第十四話:転生王子の新兵器
ヒバナが負けた。
それも容赦なく。
ヒバナが気持ちの整理をつけるのを待って、工房へと連れてくる。
目的はもちろん、ヒバナとタクム兄さんの差を埋める武器を作るため。
ヒバナの目には泣いたあとが残っていた。よほど悔しかったのだろう。
「ヒバナ、今日負けるのは織り込み済みだ。どれだけタクム兄さんと距離があるかわかっただけでも成果は十分あったよ」
「……そうね、ただ、思っていたよりずっと距離があった。あんなハンデをつけられたのに、手も足も出なかった。自信を無くすわ」
こんな弱気なヒバナを見るのは初めてだ。
「なんだ、その弱気は。さっきの強くなる、もう二度と無様な姿はみせないというのは嘘だったのか」
「意地悪なことをいうのね。いつかは必ず追いつく。だけど、一週間後、どれだけ下駄を履いても勝てる気がしないの。だって、いくら強い剣をもらったところで、私はあの人と打ち合うことすらできなかったもの」
剣の性能というのは、いわば軽さ、切れ味、頑強さ、破壊力。
大よそ四点に集約される。
ヒバナに与えている剣は、軽さと切れ味を追求した剣。
これ以上、軽くすることはできないし、今の切れ味でも受けた剣を両断するだけの性能はあり、それ以上は不要。
そして、ヒバナのスタイルを考えると頑強さと破壊力は必要ない。
つまるところ、剣において言えば、これ以上の改善に意味はない。
なら、することは一つ。
「剣以外を強化する。具体的には動体視力と反射神経を強化する防具を作る」
動体視力と反射神経。
そいつを強化するための道具を錬金術を用いれば作れる。
「動体視力と反射神経なんて、そんなもの防具でなんとかなるの?」
「なる。ただ、体への負担は大きい。三分程度が限界だ」
「三分。剣士同士の戦いなら十分すぎる時間ね」
ただ勝つだけなら、こんな回りくどいものはいらない。
ぶっちゃけた話、銃を作ろうと思えば俺は作れる。
いくらタクム兄さんが化け物でも、至近距離から音速を超える弾丸を広範囲にぶちまける強力な
……いや、あの人の場合、
それでも、少なくとも初見では通用する。
しかし、そんなものを使って勝ったところで意味はない。
剣士としてヒバナが勝つ必要がある。
「それがあればヒバナはタクム兄さんに追いつける。タクム兄さんはヒバナのことを褒めていたよ。筋がいいってね。それから弱点も教えてもらった」
ここだけの話とは言われていたが、あの口ぶり、俺がヒバナに漏らすことを想定している。
むしろ、自分で直接言うより、俺から聞かせたほうがいいと思って、タクム兄さんはあんな芝居を打ったのだ。
あの人のことはだいたいわかる。
「……わかってるわ。いえ、わからされた。私に弱点をわからせるようにあの人は戦ったの。私の剣は独りよがりだったわ。私の信じる最強を、私が鍛え上げた技を、振るっていれば負けないって、相手なんてどうでもよくて、私が私の剣を振るって気持ちよくなっていただけ」
さすがはヒバナだ。
何も言わずとも自らの弱点に気付いたらしい。
むしろ、この場合は徹底的にその弱点をついたタクム兄さんがすごいのか。
いや、きっと両方だ。
「弱点がわかったら直せばいい。錬金術と一緒だ。試して、弱点を洗い出して、改善して、それからまた試して、弱点を洗い出して、改善して、それを繰り返しながら、どんどん理想に近づけていく。弱点を見つけられたことは喜ぶべきだよ」
「そうね、そうだったわね。これでまた私は強くなる」
ヒバナが笑う。
やっぱり、ヒバナの笑顔はきれいだ。
「これから、相手を見ることにしたんなら、動体視力と反射神経の強化は都合がいい。良く見える目は相手の動きを余さず捕らえ、反射神経があれば、相手の動きを見る時間が増える」
これを俺は後だしの権利と言っている。
わずか、コンマ数秒。
だけど、そのコンマ数秒があるおかげで、相手の行動を見たうえで適切な返し手を打てるのは非常に大きい。
もともと近接戦闘なんていうのは、一秒にも満たない刹那の時間の奪い合いなのだ。
「いいわね、それ、明日からの訓練でも使いたいわ。新兵器に慣れたいし、タクム王子の動きを徹底的に見たいの。今のままじゃ、目で追い切ることすら怪しいし」
