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【社説】

統計不正 極めて不自然な調査だ

 「自然なこと」。統計不正を調査する特別監察委員会の職員聴取に厚生労働省幹部が同席していたことを、当の幹部はこう言い放った。自然どころか不自然極まりない。国民感覚からははるかに遠い。

 「なぜそういうことになるのか(分からない)」

 二十八日になって新たに厚労省の賃金構造基本統計でも問題が発覚した。基幹統計の一斉点検結果の公表から遅れて分かったことに、統計制度を所管する石田真敏総務相が語気を強めた。

 この言葉は国民の統計不正全体に対する思いだ。不正の重大性が依然分かっていない政府の対応にあらためてがくぜんとする。

 毎月勤労統計不正の調査で、監察委の事情聴取に職員も加わっていたが、幹部の厚労審議官や官房長も同席し質問までしていたことが分かった。逆に委員が直接聴取していた人数は当初の説明より少なかったことも判明した。

 幹部が直接質問して聴取を受けた職員がどこまで事実を話したのか、質問は適切だったのか。しかも、聴取時間は十五分だったりメールで聞いたケースがあった。いかにもおざなりである。

 早く報告書を仕上げ幕引きを図るのだとしたら、それは不正の解明より組織防衛に走る姿だ。

 監察委の姿勢にも疑問がある。聴取は必ず外部の人間だけで行うことが前提だ。それを徹底すべきではなかったか。

 監察委の報告書原案も職員が担当していたことを合わせると、第三者調査との中立性はないことが明白だろう。

 「組織的な関与や隠蔽(いんぺい)は確認されなかった」との調査結果もますます疑わしくなった。

 国会での施政方針演説で安倍晋三首相は統計不正についておわびの言葉を述べた。だが、全容解明や再発防止を具体的に語らなかったことに野党からは「問題から逃げている」と批判の声が上がった。多くの人はそう感じているのではないか。

 再調査に独立性は欠かせない。

 国会の役割は重い。監察委が直接聴取した人数が当初の説明より少なかったことが判明し、厚労相は答弁を訂正した。これは国会を軽視するものだ。

 重ねて言うが、公的統計の不正は国の信用を揺るがせる問題だと認識し政府は対応すべきだ。

 だが、政権からはその危機感が伝わってこない。政権の認識がこのままなら、厚労省から政府そのものの問題になるだろう。

 

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