ペロロンチーノの冒険 作:kirishima13
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―――トブの大森林 南部
草原に数十人の人間が集まっていた。彼らは運んできた馬車で周囲を囲み、野営の準備をしている。貴族より遺跡の調査を依頼されたワーカーチームたちだ。フォーサイト、ヘビーマッシャー、天武など冒険者のクラスで言えばミスリル級に匹敵する人員が多数集められていた。未探索の遺跡、それはこれだけの人員を雇う価値があるものであるとともに、危険をともなうものなのだ。そんな準備の最中、怒鳴り声が聞こえてくる。
「
声の主は天武のリーダー、エルヤーであった。依頼主の代理人である執事に詰め寄っている。それを見た他のワーカー達は顔を顰める。ここで諍いをおこして良いことなどあるはずがないと誰でも分かるはずである。それを分からない男。誰か殴ってても止めろとワーカー達が思う中、一人の少女が馬車の中から顔を出した。
赤黒い鱗のようなものを張り付けたぴっちりした軽装鎧の上から白地に金糸の入ったベストを着ている。
「ん?なぁに?」
「おまえはあの時の!」
エルヤーが叫ぶ。忘れるはずもない。自分の邪魔をし、金にモノを言わせてエルフを買い占めたあの忌々しい男の奴隷だ。
「え?誰?」
「奴隷市場にいたあの男の奴隷だな。あの時の男も一緒にいるのか?」
「ペロロンチーノ様のこと?いないよ?」
その言葉にエルヤーはほくそ笑む。あの男の居ない間にこのダークエルフをどうしてくれようか。ダークエルフに人権など存在しない。挑発し、怒らせたところを返り撃ちにしてくれようか。あの男はさぞかし悔しがることだろう。
「じゃあお前が我々の護衛を?ふふっ、笑わせてくれる。ダークエルフ風情に護衛が務まりますかね、それも
「は?何それ?喧嘩うってるの?」
「喧嘩?いえいえ、これはテストですよ。我々の護衛が務まるかどうか。力を試して差し上げようと」
そう言ってエルヤーは刀を抜いた。周りにいた他の冒険者たちが止めようとするがアウラがそれを手で制する。
「ふーん。で、あたしが負けたらどうするの?」
「そうですね・・・・・・ふふっ、ではあなたが負けたら私の物になるというのはどうですか?」
「は?あんたあたしのこと好きなの?」
「何を馬鹿な。奴隷は奴隷らしく私がしつけてやるというだけですよ」
「あんたの奴隷に?まぁ負けるわけないし良いけど。じゃああんたが負けたらその後ろのエルフ3人をくれる?なんかペロロンチーノ様が集めてたみたいだから」
生意気な、と思うがどうせこれから死ぬんだ。最後くらいは言いたいことを言わせてやろうとエルヤーは耐える。
「・・・・・・いいでしょう。ですが、その余裕が命取りです」
アウラとエルヤーは野営地から離れていき、それを冒険者やワーカーたちが見つめる。その誰もがあのダークエルフは殺されるのだろうと思っていた。ダークエルフに帝国では人権はない。殺されたとしても物損として扱われるだけだろう。しかし、フォーサイトの面々だけは違う感想であった。
「おいおい、止めなくていいのかよ」
「あの糞野郎死んだわね。ざまあみろだわ」
「イミーナやめてください。あんなのでも一応潜入チームの一つなんですからその分我々の負担が増えますよ」
「あいつがいたほうが面倒事が増えると思うけど?それにいなくなってくれれば見つかる財宝も増えるかもしれないじゃない。ねぇ、アルシェ」
「うん・・・・・・そうだね。多分あの人じゃ勝てない。いえ、この場の誰でも勝てない」
「安心しろアルシェ。あんなやついなくなっても俺たちならやれるって」
ヘッケランのおどけたような言い方にアルシェは頬を緩める。今回の探索はアルシェの借金のために受けたも同然であり、仲間たちには感謝してもし足りない。これから探索する遺跡は未知のものであり、危険は計り知れないがこの仲間たちとならきっとうまくいく。アルシェは仲間の優しさにしっかりと頷くことで答えた。
◆
―――《テスト》の結果は、アウラの圧勝であった。
エルヤーの斬撃をヒラリヒラリと退屈そうに避け、次第にエルヤーの息が上がっていく。終始余裕を持って最後はエルヤーを鞭で撃ち据えて下した。それもまるで本気を出している素振りも見せず手加減をして、である。ミスリル級に匹敵する仲間が
