日産自動車前会長のゴーン被告がルノー会長も退いた。これにより三菱自動車を加えた三社連合は新体制を組む。独裁的な経営者が去った今こそ、無用な主導権争いをやめて再結束を図る絶好機だ。
日産と、かつての救い主、ルノーとの力関係はねじれている。
現在、ルノーは日産に約43%を出資する大株主だが、日産はルノー株を15%しか持っていない。だが、日産の経営は好調で、連合の販売台数の半分以上を占める稼ぎ頭だ。
ルノーの会長に就任するスナール氏は、タイヤ大手ミシュランの経営トップで、フランス政府の後押しを受けている。ルメール経済・財務相は「新会長の仕事は日産との提携強化だ」と言い切る。
ルノーは一九四五年、後に大統領となるドゴール将軍が国営化を命じた。その後民営化したが今もフランス政府が筆頭株主だ。技術力のある日産との提携が崩れれば雇用不安が生じ、それはすぐに政治問題に発展する。
今後、新会長が日産との経営統合を目指す可能性はある。そうなると三社連合は事実上フランス政府の支配下に入りかねない。
日産はこのシナリオを強く警戒する。ルノーが日産の株主総会で統合を提案し三分の二以上の株主が賛同すれば可決できる。
これに対し日産はルノー株の出資比率を15%から買い増すことが可能だ。25%以上になればルノーが持つ日産株に関する議決権を消すことができる仕組みだ。
ただ、株の争奪合戦が行われれば、どちらが勝とうが連合は崩れる。今は水面下での争いが続いているが、それだけでも両者の亀裂は深まるばかりだ。
今年に入り、ドイツのフォルクスワーゲン(VW)と米フォードが電気自動車(EV)開発での提携を発表。トヨタもパナソニックとEV用に電池の開発を共同で行うと明らかにした。自動運転の開発競争も激化している。
不毛の争いはライバル企業を利するだけだ。大変革期を迎えた自動車業界で、提携を解消し単独のまま生き残れる保証はない。
ここは恩讐(おんしゅう)を乗り越え再度結束を図るしかない。三社の経営トップは、雇用を強く意識した経営判断が求められる。
最後にくぎを刺しておきたい。両国政府は介入を極力抑えるべきだ。過度な介入は国民同士の感情的な対立をあおり、提携再構築への道を阻むだけだろう。
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