・オブ・シングズ)が普及すれば、離れた場所からでも可能になることを証明できたように感じた。スケールできる可能性は非常に大きい」(真鍋氏)。

カウントダウンの様子をスマホなどに生配信
(出所:NTTドコモ)
[画像のクリックで拡大表示]
カウントダウン直前の渋谷のサテライト会場。この日のために設置した大型スクリーンに、横浜アリーナにいるPerfumeの生中継が映し出された。約2000人の観客には光る腕輪(PixMob)を配布し、横浜と渋谷で光を共有
(出所:NTTドコモ)
[画像のクリックで拡大表示]

 そうこうしているうちに、カウントダウンの始まり。10、9、8、7・・・とみんなが声を上げ始めると、横浜アリーナ全体のフリフラがまるで1つの照明のようになって、カウントダウンの数字を大きく会場に浮かび上がらせるように光り出した。これはライゾマがフリフラを無線制御して実現しているものだ。そして3、2、1、ハッピーニューイヤーとなった。