しかし、昨年12月21日の特別背任罪の容疑での再逮捕の後、特捜部が発表した容疑内容によって「ゴーン氏擁護」の論拠は空疎なものになったと、私は考えている。経済ヤクザだった私もマネーロンダリングに手を染めていたが、ゴーン氏の「黒い錬金術」は同種のスキームでありながら、私も経験したことのないスケールのものだったからだ。
この犯罪の本質は、“黒い金融界”で実務を行った者にしか理解できない。蛇の道は「猫」ということで、私こそ本件の解説者として適任だと自負している。
特捜部に肩入れをする気持ちを私はみじんも持ち合わせておらず、心情的にはゴーン氏にシンパシーさえ抱いている。一連の分析は、感情に無関係な、“黒い国際金融”の実務・常識に従って合理的に導き出した結果であることを、最初に強調しておきたい。
結論から言えば、特別背任をゴーン氏単独で行うことは不可能で、共犯とはいえないまでも「協力者」がいなければ成立しない。金融犯罪は、露見しないように、加害者側が複雑なスキームを作って行う。日々、事件についての情報がアップデートされるが、現在分かっている範囲で、その一つひとつをひもといてみよう。
「日産」に自己負債を
付け替えなければならない理由がある
まず、特捜部の発表とその後の報道で、特別背任容疑の内容を整理しよう。
●そこでゴーン氏は、新生銀行との間で「取締役会で契約の移転を決議する」という虚偽の約束をした上で、同年10月、評価損を抱えた金融派生商品を日産に移転させる。
●証券取引委員会が、移転の違法性を指摘。これを受けて09年2月、ゴーン氏は自身に再移転させるが、その際に新生銀行が追加担保を求める。
●ゴーン氏の知人で、サウジアラビアの実業家ハリド・ジュファリ氏が約30億円の「信用状」を外資系銀行から新生銀行へ送り、ゴーン氏の追加担保にした。
●このとき、ジュファリ氏側に日産から30億円の融資が計画されたが、社内承認が得られず中止になった(この指示は、ゴーン氏によるものだったことが報じられている)。
●しかし、09年6月~12年3月の間に、ゴーン氏は自らの判断で使うことのできる「CEO予備費」から「販売促進費」の名目で、ジュファリ氏が経営する会社に1470万ドル(現在のレートで16億円)を振り込む。
●ジュファリ氏の会社で「販売促進」が行われたかは確認されておらず、追加担保への謝礼と目されている。