ペロロンチーノの冒険 作:kirishima13
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―――竜王国
竜王国の女王ドラウディロン・オーリウクルスと宰相は頭を悩ませていた。近年のビーストマンによる侵攻によりすでに3つの都市が落とされている。ビーストマンたちの目的はただの食料として食べるためという単純なものであったが、今もなおビーストマンによる侵攻は止まらない。多くの兵を投入し、冒険者やワーカーを雇い防衛していたが、その資金ももう尽きかけ、竜王国の命運はもはや風前の灯火であった。
「もうおしまいじゃあーーー!私たちはあの獣たちの胃袋におさまるんじゃ-!」
ドラウは生足の見える服装でバタバタと駄々っ子のように手足を動かす。あえて生足が見えるこの衣装は謁見した者の心を揺さぶるように宰相が用意したものだ。
「陛下、お気を確かに。まだ手は残されております。スレイン法国から陽光聖典の者達が来ておりますので」
「じゃが、今度はどれだけ搾り取られる?もう我が国の国庫は空も同然じゃ」
「そこは情に訴えるしかあるますまい。陛下、いつものアレ頼みますよ」
「また幼子の振りをして同情を買えと言うのか。さすがにあれはしらふではできん。酒持ってこい酒!」
「昼間っから酒臭い息をする幼子がどこにいるんですか!もういい年なんですから分別を持ってください」
「おまえ・・・・・・都合よく子ども扱いしたりババア扱いしたりしないで欲しいのじゃが」
ドラウは
「泣きの演技も忘れてはなりませんよ。幼い少女が涙ながらに国を想い、助けを求めてくるのはなかなかに効きます」
「同情という意味で効くのであればよかろうが、うちのアダマンタイト級冒険者のように性的欲望の対象として効くのはさすがに勘弁して欲しいんじゃが」
「国がなくなるかどうかの危機ですよ。減るもんじゃなしその程度我慢してください」
「私の貞操をもっと大事にしてくれ!」
「はいはい。では、法国の方達をお呼びしますので頼みますよ」
「いや、さらっと流すな。聞いてくれ!」
宰相はそれをも無視して陽光聖典を謁見の間に呼ぶ手配をする。女王はこの国で一番心を悩ませ国の舵を取りってきたのだ。個人的な感情と国の一大事どちらが大事かは知っていると信じている。宰相はそう思い、屠殺場へ連れていかれる豚を見るような憐れんだ目で女王を見つめた。
◆
黒い法衣を纏った集団が謁見の間に入ってくる。それぞれ変わった形の杖を腰に刺していることから魔法詠唱者の集団であることが伺えた。彼らこそスレイン法国の特殊部隊の一つ、陽光聖典である。任務としては亜人掃討が主な任務であるが、命じられれば暗殺でも何でもやる集団だ。
「お久しぶりです、女王陛下。陽光聖典ニグンお呼びにつき参りました」
恭しく膝をつき礼をする男は短い髪に鋭い眼光をしている。王国で一仕事終え、そこで強者を屠ったことで自信に満ち溢れていた。隊員たちも最低でも第3位階の魔法を使用できる実力者ぞろいである。
「ようこそ来られたニグン殿。早速で悪いが今我が国はまさに存亡の危機にあるのじゃ。こうしておる間にもビーストマンによって国民が殺されておる。ぜひ助太刀をお願いしたい」
ニグンは女王の言葉に何かを考えるように数秒目をつぶったが、静かにその返答を告げた。
「さようでございますか。では、白金貨にして1万枚ご用意いただきましょう」
「な、なんじゃと!?1万!?ニグン殿、さすがにそれだけの額を用意するのは無理じゃ」
「無理ですか?では代わりになるものを頂きたい」
「ま、まさかお主も私の体を欲しいと・・・・・・」
目の前で生足を露出した幼子が自身の体をかき抱きブルブルと震えている。
「いや、そんなことは言いません。お主も?え?そんなことを言う者がいるのですか?」
女王の隣に控える宰相から「ちっ、ロリコンじゃないのか」と言う舌打ちが聞こえるが、気のせいだろう。
