ペロロンチーノの冒険   作:kirishima13
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第20話 あらゆる服の目指すところは絆創膏である(The goal of all clothes is bandaid)

―――竜王国上空 

 

 

 

 漆黒の黒い球体から姿を現したもの、それは黒いボールガウンを着た少女であった。その美貌は女性であるドラウでさえ魅了されそうになるほどだ。たが、美しい姿とは裏腹にドラウは背中に氷柱を突き刺されたような恐怖を感じた。叫ぼうとするがその声は音にはならない。

 

(声が・・・・・・でない!?)

 

「《静寂(サイレンス)》をかけんした。これでもうペロロンチーノ様に命令はできないでありんすよ。道具上位鑑定(オール・アプレイザル・マジックアイテム)》・・・・・・なるほど《傾城傾国》、これでありんすね」

「ちょっと、シャルティア一人で勝手に行かないでよー」

「そうですよ、先手を取って《静寂》をかけたのはいいですが、先走りすぎです」

「御イタワシヤ、ペロロンチーノ様。私ガ必ズオ助ケイタシマス」

「や、やっちゃいましょう」

 

 次々と黒い球体から新しい影が次々と現れる。漆黒の羽を生やしたカエル顔の男、ドラゴンに乗ったダークエルフの少女達、背にトンボのような虫のモンスターを張り付けた白い巨大な昆虫。そのすべてがドラウでは計り知れないような力を持っていることが伺われた。

 

(これはなにが起こっているのじゃ・・・・・・)

 

「まさかレンジャーのあたしを差し置いてシャルティアがペロロンチーノ様を見つけるなんてね」

「私もびっくりしたよ。おそらく戦闘行為により潜伏状態が一時的に解除されたんだろうが、ニグレドは大まかな位置までしかつかめなかったからね。それをまさか遠見の鏡(ミラー・オブ・リモート・ビューイング)でしらみつぶしに探すとは」

「っていうかシャルティア使い方分かったんだ」

「お、お姉ちゃん失礼だよ。でも使ってるとき頭から煙出てそうだったけど」

「海ニ落チタ針ヲ探スヨウナ作業ダッタハズ。マッタクソノ執念ニハ恐レ入ル」

「執念?うふふ、これは愛でありんす。私とペロロンチーノ様との間の赤い糸が二人を巡り合わせたんでありんすよ」

「はぁー、帰ってきたときはあんなに泣いてたくせに調子のいいこと」

「そ、それは言わないで欲しいでありんす!」

 

 頬を可愛らしく膨らませるシャルティア。そんな穏やかな雰囲気の会話にドラウは毒気を抜かれた。

 

(ドラゴンを見たときには驚いたけど、こやつらは話せば分かるのでは・・・・・・。いや、話せないんじゃが・・・・・・)

 

「さて、それでペロロンチーノ様の背に乗っているゴミが精神支配しているということでいいんだね」

「トブの大森林でペロロンチーノ様を襲った連中とは違うでありんすね。でもその服は見覚えがありんす。攻撃してきたババアの着ていたものでありんすよ」

「ならば確定だ。さて、そのゴミのことだが。どうべきと思うね?」

「ん?そりゃ殺しちゃっていいでしょ。だってペロロンチーノ様をあんな目に合わせてるんだよ」

「私モソレガ良イト思ウ」

「ぼ、僕は恐怖公のところに連れて行って体の内側から食べてもらうとか良いと思います」

「なるほど、マーレ。それで傷を癒して何度も食べさせるわけだね。そうだとも!殺すだけでは飽き足らない。皮を剥ぎ、痛みと言う痛みを与え、精神と肉体は魔法で治しながら何度でも拷問を行うべきだろう。それか大穴に連れて行って虫の苗床として永遠に苦しめるのもいいね」

 

 先ほどまで和やかに話をしていた者たちからドラウへ叩きつけられるのは恐ろしいまでの殺気と憎悪。それはとても通常の精神と肉体を持ったドラウに耐えられるものではなかった。意識はかろうじて保つが、全身に突き刺さる恐ろしいまでの殺気にドラウの股間が濡れていく、そしてペロロンチーノの背中も。それに気づいたデミウルゴスは声を上げる。

 