「じゃ、約束通りこの子達はもらっていくねー」
アウラに手招きをされたエルフ達は嬉しそうにアウラについていく。
「ぐっ・・・・・・亜人が!」
悔しそうに呻くエルヤーを無視して、アウラはふいに振り返りワーカーたちに問いかけた。
「ところでさー。あんたたち何で遺跡に侵入するの?」
その質問にワーカー達は顔を見合わせる。なぜそんな分かり切ったことを聞くのかと思うが、代表して一人が答えた。
「そりゃあ・・・・・・なぁ、報酬のためさ」
他のワーカーチームも同様の答えを返す。それ以外何があるというのか。命を張るだけの報酬を約束されている。それを金のためと言わずに何といえばいいのか。
「ふーん、くっだらないなー。でも一応忠告しておいてあげる。誰かがいるかもしれない遺跡に入るなんてやめておいたほうがいいよ」
そう言い捨ててアウラは荷物運びに戻る。アウラとしてはシャルティアを真似てちょっとした優しさで言った言葉であったが、残ったワーカー達は苦笑いである。ここまで来てお宝も見ずに帰るなんてありえないのだから。無辜の人々の住処であった場合として忠告したのだろうが、不法滞在者を殺してしまうくらいはやむを得ないとワーカー達は考えていた。そこで得られるお宝に対する期待で頭の中は一杯であり、アウラの忠告はワーカー達の心に届くことはなかった。
◆
野営設置や荷物の運搬の仕事が終わり、アウラが一人になったところへ《
『アウラ。ナザリックの入り口のあたりにいるようだが、その人間達はなんだね』
「デミウルゴス?もう動けるの?大丈夫?」
『ああ、シャルティアにやられた傷は癒えたとも。それでどういうことなのか説明してくれるかね』
「なんて言うかなー、ナザリック見つかっちゃったみたいだよ。帝国の貴族が捜索隊を雇って連れてきたの。ま、あたしもその捜索隊の護衛の仕事をもらってるんだけど」
『ナザリックが見つかった?そうか・・・・・・このような周りに丘陵などを多数作り幻術なども使用して偽装しておくべきでしたね、うっかりしていました。しかし君がそこにいると言うことはペロロンチーノ様もいらしゃるのかい?』
「んーん、いないよ。ペロロンチーノ様は別の依頼でトブの大森林に行ってるから」
『トブの大森林に?なぜチームを分けたんだい?』
「あー、いや、それは・・・・・・お金がね。まぁ言っちゃっていいか・・・・・・なくなっちゃったんだよ」
『お金?王国から奪った金貨や財宝がまだまだありますよ。資金が不足したならいつでもお届けしますが』
「それがペロロンチーノ様は自分で稼ぐって」
『それは・・・・・・我々は不要と言うことでしょうか』
デミウルゴスの声が自信なさげに小さくなる。ナザリックの者にとって至高の存在の役に立てないということは自分には存在価値がないと思えてしまうのだ。
「それは違うんじゃないかな。ペロロンチーノ様は自分でお金を稼ぐのを楽しんでるんじゃないかってあたしは思うなー」
『・・・・・・そうですか。楽しんでいるようであれば何よりです。しかしナザリックを探ろうとは愚かな者たちだ』
「でも侵入されたとしても問題ないでしょ?」
『もちろんだとも。防衛体制は万全だ。そういうことであればしっかりと歓迎の準備をしてやろうじゃないか。ふふふっ、楽しみだね。喜劇となるか、悲劇となるか、どのようなドラマを演じてくれるんでしょうね。ああ、アウラ、君は依頼でそこにいるのであれば、外の状況を逐一報告してくれたまえ。』
「りょーかい。でも、デミウルゴスのプロデュースかぁ・・・・・・あいつらちょっと可哀そうかも」
『アウラがそんなことを言うとは意外だね。人間のことなど気にもしてないと思っていたよ』
「シャルティアの影響かな。なんかあの子ちょっと優しくなったかも。まぁ相変わらず馬鹿だけどね」
『シャルティアは守護者最強の存在であるのだからもう少し頭を使ってほしいのだけどね』
「でもペロロンチーノ様がいるから大丈夫・・・・・・あれ?大丈夫かな?」
よく考えるとペロロンチーノ様も心配で仕方がない。なぜなのか分からないがアウラはシャルティアとともにペロロンチーノ様にも教育が必要ではと考えてしまう。さすがにそれは不敬だろうとアウラはその思考を打ち消した。
◆
―――ナザリック地下大墳墓