「聞き間違いじゃ、気にするな。それで代わりのものとは?」
「国家総動員令を出していただきたい」
「なっ!?」
「亜人は滅すべき我らの共通の敵です。ですが、金だけ出して我々だけに戦わせる。それは道理に反するのでは?」
「それはそうじゃが・・・・・・しかし・・・・・・」
「聞けば陛下は生命を魔力とする
「そのような非道な真似はできん」
「非道?金だけ払って我らに命をかけさせるのは非道ではないのですか?」
「うっ・・・・・・」
おろおろと困り果てるドラウに宰相が耳打ちをする。
(陛下、ここです・・・・・・泣いてください)
(え、急に?無理じゃ。そう簡単に涙などでない)
そう言った瞬間、ドラウの足に激痛が走る。思わず叫びそうになるが口を押えて耐えた。痛みに涙があふれる。見ると宰相が思い切りドラウの足を踏みつけている。
「うっ・・・・・・ぐすっ・・・・・・しかしそんな真似は・・・・・・ぐすっ・・・・・・ううっ」
口元と押さえ、嗚咽に咽ぶ幼い少女の涙にさすがにニグンも罪悪感に苛まれるが、人類のため私情は捨てた男は心が揺らごうと態度が変わることはなかった。
「この国がこのままでいいと思っているのですか?例え今回我らが撃退できたとして、次はどうするのです?この国には亜人と全国民を挙げて戦う姿勢が必要なのです。そうなれば次回は自国民だけで撃退できるやもしれないでしょう」
ニグンは自分でも酷なことを言っていることは分かっている。だが、亜人との国境を守る国は盾の役割もあるのだ。この国が滅べばより人類の生存圏が侵される。それは人類の存亡にも関わることだ。そのためにも守られるのではなく、国民全員で盾となるくらいの覚悟はしてもらわねばならない。
幼い女王陛下は「むぅー」と唇を尖らせ、宰相は困ったような表情をしている。悩んでいるのだろう。もちろんニグンは断られたとしても力を貸すだろう。だが、その力がいつでもあると思ってもらっては困るのだ。しかし、そんなこの国の明暗を分ける決定を待つ場に、場違いな甲高い声が響き渡った。
「まーたそんな耳障りの良いこと言っちゃってー。女王様ー?騙されちゃだめだよー」
◆
そこに現れたのは竜の刺繍の入った白い奇妙な服を着たニヤついた顔の女であった。美しい顔立ちなのだが、その人を小ばかにしたような表情がそれを台無しにしている。その脇には鳥の顔をした亜人を連れていた。
「お、おまえは!?」
「どもー、ニグン隊長ひっさしぶりー」
そう言って馬鹿にしたようにヒラヒラ手を振っている。
「元漆黒聖典の裏切者・・・・・・疾風走破。お前がなぜここに!漆黒聖典が捕えたと聞いているぞ」
「裏切者?先に裏切ったのはどいつらだよ!あぁ!?おまえらがあたしに何をしたのか忘れたのか」
「陛下、お下がりください。この者は危険です。おいお前たち、やるぞ」
隊長の命令に隊員が動きだす。隊員の一人が
「速い!一瞬だと!?」
「あはははは、すっごいでしょー。見て、この指輪の効果なんだよー?あたしの武技もこんなに威力が上がるなんてね」
「まさか・・・・・・その指輪は!?それにその着ている服は傾城傾国!?」
「そう、法国が大切にたーいせつに守ってきたやつだよー?防御力もすごいし精神系の魔法も無効化してくれちゃうしすっごいよねー。それにとこの指輪はあんたたちのおかげで手に入った指輪だよねー?それにやられるってどんな気持ち?超うけるー」
「貴様ぁ!おまえたち!一斉に攻撃せよ!」
「んー、全員いっぺんはちょっときついかなー?・・・・・・ペロロンチーノ、やれ」
「はい、クレマンティーヌ様」
黒い影が目の前を通り過ぎた、陽光聖典の隊員たちにはそうとしか感じられなかった。影が走った瞬間に意識は奪われたのだから。そこには数十人いた隊員たちがすべて倒れ伏している。
「な、なにをした!?」
「
「殴っただけ・・・・・・だと!?」