「度し難い!ペロロンチーノ様に何という粗相を!」

「待つでありんす。デミウルゴス、あれは許してもいいと思うでありんすよ」

「なぜですか!ペロロンチーノ様にあのようなことを」

「昔至高の御方々が言っていたでありんす。たしか餡ころもっちもち様が・・・・・・」

「シャルティア、それって『飼い犬がうれしょんして困る』って話をしていたときのこと?」

「犬の話がなぜここで出てくるのですか」

「その時ペロロンチーノ様はこう言ったでありんす。でも『ロリしょんはいいものですよね』、と」

「あー、確かに言ってたわね。他の至高の御方がドン引きだったよ」

 

 守護者たちの会話にペロロンチーノが懐かしそうな遠い目をしながら反応する。

 

「そうそう、あの時も姉ちゃんに殴られたんだよな。だけど・・・・・・俺は間違っていなかった!これはいいものだ」

 

 会話に加わってきたペロロンチーノに守護者一同が目を見開く。精神支配されたと聞き、物言わぬ人形になっているのではと心を痛めていたのだが。

 

「ペロロンチーノ様。話をされることができるのですか?」

「デミウルゴス、もしかしてペロロンチーノ様は精神支配解けてるの?」

「違うわアウラ!よく見るでありんす」

「あ・・・・・・目の光が・・・・・・」

 

 ペロロンチーノの目はいつも守護者が見ていた時の光を失っていた。見ているようで見ていない虚ろなものだ。

 

「やはり精神支配は受けているようだね」

「じゃあ何で普通に話が出来るの?」

「恐らくだが、条件反射のようなものじゃないだろうか。本能と言えば分かりやすいかな?」

「でも普段とあまり変わらないよ?」

「私の勝手な憶測だが、それは普段ペロロンチーノ様が裏表なく本能に近い行動をされているからではないかな」

「あー、何となくわかる」

 

 アウラはジト目でペロロンチーノを見つめるが、シャルティアは一瞬たりとも目を逸らすことはなかった。

 

「ペロロンチーノ様!ナザリックへお帰ってきてくんなまし!」

「それは出来ない。ドラウ様のいるところこそ俺の居場所だから」

 

 そう言って、ペロロンチーノはドラウを愛おしそうに見つめ、手に持った水晶をはめた魔道具のようなものを掲げる。

 

「くっ・・・・・・」

「無駄です、シャルティア。作戦を実行しましょう」

「デハ一番槍行カセテイタダク」

「まっ・・・・・・待つでありんす!」

 

 コキュートスが手にした刀で斬りかかる。それはまさに神速といっても過言ではないものであった。しかし、それに追いつきシャルティアのスポイトランスが斬撃を防いだ。シャルティアの予期せぬ行動にコキュートスが憤る。

 

「シャルティア何ヲスル!」

「デミウルゴス!やっぱりペロロンチーノ様を傷つけることにわらわは反対でありんす」

「それについては散々話をしたでしょう。安心してください、殺しはしません。ですがペロロンチーノ様を行動不能にしないとその女からの精神支配を解除するのは難しいです」

 

 コキュートスとデミウルゴスからの叩きつけられる殺意にドラウは再び股間が緩みそうにそうになるが必死に耐える。

 

(だ、だめじゃ・・・・・・もうおしまいじゃ、殺されてしまう、いや、ペロロンチーノに乗って逃げきれれば・・・・・・じゃが声が・・・・・・命令もできずにどうすれば)

 

 そんなドラウの気持ちを汲み取ったのかペロロンチーノは後ろにドラウを庇い、飛び去ろうとする。しかし、まっすぐ進むはずがぐるりと回り結局もとの位置に戻ってきてしまっていた。

 

「ペロロンチーノ様。大変申し訳ございませんが、この周辺には移動阻害、転移阻害の能力(スキル)を展開しております。私を倒さない限り撤退は難しいですよ」

「腕ノ一本ヤ二本ハオ覚悟クダサイ。至高ノ御方ヲ傷ツケタ罰ナラバ後ホドウケイレマス」

「そうだね、はやくやっちゃおう。それでその後ろの女は絶対に殺す」

「う、うん。お姉ちゃんの言う通りだと思います」

「わらわたち守護者の存在理由は至高の御方をお守りすること!ペロロンチーノ様が傷つくなど我慢できんせん!」

「それは分かるがねシャルティア。時と場合というものがあるでしょう」

「デミウルゴス!それウルベルト様にも同じことが言えるであるんすか!?」

「それは・・・・・・」

 

