ペロロンチーノの冒険   作:kirishima13
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第17話 シスターモノには背徳感が必須

―――ナザリック地下大墳墓

 

 玉座の間に階層守護者が集まっていた。デミウルゴスに呼ばれた者たちだ。ただし、全員が集まっているというわけではなかった。

 

「さて、みな集まったね」

「デミウルゴス。シャルティアがいないんだけど?」

「ああ、アウラ。シャルティアにメッセージを送ったが、魔力が枯渇して動けないようなんだ。それに泣いていて何を言っているのかよく分からない。今ユリとルプスレギナが魔力の譲渡に向かっている」

「あいつに何かあったの!?」

「な、何かあったんですか?シャルティアさんに」

「そのあたりもこれから説明するよ、アルベド。ペロロンチーノ様がナザリックを離反したという話のほうだ。確かな証拠でもあるのかね」

「ペロロンチーノ様ガ離反ダト!?ソノヨウナ事ガアルハズガナイ」

「まぁ、これを見て頂戴」

 

 そう言ってアルベドは玉座にあるコンソールを操作し、マスターソースのPC(プレイヤーキャラ)の欄を表示させる。

 

「正常な状態では名前は白。死亡した場合は名前が消えるわ。そして、今の状態がこれよ」

「ピンク・・・・・・ですか?」

「ピンクナド聞イタコトモナイゾ。精神支配サレタ場合ハ黒デハナイノカ」

「なんでピンクなのかは分からないけど、これはペロロンチーノ様が離反した確かな証拠といえるのではないかしら」

「それはどうかな、アルベド。私はペロロンチーノ様に王都でお会いした時そのあたりの防御対策をしていないことに気づいた。それで君に第八階層のワールドアイテムを渡しておくように頼んだじゃないか。ワールドアイテムさえ持っていれば対抗できるだろうからね」

「あら、何の話かしら?」

「君への報告書に確かに書いたはずですよ!」

「報告書?これのことかしら?」

 

 そう言って差し出した血塗れの報告をデミウルゴスは乱暴に取り上げる。

 

「ええ、書きましたとも。ここに・・・・・・」

「ああ、そこ。あなたの血で何が書いてあるか分からないわね」

 

 そこには後から血を塗りたくったように塗りつぶされており、とても読める状態ではなかった。

 

「これは・・・・・・私の血ですか?」

 

 デミウルゴスはアルベドを睨めつけるがアルベドは涼しい顔だ。誰が塗りつぶしたか証拠などあるはずもない。

 

「それよりもこれからの方針についてだけどデミウルゴス。あなたから聞いた話のほうが私は気になるの。アインズ・ウール・ゴウンを知る者がいたと言っていたわね」

「ええ・・・・・・彼らは今第六階層でエルフ達とともに置いています」

「その話の中にあったスケルトン、それはモモンガ様のことではないかしら」

「可能性はありますが、確証はありませんね。まずは調査が必要かと」

「その調査は私が行います!確かネイアとか言う者が情報を知っているのね」

「ペロロンチーノ様はどうするのですか!」

「そうだよ!ペロロンチーノ様を救わないと」

「ぼ、ぼくもそう思います」

「でも私は一刻も早くモモンガ様を探すことが・・・・・・」

 

 アルベドがそう言いかけた時、玉座の間の扉がノックされた。

 

「皆さま、シャルティア様をお連れしました」

 

 ユリとルプスレギナに両脇を抱えられてシャルティアが入ってきた。一緒にハムスケと本体の木ごとピニスンも連れてこられている。

 

「うぐっ・・・・・・えぐっ・・・・・・ペロロンチーノ様・・・・・・ペロロンチーノ様・・・・・・」

 

 シャルティアの顔は涙と鼻水でぐちゃぐちゃだった。顔から地面にでも突っ込んだのか泥だらけでもある。一人では立ってられないほど憔悴しており、その場に跪く。

 

「シャルティア・・・・・・」

「シャルティアさん・・・・・・」

 

 アウラとマーレが同情するようにシャルティアを見つめる中、デミウルゴスの厳しい声が響き渡る。

 

「シャルティア。泣いてないで何があったか説明したまえ」

「えぐっ・・・・・・ペロロンチーノ様が・・・・・・トブの大森林で・・・・・・ババアが・・・・・・人間が・・・・・・魔樹を倒してたら・・・・・・魔獣とドライアードを守れって・・・・・・えぐっ・・・・・・」

 

