植松伸夫氏に聞いた“これまで”と“これから”。長期休養をしたことで見えてきた,本当にやりたいこととは?
植松伸夫氏が元気な姿を見せたニューイヤーコンサート,「THE UEMATSU WORKS ~ノビヨ、カンレキ~」の模様をレポート
去る1月5日,東京・池袋の東京芸術劇場コンサートホールにて,「植松伸夫×東京交響楽団 ニューイヤースペシャル THE UEMATSU WORKS ~ノビヨ、カンレキ~」が行われた。昨秋から活動を休止していた作曲家・植松伸夫氏が元気な姿を見せてくれた,この公演の模様をレポートしよう。
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- ライター:馬波レイ
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コンサートは素晴らしい演奏,これまでと変わらぬ植松氏の楽しいMCもあって,大盛況のうちに閉幕。その感想を聞こうとコメントをお願いしたところ,話は思わぬ方向に転がりだし……。詳しくは本文を読んでいただくとして,思いのほか“重い”内容になったため,コンサートレポートとは切り分けてインタビューとして掲載させていただくことにした。
植松氏が4か月のうちに感じたこと,そしてこれからの方向性までが赤裸々に語られた,死生観までにつながる貴重な証言を,ぜひ読んでいただきたい。
植松伸夫公式サイト
「ウケるだけの音楽はもういいかな」
4Gamer:
休養明けの最初の仕事となりましたが,まずは今日のコンサートの感想からお願いします。
植松氏:
ステージでもちょっと話したんですけど,1989年に「ファイナルファンタジー」の初めてのオーケストラコンサートで演奏をしていただいたのが東京交響楽団さんで,2002年に,自分で企画した初めてのオーケストラコンサートの指揮をしてくださったのが竹本泰蔵さんだったので,その方々に自分の還暦のコンサートを演奏していただけるというのが,すごく感慨深かったですね。
還暦ってほら,生まれて一周した感じがあるじゃないですか。そのタイミングで,自分が作ってきたもの……ファイナルファンタジーだけじゃなく,坂口さん(ミストウォーカー)との曲やそれ以外のお仕事と,いろんな枠を取っ払って,なおかつ自分が好きなクラシックの曲もやっていただいて。還暦のタイミングで,自分の音楽人生を総括する公演をやっていただけたというのが,すごく嬉しかったです。
4Gamer:
今の時代は昔とは還暦という言葉が持つ重みも変わっていますが,それでも一つの節目というところでしょうか。
ところで,順番が逆になりましたが,復帰おめでとうございます。休養後は公式でのインフォメーションがなかったので不安も感じましたけど,お元気そうで安心しました。
植松氏:
ちょっと忙しすぎましたかね(笑)。
4Gamer:
これまでだと,主なところだけでもコンサート活動へのゲスト出演があって,ご自身のライブ活動があって,もちろん作曲活動があって……。休養を発表されたとき,あれだけ忙しいと,どこかにムリがくるのも仕方ないのかな? と思ったのが正直なところでした。
植松氏:
休みがだんだん無くなってきているな,っていうのは数年前から思っていたんですけどね。小さい頃から体だけは丈夫だったんですよ。気持ちさえキープできていれば何とかなるのかなぁと思っていたんですが,年を取るとイカンですね(苦笑)。
4Gamer:
植松さんよりも年下の自分が言うのもなんですが,加齢とともに「ムリが効かなくなったな~」と感じることは多いです。
植松氏:
でも初めてでしたよ。「ああ,年を取るってこういうことなのか」と実感したのは。
4Gamer:
大きな休みを取られたのは初めてでしたよね。ちなみに,休息中はゆっくりできたのでしょうか?
