ハーバービジネスオンラインに牧田寛氏によるレーダー照射事件に関する一連の記事が掲載されました。
牧田氏はコロラド博士、コロラド先生などと呼ばれているようです。
これらの記事はYahoo等、他の大手メディアにも配信されましたから、目にした方も多いことでしょう。
牧田氏は一連の記事で、韓国側の主張は最初から一貫しており、二転三転したという話は日本側のフェイクニュースであると主張しています。
はたしてそれは本当でしょうか?
”偽図”の出処は?
牧田寛氏は日韓「レーダー照射問題」、膠着状態を生み、問題解決を阻む誤情報やフェイクニュースの中で、
これまでに日本側で垂れ流された大量の誤情報や出所の怪しい情報によって日本側報道は惨憺たる状態であり、そのような低質の報道が大量に流れているというのは極めて憂慮すべきことです。
と述べた後、当初日本側で出回った”偽図”なるものをとりあげています。
しかしこれは、韓国メディアの朝鮮日報が12月22日に配信したものです。
牧田氏は
これらの偽図は、年が変わる頃にあらかた消え失せている
と述べていますが、朝鮮日報は1月21日に配信したハングル版の記事でも、その地図を再掲載していました。
つまり1ヶ月経過した後も”フェイクニュース”が韓国で垂れ流されていることになります。
日韓当局はともに正確な場所を公表していませんし、争ってもいないので、推定するしかない図を"フェイク"とすることにさしたる意味はないと思われますが、いずれにせよこの図は日本側が作ったものではありません。
「海が荒れていた」はフェイクニュース?
牧田寛氏はレーダー照射問題、韓国国防部ブリーフィング全文訳からわかる、日本に跋扈するデマの「曲解の手法」と題する記事で、「海が荒れていた」という説明は、日本のフェイクニュースであると訴えます。
波が多く気象がよくない時、先ほどおっしゃった探索および射撃統制レーダーを運用することになるでしょう。
このやり取りを見る限り、「波が多く気象がよくない時」という国防部側が記者の質問へ答えるために例示したたとえであってインシデント発生当時の状況を言ったものではないことがわかります。日本のフェイクニュース流布者はここをつまみ食いしています。
しかしこの国防部のブリーフィングがあった12月24日より前に、韓国メディアは以下のように報道していました。
「韓国軍関係者は『当時、波が高く気象条件が良くなく、駆逐艦のすべてのレーダーを総動員していた』(略)と話した。」(ハンギョレ12/21)
つまり「波が高く気象が良くなかった」は12月24日の国防部の応答をつまみ食いしたものではなく、それ以前に韓国メディアが報じた内容がそのまま日本に伝わったに過ぎません。
「すべてのレーダーを稼働」と報じた韓国メディア
牧田寛氏は同じ記事でこう続けます。
「任務によっては、あるいは波が多く気象がよくない時、先ほどおっしゃった探索および射撃統制レーダーを運用することになるでしょう。」という部分をチェリー・ピッキングすることにより韓国側がSTIR-180を使ったかのような混乱を創り出されています。
日本側に「当初韓国は認めた」という認識があるのは、この12月24日の国防部の答弁をチェリー・ピッキングしたからではなく、それ以前に(上のハンギョレにも出てきたように)「すべてのレーダーを稼働」と主要韓国メディアが報じていたからです。
韓国海軍の艦艇が20日、東海上で漂流していた北朝鮮漁船を救助する際に火器管制レーダーを作動し、このレーダーが日本自衛隊の海上哨戒機に照射されたことが22日、分かった。
韓国軍の消息筋は(略)「出動した駆逐艦は遭難した北の船舶を迅速に見つけるため火器管制レーダーを含むすべてのレーダーを稼働し、この際、近くの上空を飛行していた日本の海上哨戒機に照射された」と説明した。(聯合ニュース12/22)
以下の別の方によるまとめを見れば、他にも数多くの韓国メディアが12月24日までは一様に「すべてのレーダー」と報道をしていたことが分かるでしょう。togetter.com
「火器管制レーダーを含むすべてのレーダー」ですから、MW-08は含まれるが、STIR-180は含まれないという理屈は通用しません。仮にそれが言葉の綾のようなものだったとしても、「STIR-180を使ったかのような混乱を創り出した」のは韓国側の報道であって、日本側ではありません。
牧田氏は韓国側が初めから一貫している根拠として、聯合ニュースの12月21日と23日の記事を引用していますが、「すべてのレーダー」という表現が現れた22日の記事は引用していません。これはチェリー・ピッキングとは言わないのでしょうか?