 いつもの廓言葉も使わず支離滅裂なシャルティアの説明にデミウルゴスは頭を抱える。

 

「ああ、もう。話にならないな。それで、その魔獣とドライアードは?ユリ?」

「シャルティア様と一緒におられたので、連れてまいりました。シャルティア様がペロロンチーノ様より守るように命じられたと」

「こ、ここどこ!?ねぇ、僕たちどうなっちゃうの!?」

「助けてほしいでござる!食べらないで欲しいでござる。それに指輪を返して欲しいでござるよ」

 

 指輪?とアルベドが不思議そうに首を傾げているが、ハムスケとピニスンの二人は抱き合って怯えている。シャルティアは混乱の極みにあり、デミウルゴスは代わりに二人に事情を聴くことにした。二人は知っていることを守護者たちに伝える。

 

「要するに人間の集団の攻撃によりペロロンチーノ様が精神支配されたのではないかと言うんだね?」

「うん、目の色が失われていたからね。多分そうじゃないかなぁって」

「某の魅了の魔法を使った時もあんな感じになるでござるよ」

 

 2匹の答えにアルベドの眉間に青筋が浮かぶ。他の守護者たちからも不穏な空気が醸し出された。

 

「それを黙って見ていたと言うの!シャルティア!」

「うぐっ・・・・・・そ、そんなわけないでしょ!ババアと盾を持った奴はやったわ!でも・・・・・・でも・・・・・・」

「このような守護者失格の者はこの場で処刑すべきだわ」

「切腹モヤムヲ得ナイカモシレヌナ」

「あ、あの・・・・・・それはちょっと待って欲しいっていうか・・・・・・あの・・・・・・その」

「アルベドの言うとおりよ・・・・・・主人を守れないような私なんて守護者失格・・・・・・存在する価値もない・・・・・・もう・・・・・・死んだほうが・・・・・・ううっ・・・・・・」

「このお馬鹿!!!」

 

 膝をつき、涙に暮れ、自分の存在価値を否定したシャルティアにアウラが強烈なビンタを食らわせた。勢いでシャルティアが壁まで吹き飛ぶ。

 

「あんたが死んでどうするの!そんなことしたらペロロンチーノ様はもっと悲しむよ!あんたの今すべきことは何!?泣いてること!?違うでしょ!」

「私のすべき・・・・・・こと・・・・・・?」

「あんたペロロンチーノ様のために作られたんでしょ!じゃあペロロンチーノ様のために動きなよ!今すぐ!」

 

 アウラのその言葉にシャルティアの目に光が差す。そうだ、その通りだ。自分には泣いている暇なんてないとシャルティアは目を見開き、ペロロンチーノに設定された廓言葉に話し方を変える。

 

「そう・・・・・・でありんすね。死ぬことはいつでもできる・・・・・・まずはペロロンチーノ様をお救いしなければ」

「そのとおりだ、シャルティア。まずはペロロンチーノ様をどう救出するのかだ。アウラの話によると法国の動向を探りに行った際に巡り合ったということは、下手人は法国の可能性が高い」

「デハ、私ガ先兵トシテ法国ヲ滅ボソウ」

「ぼ、僕も・・・・・・やっちゃいます」

 

 マーレとコキュートスが目に決意を浮かべるが、それをデミウルゴスが制した。

 

「待ちたまえ、それは愚策だ。まず大切なのはペロロンチーノ様の身の安全。彼らがペロロンチーノ様を人質にした末に殺してしまうとも限らない」

「人間なんかにペロロンチーノ様が殺されたりするかな?」

「アウラ、精神支配されているのであれば死ねと命ずるだけで命を奪えるだろう?精神支配とはそれほど恐ろしいものなんだ。だからペロロンチーノ様を攫った者たちが身動きを取れないようにする必要がある」

「どうするの?」

「まず、ペロロンチーノ様の場所を探る必要がある。だが、ニグレドの探知でも見つけることはできなかった。恐らく潜伏スキルを使用させられているのだろう。ペロロンチーノ様クラスの能力を使われては遠距離で探知するのは不可能だ。物理的に捜索をする必要がある。アウラ、探索能力に優れた君にこれはお願いしたい」

「了解。任せておいて」

「さらに、ペロロンチーノ様が精神支配され、法国に攫われたという情報を流す。シャルティア、君は依頼を請けた帝国の冒険者組合へ報告するんだ。王国や帝国にはペロロンチーノ様の勇名は知れ渡っているだろう。それを聞いた彼らはどうするか?法国を非難することだろうね。公になった以上簡単に殺すという手段はとれなくなるはずだ。その間にペロロンチーノ様の場所を探す。どうだい?異論はあるかい?」

