ペロロンチーノの冒険 作:kirishima13
<< 前の話 次の話 >>
―――ナザリック地下大墳墓 玉座の間
シャルティアは涙目でデミウルゴスを除く階層守護者たちに責められていた。
「あなたは加減ってものをしらないの。清浄投擲槍でデミウルゴスを攻撃するとか何を考えているの」
「そうだよ。あんたさぁ、もう少し頭使ったほうがいいよ」
「ちょ、ちょっとやりすぎかなって思います」
「マッタクダ。作戦ガ台無シニナルトコロダッタゾ」
「わらわは悪くないでありんす!デミウルゴスはペロロンチーノ様を殺すっていったでありんすよ!」
シャルティアが両拳を胸の前で上下させながら涙目で反論する。
「待ってくれみんな、これは俺のせいで・・・・・・」
「ペロロンチーノ様はシャルティアに甘すぎます!ここはガツンと言ってやらないと」
「そうですよ、この子は何度も言ってやらないと分からないんだから」
「・・・・・・」
アウラに言われるとまるで自分が姉ちゃんに叱られているみたいでつい無言になってしまう。そして、アルベドとアウラの口撃は止まらない。
「シャルティア、あなた守護者の私たちが至高の御方を裏切るとでも思っているの」
「そんなのすぐ嘘ってわかるじゃん」
「ううっー・・・・・・でもぉ・・・・・・でもぉ・・・・・・」
「っていうかさー、なんでシャルティアが一番活躍しちゃってるわけ」
「そうよ、とどめはペロロンチーノ様に刺してもらわないといけないじゃない。デミウルゴスも言っていたわ、ペロロンチーノ様に滅ぼされたかったって」
「そこかよ!」
思わずツッコミを入れる。デミウルゴスを攻撃したことじゃなく、ペロロンチーノに活躍の場を譲らなかったことが許せないらしい。
「デミウルゴスは今ペストーニャとルプスレギナが付きっ切りで看病しているわ。しばらくは再起不能ね」
「あーあ、誰かさんのせいでねー。ルプスレギナがまるでスプラッターだーって大騒ぎしてたよ。あんた攻撃に呪いも乗せたでしょ。治癒魔法を使える誰かさんはこんなところにいていいのかなー」
「わ、わらわも治癒の手伝いをするであんりすよ!」
そう言ってシャルティアは泣きながら走っていった。
「ところで、ペロロンチーノ様、デミウルゴスの作戦はいかがでしたでしょうか」
「作戦?」
(ああ、あのマッチポンプのことか)
「ペロロンチーノ様のためにフラグを立てる。それが今の私たちの使命かと存じます。ご満足いただけたでしょうか」
「ああ、あれフラグを立てるためのものだったのかやっぱり」
(俺とあのロリ吸血鬼の間のフラグを立てるために頑張ってくれてたのか)
「これからも我ら守護者一同、ペロロンチーノ様のためにフラグを立てさせていただきます」
(やっぱりか、今後も俺と女の子の間にフラグを立てるためのマッチポンプしてくれるとは・・・・・・)
「分かった。それは全面的に任せる。でも出来るだけ俺に知られないようにやってくれると嬉しい」
(さすがに知ってると萎えるからな)
「畏まりました。隠密裏に行わせていただきたいと思います。それとフラグを立てる作戦とともに、活動資金の調達もさせていただきました」
「活動資金?」
「はい、これについてはデミウルゴスから報告書を預かっています」
「なにその紙・・・・・・血だらけなんですけど」
「デミウルゴスが血反吐を吐きながらもなんとか書き上げた報告書です」
「いや、休ませてやろうよ」
「いえ、デミウルゴスがどうしても・・・・・・と」
「・・・・・・」
「さて、ではデミウルゴスに代わり私が説明させていただきます。今回、王都を襲うとともに、資金の調達に関しては王都の倉庫区を襲い、悪魔騒動の中価値のあるものはすべて運び出すことに成功しています。こちらにその成果の一部がこちらに」
そう言われて玉座の後ろを見ると山となった財宝や金貨があった。ペロロンチーノの額に一筋の汗が流れる。
「え?これ盗ってきちゃったの?」
「はいはいはーい!あたしが盗ってきました」
「お、お姉ちゃん。僕もがんばったよ」
褒めてほしくてしっぽを振る犬のような目で双子のダークエルフがペロロンチーノを見る。だが、ペロロンチーノの心境は、違った。まるで預かった親戚の子供から万引きをした品を自慢されているような感じだ。盗みはいけないことですと叱ったものか、それとも生きるゆえにやった仕方のないことだと許すべきか。確かに宝物殿がない以上お金は必要になるかもしれない。だが、ペロロンチーノはログインしたときからつけっぱなしの
「しかし、こんなに盗っちゃって王国は大丈夫なのか?」
「問題はないかと。放っておけば貴族に搾取されるだろう金額の範囲内です。これから王国では貴族への粛清が始まると思われます」
