<この記事を要約すると>

  • 安全・安定輸送を絶えず支えるため、東海道新幹線のメンテナンスは非常に重要な工程
  • JR東海の浜松工場では、社員の安全と効率化を両立するために、新幹線初の「先頭車研ぎ装置」を導入
  • 導入により現場作業の環境改善と大幅な作業時間の短縮を実現、パナソニックの高い技術が評価された
  • 初めての挑戦で繰り返された試行錯誤、開発の裏側に込めた思いとは?

日本の技術力の結晶ともいえる東海道新幹線。安全・安定輸送を絶えず支えるため、新幹線車両のメンテナンスもまた非常に重要な工程である。中でも先頭車の研ぎ作業は、車体が高度な計算で作られた流線型であるため、メンテナンス作業は難易度が高く、手が届きにくい箇所は不安定な作業でもあった。そこでJR東海では新幹線で初めて先頭車の車体表面を自動で研ぐ「先頭車研ぎ装置」を浜松工場で採用した。きめ細やかさが求められる作業の自動化は、どのようにして生まれたのか。

日本の大動脈を走る東海道新幹線に欠かせないメンテナンス

今から約55年前、東京オリンピックの開幕直前に運行を開始した東海道新幹線。日本の高度経済成長の象徴とも言える高速鉄道はこの半世紀の間、時代とともに進化を重ねてきた。

2度目の東京オリンピックを目前に控えたいま、東海道新幹線の1日あたりの列車本数は平均368本(2017年度実績)。数分に1本の割合で運行され、旅行客やビジネスパーソンらにとって重要な輸送手段としてすっかり定着した。しかもほぼ遅延がないことで世界的にも知られ、快適な移動を乗客に提供している。「N700系」は、2007年7月から運行を開始。2013年2月には安全性と信頼性をさらに向上させたN700Aが登場。「N700系・N700A」は現在の主力車両となっている。2015年には最高時速を285kmへと引き上げて東京・新大阪間の所要時間を3分短縮するなど、さらなる高速化を実現した。

2007年7月から運行を開始した「N700系」。今では東海道新幹線の主力車両となっている(提供:JR東海)

これだけのスピードで日本の大動脈を行き来するため、徹底したメンテナンスが必要となる。何よりも乗客の安全が第一だからだ。東海道新幹線を運営する東海旅客鉄道株式会社(以下JR東海)では、同社 浜松工場で新幹線車両の全般検査(オーバーホール)を実施。主要部品を取り外し、各機器・部品の細部にわたって検査・修繕(検修)を行う。

メンテナンスの周期は36カ月ないしは120万kmを超えない期間のいずれかと定められている。2018年11月30日現在、JR東海が保有する新幹線は133編成(1編成あたり16両)で、そのうち「N700系・N700A」が123編成と9割以上を占める。

工場リニューアルがきっかけ、まずは社員の安全を優先

2010年夏、JR東海では浜松工場のリニューアル工事に着手。浜松工場は大正元年(1912年)に創立された古い施設であり、発表では耐震性の高い建物への建て替え、補強の方針が示された。これは大規模な地震が発生した場合でも円滑な全般検査を維持するためだ。

リニューアルしたJR東海 浜松工場(提供:JR東海)

1世紀ぶりのリニューアルとなったこのタイミングでは、同時に「最新機器の導入による効率化」を掲げた。その一環として計画されたのが、今回紹介する「先頭車研ぎ装置」である。JR東海の村松寿則氏は「リニューアルに際して、工場内のいわゆる“3K作業”を見直すことになりました」と、その意図を説明する。

そもそも、なぜ車体を研ぐ必要があるのか。この疑問に対して、村松氏は次のように解説してくれた。

「入場した新幹線は、浜松工場で車体の色をすべて塗り替える全塗装を施します。ほぼ毎日、走行しているため、車体が汚れて色が黄ばんだり、くすんだりしてきます。お客様に快適にご利用していただくために、我々はきれいな車両を提供したいと考えており、定期的な外板の清掃などに取り組んでいます。全般検査においては、車体の色を全て塗り替えていますが、塗装の前段階で塗料を車体に付着しやすくして剥がれないようにするために、表面を少しだけ研いで適度に粗くする必要があるのです」

東海旅客鉄道株式会社 浜松工場
設備科 助役
村松 寿則氏

この工程は塗装の専門用語で“足付け”と呼ばれるが、これは初代新幹線車両の0系の時代から行ってきた作業だ。それこそ国鉄時代には塗装に特化した部署もあったほど高度な技術を要する。その一方で、「N700系・N700A」の先頭車は複雑な流線型をしているため足場が不安定にならざるを得ない箇所があり、また研ぎによる粉塵が発生したり、夏場は高温になったりするなど、人力での作業には作業者の負荷がかかっていた。「効率化もありますが、まずは社員の更なる安全作業の実現を第一と考え、先頭車の研ぎ作業を機械に置き換えられないか?との思いからプロジェクトがスタートしました」(村松氏)

先頭車研ぎ装置の開発の打診を受けたのは、パナソニック環境エンジニアリング(以下、パナソニック)だった。担当者である同社の植田俊一氏は「話をいただいたときは新幹線に関する実績はほぼゼロ。当社にとってもこの領域に関しては初めての挑戦でした」と語る。

パナソニック環境エンジニアリング株式会社
生産環境エンジニアリングユニット
SEグループ 中部セクション 主事
植田 俊一氏