よくある反論「韓国メディアの報道は公式ではない」
牧田寛氏の記事はネット上でも議論を巻き起こしました。牧田氏の賛同者の間では、上述のような「韓国メディアの報道」という反証に対し、「それらは報道であって公式発表ではない」「韓国軍の”関係者”や”消息筋”は国防部ではない」「公式は一貫している」といった反論が見受けられました。
一見もっともらしく聞こえる意見ではありますが、これはダブルスタンダードと言わざるをえません。牧田氏の論考は12月24日の国防部ブリーフィング以降のみを対象としたものではないからです。牧田氏はそれ以前の報道である聯合ニュース12月21日と23日を引用した上で、このように述べています。
この報道では(略)実際にはMW-08を使っており、STIR-180は電波を発していないと具体的に機種名まで示しています。(略)韓国側の説明は、「MW-08を運用していたが、STIR-180は運用していない」という主張で一貫しています。(太字は当ブログによる)https://hbol.jp/183842
つまり「12月24日から」ではなく「当初の報道から」韓国側の説明は一貫しているというのが牧田氏の主張ですから、一貫性のない韓国メディアの報道を示すことはその反証となります。
また、韓国の記者は国防部から携帯電話の文字メッセージで報道内容を受け取っていたことが明らかになっています。
国防部も担当記者団の携帯電話に文字メッセージを送り、「わが軍は正常な作戦活動中にレーダーを運用したが、日本海上哨戒機を追跡する目的で運用した事実はない」と明らかにした。(中央日報12/22)
東亜日報は「火器レーダーを含む全てのレーダー」という情報が国防部から出たことを明言しています。
韓国国防部が日本側の抗議を受け、21日に「韓国海軍の駆逐艦が北朝鮮船舶を探索するために火器レーダーを含む全てのレーダーを総動員した。通常の作戦活動だった」と経緯を説明した(東亜日報12/24)
中央日報は「すべてのレーダー」という言葉が韓国政府から公式・非公式的に伝えられたと報じています。
韓国政府は岩屋防衛相の発表の前後、公式・非公式的に「遭難した北朝鮮船舶を速やかに捜索するためにすべてのレーダーを稼働し、近隣上空を飛行していた日本海上哨戒機にも照射することになった」という説明を伝えた(中央日報12/24)
このように12月24日以前の情報も国防部や韓国政府から出たものであり、それらを韓国メディアの想像の産物とすることはできません。
韓国での認識
東亜日報の社説は、「海上の気象状態が悪く」「火器レーダーまで総動員」し「哨戒機にも照射された」のが韓国側の説明という認識の上で、「他意」があったと追及する日本を批判しています。
故意性なく船舶救助の作戦中に起こったという説明にもかかわらず、日本政府とメディアが韓国海軍がまるで「他意」があったように追及することは度を越した反応だ。当時、海上の気象状態が悪く、機能が優れた火器レーダーまで総動員した状態で、その過程で近くの上空を飛行していた日本の哨戒機にも照射されたという韓国側の説明に不十分な点があるなら、両国の外交・安保ラインを通じて問題を追加提起し、説明を聞く過程を踏めばいい。(東亜日報12/24)
そして防衛省から最終結論が公表された1月21日、ある韓国ネチズンは次のようにぼやきました。
真実攻防、どちらの主張が真実か分からないが 一つ確実なことがある。
日本は始終一貫同じ主張をしていて 韓国は話を何度も変えた。
賛同29 非賛同2 (朝鮮日報ハングル版1/21コメント欄)