「粛清?」
「それほどまでにペロロンチーノ様の王国に対して打った手は決定的だったのです。当初は王女のペットを旗印にしようかと思っていました。魔王を撃退した勇者への感謝と尊敬の感情を利用する予定でしたが、より良く修正していただきました。今回ペロロンチーノ様がその代役を引き受けてくださるとともに、権力者たちへの市民の怒りという感情に火をつけてくださいました」
「今後、王国は貴族派閥、国王派閥のほかに、さらにもう一つの派閥が出来ることでしょう。ペロロンチーノ様が事前に交渉していただいていたおかげで契約は無事完了しております。ラナー王女は我々ナザリックへの忠誠を誓うとのこと。アレは人間と言うよりは精神の異形といった者ですので、人間種と見なさなくてもよろしいでしょう。違法娼館を利用していたという貴族、王族を含むスキャンダルは権力者の男への信頼を決定的なまでに地に落としました。これを利用し、表でもラナー王女に支配していただきます」
「そのために、傭兵モンスターを幾体か、王女に貸し出そうと思います。召喚にかかる金貨は王国から奪ったものを使用しますので、王国に還元したと思っていただければよろしいかと」
いまいち理解できないが、まぁ任せておけばいいだろうとペロロンチーノは思う。そもそもこういう面倒なことはモモンガさんの役目だ。
「よく分からないけど、任せるよ。うん、がんばれ」
「分からないなどとご謙遜を。ですがお任せください」
「しかし、あの変態王女が国を治めるようになるってことか・・・・・・」
ラナー王女の性癖をペロロンチーノは思い出す。ペットを鎖で繋ぎ、
「なるほど・・・・・・あり・・・・・・だな」
◆
―――バハルス帝国
バハルス帝国皇帝、ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクスは頭を悩ませていた。リ・エスティーゼ王国での事件についてだ。王国戦士長ガゼフの死亡、そして悪魔襲撃事件。悪魔襲撃事件では二人の強大な力を持つ冒険者の活躍により撃退に成功したとのことだが、王国はその彼らを貴族に無礼を働いたと処刑したという。民衆の反発かなりのものだそうだ。これは帝国として戦争を仕掛ける絶好のタイミングと思われる。戦力の低下、そして新たな指導者を求める国民、ジルクニフに攻めろと言っているようだ。だが、裏の取れていない情報のみを過信して行動するのは愚か者のすることだ。
「そのペロロンチーノとシャルティアなるものたちは処刑されたのち空を飛んで消えていったとあるが、これは死んで天国に行ったということか?」
秘書官であるロウネ・ヴァミリオンに問いかける。
「いえ、処刑の刃は彼らの首を落とすことなく、文字通り空を飛んで逃走したとのことです。王国内では貴族が懸賞金をかけて探しているようですが、それに協力するものはおりません」
「刃が首を落とさなかった・・・・・・か。それは魔法で可能なのか?じい」
「そう言った魔法は知りませぬが、魔法とは深く、広い知識の集大成。あってもおかしくはないでしょう。空を飛ぶということは最低でも第3位階の魔法の使い手。ですが、話を聞く限り私に匹敵する魔法を使えてもおかしくはありますまい」
じいと呼ばれた老人が嬉しそうに答える。主席宮廷魔術師であり、三重魔法詠唱者《トライアッド》と呼ばれる帝国最強の魔法詠唱者だ。その彼を同等の使い手と聞いてジルクニフは眉を顰める。
「何とか帝国に取り込めないものか・・・・・・。恐らく処刑までされた王国には未練はあるまい」
「ですが、陛下。素直に我々に下るでしょうか。彼らは金や名誉には興味はないように思います。そうであれば、王国の貴族たちにとうに下っていることでしょう」
「そうだな。それに権力者を嫌っているようなふしも見られる。だが、報告にあるこの二つ名はなんだ?聞き間違いか?《アダマンタイト級の変態》?」
「ただ単に《変態》と呼ばれることもあるようです。その・・・・・・女性へのセクハラ等が原因とか」
「ふん、本当の強者を知らぬ愚かなものたちが付けたのだろう。私はこう読んでいるのだ。彼らは国や世間の評価など必要としないほどの強者なのではないか、と」
「そ、それはどういう意味でしょうか」
「つまり、彼らにとって皇帝など取るに足りない存在ということだ」
「そんなまさか!」
「可能性は大いにある。そんな彼らを下すには何が必要か。戦力でないのは確実だ」
「《変態》と言うくらいですから女をあてがうと言うのは?」
「それは非常にいい案だ。だが、危険でもある。報告書には違法な娼館を一つ潰しているとある。無理やり連れてこられたような女は駄目だろう。それに他の報告から見る限り、彼らは女の肉体だけを欲しているとは思えない。もっと別の・・・・・・そうだな・・・・・・」