戦略的な意味でいえば、本番前に切り札を晒すなんて愚かだ。
それはヒバナもわかっている。
けどわかったうえで、ヒバナは勝利よりもより強くなることを選んだ。
なら、それを協力してやりたい。
「さすがに俺も一日じゃ作れない。二日ほしい。今日はデータとりだ」
「データ? 身長や体型かしら?」
「それだけじゃない。どうやって、動体視力と反射神経を強化をするかだが……口でいうより、体でわからせたほうが速いな」
「エッチなことをするのかしら?」
「するか! ……いや、しないといけないか。とにかく手を出せ」
「別に照れなくていいわ。別にヒーロにならされてもいいもの」
余裕があるのが少し悔しい。
ヒバナの手を掴み、錬金魔術を使う。
すると……。
「ひゃんっ!?」
びくんっと背筋をのけぞらせ、ヒバナが可愛い声をあげる。
「ヒーロ、何を笑っているの?」
すごんでいるが、赤くなった顔ですごんでも怖くない。
「いや、可愛い声だと思ってな」
ヒバナがこんな声をあげるとはびっくりだ。
エッチなことをしないといけないと言ってもまったく動じなかったヒバナが可愛い声を聴かれただけで取り乱すがの面白い。
「……いい加減にしないと怒るわよ」
「悪い」
「今の何かしら?」
「電気というものがある。思考というのはこの電気のやり取り、それだけじゃない、人間の体はな、全身に神経というものがあって、電気が流れているんだ。その電気に反応して筋肉が動く。だから、電気を意図的に生み出せば、筋肉を自在に動かせる。こういうふうにね」
そう言いながら、電気を流すとヒバナの意思に関係なく、右腕が上がった。
次は、あらかじめ予測していたのか可愛い声を出すことはなかった。
「……勝手に体が動くのは気持ち悪いわね。その新しい武器は電気を使うのかしら?」
「その通りだ。脳を流れる電気を操作することでクロックアップ……処理速度を向上させれば動体視力が上昇するし、筋肉への伝達を強くしたり加速することで反射神経は跳ね上がる。そういう効果を持たせたインナーをつくるつもりだ」
強化スーツというべきもの。
……実は、もうこれは一度作ったことがある。
俺用だ。
純粋な戦闘力の底上げは必要だと思っていたので作った。
汎用性があり、とりあえず身に着けておけばいいものだ。
「楽しみね。それが、どうしてエッチなことに繋がるのかしら?」
「電気信号を伝達する神経には個人差が大きくてな。どれだけ強く、どれだけ速く、電気を流していいのか調べないといけない。だから、体の隅々まで電気を流しながらチェックしていく。電気を流すためには、直接肌に触れないといけないのもある」
服をかませると精度が著しく減少して望むデータはとれない。邪な気持ちはないが、際どいところに触れながら電気を流す必要もある。
「そう、なら仕方ないわね。お願いがあるの、データを取るのは食事をして、体を清めてからにしていいかしら」
「理由を聞いていいか」
「女の子には準備があるの。好きな人に見られるまえに、綺麗にしたいものよ」
そういうものか、それは男である俺にはわからないことだ。
それに、食事の後というのはちょうどいい。
別件の約束があったことを思い出した。
「前に、会わせたい人がいると言ったのを覚えているか」
「ええ、覚えているわ。美味しいパンを焼いてくれた人ね」
「その人と食事の約束をしている。ヒバナも一緒に食事をしよう」
兄たちの説得をする際に、パンを焼いてくれた彼女をヒバナに会わせよう。
彼女もこの国を救うための大事な力になる。
仲間なのだから、早めに会ったほうがいい。
「わかったわ。ヒーロが気に入っている人だもの、会うのが楽しみよ」
「気に入ってるなんて言ったか?」
「言わなくても、声音でわかるの。その人のことを話すとき、ヒーロが嬉しそうにしているもの」
気付かなかった。
確かに彼女のことは嫌いじゃない。
いや、むしろ好きだ。
さあ、行こう。
俺も腹が減った。わざわざ、彼女が食事に誘ってくれたんだ。
きっと、面白いものが食べられるだろう。
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