「はぁ・・・・・・仕方ないわね。でもモモンガ様に関する調査も同時に行うわよ」

「それについては任せるよ」

「ペ、ペロロンチーノ様酷い目にあっていないかな・・・・・・」

「法国は人間以外を敵視する国、酷い目にあっているやもしれないね」

「許スマジ法国」

「ペロロンチーノ様・・・・・・御いたわしいでありんす」

 

 こうしてナザリック地下大墳墓の階層守護者たちはペロロンチーノを救うべく行動を開始するのであった。

 

 

 

 

 

 

―――リ・エスティーゼ王国 王都

 

「あの冒険者がスレイン法国に精神支配を受けて連れ去られたらしいわ」

 

 ラキュースの言うあの冒険者、青の薔薇の会話の中でそれに該当するのは一人しかいない。

 

「あの馬鹿が!なんでそんなにいつもいつもトラブルに巻き込まれるんだ」

「でもよ、あいつがそんな簡単に精神支配受けるようなたまか?」

「油断していたんだろう。ほんとにあの馬鹿は・・・・・・」

「そんなこと言ってイビルアイ、心配してんじゃねえの?」

「私もそう思う」

「イビルアイはツンデレ」

 

 ガガーランとティアティナに突っ込まれたイビルアイは慌てる。

 

「そ、そんなわけないだろう!この国の連中の気持ちを代表して言ったまででだな」

「そうか?その割にあいつが落としたとかいう黄金色の羽を大事そうに持ってるじゃねえか」

「キラキラして綺麗」

「いつも撫でてる」

「それはだな・・・・・・」

 

 返答に困るイビルアイをラキュースは助けて上げることにする。へそを曲げられると面倒だ。

 

「みんなそんなにイビルアイを揶揄(からか)わないの。でも、イビルアイの言う通りこの国は彼らのおかげでずいぶんよくなったわね」

 

 現在リ・エスティーゼ王国はラナーの活躍により貴族勢力の力はかなり削られている。その容姿による人気もさることながら、彼女が悪徳貴族を罰し、接収した領地には新たな農法が取り入れられ、権力者が一方的に奪う政治から、両者に利益がある政治への切り替わりつつあるのだ。そしてその後押しをしたのが彼らのことば「自由と規制からの解放」だ。

 

「ふふっ、あんな目にあったのに私も意外とあの冒険者たちは嫌いになれないわ」

「同意」

「剥かれて新たな属性に目覚めた」

「わ、私は許していないぞ!あいつは私のは裸を見たんだからな!絶対に仕返ししてやる!」

「俺は剥かれてないんだけどな・・・・・・」

 

 ため息をつくガガーランは無視して、ラキュースが話を戻す。

 

「でもスレイン法国か・・・・・・やっかいね」

「彼らは亜人も人間も容赦しない」

「鬼畜の集団」

「罪もない亜人を殺しても平気な顔のやつらだからなー。俺の尊敬するガセフの旦那を殺したのもやつらで間違いないだろう」

「そんな連中に捕まって何をされているのか・・・・・・糞!我慢ならん!私はちょっと行ってくる」

「スレイン法国に行くって言うんじゃないでしょうね」

「そんな無茶はせん。ちょっとリグリットのババアに相談してくるだけだ」

「ペロロンチーノのことが心配?」

「好きになっちゃった?」

「違うと言ってるだろう!奴が私以外の誰かから酷い目にあっているだろうことが許せないだけだ!奴には私が借りを返してやるんだからな!」

「ふふっ、イビルアイ。あなたちょっと変わったわね」

「だよな。そんな熱いやつだったかおまえ?」

「恋の魔法にかかってる」

「イビルアイ可愛い」

 

 仲間たちに揶揄(からか)われつつ。変わったとしたら奴のせいだとイビルアイは思う、王国で見た周りのことなどどこ行く風といった自由で楽しそうな奴の。そしてそんな奴が窮地に立たされている。イビルアイは仮面の下に怒りを隠し、唇を噛みしめた。

 

 

 

 

 

 

―――バハルス帝国 郊外

 