ジルクニフは考える。王国にはあの嫌な女がいたはずだ。第三王女ラナー。あのような国の僅かな情報しか知りえないような状態でさえこちらの行動を読んだような政策を実行する化物だと思っていた。その彼女がいたにも関わらず二人を処刑したということはあの化物女でさえ扱いきれなかったということだろう。ならば出し抜いてやろうではないか。あの女が扱いきれなかった理由。《変態》と言うキーワード。
「ロウネ、お前なにか性癖を持っているか?」
「へ?」
「人に言えないような性癖はあるか?言え」
「は、はい・・・・・・えー、私は妻にその・・・・・・踏まれるのが好きですが」
「ほう、なるほどそういう性癖もあるのか・・・・・・」
「私は第7位階を超えるような魔法詠唱者に会うことですな。それを想像しただけで、私は・・・・・・私はもう・・・・・・はぁはぁ、彼らに会う際は、ぜひ私も同行したいものですな。同じ魔法詠唱者として魔法談義をしてみたいものです」
「じいの性癖は分かっているから、少し黙っていてくれ・・・・・・」
フール―ダは魔法が絡むと少し駄目になるのが玉に瑕である。
「まぁ、すぐにと言うことはないが、対策は取っておくにこしたことはないだろう。あれほどの事件を起こしたんだ。しばらくは動かないという可能性もある。今はとにかく、情報だな。空を飛んで来る可能性もあるから
「畏まりました!」
「まずは、力を確かめることだな。情報が本当かどうか。そして、それが本当であったのなら帝国に取り込むべく動かなければな・・・・・・。どんな性格をしていようが薄布を剥ぐように少しずつ心を壁を突き崩し丸裸にしてやろうじゃないか。ふむ、性癖か・・・・・・」
◆
―――ナザリック地下大墳墓 大食堂
ペロロンチーノは、しばらくナザリックで休息を取ることにした。色々と試したいことが出来たのだ。指の装着したその指輪を見る。
大食堂の中ではメイド達が食事中であった。白と黒のメイド服にキャップをしたこの世でもっとも素晴らしい服の一つだ。
「ペロロンチーノ様!?」
「ペロロンチーノ様よ」
「お帰りになられていたのですね、ペロロンチーノ様」
「お帰りなさいませ、ペロロンチーノ様」「おかえりなさいませ」「おかえりなさいませ」
「お、おお・・・・・・」
かつて自分が望んだ光景がそこにはあった。本物のメイドに迎えられるという光景が。なるほど、自分はこのメイド達の主人なのだ。ならば主人としてメイド達に相応しい態度でなければならない。ペロロンチーノはワクワクする。メイド達の主人として正しい行動、それはメイドに軽い意地悪やセクハラをし、その恥じらう様子を楽しむことだ。今までメイドの主人などやったことはないが、きっとそうに違いない。エロゲではそうだった。
「ただいま。一緒に食事を取らせてもらうよ」
そう言って、メイド達の間をとおり、ビュッフェスタイルの食事をとりに向かう。
「ペロロンチーノ様、私がお取りします」
メイドの一人、シクススがペロロンチーノにつく。はち切れんばかりの笑顔で張り切っているようだ。早速意地悪をしかけてみるか。
「いや、自分で取るよ」
断ってみた。さて、ビュッフェの内容をみると、オムレツやサラダ、ソーセージ等の肉類もある。色々と種類があって美味しそうだ、どれを食べようか悩んでいるペロロンチーノはふと横を見るとシクススが倒れていた。
「ペロロンチーノ様は・・・・・・私が不要ですか・・・・・・ぐすっ・・・・・・」
マジ泣きである。
「シクスス、泣かないで。元気出して」
「そうよ、ペロロンチーノ様はたまたま御機嫌が悪かっただけよ」
「シクスス、ほら泣いてたらペロロンチーノ様もお困りになるわ」
「ペロロンチーノ様のお役に立てないのなら・・・・・・私もう・・・・・・ぐすっ・・・・・・ぐすっ・・・・・・」
(なにこれ、俺が悪いの?やりすぎた?いや、何かこれは思ってたのと違うような・・・・・・だが、負けるものか。まだセクハラが残っている)
「そ、そんなに給仕がしたいのか?」
「はい!」
眼を見開き、はっきりと返事をするメイド達。
(なんなんだろう。すごく違和感がある)
そう思うペロロンチーノだが、己の信念を信じる。己の信じるメイド道を信じ、ペロロンチーノは勇気を振り絞る。メイドとは主人の意地悪に恥じらうものなのだ、と。
「じゃあ、パンツ見せてくれたら給仕してくれてもいいよ」
ほんの軽いセクハラのつもりであった。少なくともペロロンチーノにとっては。だが、そこに現れた光景は想像を絶するものであった。