(ありえない。これだけの数の隊員を一瞬で!?ほとんど見えなかったぞ。なんだ・・・・・・なんなんだこいつは)
「ね?すっごいでしょー?これがぷれいやーってやつだよー」
「ぷれいやー!?これが・・・・・・神だと言うのか!?」
「神なんて碌なもんじゃないけどね、おまえたちの崇める神のようにろくでなしさ。いや、これはマジで。何かあるたびに体弄ろうとするし」
「貴様!神を侮辱しているのか!」
「はっ、今のあたしならあんたなんてスッといってドスで終わりだよ?やる気?」
「神を冒涜するこの薄汚い売女が!おまえのような女は男たちの上で腰を振っていれば・・・・・・」
言い切る前にニグンは股間に激痛が走る、武技《疾風走破》で距離を詰めたクレマンティーヌが局部を思い切り蹴り上げたのだ。余りの痛みに泡を吹いて気を失うニグン。それを尻目に震える女王へと笑いかけた。
「さーて、女王陛下。交渉といこっか?」
◆
クレマンティーヌの交渉内容を聞いたドラウと宰相は耳を疑う。なんとたった二人でビーストマンの侵攻を止めるというのだ。
「お主たちがビーストマンを何とかしてくれるのか?」
「そーだよー?報酬は法国の糞どもみたいにたくさんは求めないから安心していいよー」
「しかしたった二人でそのようなことが可能なのか」
「んー?さっき見てなかったの?こいつはねー?神様並みに強いの。そしてあたしの言うことをなーんでも聞いてくれる。まぁ大人しくさせるのに苦労したけど」
ペロロンチーノは法国にいた時と違い、クレマンティーヌに大人しく従っていた。その目は体を舐め回すように見つめ続けてはいたが。
「何が望みじゃ」
「とりあえず、この国に居させてくれればいいよ。衣食住を提供してくれればねー。もう戻る場所もないし」
「ど、どうする宰相」
「その前にその亜人について教えていただきたい。その・・・・・・人を襲ったりしないのでしょうか」
「ああ、こいつ?大丈夫大丈夫、魔道具で支配してるから。心配があるとすれば・・・・・・あたしが襲われないか心配なだけだよ・・・・・・」
急にトーンを下げて引きつった顔をするクレマンティーヌ。そんな彼女に従う亜人は何をするともなく、やはりその体を見つめていた。それを見た宰相は口元をわずかにほころばせる。
「ほう、魔道具で支配ですか、それはそれは。では安心ですな。陛下、この話受けるべきかと」
宰相のその言葉に、それまでずっと黙っていたペロロンチーノが口を開く。
「その前に質問があります」
「お、おい。精神支配しているんじゃないのか?喋りおったぞこいつ」
「そうなのよ・・・・・・勝手にしゃべるのよ・・・・・・はぁ、何なのこいつ」
「こいつじゃありません。俺の名前はペロロンチーノです。お嬢さんお名前は?」
「わ、私の名は、ドラウディロン・オーリウクルスじゃ」
「この国は竜王国と言われているのになんで王様が人間なんですか?それともモンむすですか?もしかして人間化する能力でもあるんですか?」
「国民たちは人間じゃが、私は正確には人間と竜の両方の血を受け継いでおる。まぁ竜の血のほうは八分の一程度しかないがの。もんむすってなんじゃ?」
「っと言うことは!あなたのご先祖様はドラゴンとやったんですか!?」
「ぶっ!!な、なにを言っておるのじゃこやつは!?」
「どっちが男でどっちが女だったんですか?竜のモノはおっきくて入りそうにないから人間の男がドラゴンの女とやったんですか?異種間交配って可能なんですか?陛下は人間とドラゴンどっちとやるんですか?ていうかドラゴンの特徴ありませんよね?ツノとか尻尾とかあるんですか?」
滝のように質問を投げかけるペロロンチーノに面白がってクレマンティーヌが追撃をかける。
「そういやあたしも考えたことなかったなー、で、そこんところどうなの?」
「あ・・・・・・あ・・・・・・それは・・・・・・その・・・・・・」
ドラウは顔を真っ赤にしてモジモジしながら黙り込んでしまった。七彩の竜王は、竜王の間でも人間と交わった変態として名高い。そんことも言うわけにもいかず、宰相が仕方なしに助け舟という追撃をかける。