ワーカーチーム、フォーサイトの4人は混乱の最中にいた。突入後は弱いアンデッド等しかいないので安心しきっていた。さらに財宝の詰まった宝箱もあり、誘われるように奥へ奥へと進んでいたところ突如床の魔法陣が発動し、現在は森の中にいるようであった。空が見えることから外に転移したらしい。
「やばいぞ、この遺跡どうなってんだ」
「ヘッケラン、今のって転移よね。転移の罠なんて聞いたこともない。どれだけの存在がつくったの」
「でも外に出られたのではないですか?でもこの建物は・・・・・・」
「転移魔法は第5位階を超える・・・・・・そんな存在が少なくともいる・・・・・・」
アルシェの言葉に全員が身震いをする。森林の中に帝国の闘技場にも似た建物が建っている。その扉が触れもしないのに少しずつ自動で開いていった、彼らを誘っているかのように。はるか向こうに闘技場中央の台が見えている。
「入ってこい・・・・・・ってことだよな。どうする?逃げるか?」
「逃げ切れると思う?」
「無理でしょうね。殺す気ならとっくに殺されているような気がします」
「うん、少なくとも何か言いたいことがあるんだと思う。もし話が通じるなら交渉するのが得策。逃げるのはその後でもできる」
アルシェのその言葉に納得し、フォーサイトの4人は扉をくぐると、闘技場の中央まで進む。すると突然万雷の拍手が彼らを迎える。周りを見回すと客席に所狭しと詰め込まれたゴーレムたちが手を叩き、足を打ち鳴らしている。そして中央には二人の人物。いや、人物と言っていいのか、一人はスーツを来たカエルのような顔をした化物、そしてもう一人は4本の腕を組み、白い二足歩行の昆虫と言った姿だ。手には刀が握られている。デミウルゴスとコキュートスである。
「ようこそ、みなさん。さあ、どうぞもっと中に入ってくれたまえ薄汚れた盗賊たちよ。我々は君たちを歓迎するよ」
カエル顔の化物が邪悪な笑顔で歓迎の言葉を口にするが、それが本当に歓迎とはとても思えない。ヘッケランたちが訝しむような表情をしているのに気付いたのかさらに言葉をつづけた。
「ああ、そうとも君たちが思っている通り、歓迎と言っても豪華な晩餐を用意しているわけでも、素敵なプレゼントを用意しているわけでもないよ。ただ、君たちのことを彼が気に入ったらしいのでね。君たちには自分たちの運命を自分で決めてもらおうと思ったわけだ」
少なくとも対話は可能のようである。そう判断し、フォーサイトを代表しヘッケランが交渉を試みることにする。
「その前に謝罪させてください。まさかあなたたちの住処とは思わなかったんです。もし賠償が必要と言うのであれば支払います。ですのでどうかお許しいただきたい」
そう言って深々と頭を下げる。仲間たちもそれに続くように頭を下げた。頭を下げるだけならただである。そんな中ふとアルシェを見ると吐き気をこらえているようである。これはあの宿屋で会った者たちに匹敵する魔法を使うと言うことなのだろう。ヘッケランは相手の反応を伺う。下手に出て何とか見逃してもらうしかない、戦って勝つのは不可能だろう。
「はぁ・・・・・・。君たちはこの地がどのような場所なのかまるで分っていないのですね。この地こそ至高の御方々が作られた地、神々の住まう場所だ。そこに侵入し財を奪った君たちをそのまま帰すなど出来るものか」
「そのような場所とは知らなかったのです!どうかお許しを!」
「そうだね。君たちに限っては許してもいい。彼、コキュートスが認めた者達なのだから」
「それならば・・・・・・」
一縷の希望に縋るように顔を上げると、まだ続きがあるといったように手で制される。
「君たちの能力、チームワーク、心構えに戦士としての輝きを感じたと彼は言うのだよ。戦士ではない私には理解しかねるがね。そこで、君たちには二つの選択肢を用意しよう。彼、コキュートスと戦い、死んで許されるか、許されず生きて地獄を味わい続けるか。私としては後者にしたいところなんだがね。せめてのもの救いに戦って死ぬことを選ばせてくれることに感謝したまえ」
「戦って死ぬことのどこに救いがあるというのですか!」
どちらも地獄でしかない、そう思うヘッケラン達に武人といったいで立ちの白い昆虫が腕を組みながら静かに告げる。
「戦士トシテ戦場デ死ヌコト以上の誉レハアルマイ」
「許可もなく至高の御方々の作られたこの地、ナザリック地下大墳墓に侵入し財を奪ったのだ。君たちに拒否する権利などあると思うのかい?」