(揉めてる?しかし、まずいのじゃ・・・・・・このままでは殺されてしまう。降伏したい・・・・・・したいが声が・・・・・・)

 

 静寂の効果で声が出せずに降伏も出来ない。今はペロロンチーノとシャルティアに守られているからいいが、時間の問題だ。何か降伏の合図をと思い、ドラウはひらめく。

 

(そうじゃ!白旗じゃ!白旗を上げて降伏の印を示せば・・・・・・じゃが何も持っておらぬぞ・・・・・・、いや1枚あるにはあるが・・・・・・)

 

 降参をしたいが、口をふさがれていてそれもできない。身振り手振りでは伝わらない。白い布について思いを巡らせ先ほど濡らしてしまった自分のはいているものを見つめる。

 

(いやいや、それは人としてやってはいけないことじゃろう・・・・・・)

 

 ぶんぶんと首を振って否定をするが、他に何も思い浮かばないうちに相手は行動を進めようとする。

 

「確かに相手がウルベルト様であれば私もあなたと同じ行動をしたかもしれない。だからこれはそれぞれの至高の御方から与えられた役割だと考えましょう。コキュートス。アウラ、マーレ。もはや問答は無用。シャルティアごとやってしまいますよ。しかしペロロンチーノ様を傷つける前に背中に張り付いているゴミを先に殺せればベストだ」

 

(ひぃ!そ、そうじゃ!私は一部でも竜の血が流れているから人じゃない!だから人としてやってはいけないことをしてもいいのじゃ、きっとそうじゃ!)

 

 ドラウは真っ赤になりながら自らの白い布を足から抜き、右手で高々とか掲げた。それを見た一同が皆固まり、場がまさに静寂で包まれた。

 

「何を・・・・・・しているのかね」

「何あれ・・・・・・?変態?」

「あの・・・・・・その・・・・・・女の子がそういうことするのは・・・・・・あの・・・・・・」

 

(違う!違うから!気づいて!もう降参!降参じゃ!)

 

 必死にドラウは白い布をヒラヒラと降る。それは裏側に熊の絵がついているお子様用のものであった。

 

(宰相が悪いのじゃ。ふとした拍子に見える可能性があるからお子様用しかはかせないなどと・・・・・・くぅ)

 

「モシヤアレハ降伏ノ印デハ」

「そうでありんすか、コキュートス?降伏?はぁ・・・・・・じゃあ戦わなくていいでありんすね。よかった・・・・・・」

「まぁそうなら手間が省けて助かるよ。女、もし降伏するというのであればその身につけた魔道具をこちらに渡したまえ」

 

(パ、パンツを脱いでおるんじゃぞ。それでこの服を脱いだら・・・・・・)

 

 それを察したのかペロロンチーノが声を上げた。

 

「ドラウ様。そのままでは恥ずかしいでしょう、この服をどうぞ着てください」

 

(ペロロンチーノ・・・・・・、こやつなかなか紳士じゃの。よかった・・・・・・裸にならずにすむのじゃな)

 

 そう言ってペロロンチーノがアイテムボックスから出したもの。それは紙でできた箱だ。ドラウはそれを受け取り、箱を開けると中には・・・・・・。

 

(・・・・・・絆創膏?服って言ったはずじゃが・・・・・・?これは絆創膏?服?絆創膏?)

 

 それは絆創膏であった。それも指に巻く細長いタイプだ。ドラウの頭の中に疑問符が飛び交う。

 

「さあ、ドラウ様。どうぞ!それをお貼りください!」

 

(え、貼る!?どこに!?ええ!!?そういうこと!?)

 

「おお!さすがはペロロンチーノ様でありんす。わらわのアイテムボックスにも入っていんしたが使い方がわかりんせんした。こんな使い方があるとは」

「シャルティア・・・・・・私には理解できないのだが、君には分かるのかね?」

「守護者随一ノ頭脳ヲ持ツデミウルゴスヲ超エルトハ」

「あたしは何となく分からなくてもいいかも・・・・・・」

 

(こ、こいつら・・・・・・)

 

 それでも裸よりマシかと、絆創膏による3点目貼りを行い、《傾城傾国》を脱いでシャルティアに向かって投げた。受け取ったシャルティアは装備変更スキルにより一瞬で着用を完了する。

 