「えー、陛下が存在することですし、異種間交配が不可能ということはないでしょう。そして陛下の婿には私としてはドラゴン等の強い種族を推します。強い子供を産んでもらわないといけませんからね」
「か、勝手に決めるなー!」
「なるほど、頑張れば可能ってことですね」
「さようですな」
「私はがんばらんぞ」
ペロロンチーノがドラウを舐めるように見つめている。この視線をドラウは以前感じたことがあった。アダマンタイト級冒険者、ロリコンの変態、《閃列》セラブレイトの視線と同じものだ。
「ぺ、ペロロンチーノとやらもしや私を・・・・・・」
「いえ、俺はクレマンティーヌ様のエロ奴隷ですから何もしませんよ。でもロリとして愛でたいなと思っただけです」
「おまえをエロ奴隷にした覚えはないけど・・・・・・。っていうかこの女王陛下は見た目はこんなだけど結構歳はいってたような・・・・・・」
「なんだロリババアですか」
「ロリババア言うな!」
「ロリババアの話は置いておきましょう。では、クレマンティーヌ殿、ビーストマンの件、お任せいたします。」
「勝手に決めるなー!」
陽光聖典の隊員たちが倒れ伏す中、クレマンティーヌと竜王国の交渉は成立した。そして陽光聖典は神殿へ運ばれ治癒されることとする。もし彼らが失敗するようなことがあれば助勢を頼まなければならない。おかしな亜人とおかしな女にこの国の行く末を任せることに一抹の不安を覚えるドラウであった。
◆
謁見の間から出てきたクレマンティーヌは非常に機嫌が悪かった。まさか陽光聖典と鉢合わせするとは思ってもみなかったのだ。そして彼女をキレさせたニグンの最後の一言。
「くっそ、思い出したくないこと思い出させやがってニグンの野郎」
「クレマンティーヌ様、お兄さんがいたんですか?」
「は?そうだけどー?」
「お兄さんと何かあったんですか?」
「・・・・・・なんでそんなこと聞くのよ」
「いや、俺も姉ちゃんがいたもので」
「・・・・・・つまんねー話だよ。優秀な兄と比べられ役立たずと罵られ痛めつけられて捻くれた妹のさ。命令を聞かせるために男たちが寄ってたかって・・・・・・って何でお前にこんな話してんのあたし」
そんなクレマンティーヌのぼやきを腕を組みながらうんうんと頷き聞くペロロンチーノ。
「分かります。俺も姉に勝る弟はいないなんて虐げられてきましたから」
「え・・・・・・そうなの?そうか・・・・・・あんたも・・・・・・苦労したんだね」
「俺も・・・・・・エロい種族集めてナザリックハーレムを作ろうとか言って殴られたとか、エロゲに出演するのやめてくれって姉ちゃんに懇願して殴られたとか」
「いや・・・・・・ごめん違ったわ。よくわかんないけどあんたとあたしの話の落差が大きすぎてついていけないわ・・・・・・」
「なんでですかー、一緒ですよ。兄や姉に虐げらた者同士傷を舐めあいましょうよ。いや、傷ではなくもっといろんなところを!」
「お前それを言いたかっただけだろう!?ちょ、やめろ触るな」
「ご褒美くれるって言ったじゃないですか!」
―――『ご褒美』
そう、クレマンティーヌはペロロンチーノの操り方が段々わかってきた。ご褒美をちらつかせればこいつはよく言うことを聞く。ペロロンチーノが今まで大人しくしていた理由。それはクレマンティーヌは所かまわず体を触ってくるペロロンチーノにしたある約束だ。
あとで『すんごいこと』をしてやるから大人しくしてろ、と。
「まだだ、まだ。後でしてやるから!」
「じゃあ一部前払いでお願いします」
(この魔道具は本当に厄介だね・・・・・・魅了の効果が強すぎる気がする。仕方ない・・・・・・)
クレマンティーヌは覚悟を決める。
「はぁ・・・・・・しょ、しょうがないわね。ちょっとだけ前払いしてあげるから目をつぶれ」
「はい!」