ナザリック・・・・・・その名を聞いたヘッケランにある考えが浮かんだ。もしかしたら・・・・・・まさか・・・・・・と思うが死地の中では天から降りてきた一筋の糸のようなものかと感じる。
「もし・・・・・・許可をとっていたとしたら?」
ごくりと唾を飲み込む。黙っていても殺されるだけだろうと思い発した言葉。それに対する反応は顕著であった。悪魔が黙り込み、昆虫は口から威嚇音を発している。それは彼らより上位の存在がおり、その者の許可があったのであれば許さざるを得ないのだろうとヘッケランは判断する。悪魔は悩んだ末に頭を振る。
「ありえない。人間などに至高の御方々がそのような許可を与えるなど。だが、念のために聞いてあげましょう。誰がその許可を出した?」
「名前は言っておりませんでした。ただ・・・・・・」
ヘッケランはか覚悟を決める。これから言う言葉が本当に通用するのか。化物が言ったナザリックと言う言葉。ここがその本当にナザリックという土地であれば・・・・・・。古くから伝わる合言葉。それを必死に思い出し、ヘッケランは叫んだ。
「アインズ・ウール・ゴウンに栄光あれ!!」
カエルの化物が、白い昆虫の化物がそして周りのゴーレムたちすべての時が止まった。そしてカエルの化物がブルブルと震え、ヘッケランに詰め寄る。
「どこで・・・・・・どこでその名を聞いた!アルベドがその名を名乗ることが出来る者はただ一人と言うので誰もその名を外には出してないはず!誰から聞いた!」
混乱と焦燥、いままで落ち着き払っていた化物とは打って変わり必死の形相でヘッケランを揺さぶる。
―――そして、ヘッケランは語りだす。
◆
―――《一人ぼっちのスケルトン》
むかしむかしあるところに一人のスケルトンがいました
スケルトンは世界に、冒険に憧れをもって旅に出ます
しかし、スケルトンを見た人間達は彼を忌避しました
人間達はスケルトンを何度も何度も打ち、叩き、削り、焼き、斬りつけました
スケルトンは何度も何度も死にました
スケルトンはそれでも旅を続けようとしましたが人間達は彼を殺し続けます
まだ弱かったスケルトンは負け続けます
弱いことは悪だから
スケルトンが何もする気がなくなりそうになったその時
白銀の騎士が彼を救いました
そして騎士とスケルトンはともに旅立ち仲間を集めました
一人だけでは弱いから。弱いことは悪だから
人間から身を守るため、心の拠り所となる最初の9人が集まりました
仲間は増え41人になりました
彼らは地下に彼らのための世界を創ることにします
その世界の名はナザリック
数多もの世界を作り、そしてスケルトンは君臨しました
しかし、命に終わりがあるように世界に終わりが訪れます
世界は終わり、仲間は去り、スケルトンは再び一人ぼっちです
スケルトンは探します。かつての仲間を
スケルトンは探します、かつての世界を
そしてついに新たな世界を見つけました
しかしそこには誰もいません
一人ぼっちのスケルトン
彼はそこで叫びます。
アインズ・ウール・ゴウンに栄光あれ
アインズ・ウール・ゴウンに栄光あれ
世界が光り輝き、すべての者がひれ伏します
そしてスケルトンはこの地で神として降臨しました
その名はアインズ・ウール・ゴウン
弱いことは悪であり、アインズ・ウール・ゴウンが正義です
全ての世界はアインズ・ウール・ゴウンの元に
編:ネイア・バラハ
◆
―――ナザリック地下大墳墓
ナザリックと言う言葉で思い出し、かつて
「それこそは・・・・・・それこそはアインズ・ウール・ゴウンの伝説。おかしなアレンジが加えられていますが、至高の御方々の神話!おまえたち!どこで、どこでその話を聞いた!」
「こ、答えたら命は助けてくれますか?」
「それは・・・・・・」
デミウルゴスは頭を悩ませる。デミウルゴスの持っているスキル《支配の呪言》などで無理やり答えさせることもできるが、もし至高の御方との関わりがあるのであれば生かす価値がある。そう思い、口を開こうとした瞬間、デミウルゴスに《
「《
大事な話をしているからあとにしてくれと言いかけたデミウルゴスは驚愕に飛び出るのではないかと言うほど目を、落ちるのではないかと思うほど顎を開き、頭を抱えた。そう、デミウルゴスにアルベドより来た《
それは―――
『デミウルゴス。ペロロンチーノ様が、ナザリックに反旗を翻しました』