「では、ペロロンチーノ様。こちらへおこしくだしゃんせ」

「はい、シャルティア様」

「シャルティア・・・・・・様!?」

 

 様付けされることにゾクソクしたものを感じ身もだえるシャルティア。主従が逆転したプレイに動かない心臓が高鳴る。

 

「さて・・・・・・ところで何者かの視線を感じるような気がするのだが、アウラ?」

「うん、いるね。でもどこかは分からない。潜伏スキルか、魔法なのか」

「見つけらないか。藪蛇にもなりかねない。ここは撤退を優先しよう。シャルティア」

「《転移門(ゲート)》でありんす」

 

 そのまま《転移門(ゲート)》にドラウを放り込み、守護者たちは撤退を始めるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 上空から消えていく絶対的強者たち。それを見つめる存在があった。全身を白銀の鎧で身に包んだ中が空洞の鎧。ツアーは鎧を操りながら混乱の極みにいた。

 

(え?女の子にかけられて喜んでる?・・・・・・幼い女の子を裸にしていた?)

(え、なに?あの人達何してるの?)

(冒険者が洗脳されているって話は?スレイン法国は?)

(絆創膏・・・・・・?服・・・・・・?絆創膏・・・・・・?服・・・・・・え?え??)

 

 リグリットに頼まれて様子を見に来たが、あまりにも理解を超えたことが起こっていた頭が真っ白になる。その強さにも目を見開かせるものがあるが、それよりもその意味を理解したくない行動の数々。もはやツアーの頭には一つの言葉しか思い浮かばなかった。

 

(へ・・・・・・変態だーーーーーーーーーーーーーーーーー!!)

 

 これをどうリグリットに説明したものか。空に集まった複数の影が一つ、また一つと消えていき、空洞の鎧はしばらく誰もいなくなった夜空を見上げていたが、やがて脱力したように肩を落とし、評議国に帰るのであった。その後、ツアーは誰に何を聞かれても顔を赤くして答えなかったという。

 

 

 

 

 

―――ナザリック地下大墳墓 玉座の間

 

 玉座の間に久しぶりに階層守護者たちとペロロンチーノは集まっていた。《傾城傾国》を着たシャルティアがペロロンチーノに寄り添っている。そんな中、デミウルゴスが皆の働きを労い、主人が帰ってきたことを喜んでいた。

 

「ゴタゴタはあったが、みんなよくやってくれた。特にシャルティア」

「ふふん、わらわだってたまにはやるでありんす」

「そうね、今回はシャルティアの働きが大きかったわね」

「それでさー。あの女はどうするの?さっさと殺しちゃおうよ」

「まぁ待ちたまえ、アウラ。情報を引き出す必要もあるし、殺すにしてもペロロンチーノ様の判断を仰がねばなるまい」

「あー、確かにそうね。それであの女どうしたの?」

「とりあえず第6階層に置いてきたでありんすえ」

「あのさー、別にいいんだけど何か連れてくる度にあたしたちの階層に置いていくよね」

「す、すごく増えちゃいました」

「エルフと、侵入してきた人間、ドライアードに、あとは・・・・・・まん丸い魔獣も連れてきたでありんすね」

「それも判断はペロロンチーノ様待ちだ。さあ、シャルティア、ペロロンチーノ様への精神支配を解き給え」

「そうでありんしたね」

 

 シャルティアが傾城傾国の効果を切ろうとしたその時、ちょっとしたいたずら心が芽生え、つい声に出してしまう。 

 

「ペロロンチーノ様!わらわNADENADEPONPON(なでなでぽんぽん)がして欲しいでありんす」

「はい、シャルティア様」

 

 ペロロンチーノはシャルティアの頭に手を乗せると優しくなでつける。そして最後にポンポンと頭を叩いた。

 

「ふああ・・・・・・ふああああああ」

 

 シャルティアは目を細めて喜びに打ち震えている。

 