期待に胸を高ぶらせるペロロンチーノ。目をつぶった自分にいったいどんなことが起きるのか。起きたら縛られていてむりやり
「よし、じゃあ行くぞ」
「あの・・・・・・今どき頬にキス程度で命令聞くのは俺みたいに魔道具に支配されたやつくらいですよ」
「う・・・・・・うるせえ!さっさと行くぞ」
クレマンティーヌは初めて自分からしたキスに意外とドキドキしている自分に戸惑いながらごまかすようにペロロンチーノの背に乗るのだった。
◆
―――中央大陸国境付近 上空
そこは戦場と言うより文字通り弱肉強食の場であった。兵たちは岩や塹壕に隠れ反撃の機会を伺っていたが、見つかったら食われるという恐怖がその足を鈍らせている。
『ビーストマン』、肉食獣の顔を持ち全身を体毛に覆われた亜人は肉体能力のみでも人間の数倍があり、訓練を受けたものにおいてはそれが数十倍となってしまう。もちろん兵士たちの中にも強者はおり、数人掛かりであれば倒せるが相手は数においても勝っており、絶望的な状況であった。
「おー、いるいる、ビーストマンがわらわらと。あ、あそこで生きながら喰われてんじゃん。あはははは、なっさけなーい」
「あ・・・・・・けも耳してる・・・・・・」
「んー?どうしたのー?」
「何でもないです、クレマンティーヌ様、俺は何をすればいいんですか?」
「んー?みーんなやっちゃって」
「みんな?竜王国の兵士みたいな人たちも混ざってますよ?」
「別に兵士を助けるなんて約束してないしー?墓地でアンデッドまとめてぶっ飛ばしてたみたいに一気にやっちゃっていいよー」
「そう・・・・・・ですか。はい、畏まりました」
少し考えるそぶりをしたペロロンチーノは弓を取り出すと爆撃を始める。広範囲にわたる高高度爆撃だ。それまで狩る立場だったビーストマンたちがなすすべもなく狩られる立場へと変わる。絶え間ない爆撃により動くものが動かないものへと変わっていった。
ビーストマンに分かったのは上空より「光り輝くもの」が現れたこと、そしてそこから光の雨が降り注いだことのみである。そしてビーストマンの数およそ10万、そのすべてが倒れ伏すことになった。
◆
動くもののほとんどいなくなった戦場。そこにクレマンティーヌとペロロンチーノが降り立つ。ただし、死んだ者も一人もいなかった。すべてが倒れ伏しているがよく見ると胸が動いており息をしているのが分かる。ペロロンチーノは
「あんた、なんでこいつら殺してないのよー、つまんないじゃないー」
「殺せとは命令されてないです。あとグロいと吐いちゃいます」
「何言ってんの?殺すのって楽しいじゃない。あたしはねー、殺すことが好きで好きで恋してて愛しているの」
「そうですか?殺さないほうが面白いと思いますけど」
「え、なんで?」
「殺しちゃったらそこで終わっちゃうじゃないですか。いくら楽しくてもそれで終わるのはつまらなくないですか?」
「ふーん・・・・・・なるほどねー。そういう考え方もあるかー。まぁいっか。全部殺しちゃってもつまんないしー。さーてどいつにしようかな」
散歩に行くような気軽さでビーストマンを品定めするクレマンティーヌ。その中から体格が良く、装備もよさそうなビーストマンを選び、蹴りを入れる。
「げふっ・・・・・・」
「あんたその恰好は隊長クラスとかそのあたり?ねー、教えてくれるー?あんたたちのボスはどこ?」
「げほっ・・・・・・げほっ・・・・・・人間などに答えるか」
「ふーん・・・・・・じゃあ死になよ」
クレマンティーヌがその首筋にスティレットをあてがう。その動作は手馴れており、それが冗談ではなないことをビーストマンに体で伝える。
「あ、あそこにいる方だ」
震えるビーストマンが指さした先、そこに一際体格が大きく、輝く鱗のようなもので出来た鎧を着たビーストマンが倒れていた。
「ありがとー。じゃあお前は用なしだから死んでいいよー?」
そう言ってスティレットをビーストマンの眼球に突き付ける。
