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滋賀外国籍生徒に夢への基礎を 定時制高校、日本語教室教員ら長い夜
日本人の高校進学率は100%に近いが、日本に暮らす外国人の進学率は低いといわれている。日本語が不自由な生徒の場合、日本語で受験する入学試験は、ハードルが高いためだ。進学者の受け皿の一つである定時制高校では、そんな生徒たちに、小中学校で培えなかった日本語の基礎を身に付けさせようと、日本語教室で丁寧な指導を続けている。 一月上旬のある夕方、県立長浜北星高校定時制課程(長浜市地福寺町)の日本語教室で、二人の日系ブラジル人生徒が漢字の問題に取り組んでいた。一年の男子生徒(16)は、通常は小学校で習う問題に挑戦。「たんじょうび、きょうしつ、ははおや、りょこう…」とひらがなで書かれたプリントに、漢字を丁寧に書き込んでいった。 向かいの席では四年の岡島ケリーさん(18)が、小学六年修了レベルにあたる、漢字検定五級の問題に向かっていた。岡島さんは十歳のときにブラジルから来日し、長浜市内の小中学校を経て、同校に入学。日中は彦根市内の工場で働き、夕方から通学している。日本語で会話はできるが、読み書きがまだ苦手だ。机の上には、分からない単語をすぐに調べられるよう、国語辞典とポルトガル語に訳す辞書が載っていた。 しばらくして担当教員の高萩麻弓さん(26)が、二人に声を掛けた。「はい、じゃあ小説を読もうか。十九ページを開けてください」。音読を指示した小説は「西の魔女が死んだ」。二人には、やや難しく感じられる作品だ。高萩さんは「日本語の本に触れる機会がない生徒たちが、普通の会話レベルの物語に触れることで、いろんな言葉を関連付けて覚え、自然な日本語を話せるようになってほしい」と狙いを説明する。 途中、読んでいた男子生徒が「無造作」の漢字の読みで詰まった。「これは『むぞうさ』と読みます」と高萩さんが教えると、二人はルビを振った。岡島さんは「中学のときより、分からないことを先生に聞ける」と笑顔を見せた。 外国人生徒の中には、中学卒業まで日本人と同じ公立学校に通うケースも少なくない。日本語教室に通っても、学校によって指導方針がバラバラなため、基礎が定着しないこともある。 高萩さんは「ここは生徒数が少なく、目が行き届く。教える内容は基礎や基本に絞り、板書にも時間をかけて、置いてきぼりにしないよう、かみ砕いて教えたい」と心を尽くす。 それでも、中退してしまう生徒は後を絶たない。同校によると、外国人の生徒は年に五~十人入学するが、中退者は年に数人ずついる。幼いきょうだいの世話があったり、家計のために働かざるを得なかったりと、家庭の事情で通学が難しくなることもあるという。 安居宏副校長(60)は「中退の主因は、文化の違いや家庭環境だと感じる。外国人の生徒はフルタイムで働くことが多く、昼間働いて夜に学校で勉強するのは、なかなか厳しい。本人だけで解決できる問題ではない」と指摘する。政府が外国人労働者の受け入れ拡大を進める中、「外国人労働者の家庭も丸ごと引き受ける覚悟が、日本社会にあるのかどうか、問う必要があるのではないか。今のままでは、外国籍の子に日本の教育を受けさせてうまくいくのは、難しいのではないか」と危惧した。 (浅井弘美) 【土平編集委員のコメント】今日紹介したのは、日本で暮らす外国人に日本語の基礎を指導している滋賀県長浜市の定時制高校の取り組みです。地方版には地域の外国人の話題がよく載ります。全校児童の半数以上が外国籍の小学校、医療通訳、福井版が1月1日から7回連載した記事のタイトルはずばり「移民時代」でした。外国人とどう共生するかが、地域にとって切実なことを反映しているからだと思います。改正入管難民法が成立し、外国人の受け入れが拡大されますが、さまざまな課題解決は、地域に「丸投げ」されるのでは、との懸念は消えません。記事に登場する定時制高校副校長の「外国人労働者の家庭も丸ごと引き受ける覚悟が日本社会にあるのかどうか」との問い掛けは重いと思います。 PR情報
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