ペロロンチーノの冒険 作:kirishima13
<< 前の話 次の話 >>
―――ナザリック地下大墳墓 玉座の間
そこにシャルティア、ヴィクティム、ガルガンチュアを除く階層守護者が集まっていた。
「それでデミウルゴス。最初に旗を立てる国は決まったの?」
「ああ、アルベド。王国にしようと思う。利点はいろいろあるが、まずはナザリックの宝物殿が使えない以上資金調達の必要があることだ。そこでもっとも警戒の薄いと思われる王国の倉庫区を襲い財を得る」
「確カニ金貨ノ補充ハ必要ダ。下僕ヲ召喚スルノニモ使ウカラナ」
「ナザリック自体の活動資金のほうは宝物殿の金貨が使われてるのだけれど、それは問題ないわ。なにせあのアインズ様達が収支を考えて調整されたシステムですから」
「そして王国に悪魔たちを放つつもりだ。これは私と魔将たちで召喚した悪魔たちを使うのでナザリックの損失は0だ」
「な、なんで悪魔たちを放つんですか?王都を滅ぼすんですか?」
「そうではないよマーレ。滅ぼすことなど簡単だが、今回はそういうわけにはいかない」
「わっかんないなぁ。どうするつもりなの?」
「まず、表で活動するアンダーカバーとして魔王を作り出そうと思う」
「魔王?」
「ああ、かつて至高の御方々が目指したものだ。悪魔を使役し世界に悪を知らしめる、その魔王は世界中からの恐れと憎しみと言う名の栄誉を得るだろう」
「至高の御方々に見つけていただくための灯台というわけね」
「そうだとも。だが、そのまま魔王が君臨するつもりはない。奪うものを奪ったら王国からは撤退するつもりだ」
「なんで?そのまま支配しちゃえばいいじゃん」
「今の王国にはまるで魅力がない。そのまま支配するより裏で支配したほうが簡単だ」
「あ、あの、どういうことですか?」
「ああ、マーレ。王国に潜入させていたソリュシャン達からの報告よると八本指と言われる組織が国を裏から牛耳っているらしい。その幹部や裏でつながった貴族たちが王国の税を労働力をそこで貪っているのだ」
皆が効いていることを確認し、デミウルゴスは続ける。
「だが、人間達にしてみればそんなゴミのような者たちに支配され搾取されるより我らの役に立ったほうがよっぽどいいだろう。そこで王都を襲う際、この組織を手に入れるつもりだ。至高の御方々の情報収集といい意味でも組織は存続させる。ああ、そうそう。八本指と言えばその警備部門のトップ六腕の一人が不死王と名乗ってるらしい」
「不死王!?モモンガ様!私のモモンガ様がいるの?」
「落ち着きたまえ。モモンガ様が人間の組織のそれも下についているなどは考えられない。可能性は低いと思われるが、何か知らないとも限らない。この人物は捕えて連れてくるつもりだ」
「もしモモンガ様ではなかったら・・・・・・不死王などと名乗ったこと、許せないわ」
「それは当然だね、その際は任せるよ」
「それで、魔王役は誰がやるの?」
「はいはいはーい!あたしやりたーい」
「私ガヤロウ。至高ノ御方ノタメナラバ悪名ヲ受ケルコトナド容易イ」
「まぁ待ちたまえ。アウラとマーレには偽のナザリック建設を、コキュートスには1~4階層までの守護を任せているから無理だ。ここは私が行こうと思う」
「ずるいデミウルゴスー」
「アウラ、では他にいい案があるのかい?」
「ぶー、ないけど」
「はい、モモンガ様!私も愛してます!」
ずっと黙っていたアルベドが突然わけのわからないことを言い出す。
「と、突然どうしたのアルベド」
「ああ、パンドラズアクターに1時間に1回「愛してる」とモモンガ様の声で言ってもらっているの」