「ちょっと!シャルティア何やってんのよ!」

「だって!今ならペロロンチーノ様に何でもしていただけると思ったら我慢できなかったでありんす」

「ずるいー!っていうかあんたならそんな道具使わなくてもいつもやってもらってんじゃん!あたしだって色々してもらいたい!」

「至高ノ御方ヲ操ルナド不敬デハナイノカ」

「でもこんな機会もう二度とないよ。いいの?またペロロンチーノ様出て行っちゃうかもしれないよ」

「ムゥ」

「そうね、確かにナザリックすべての者が今回心を痛めたわ。慰労の意味でもちょっとくらいはいいかしらね」

「ほんと!?じゃあ次あたしね!」

「ナント。デハ私ハゼヒペロロンチーノ様トガチバトルヲオ願イシタイ」

「ぼ、僕も色々したいなぁ」

「あら・・・・・・でもそれは無理ね。その魔道具は女性専用らしいからコキュートス達は使えないわ」

「アルベドがそんなことを言うとは・・・・・・。まぁいいでしょう。ただし、決してナザリックから外には出ないこと。いいね」

「女限定かー。じゃあ、あとはプレアデスとメイド達くらいかな」

「ニューロニストさんは・・・・・・確か中性でしたけどどうなんでしょう」

「その辺りは分からないわね。みんな、一通り遊んだらもとに戻すのよ。いいわね」

「はーい」

「分かったでありんす」

「ところでさー。アルベドはどうするの?」

「私?私は遠慮するわ。だってこの身はモモンガ様のものなんですもの。他の誰かを魅了するなんて御免だわ」

「サキュバスとは思えない発言でありんすね」

「純情なサキュバスって何なの」

 

 かしましい女性陣の声が響く中、ナザリックに久しぶりに平穏な日々が戻ってきた。ナザリックのすべてがペロロンチーノの帰還を喜ぶ中、《傾城傾国》はナザリックの女性陣の間で持ち回りされることとなるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

―――アウラとマーレの部屋

 

 第6階層にある巨大樹、その中にアウラとマーレの部屋はあった。部屋の中にペロロンチーノを連れてきた二人は、その様子をじっと見つめていた。《傾城傾国》はアウラが着用している。しかし、ペロロンチーノから二人をどうこうしようとする気配はなかった。

 

「ペロロンチーノ様、これ本当に精神支配されてるのかな」

「もちろんです。アウラ様」

「わっ、喋った。アウラ様って言った・・・・・・くぅー、シャルティアの気持ち分かるな。これは効くね」

「お姉ちゃんずるい・・・・・・」

「ペロロンチーノ様、あたしに手を出さないんですか?」

「姉ちゃんの娘に手を出すのはさすがに怖いので」

「本能までぶくぶく茶釜様を怖がってるんですか・・・・・・。そうだペロロンチーノ様。あたしのことアウラお姉ちゃんって呼んでください」

「はい、アウラお姉ちゃん」

「くぅー!なんだか!なんだか知らないけどすごく変な気分!」

 

 何ともいえない気分にアウラはワタワタしていたが、ふと思い出したことがあった。もうはるか昔のことに思えるが、この部屋でぶくぶく茶釜の膝の上で抱きしめられたことを。

 

「ペロロンチーノ様、次はあたしを膝の上に乗せてもらってもいいですか」

 

 アウラはペロロンチーノの膝の上におさまり、まるでぶくぶく茶釜に抱かれているような感覚を感じる。やはり姉弟だからだろうか。アウラは恥ずかしそうに次の指示を出す。

 

「じゃ、じゃあ抱きしめてください」

「何かおねえちゃん、シャルティアさんみたい・・・・・・」

「へへっ、本当はシャルティアのやってるの見てちょっとうらやましかったんだよね。ペロロンチーノ様ぁ・・・・・・」

 

 ペロロンチーノの胸に顔をこすりつけるアウラ。ぶくぶく茶釜とは姿も声も何もかも違うが、姉弟だけあって何となくその雰囲気が似ている気がする。そう思うとアウラは昔ぶくぶく茶釜に可愛がってもらったことが思い出されて涙が出てきた。そんなアウラの髪をペロロンチーノが優しくなでる。

 

「お姉ちゃんずるいよー」

「うん、そうだね。マーレもおいで」

「う、うん。・・・・・・ありがとうお姉ちゃん」

 

 かつてぶくぶく茶釜が他の女性陣と共に過ごした空間。こうしてアウラとマーレはペロロンチーノと懐かしさを噛みしめるのであった。

 

 

 

 

 

 

 プレアデスの6人とまるで賞品のように配置されているペロロンチーノの前に集まっていた。長女のユリが少し困り顔をしながら口火を開く。

 

「みんな、守護者の方々から一通り遊んだら返すようにと、このアイテムを渡されました」

 