「ま、待て話しただろうが!お、お願いします!殺さないで!」
「だめー。じゃーねー」
振りかぶったスティレットはビーストマンの顔をかすり地面に突き刺さる。ビーストマンは白目を剥いて失神した。
「あはははは。本気にした?」
再び動かなくなったそのビーストマンを放置し、ボスと思われるビーストマンのところまで歩くと、その腹に蹴りを入れ、
「げふっ・・・・・・なんだこれは・・・・・・お前がやったのか?」
「さて、あんたがビーストマンたちのボスってことでいいの?」
「そうだ・・・・・・俺がビーストマンの王・・・・・・獣王だ・・・・・・」
「獣王!へぇ!メコン川さんと同じ名前だ」
「あんたこの亜人しってるの?」
「ギルメンの一人なんですが・・・・・・メコン川さんの知り合いですか?」
「違う・・・・・・いや、違います。その・・・・・・あなた・・・・・・は・・・・・・その4枚の翼はまさか・・・・・・神!?」
「はぁーまた?あんた何回間違えられるの?」
「神よ・・・・・・我らになぜかような試練を与え給うのか。お聞かせください」
獣王はそう言って鎧の胸部に仕舞っていた木の像を取り出す。それは獣の顔に4枚の翼を生やした像であった。
「これは古より伝わる我らの神・・・・・・まさか顕現なさるとは」
「いや、それ顔が獣じゃん・・・・・・いや、これは・・・・・・ふーん、面白いかな。ちょっと待っててねーん」
クレマンティーヌはペロロンチーノと共に声の聞こえないところまで離れる。
「おい、ペロロンチーノ。あんた神の真似をしなよ」
「俺は神じゃないですよ」
「そんなことはあんたに色々されたあたしが一番わかってるよ!神だとしてもエロを司る悪神とかエロを伝道する悪神だろうが!それで神のふりしてこいつらビーストマンの王を連れて行こうよ、そのほうが面白そうじゃーん」
「けも耳の王を竜王国へ・・・・・・?」
「あん?何か文句あんの?あんたが殺すの嫌だっつってんでしょ。神の振りをして戦争終わらせちゃおっか?いや、ビーストマンの国も竜王国もこっちのもんにしちまえば都合がいいかなー?さすがにそうなってしまえば法国の連中もちょっかい出しづらいでしょ。んふふふふ、あたしってば天才」
「竜と人間から生まれた幼女・・・・・・では獣と人間では・・・・・・?」
「なにぶつぶつ言ってんのー?神のふりすんのしないのどっち?」
「分かりました!協力しましょう!」
「最初からそう言えばいいのよ、じゃ帰ろっか」
「その前にちょっと待ってください。いつすんごいことをしてくれるんですか?もう辛抱たまらんのですが」
「あ、あとで。あとでやるから今は協力するんだ」
面倒なことを思い出したペロロンチーノにそう言ってごまかすのであった。
◆
―――聖王国 謁見の間
ビーストマンの侵攻部隊を撃退したと聞いてドラウは耳を疑った。しかし、ペロロンチーノと共に戦場より帰還した兵たちがそれを証明する。まさしく神の所業であったと。そして捕えた獣王は縄で縛られ、謁見の間まで連れてこられていた。侵攻部隊は防いだもののビーストマンの国は今も健在であり、次の侵攻がないとも限らない。そのため、交渉のため生きたまま連れてきたのだ。そしてその場の仕切りはクレマンティーヌとペロロンチーノに任された。
獣王を連行したペロロンチーノは課金エフェクトを発動させる。たっち・みーの課金エフェクトに触発されて買ったものだ。後光を発するだけのものだが、その効果はてきめんであった。獣王が目に感激を称えひれ伏している。
そしてペロロンチーノから神勅が下った。
「人間の女王よ・・・・・・そして獣の王よ・・・・・・汝ら争うことなかれ」
「はっ・・・・・・ははぁ!神よ。承りました」
調子に乗って神の振りをするペロロンチーノにひたすらひれ伏す獣王。それを見てドラウと宰相は困惑する。お互い耳打ちをして現状を把握しようと必死だ。
(ど、どういうことじゃ?なぁ、宰相。これはどういうことじゃ?)