 屋敷にいつもの3人が集まっていた。ジルクニフ、フールーダ、ニンブルの3人だ。ちなみにバジウッドはいまだに休養中であり、レイナースはペロロンチーノを帰ってくるのを待って自宅待機中だ。

 

「陛下、今回はどうされたのですか」

「ペロロンチーノが法国の魔道具により精神支配され連れ去られたらしい。やつの仲間のシャルティアが冒険者組合に届け出た」

「陛下は彼らが国を滅ぼすほどの実力があると言われてませんでしたか?これは彼らを買いかぶりすぎていたのでは?」

「そうとは言えませんぞ、ニンブル。法国は歴史の古い国だ。あれほどの者を洗脳する魔道具を持っていてもおかしくはありますまい。恐るべしは法国の歴史ですな・・・・・・」

 

 フールーダが髭を撫でながら難しい顔をする。帝国一の魔法詠唱者でも恐れるほどの力を法国は持つと言うことだ。それに対しジルクニフはいつもの余裕を持った微笑みを浮かべる。

 

「だが、狙いはうまく行ったとも言えるだろう。これで王国で蠢動していた者たちの正体ははっきりした。スレイン法国、それも特殊部隊である聖典のいずれかだろう」

「それで、どうするんです?強国であるスレイン法国にさらに強者であるかの者を奪われたのですが・・・・・・」

「確かに脅威だな。だが、引くことなど出来るものか。戦争とまではいかんが、非難声明くらいは出さねばな。我が国の客人を魔道具により精神支配し連れ去ったとな」

「わが師シャルティア様もたいそう嘆かれていたそうです。陛下がそうしてくだされば印象もよろしいかと思います」

「第10位階まで使える女の怒りを買うわけにもいかんからな。ところで、ニンブルちょっと聞いてもいいか?」

「奇遇ですな陛下。私もニンブルに聞きたいことがあるのです」

 

 ジルクニフとフールーダがニンブルを見つめる。ニンブルは戸惑ったように二人の顔を交互に見る。

 

「何で女装をしているんだ?」

 

 一瞬時間が止まった。そう、ニンブルは当初から『どうていをころすふく』を着用していたのだ。長髪のウィッグをつけたニンブルはもともと綺麗な顔立ちをしていただけあり、非常によく似合っている。金髪碧眼の美麗な女性がそこにはいた。

 

「陛下がしろっていったんでしょう!!って言うか最初に言ってくださいよ!なんで今頃言うんですか!」

「いや、目覚めたのか・・・・・・とか、言ったら不味いか・・・・・・とかいろいろ考えてな」

「もう帝国四騎士やめようかな・・・・・・」

 

 そうつぶやくニンブルにジルクニフは両手を上に向けておどけて見せる。

 

「冗談だ。そう怒るな」

「はぁ・・・・・・陛下何か変わられましたね。以前はこんな馬鹿な冗談言わない方でしたのに」

「そうか?」

「確かに変わりましたな。何と言うか、以前はもっと張りつめてる感じでしたが今は力が抜けているというか楽しそうというか」

「自分では分からんが、まぁ悪いことではないだろう。私は私だ」

「いや、巻き込まれる身にもなってくださいよ」

「しかし、ペロロンチーノか・・・・・・。法国でどのような目にあっていることやら」

「スレイン法国は邪魔なものは人間であろうとなかろうと容赦のない国。酷い目にあっていることでしょう」

「我が師の仲間がそのような目に合わされるとは。許しがたいですな」

「ああ・・・・・・酷い目に・・・・・・あっているのだろうな・・・・・・」

 

 ペロロンチーノとの馬鹿な会話を思い出しながら微笑みを絶やさないジルクニフが珍しく顔を歪めた。

 

「・・・・・・少し不快だな」

 

 

 

 

 

 

―――スレイン法国

 

「なんで私がこんな酷い目にあわないといけないんですか!」

「カイレ様が至宝を使えない以上こうするしかないんです。我慢してください」

 

 チャイナドレスのような服を来た占星千里が漆黒聖典隊長食ってかかっている。そしてその後ろでは4枚の神々しい黄金色の羽を生やした鳥男、ペロロンチーノが占星千里のケツを揉み続けていた。

 

「そうです、仕方ないことなんですよ。こうやってケツを揉むのもあなたが俺をそのアイテムで支配してるから仕方ないことなんです」

「ケツって言うな!なんで精神支配してるのに普通に喋ってるんですか!この人、本当は正気じゃないんですか!?」

「それはありえません。至宝の力を確かに感じます」

 