 そう言って、ペロロンチーノと《傾城傾国》を他の面々に見せるユリ。それを見てルプスレギナがいやらしそうな笑みを浮かべて前に出てきた。

 

「ねぇねぇ、これどうするんすか?ユリねえ」

「ルプスレギナ、ペロロンチーノ様に向かって失礼よ」

「でも、これでペロロンチーノ様が何でも言うこと聞いてくれるんすよね?」

「こらっ、至高の御方を使って遊ぶなど不敬でしょう」

「じゃあユリ姉の順番はいらないんすね。あたしは一杯したいことあるっすよ」

「なっ・・・・・・いらないとは言ってないわ」

「そうっすか?はっきりしないユリ姉に代わってここは二女のあたしが順番決めちゃうっすよ。最初がナーちゃんでー、次がユリ姉、ソーちゃん、シズちゃん、それからあたしで最後がエンちゃんに決まりっす」

「ルプスレギナ、なんであなたが決めるのよ」

「ユリ姉がはっきりしないからっすよ。じゃ、ナーちゃんよろしく!」

 

 ルプスレギナは、そう言って《傾城傾国》とペロロンチーノをナーベラルに押し付けた。

 

 

 

―――ナーベラルの部屋

 

 ナーベラルは困っていた。自分たちは至高の御方のために何かをするために存在するのであって、至高の御方に何かしていただこうという考えが理解できない。そのため、誰かを参考に出来ないかと考えた結果、思い浮かんだのはシャルティアであった。玉座の間でペロロンチーノにお願いしていたこと。少し羨ましいなと感じたことを思い出した。

 

「あの・・・・・・ペロロンチーノ様」

「なんでしょうか。ナーベラル様」

「はうっ・・・・・・わ、私なぞを様付けで呼んでいただくわけには・・・・・・」

 

 絶対なる主人に逆に主人扱いされて慌てるナーベラルであるが、何とかやってほしい事を伝える。

 

「わ・・・・・・私もその・・・・・・なでなで・・・・・・を」

「え?」

「あの・・・・・・シャルティア様がされていたNADENADEPONPON(なでなでぽんぽん)をしていただきたく・・・・・・」

 

 わずかに頬を染め、俯くナーベラル。その頭に手が添えられた。優しくナーベラルのサラサラの髪が撫でられポンポンされる。

 

「はぁ・・・・・・さすがシャルティア様が求められるだけあります・・・・・・これは・・・・・・ふあああ」

「それで次はどうしますか?」

 

 ペロロンチーノはナーベラルを見つめる。先ほどまで頭を撫でられていたので顔が近い。ナーベラルは固まってしまった。シャルティアのされていたことを思い出す。

 

「次・・・・・・次は・・・・・・その・・・・・・抱きしめて・・・・・・」

 

 ナーベラルはペロロンチーノの体に自分の体を近づけていく。そんな緊張したナーベラルに突然からかうような声がかけられた。

 

「次はどーするんすか?やっちゃうんすか?いいんすよ最後までやっちゃっても」

「ルプスレギナ!いつからそこに・・・・・・」

「にっしっし。不可視化で最初からずーっといたっすよ。あー、ナーちゃんは可愛いなぁ」

 

 猫のようにコロコロと笑い転げるルプスレギナの腹筋にナーベラルの拳が突き刺さった。

 

 

 

 

―――ユリの部屋

 

「はぁ、まったくルプスレギナ至高の御方のことをなんだと思っているのかしら」

 

 そんなことを言いつつ、ごくりとユリの喉が鳴る。ペロロンチーノと二人きりだ。邪魔する者は他に誰もいない。それに今なら何でも言うことを聞いてくれる。

 

(何でも・・・・・・)

 

 ユリは紙にサラサラと文字を書き連ねていく。そしてそのうちの1枚をペロロンチーノに渡した。

 

「ペロロンチーノ様。ここに書いたセリフを言っていただけますか」

「分かりました。ユリ様」

「ユリ様・・・・・・恐れ多い、恐れ多いですがこれはこれで・・・・・・うふふふふ。ではお願いします」

「ユリ、お前こそ俺の誇りだ」

「こ・・・・・・これは!素晴らしいですね・・・・・・」

「ユリ、お前の働きはナザリック随一のものだ」

「何もしていないのにお褒めの言葉をいただくなんて不敬よ。不敬だけど・・・・・・」

 