(よく分かりませんが、停戦の申し入れを取り付けてきたのでは。やつが獣王であるならば、話を合わせるのが得策かと)
「わ、私も同意・・・・・・してもよいかなぁ」
「汝人間を愛せよ・・・・・・汝獣を愛せよ・・・・・・獣と人間、その愛によりケモ耳娘を作るのだ・・・・・・」
「お、おお!我らと人間が!?」
「え!?」
「ケモ耳娘こそ萌え・・・・・・ケモ耳娘こそフレンド・・・・・・」
「分かりました!我ら人間を愛します!」
「あ、いや、さすがにそれは・・・・・・」
あまりと言えばあまりの展開にドラウは目を白黒させる。人間と獣が愛し合う?それは今まで物理的に食われていたものが性的に食られることになるということなのだろうか。迷う女王に獣王は表情を険しくする。
「神の言葉に逆らうと!?人間の女王よ・・・・・・」
「これこれ、無理やりは駄目だぞ。獣の王よ」
「はっ、失礼いたしました」
「陛下、もうここは腹をくくるしかないかと。ここは耐えてください」
「わ、分かったのじゃ。もう好きにせい!食われないだけましじゃ!」
もうどうでも良くなりやさぐれた女王の決定により、こうして停戦協定と融和策が決まったのであった。
◆
―――来賓室
女王により戦争の終結が宣言されると国民は熱狂した。ビーストマンとの国交を開くことについては不安の声はあったが、国民は概ね安心している。それは竜王国の圧倒的な勝利を持って今回の宣言がなされたことが大きかった。そんな中、ビーストマンに対する抑止力、ペロロンチーノとクレマンティーヌは国賓として部屋を用意され二人で酒盛りをしていた。
「あのさー、神の振りをしろって言ったけど、あんたなに勝手に変なアレンジ加えてんの?」
「すみません、ケモ耳娘が出来たら面白いなぁっと思ったら我慢できませんでした」
「ケモ耳娘って・・・・・・あんたの頭の中どうなってんのよ・・・・・・」
「もちろんクレマンティーヌ様でいっぱいになってますよ。今夜のご褒美が何なのかその妄想でいっぱいです。具体的に言うと・・・・・・」
「いや、言わなくていい、具体的に言わなくていいから」
「ところでクレマンティーヌ様。このお金は俺ももらっちゃってよかったんですか?」
ペロロンチーノのアイテムボックスには少なくない金額が入れられている。さすがにこれだけのことをして無報酬というのは気が引けたのか竜王国は二人に報酬を支払っていた。
「あー、いーのいーの。別にあたしお金が欲しかったわけじゃないからさー」
「じゃあ何が欲しかったんですか?」
「そりゃあ・・・・・・その・・・・・・あー、もう!そんなことどうでもいいでしょー。それよりもう一杯ついでよ」
「はいクレマンティーヌ様」
クレマンティーヌは勝利の美酒を飲みながら思う。こいつは色々とおかしい。クレマンティーヌは自分は狂人だと思っているし、実際にその通りだ。だが、この男は自分に輪をかけてぶっ飛んでいる。国を支配しようとしていた話がなんでケモ耳娘になるんだ。そう思うとなんだか笑えてきた。
「ぷっ・・・・・・あはははははは。おっかーしいのー」
クレマンティーヌは腹を抱えて笑い続ける、何なのだこいつは。おかしい、狂ってる。しかし、何となくそれが心地よかった。世界なんてぶっ壊れてしまえばいいと思っていた。法国には居場所がなかった。ズーラーノーンはただの協力関係にあっただけだ。楽しいこと何て何もなかった。だが、そんな常識は全部こいつがぶっ壊してくれた。そして今自分は心の底から笑えている。
(『すんごいこと』をどうやってごまそっかなーって思ってたけど・・・・・・あげてもいいかな・・・・・・。いや、まぁこいつ結構働いてくれたし・・・・・・)
改めて考えるとこの絶対的強者と一緒になるのはそう悪いことでもないかもしれない。法国の連中も見返すことが出来たし、人間の男なんかに比べればよっぽどいい。
(そういや、こいつ姉に虐げられていたとか言ってたな・・・・・・ってあの話なんなの。ふふっ・・・・・・こいつとお互い慰めあうのもいいかな・・・・・・)
そんな気持ちとは裏腹にクレマンティーヌは猛烈な眠気に襲われれた。深い水の底に引きずり込まれるような急激なものだ。
(なんだこれは・・・・・・眠っちゃだめだ。こいつに褒美をやらないと・・・・・・すんごいことを・・・・・・)
しかし、ペロロンチーノとの未来を夢見ながら、睡魔には勝てずに眠りに入ってしまうのであった。
◆
来賓室のドアが開かれる。その時、大音量で警報が鳴り響いた。《
「警報を張っていたとは用心深い」
「お、おい、宰相。酒で酔いつぶれていようがこんな大音量じゃ起きてしまうのではないか」
「彼女もそう思って警報を設置していたのでしょうな。ですが、ご心配なされるな。強力な睡眠薬です。朝までは絶対に目を覚ましません」