植松氏:
あっちこっちを治していたら余暇はなくなっちゃいましたね。9月~12月いっぱいまでの約4か月を休んでいて,最初は「よし。1か月で治したら,3か月ぐらい遊べるな!」と思っていたんですけど,フタを開けてみたら4か月通院しっぱなしっていう(苦笑)。
一つが良くなったら他のところから,「ここも!」「こっちも!」「オレも前から悪かったっす!」って手が上がり始めて。だったらこの際,まとめて治しておこうと思って。
4Gamer:
結果的にオーバーホールができた,ということですか?
植松氏:
いやでもね,あっちこちにご迷惑はおかけしてしまいました。急なキャンセルとか,すごく申し訳なくて。
でもまあ,たまにはわがままを言って休まないと,死ぬまでこのまんまだなという(笑)。
4Gamer:
生きているから笑っていられますけど,そこは冗談抜きでそうですよね(笑)。
植松氏:
そういうことを生まれて初めて実感しましたね。人間ってみんな死に向かっているじゃないですか。でも,まだやり残していることがあるのなら,どこかで現在の道筋から外れて,自分なりの新しい道を模索しないと。
「しんどいしんどい」と言ったまま死んじゃうのって,ちょっと寂しいなっていうのを,生まれて初めて実感しました。
4Gamer:
そういった気持ちの変化が,今後のお仕事にも影響を与えそうですか?
(しばし考えて)うーん。あのね,“ゲーム音楽”ってひとくくりに言っても,“ウケてなんぼ”っていうのはあるじゃないですか。
4Gamer:
もちろん,プレイヤーの支持があってのものです。
植松氏:
山にこもって作りたい音楽を作っているわけではなくて,オープニングの映像がバーンと流れたら,それにふさわしい音楽がバーンって流れなきゃいけない。だから作るときに“ウケ”を考えるわけでけど,それがねぇ……もう,限界かな? っていう意識はありますね。
4Gamer:
限界,ですか。
植松氏:
ゲーム音楽を作る若い人達も増えていますし,そういう部分は彼らに任せる時期がきているのかな,と。
そもそも,自分がなぜ音楽を作り始めたんだろう? ということを振り返ると,コンサートで話したとおり,チャイコフスキーとかいろんなクラシックのレコードを聴いて,心が動かされたり,癒やされたり……という体験があって,そこで音楽に興味を持ったわけですよ。だから僕にとっての音楽(の原点)は,自分を救うものなんです。
ところが,人の耳に触れる音楽を作るようになったことで,いつの間にか人様からの視線を気にするものを作らなければいけないという思いが強くなってきて。それが60歳間際になって,もう限界が見えてきたのかな,と。そういう意味で,ウケる音楽はもういいかな,という気持ちがあるんです。
4Gamer:
ウケという商業性と,作家性,芸術性とは,向いているベクトルが違いますよね。その配分を変えていくということでしょうか?
植松氏:
どっちが良い,悪いという問題じゃないんですよね。ウケる音楽と自分の納得のいく音楽っていう,二つしかないわけじゃなくて,その間はいっぱいあって,両方を満たしながらやっている人も世の中にいっぱいいるわけで,本来はそういう人がプロになるべきだと思うんです。
振り返ってみると,僕はたぶん,あんまりプロじゃないような気がするんです。ムリしてウケなきゃウケなきゃっていう意識を強く自分に強いていた部分があったから,それが「もう限界」という気持ちにつながっていったんです。
4Gamer:
でも,ライブをやっている植松さんは一番楽しそうに見えます。
植松氏:
ウケてるからね(笑)。でも,ウケると次もウケたくなって,また次ってなる。それがヤバいし,「ウケなかったらどうしよう?」って思い始める。その思い上がりに気付いたりすると醜いですよ。「俺,こんなことやってていいんだろうか?」っていう気持ちが一度芽生えると,表には出せないけれど深いところで腐っていく。
だから,勇気を持って自分の気持ちの中をかき分けていくと,やっぱりムリしたな,ウケのことばかり考えていたんだなっていうのが分かってきて。
そうすると,意外とスコーンと抜けたように「音楽じゃなくてもいいかな?」とすら思えるんです。不思議なもので。
4Gamer:
表現というものに関して,音楽以外の形でも良いと?