メイド達全員がスカートをたくし上げたのだ。白く綺麗なパンツがどこを見ようと目に入ってくる。ペロロンチーノはパニックになった。どうなっているんだ、これは俺の常識がおかしいのか?いや、俺はおかしくない。ならば・・・・・・。
「やめなさい!」
びくっと震えてメイド達が一斉にスカートを下げる。
「だめでしょ!メイドたるもの恥じらいを忘れちゃいけません!恥じらうメイドが嫌々ながらっていうのがいいんでしょ。メイドは絶対領域を守らなきゃだめよ!」
なぜかおネエ言葉で説教するペロロンチーノ。
「あの・・・・・・ペロロンチーノ様、絶対領域とはなんでしょうか」
メイドの一人がオズオズと手を挙げた。
「具体的に言うと・・・・・・マーレのスカートだ」
メイド達がはっ・・・・・・と納得した顔をする。
「・・・・・・なるほど、あれが・・・・・・。さすが絶対領域の領域守護者マーレ様」
メイド達が頷く。分かってもらえたようだ。ちなみにマーレは第6階層の階層守護者だ。
「ところで、パンツはお見せしましたので私が給仕をさせていただきますね」
そう言って、嬉しそうにシクススが食事を運んでくる。ペロロンチーノは仕方がないので席に座って待つことにするが、座ろうとする前に椅子がすっと引かれる。メイドの一人が引いてくれたのだ。椅子くらい一人で座るが、と思うが仕方がないので席に着く。
「ペロロンチーノ様、どうぞ。このオムレツはとても美味しいですよ」
そう言って、シクススはスプーンにオムレツをすくってペロロンチーノの口元に運ぼうとしてきた。
(なんか違う。俺の思っているメイドと何かが違う。何なのかはうまく表現できないが何かが・・・・・・)
そう思い、つい自分でスプーンを取り自分の口に運ぶ。そして、ペロロンチーノは驚愕する。
「なんだこれ・・・・・・美味しい・・・・・っていうか味がする!なんだこれ!」
味を感じるような機能はなかったはず、技術の進歩はここまで来たのか。驚いていると隣でまたシクススが泣いている。
「ペロロンチーノ様・・・・・・私はご不要ですか。私ではお役に立てませんか、ぐすっ・・・・・・ご不要でしたら自害をお命じください・・・・・・」
「ご、ごめ・・・・・・食べるから、シクススに食べさせてもらうから」
「さようですか!はい、どうぞ!」
急に元気になって太陽のような笑顔でスプーンを運ぶシクススにペロロンチーノは食事の味を忘れるのであった。
◆
(はぁ・・・・・・なんか疲れた・・・・・・部屋に戻ろう。そういえば、第9階層に俺の部屋まだあるかな)
ギルドメンバーそれぞれのプライベートルームがある第9階層に向かおうとすると、後ろに気配がする。
「ペロロンチーノ様、お供させていただきます」
そう言って、10人ものメイドがついて来ていた。何か言おうと思ったが、何か何もかも面倒になったペロロンチーノは何も言わずそのまま第9階層に向かった。
そして、第9階層の自分の使っていた部屋に入ってペロロンチーノは驚いた。何も変わってなかったのだ。そう、ペロロンチーノが引退した時から何も。ペロロンチーノが配置した家具、小物、R18ギリギリの書籍データ等すべてそのまま置いてあった。
(売っちゃっていいって言ったのに。モモンガさん律儀だなぁ)
懐かしさに浸っていると、後ろにまだ気配がする。
「あの・・・・・・なんで部屋の中にまでついてくるの?」
「それはもう、いつでもペロロンチーノ様のお望みのときにお役に立つためです」
「何なりとお命じください」
「えー・・・・・・」
困った。別に用はないのだ。部屋で懐かしさに浸った後はR18ぎりぎりの書籍データでも見て寝ようと思ってただけなのだ。そんな姿をなぜこんなに大勢に見られなくてはいけないのか。
「いや、ちょっと人数多すぎでは」
「さようでございますか。失礼いたしました」
「御用の際はいつでもお呼びください」
そう言って、引き下がっていくメイド達。ほっとしたペロロンチーノはベッドに寝転んで久しぶりの睡眠を楽しむのであった。
◆
ふと、夜中に目が覚める。喉が渇いている。
「ひゃあああああああああああああああああああああ!」
ビビった。何あれ、何でドアの隙間から彼女たちは覗いているの。
「お飲み物をご所望でしょうか。リンゴジュースに、オレンジジュース、お酒もご用意してございます」
メイド達が足音もさせずに入ってきた。
「あ、あの。いつからいたの?」
「ずっとおりましたが?」
それが何か?と言いたげに不思議そうな顔をするメイド達。
「ずっと見て・・・・・・たの?」
「それはもう、いつでもペロロンチーノ様のお役に立てるよう」
(なんだこいつら・・・・・・普通じゃない!こんなんで眠れるわけがないだろう!)