「睡眠薬?この女の着ている魔道具は精神系の魔法を無効化すると言っておったぞ」
「精神系魔法の無効化という効果に甘え油断したのでしょうな。自ら口にした薬まで無効化するものではなかったと言うことです。精神支配のアイテムを持っている以上盗まれることを警戒はするでしょうからな」
「宰相・・・・・・お前意外とえげつないやつじゃな」
「お褒めに預かり恐縮です。《
「ど、どうじゃ?」
「やはり間違いありません。神を操っていたのはこの服のような魔道具です。では陛下、これを着てください」
「わ、私が?い、嫌じゃ。話を聞いていたが、この男はとんでもない変態じゃぞ。どんなセクハラを受けるか分からん・・・・・・お前が着ればいいだろうが」
そう言うドラウの視線の先にあるのは眠り込んだクレマンティーヌの服のスリットをめくりあげている
「これは女性にしか扱えない魔道具のようですからそれは無理ですな」
「そんなぁ・・・・・・」
「私にそんな縋るような目をしても無駄ですよ。そういう目は外向けにお願いします」
「ちっ・・・・・・」
「では陛下。服を脱がせますので足を持ってください」
「分かった。これで良いか?」
「何をやっているんですか?」
「うわっ!びっくりした!術者の意識がなくても会話ができるとは・・・・・・」
「何をやっているんですか?」
「え、えーっとですね・・・・・・おお!これはクレマンティーヌ様が酔って寝てしまってますね。それにお酒で汚れて・・・・・・これは脱がして差し上げねばなるますまい!」
「それはいい考えです!いやぁ、服にしわが出来てしまうから仕方ないなぁ、ええこれは仕方ないことなんですとも」
(おい、宰相。こいつ本当に精神支配されているのか)
(分かりません、ですが、ここはごまかして服を脱がしてしまいましょう)
「行きますよ陛下」
「わ、分かったのじゃ」
宰相が服を引っぺがすと下着だけになったクレマンティーヌにペロロンチーノはさきほどの魔道具を掲げている。
「さあ、陛下。これを・・・・・・」
「こ、ここで着替えるのか?」
「はやく、目を覚まさないとも限りません。それからこの指輪も強力な魔道具のようです、奪っておきましょう」
「ちょっとあっちを向いていてくれないか?」
「ご安心ください。私は陛下のようなロリババアには興味ありませんので」
「おまえいつも私の扱いが酷いな。覚えていろよ」
そう言って、傾城傾国を身につけるドラウ。その瞬間、ペロロンチーノの視線と魔道具の向きが変わった。
「これで私の命令を聞くようになったのか?」
「試してみましょう」
「よし、おいペロロンチーノ。お手」
ペロロンチーノの手がドラウの手の上に載せられる。
「宰相!成功したようじゃぞ!」
「ロリには手を出さない俺だけどロリババアならありでしょうか・・・・・・触ってもいいんでしょうか」
「触る・・・・・・?ど・・・・・・どこを?」
「ロリババアなら触ってもいいですよね」
「どこをじゃ!」
「いいですよね」
「おい、宰相こいつやばいぞ。セラブレイト以上の変態じゃ」
「陛下、幼子の振りです。幼子の振りをするのです」
「ペ、ペロロンチーノお兄ちゃん・・・・・・やめて欲しいのじゃ」
そう言って潤んだ目で見つめる、その足は宰相にグリグリと踏みにじられているが。
「分かりました。やっぱロリに手を出すのはだめですね」
「よし!やったぞ宰相!」
「さて・・・・・・これで我が国も安泰ですな。では早速命令をして見ては?」
◆
ドラウが宰相の反対を押し切って最初にした命令は自分を乗せて空を飛ぶことであった。ドラウはドラゴンの血を引いているとはいえ、飛行能力は失われている。竜王などと呼ばれているが飛べないことを揶揄されることもあり空に憧れを持っていた。
「はははははは、高い高い!すごいぞペロロンチーノ!速い!ははははは」
「嬉しそうで何よりです。あとペロロンチーノお兄ちゃんと呼んでください」
「ペロロンチーノお兄ちゃん、もっと雲の上まで行ってみたいのじゃ」
「へへへっ、畏まりました」
夜の空から眺める景色は格別であった。遠くに見える町の光がキラキラと輝いてまるで宝石のようだ。ペロロンチーノは翼をはためかせ上空へのさらに登っていく。雲に入り、その湿気に息を詰まらせるドラウであったが、その先に見た光景に思わず息を飲む。どこまでも澄んだ空気、上には満天の輝く星空、下には一面の雪原のような雲が広がり幻想的な雰囲気を作り出している。
「すごい・・・・・・なんと美しい・・・・・・すごいぞペロロ—――」
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感動を言葉に出そうとドラウがペロロンチーノに話しかけようとするが、その言葉には音が無くなっていた。そして代わりに美しい鈴のような声が響き渡る。
―――そこまでにしていただきんしょうかえ