植松氏:
表現はしたいんですよね。音楽も作りたいものを作りたい。
4Gamer:
あくまで自然体で?
植松氏:
残りの人生はあと20年ぐらいなんで,今から新しい音楽の作り方を始めたとしても,20年あったら自分なりに納得のいくものが死ぬまでにはできるんじゃないかな。
なので,これまでみたいに「○○のバトルテーマ“みたいな”曲を作ってください!」といった依頼を受けて,そこでまたウケを狙いに行くような人生は避けようかな,とは思っています。
4Gamer:
おっしゃることは非常によく分かるんですが,植松さんからその言葉を聞くと,やはり寂しさを感じてしまいます。
植松氏:
いやいや,「もうゲーム音楽は絶対にやりません!」という話じゃないくて。面白そうだなってワクワクしたら,乗らせてもらうかもしれないですし。
ただ,ウケに縛られたくない自分に気付いて,それを認めたんだなって。これ,言っていいのか分からないけど……。
4Gamer:
せっかくなので,お話ください。
僕がRPGを作り始めた頃って,ゲーム文化もなければ,当然RPG(の音楽)なんて定義もなかった。作るのに参考にするものって,すぎやまこういち先生の「ドラゴンクエスト」ぐらい。
でもスクウェアって「ドラクエじゃないものを作ろう!」という志があったので,「こういう音楽をつけたらゲームってどうなるんだろう?」っていう,自分なりのチャレンジを繰り返してやってきて,いつもいつも作ることが楽しくてしょうがなかったんです。
それがいつの間にか,自分が過去に作ったもののバージョンアップを繰り返しているような形になっていることも見えるようになって。それでもウケればいいじゃないかと思っていたんですけど。
4Gamer:
以前は,見たことがないものを作っていくことが新鮮でやりがいがあった,と。
植松氏:
ええ。うちの小川(ドッグイヤー・レコーズのスタッフ)に教えてもらった,「Machinarium」というゲームを作ったアマニタデザインという会社があって,それは7人のチェコ人が作っているんですけど,もう明らかに日本とはレベルが違うんですよね。ちゃんと一つの作品として,大人が見ても作品としての鑑賞に耐えうる。そんな“作品”が海外にはいっぱいあるんだなぁ……って。
そういうことを通しても,自分が忘れてきたものを思い出させられたりしたんです。
4Gamer:
日本にも作家性の強い“作品”も,ないわけじゃないですけど,どうしても目立つのは大型の大作になりがちですし……。
植松氏:
ゲーム機を使った新たな何か,ゲームっぽい作品作りみたいな……芸術とまでは言わないですけど,何かこう,新しいものをデジタルで作ろうっていう気概のある人達が,もっともっと活躍できるといいんでしょうね。
ただ,なかなか売れないんですよね。となると,メーカーとしても作りづらい。それは分かるんですけど。
4Gamer:
インディーズゲームの登場で変わってきた部分はあると思います。
植松氏:
作家性ってすごく重要だと思うんですよね。作家性が強いっていうのはイコール,個性の強さで。そういう作家がいなきゃいけない。でも今の世の中,個性を出しすぎるのはイヤがられるじゃないですか。僕,個性って“におい”だと思うんですよ。でも今は消臭ブームなんで,においがしちゃだめなんですよ。その人なりの独自のにおいって嫌われちゃう。
4Gamer:
一部からは熱狂的に支持をされても,なかなか母数が広がらないというか……。
植松氏:
昔の……昔のとか今のとか言い出すのがオヤジの証拠だけど,若い奴らって,大人の言うことを聞いちゃだめだと思うんですよね。
「このクソオヤジが何を言ってるんだ」ぐらいに思っていないと新しいものは生み出せない。そういう,においをぷんぷん放っているような若い奴らが思いきり暴れられるフィールドと,それを受け入れる土壌がゲーム業界にあれば,この先も面白いことにはなるとは思っています。
4Gamer:
そうであってほしいですね。本当に。
自分自身のための音楽を探す旅は続く
4Gamer:
話をコンサートに戻しまして,植松さんのルーツを振り返るコーナーでの選曲は,メロディのきれいな曲ばかりでした。
植松氏:
そういうのが好きだっていうのはありますね。でもイーゴリ・ストラヴィンスキーの「春の祭典」みたく破壊的なモノも格好いいなと思います。発表当時はどう思われていたのか分かんないけど,今の我々から見たら「クラシックってこんなこともやっていいんだ」という驚きがありますから(笑)。
4Gamer:
植松さんの音楽遍歴でいうと,ウィーン少年合唱団に衝撃を受け,その次がご自宅にあったクラシック全集。MCでは「クラシックのライトユーザー」という言い方をされていましたが,入口はかなりポピュラーなところからだったんですね。
植松氏:
子供の頃,家に転がっているレコードを聴いてみたら,それがたまたまクラシックだったっていうだけで。僕は小さい頃からクラシック音楽を熱心に聴くような子供ではなく,自然にライトユーザーになっていたんです。
姉ちゃんが持っていた「女性のための映画音楽全集」みたいな2枚組のLPがあって,それに1960年代ぐらいのヨーロッパ映画のメインテーマみたいなのがいっぱい入っていたんですよ。その頃のヨーロッパ映画のメインテーマって旋律がすごくキャッチーで。それはよく聴いてました。
自分の書いた「ザナルカンドにて」なんかは,「俺,絶対あの頃に聴いたヨーロッパ映画のメインテーマの影響を受けているな」って思っています。そういうのは,いっぱいありますね。1960年代の映画なんで,作品自体は見たことがないのに(笑)。
4Gamer:
そこから先の青春時代にはロックに目覚めて。
植松氏:
中学校に入ったらロックですよね。ディープパープルとかレッド・ツェッペリンとかの,流行の洋楽。エルトン・ジョンとかカーペンターズとかスティービー・ワンダーとか,プログレッシブロックなんかにも,すごく影響を受けましたね。
4Gamer:
プログレは植松さんのルーツとして有名ですね。
クリムゾン,ELP,ジェネシス……ってきて,大学に入ったぐらいからジャズに向かいましたね。ポピュラー音楽って,2年聴いたらだいたい一周して,「あ,これはあのフォルダね」って分類ができちゃうんですよ。
そうすると耳もできてくるんで,余計に知らない音楽を聴きたくなるんです。だから民族音楽とかのエキゾチックな響きとか,ポピュラー音楽にはないジャズの和音とかにゾクゾクし始めて。
そういう耳に馴染んでいない音楽を,大学生の頃から聴き始めましたかね。現代音楽とか。
4Gamer:
ちょうどいま民族音楽というお話が出ましたが,ケルト音楽も植松さんの中では大きな柱ですよね。
植松氏:
ええ。でも,そのきっかけは沖縄なんですよ。高1か高2のときに沖縄返還があって,アメリカの領土だった沖縄が日本に戻るっていうんで,ドッと沖縄音楽が入ってきたんですよ。最初は聴き慣れない音階に「なんじゃこりゃ?」となったけど,新鮮さにハマっていって。
そこからはいろいろ。シルクロードを通るかのように,西へ西へと進んでいって地中海のあたりへ。で,それを超えてアイルランドに行ったら,意外と日本っぽい郷愁感があって面白いなって,そんな風に興味を引かれたんです。
4Gamer:
たどっていった先に似通ったものが見つかると興奮しますよね。
植松氏:
調べたんですけど,アイルランドって19世紀の半ばにじゃがいも飢饉が起きて,このままじゃ暮らしていけないとなって,人々がドッと船に乗って新大陸(アメリカ)に渡るんですよ。片やアメリカ南部には綿畑で働かされていた黒人達のブルースがあって,その両方が,中間のルイジアナあたりでガッチャンコして,ロックンロールが生まれるわけですよ。
そういうのを知り始めると,もう自分の人生は音楽以外あり得ない。こんな面白い世界はほかにない! って。
4Gamer:
一つのジャンルに情熱を注ぐって,その何かを探す旅みたいなところはありますよね。
植松氏:
これもオヤジくさい話ですけど,今みたいにネットで調べられないから,情報がない。でも,ないからなおのことのめり込んじゃうんですよ。
僕らの頃って情報がないんで,どうなってるんだろう? どうなってるんだろう? って,一つのことを知るまでに何年もかかって知識を得る。遠回りはするけれど,どっぷりここまで浸かっちゃって抜けられなくなっているみたいな。いまだにその延長ですよね。
4Gamer:
植松さんの音楽を探す旅は,これからも続いていくということですね。
さて,お誕生日は来る3月21日ですが,実際に還暦を迎えるにあたって,ここから先の展望は?