 漆黒聖典隊長はその言葉を否定する。カイレのかけた術式が解けることを心配した漆黒聖典はその至宝を別の人間に着用させることで術者を切り替えたのだ。それが占星千里であった。

 

「でも隊長!」

「そうです俺精神支配中ですよ、占星千里様。俺の頭の中は占星千里様でいっぱいですから。だからこの程度許してください。いや、俺も普段は愛でるだけでこんなことはしないんですよ。でもこの気持ちはなんでしょう。何かあらゆる制約から解放されたような清々しい気分です。占星千里様こそ俺の嫁、俺のエロゲのヒロイン、そんな気持ちがとまらないんです」

「なんですかそれ!隊長!この魔道具こんな効果でしたか!?」

「いや・・・・・・普通に精神支配するだけだと思っていましたが・・・・・・最初の術者が再起不能になったのが原因で不完全なのか、それともこの亜人の頭の中がどうかしているのか」

「頭の中がどうかしてる?そりゃどうかしちゃってますよ。だって俺の頭の中はね・・・・・・」

 

 そう言ってペロロンチーノは占星千里に耳打ちをする。

 

「きゃあああああああああああああ!な、な、な・・・・・・何してるんですかー!私のことを頭の中で何してくれてるんですかーー!!」

 

 そう言って往復ビンタをする占星千里。それをペロロンチーノが嬉しそうに受け入れる。

 

「ありがとうございます!ありがとうございます!でも仕方ないんです。これは魔道具による効果ですから。だから占星千里様のケツを揉むのも仕方ないんです」

「ケツって言うなーー!!なんで私がこんな酷い目に!!」

 

 

 

 

 

 

―――スレイン法国 中央広場

 

 マクシミリアンは議場の建物へ向かって歩いていた。一人の少女が目の前で転ぶ。マクシミリアンはそんな少女に手を差し伸べ、そして治癒魔法で傷を癒してやった。少女は何度もお辞儀をして去っていく。周りの人たちはそんな彼を尊敬のまなざしで見つめていた。

 

(違うだろう。私を見てどうする。少女が転んだんだぞ。生足が丸見えになり下着まで見えていた。私じゃなく少女の生足を・・・・・・下着を見ないか!)

 

 マクシミリアンは憐れむように周りを見つめる。皆微笑みを浮かべ朗らかな表情をしている。

 

(これが今の法国・・・・・・何とつまらない国か・・・・・・)

 

 宗教国家であるスレイン法国の徹底した宗教教育により国民は清貧と貞潔をモットーとし、神への誓約と制約により自らを縛っている。その結果、国民はいい大人だというのに聖歌を歌うことを喜びとし、神への祈りを日課とする。結婚相手でさえ親に決められ、夫婦の営みも子供を作るためにしか行わないというつまらないものだ。

 

(この国の行く末が心配だ)

 

 マクシミリアンはこの国では異端であり、破戒僧ともいうべき立場だ。だが、神を敬う気持ちも国を想う気持ちも本物であった。

 

(かつて神がいた時代の資料にはこの国にはもっと活気があった。それを封じ込めたのは今の神殿勢力だろう。国が一体となって人類を守るために行ったのであろうが・・・・・・我が神・・・・・・スルシャーナ様はこのような息苦しい国は求めていなかったのではないか)

 

 八欲王に屠られ今はいなくなってしまった神を思いながらマクシミリンは議場のある建物に颯爽と入ってゆく。男性神官にサムズアップで挨拶し、卑猥な言葉を投げかけ真っ赤になった女性神官に聖書を投げつけられる。マクシミリアンの日常だ。

 

(ふふふっ、元気のいいことだ。そして恥ずかしがる姿が素晴らしい)

 

 そんな彼のことを毛嫌いする女性神官や信者も多くいるが、彼のことを理解して応援してくれている神官も多数いる、そしてそれは驚くべきことに男女問わずになのである。欲求不満は男女ともにあるものなのだ。

 

(懲罰動議などでこの私を縛れるものか。この国を憂う者は少なからずいるのだ。この国に必要なのは度を越した制約などではない、この国にはガス抜きが必要だ。制約などに縛られない崇高なもの、そう・・・・・・エロが必要なのだ)

 

 そして彼は堂々と呼ばれてもいない議場の扉を開く。彼の名は闇の神官長マクシミリアン・オレイオ・ラギエ。

 

 

 

 

―――そこで彼は本当の神に出会うことになる。

 






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