 至高の存在の役に立つことはナザリックの者として喜びだ。そしてお褒めの言葉をいただくなど至高の喜び。その光栄さにユリは身もだえていた。しかし、そんなユリに予期しない言葉が投げかけられる。

 

「ユリ、お前を愛している」

「あれ?そんなこと書いてないですが・・・・・・も、もしかしてペロロンチーノ様の本心!?」

「ユリ・・・・・・お前は美しい」

 

 ペロロンチーノはユリの肩に手を当ててベッドに押し倒した。そして顔がどんどん近づいてくる。

 

「ペロロンチーノ様・・・・・・。これはもう・・・・・・もう・・・・・・ここで私初めてを・・・・・・」

 

 ちらりと周りを確認するユリ、誰も見ていない。そしてアンデッドゆえにベッドを使ったことはないが配置してくれたやまいこに深い感謝を捧げる。

 そんなユリの視界にペロロンチーノが目を向けている紙が入った。そこには『愛していると言ってベッドに押し倒す』と書いてある。

 

「くふふふふっ、ユリねえってば、ほんっとむっつりスケベっすねえ」

「ルプスレギナ!?え?いつから?」

「不可視化して紙にいろいろ書いておいたっす。次はいよいよ本番っすよー・・・・・・ごふぅー」

 

 事態を把握したユリの鉄拳がルプスレギナのみぞおちを捉えた。スキルを全開にしたそれはルプスレギナを壁まで吹き飛ばす。

 

「さっきと同じところに・・・・・・。さ、さすがストライカー・・・・・・効いたっす。がくっ」

 

 

 

 

―――メイド達の部屋

 

 そこにはメイド達を創造したヘロヘロ、ク・ドゥ・グラース、ホワイトブリムの代表としてシクスス、フォアイル、リュミエールの3人が机に向かっている。

 

「プレアデスのお姉さまたちから一通り遊んだら返してって言われたけど・・・・・・」

「お姉さまたちはどうなさったの?」

「ソリュシャン様はお風呂で全身を体で洗って差し上げたんですって。羨ましいわ」

不定形の粘液(ショゴス)ですものね。体の外も内も全部綺麗にしてあげたと喜んでいらしたわ」

「シズちゃんは二人で並んでずっと座っていたらしいわね」

「あー、分かるー。微笑ましいよね。見たかったなぁ・・・・・・」

「それよりナーベラル様とユリ姉さまよ。二人は最後まで行こうとなさったんですって」

「最後までって・・・・・・きゃーーー!それって本当?ねっ、ねっ、どこまでしちゃったの?」

「ルプスレギナさんがお止めになったって言ってらしたわ」

「ふざけてそうで色々考えてるよね」

「でもルプスレギナさんはペロロンチーノ様に凄いことしたって自慢してたわね」

「すごいことって何でしょう」

「とても喜んでいたらしいわ。でもその後エントマ様と一緒に恐怖公の部屋でお食事デートに行かれたとか」

「・・・・・・」「・・・・・・」「・・・・・・」

「ルプスレギナさんって上げておいて落とすのお好きですよね」

「それより、ペロロンチーノ様の尋問はうまくいっているかしら」

「みんなごめんなさい!私のせいで・・・・・・」

 

 シクススが机にぶつける勢いで頭を下げる。それをフォアイルとリュミエールが慌てて止めた。

 

「シクススのせいじゃないわ!」

「だって私ペロロンチーノ様に避けられて・・・・・・きっと私のせいでペロロンチーノ様は出ていかれたんだわ」

「泣かないの。きっとペロロンチーノ様のことだから何かお考えがあったのよ」

 

 そこに、一般メイドの一人が急いで歩いてきた。決して走らず急いで歩くメイドのたしなみである。そして3人の前まで来ると敬礼を行う。

 

「ペロロンチーノ様を尋問した途中結果を報告するわ」

 

 3人はその報告内容を真剣にノートに書いていく。シクススの失敗、それはメイドすべての失敗と捉えられていた。そのためにペロロンチーノを自由にしていいと言われたメイド達が行ったこと。それはペロロンチーノの尋問である。何でも答える今ならばペロロンチーノが何を求め、何に満足するのか確実に分かると考えたのだ。

 