ペロロンチーノは心の中で絶叫した。
◆
―――カクテルバー・ナザリック
ナザリックには複数の娯楽施設があるが、ここもその一つだ。副料理長がドリンクを提供してくれる大人の雰囲気のバーである。ペロロンチーノの前にトンと飲み物が置かれた。
「10種類のリキュールを使ったカクテル、ナザリックでございます」
10種類の色の層ができた非常に美しいカクテルだ。ペロロンチーノは一気に喉に流し込む。
「うん、不味い・・・・・・」
本当に不味い、10種類もの飲料が全く調和していない。色と名前だけで作られたようなカクテルだ。
「やはり、もう少し改良の余地がありますね」
「副料理長、ちょっと愚痴聞いてもらっていい?」
「はい、バーテンダーにとってお客様の愚痴を聞かせていただけるのは誉れでございます。どうぞ何なりと」
副料理長は
「メイド達がおかしいんだ、あんなのは・・・・・・あんなのはメイドじゃない」
「さようでございますか」
「メイドには恥じらいが必要なんだ。分かるか?恥じらいだよ恥じらい。それなのに主人に言われたら躊躇せずにどんなことでもするとか・・・・・・」
「ご苦労されてますね」
「そうなんだよ!それに付いてくるんだよ、どこまでも・・・・・・断ると泣くしどうすればいいんだ」
「お察しします」
「あれはメイドと言うよりストーカーだよ。可愛いのに・・・・・・すごく可愛いのに残念過ぎる」
「わかります」
「分かってくれるか!副料理長!俺は・・・・・・俺はねぇ・・・・・・」
「メイド達の気持ち、よく分かります」
「へ?」
「至高の御方といつでも一緒にいたい、すぐにでもお役に立ちたい、至高の御方に創造された我々はそう思わずにはいられないのです」
「えー・・・・・・」
話は聞いてくれていたが、心は理解してくれてなかったらしい。その時、ふとバーの入り口を見る。そのドアの隙間から複数の目が覗いていた。メイドだ。その目はペロロンチーノを、ペロロンチーノだけを見つめている。
「ひいいいいいいいいい、ふ、副料理長。また、メイド達が役に立ちたそうな目で俺を見つめてくるんだ・・・・・・た、助けて」
「へぇ、メイド達がですか、それはどんな目をしていますか?」
「え?」
「もしかして、こんな目ですかぁ?」
そう言って振り返った副料理長の顔はメイドの一人、シクススの顔であり、輝くような笑顔でペロロンチーノを見つめそう言った。
◆
「うわああああああああああああああああああああああああああああああ」
気が付くとベッドにいた。心臓の鼓動が激しく脈打つ。汗もびっしょりだ。そして、自分の状況を把握してほっとする。
「ゆ、夢か、よかった・・・・・・」
恐ろしい夢を見た。まぁ、メイドがストーカーだらけとかありえない話だ。ないない、メイドは愛でるものであってストーカー属性とか必要のないものだ。主人にセクハラされ、恥ずかしがり、キャッキャウフフと楽しむものだ。しかし、リアルな夢だった。24時間監視される続けるとかどんな拷問だというんだ。夢でよかった。本当に良かった。しかし目が冴えてしまったし、ちょっと飲み物でも飲もうか。そう思い、ふと顔を上げると、顔と顔がくっつきそうな距離でシクススがペロロンチーノの目を見つめていた。
「ペロロンチーノ様ぁ~?何か怖い夢でも見られましたかぁ~?何か私にできることはありますかぁ?」
「~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!!」
◆
そして、ペロロンチーノは羽を休める暇もなくナザリックから飛び立った。