植松氏:
僕は5年後にはこうなろう,10年後にはこうなろうみたいな計画的な人間じゃなくて,何かがあったら思いっきり流されちゃうタイプなんです。これまでの人生がそうなので,コレをやります! みたいなことを断言はできません。
けど,自分一人で何ができるか? というのを実行していきたいという思いはありますね。バンドでやったりオーケストラや吹奏楽で演奏していただいたりというのとは別で,一人で何ができるんだ? と。そのための計画は,すでに立てています。
4Gamer:
表現の形はどうなるのでしょう?
植松氏:
すでにファンクラブのイベントなんかの,50人ぐらいのクローズドなところで,自分の作った物語に絵を描いてもらってそれに音楽をつけて,スクリーンに映して,朗読して,僕が演奏して……っていうのを試し始めてはいるんですよ。
僕はこれまでファイナルファンタジーの音楽で売ってきた人間だけど,物語を描いて朗読をして音楽を演奏して……っていうことに関しては,ずぶの素人じゃないですか。そのずぶの素人をね,また赤ちゃんからやってみたいなとは思っています。
4Gamer:
赤ちゃんから!
植松氏:
それ以外にも,シンセサイザー一台だけで何ができるか,とかね。それをね,数十人くらいの小さなライブハウスとかで披露したり。自分で出演交渉をして,シンセを担いで車で行って「聴いてください」っていうのを。デモテープをラジオ局に持ち込んだ高校生の時のような,一から感をこれから死ぬまで続けたらどこへ行けるんだろうと思って,ちょっとやってみたいなと思っています。
4Gamer:
その決意の理由というのは,もしかして……。
植松氏:
命あるものみんないつか死ぬという当たり前のことに気づいたからです。やっぱりこの4か月って,自分にとってすごく重要で。自分の人生は自分で決めなきゃならない,決めたんだったら動かなきゃ何も変わらないっていう。この4か月間にいろんなことを悩んで考えて,その挙げ句に還暦のコンサートを,総括するコンサートをやっていただいたわけですから,生まれ変わったような晴れ晴れした気持ちで,新しいステージに進めます。
4Gamer:
新生児・植松伸夫として!
植松氏:
また一からやります!
これまで数多くの名曲を生み出し,走り続けてきた植松氏が,一旦足を止め,そして自分に向き合って導き出した答え。皆さんはどう受け止めただろうか。若い読者にはピンとこないかもしれないが,加齢とともに訪れる「ムリの効かなさ」は,いずれ誰にでも訪れるものだ。
そして植松氏に限らず,日本ゲームシーンの黎明期を支えてきたクリエイター達は,そうした年代を迎えている。しかし,それに悲観せず,還暦という節目を迎えてなお,もう一度新しいことに挑戦しようという気概を持てる植松氏の姿は,頼もしくもある。
新生(児)植松伸夫のこれからの活躍を,引き続き期待したい。
植松伸夫公式サイト
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