JFEホールディングス(HD)が経営体制を刷新する。1日、傘下の製鉄事業会社、JFEスチールの柿木厚司社長(65)が4月1日付でHD社長に就き、柿木氏の後任に技術畑出身の北野嘉久副社長(60)が就く人事を発表した。背景の一つにあるのが国内製鉄所で相次ぐ設備トラブルだ。技術に精通した北野氏の手腕を生かし、国内事業の立て直しを急ぐ。
「製造基盤の整備をどうするかが最大の課題だ」(JFEスチールの柿木社長)、「課題は安定操業と安定生産。顧客に信頼されるような製鉄所にしていきたい」(北野副社長)。1日、新たな経営体制を担う両トップが繰り返した言葉は「安定」と「生産」。高炉の停止などで高まる不安を払拭しようと、自然に口をついて出た。
国内の製鉄所ではトラブルがとまらない。背景として指摘されているのが、製造設備を熟知したベテラン社員の大量退職だ。熟練工が減ったことで日常的な設備の運転でも以前よりもトラブルが増えたとされる。主要顧客の自動車会社からの品質への要求が年々強まっていることも大きい。人材や費用の配分で製造現場へのしわ寄せとなっている可能性はある。
実際にJFEは1日、停止した2カ所の製鉄所の高炉に加え、新たに主力の西日本製鉄所福山地区(広島県福山市)の高炉が停止したと発表。国内に4カ所ある主力製鉄所のうち、3カ所の高炉で同時にトラブルが起きる異例の事態にある。一連の減産に伴う2019年3月期の減産規模は前期の同社の国内粗鋼生産量の5%に相当する。
復旧が遅れる西日本製鉄所倉敷地区(岡山県倉敷市)の高炉は既に3カ月以上止まったままだ。国内の鉄鋼需要が好調ななか、自動車や建設など幅広い産業への影響が長期化しかねない状況だ。
今回、中核の製鉄事業会社のトップには北野氏が就く。技術畑の社長が就任するのは3代ぶりで、製造現場立て直しに対する同社の危機感の表れとみることもできる。
今回、HD社長を退く林田英治社長(68)は「操業上のトラブルと人事は直接関係ない」と強調した。ただ、HDの社長は歴代、製鉄事業会社の社長経験者が就いており、任期も5年間のケースが多かった。今回は1年前倒しと異例のタイミングでの交代となり、事態の収拾を図らざるを得なかった意図が見え隠れする。
JFEスチール社長に就く北野氏は「働き方や安全活動に最新のIT(情報技術)が重要で、注力したい」と強調した。北野氏はJFEスチールが進める製鉄所への人工知能(AI)活用などIT導入を主導しており、手腕を生かす。
一方で人事畑が長い柿木氏は人材育成に精通する。HDトップとしてグループ経営のかじ取りを担う一方で、製鉄所で増加する作業経験の少ない若手の育成など技術継承の課題に取り組む。
老朽化する設備のトラブルやままならない技術継承などは、JFEに限った話ではない。競合する国内首位の新日鉄住金や素材メーカーでも、製造現場での混乱は広がっている。
世界の鉄鋼生産の5割を握る中国勢や韓国勢が躍進。18年の主要生産国ではインドが初めて日本を抜いて2位となった。グローバル競争はより激しくなっている。新日鉄住金は4月に日本製鉄に社名を変更し、国内のグループ再編に動く一方で、欧州やインドの鉄鋼大手の買収で海外事業の加速に動き出した。国内の生産拠点のメンテナンスに加え、海外にも経営資源を振り向けざるを得ない状況にある。
JFEスチールの世界市場でのシェア(17年、粗鋼生産ベース)は約2%で世界8位。生き残りには海外展開は必要だが、お膝元の製造現場の立て直しを急がなければ、競争力の足かせとなる。
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JFEHDは1日、19年3月期の連結経常利益が前期比2%増の2200億円になりそうだと発表した。16%増の2500億円とした従来予想を引き下げた。下方修正は18年10月に続いて今期2度目で、18年7月の予想に比べて400億円の引き下げになる。
売上高は6%増の3兆9000億円と、従来予想(9%増の4兆円)から引き下げた。減産に伴い、売上高も減少する。(川上梓、白壁達久)