「メイド服のスカートはもっと短く・・・・・・胸元を開いて露出も多く・・・・・・ね。でも見えないのはそれはそれでいいってどうすればいいのかしら」

「バリエーションを求めてらっしゃるんじゃないかしら。プレアデスの方たちはそれぞれ特徴があるわ」

「《絶対領域》ってこういう意味だったのね。そして特定条件下で領域を解放する必要があるっと」

「でもこの『ドジっ子メイド』についての報告がよく分からないわね」

「転んでお茶をこぼすなんてそんなメイドはナザリックに居ないわ」

「でもペロロンチーノ様が必要とお考えならそうしなければいけないわよ」

「それに『ご主人様のえっち』というセリフ。至高の御方に口答えするなんて不敬でなくて?」

「この『どこ見てんの、豚野郎』よりはいいんじゃないかしら」

「わ、私は至高の御方が求めるのであればビンタでも蹴りでもしないといけないと思います」

「でもこの報告書イラスト入りで分かりやすいわね」

「ホワイトブリム様に作られたメイドは絵がうまいのよね」

「確かホワイトブリム様は『漫画家』なる職業についてたのよね」

「絵に魂を込める創造系のご職業ね」

「あとは・・・・・・何々?恥じらいが大切?これじゃない?シクスス」

「なるほど、恥ずかしがる演技を勉強しなきゃ!私がんばる!」

 

 フォアイルとリュミエールはシクススの両目に大火を見た。

 

「メイド服も改造しなくちゃいけないわね。あとは台詞の練習も」

「フォアイル。あなた少し短めにしてるね」

「ふふんっ、私の勝利ね」

「でも失敗の練習は難しいわ・・・・・・それに至高の御方にお仕置きされるまでがペロロンチーノ様の望まれることなんて」

「シクスス、がんばるのよ。次こそ至高の御方に満足していただけるために!」

「もっとペロロンチーノ様の知識を得ないとね」

「そうね、ペロロンチーノ様だけでなく他の至高の御方が来た時のためにもがんばりましょう!」

 

 こうしてメイド達による尋問は一昼夜続き、ペロロンチーノが嘘偽りなくその本能のまま語ったことを綴った『メイドの心得byペロロンチーノ(イラスト入り)』が完成したのであった。

 

 

 

 

 

 

―――アルベドの部屋

 

 アルベドの部屋の一室、そこには一つの旗が掲げられている。その旗の意味はモモンガ。そんな旗を体に抱きしめながらアルベドは叫んでいた。

 

「あー、モモンガ様に会いたいモモンガ様に会いたいモモンガ様に会いたい」

 

 アルベドは旗を抱きしめながら床をゴロゴロと転がる。

 

「最近モモンガ様成分が足りないわ!足りなさすぎる!おのれパンドラズ・アクター!何で最近、守護者統括たる私のお願いを聞いてくれないのよ!365日24時間モモンガ様の声を聴かせてくれるだけでいいのに!」

 

 最近はパンドラズ・アクターも四六時中のアルベドからの注文に呆れ、多忙を理由にメッセージも無視している状態であった。

 

「モモンガ様のお声が聴きたいモモンガ様の匂いが嗅ぎたいモモンガ様に抱きしてめてもらいたいー!」

 

 アルベドは床を高速で転がり続ける、壁に角がゴンゴンと当たっているが気にもしない。そんな中、ナザリックの仲間たちがペロロンチーノにしたことに想いにはせ、不意に止まった。

 

「しかし、私たちでも至高の御方を問題なく精神支配できることはこれで証明されたわね。《傾城傾国》・・・・・・ね。くふふふ、《傾城傾国》の美女。まさに私のためにあるようなアイテムね」

 

「でも足りないわ。これだけじゃ足りない・・・・・・何とか宝物殿に入る手段を手に入れないと・・・・・・」

 

「モモンガ様はいったいどこにいらっしゃるの!ペロロンチーノ様の赴いた国にいらっしゃるならお声をかけるはずですし・・・・・・」

 

「あーモモンガ様がいらっしゃったら何でもして差し上げるのに!モモンガ様さえお望みであればシャルティアが言っていたあの絆創膏なる服でも着て差し上げるのに!」

 

 アルベドは絆創膏を貼った自分がモモンガからされることを想像する。恥ずかしがるアルベドの絆創膏を一つずつ剥がしていくモモンガを。妄想したその素晴らしい光景にアルベドはモモンガが見つかったらして差し上げる事項にそれを加えた。






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