「まだそんなことをやっていたのかね」
「だってそうでもしないととても耐えられないんだもの。ああ、モモンガ様・・・・・・」
「それでアルベド、作戦について意見は?」
「問題ないわ。モモンガ様・・・・・・いえ、至高の御方々が見つかるのを心から祈っております」
「ああ、そうだ。王都で一人だけ会ってみたい人物がいるんだ。もしかしたら君たちにも紹介することになるかもしれない」
「あら、誰かしら。人間?」
「それは会って見ないこととには分からないが面白いことになりそうだ。期待していてくれたまえ」
◆
―――王都 リ・エスティーゼ
突如出現した悪魔たちは、炎の壁の中より現れ、人々を襲っていた。そんな中、貴族は私兵で館を警備させ立てこもり、王族も戦士長不在という人手不足の中、市街の警備に回す兵士が足りない状態であった。その中で冒険者組合が中心となり、悪魔の討伐に乗り出すことになる。危険に見合ったと言えないかもしれないが報酬を用意され、雇われた冒険者たちがチーム毎に町に散らばる。
その中で、ペロロンチーノとシャルティアは別働隊として動くことになった。
「なんだあの空を飛んでいる二人は」
「
「魔法詠唱者だとしてもあの弓の腕は・・・・・・本職の俺より上だぞ」
「あんなボロボロの弓であれほど遠くから正確に・・・・・・」
「
「そうなんじゃないか?でもあれが《変態》なんて何かの間違いじゃないのか?」
一射毎に敵を精密に殲滅していく様子は王都の市民の視線を釘付けにする。しかし、ペロロンチーノは悪魔に矢を撃ち込みながら首を捻っていた。
「なんだってこんなに悪魔が出たんだろう?」
「分かりんせんが、召喚された悪魔っぽいでありんすね」
「そういえばウルベルトさんが《
「まさかこれはウルベルト様が!?」
「それにしては弱い悪魔ばかりなんだよな。まぁ全部倒せば親玉がでるだろう」
「では、さっさと殲滅しんす」
シャルティアが速度を上げて範囲魔法を叩きこみ、ペロロンチーノも負けずと聖の属性付加した矢の雨を降らせた。闇夜に光り輝く矢と魔法が降り注ぐ美しい光景を王都の民は呆けたように見つめ続けていた。
◆
イビルアイは全身を悪寒に襲われていた。原因は目の前の悪魔だ。南方の国で着用されるというスーツという衣装に身を包み、顔を奇妙な仮面で隠した悪魔。これほどの悪魔は見たことがない。伝説の魔神の再来ではないかと思わずにいられない。
「ふむ、この程度で死んでしまうとは。お悔み申し上げます」
そう言って頭を下げる仮面をつけた悪魔の前には二人の仲間が倒れ伏している。ティアとガガーランだ。イビルアイ達は炎の壁を越えて順調に悪魔を討伐していた。いや、順調すぎた。弱い悪魔を倒すと次にそれより少し強い悪魔、さらに強い悪魔と誘い込まれているような嫌な予感を感じていたが、それでも悪魔達の壁を食い破り、行き着いた先にいたのが、仮面の悪魔だ。
あの《変態》には苦渋を舐めさせられたがそれでも自分は《国堕とし》とかつて呼ばれた強者だ。だが、たかが悪魔に後れを取ることはないと過信した結果がこれだ。戦い始めてすぐ相手の圧倒的な強さには気づいた。そこですぐ撤退するべきだったのだ。己の強さを過信したツケは大きかった。もしあそこで逃げていれば、またはプライドを捨ててあの《変態》に応援要請のメッセージを送っておけば、後悔するがもう遅い。
イビルアイが死を覚悟し、目をつぶる・・・・・・が、いつまでたっても死は訪れなかった。恐る恐る目を開けると、驚愕したように震える仮面の悪魔がいた。
「なぜここに?これは・・・・・・なぜ・・・・・・ああ、なるほど・・・・・・さすがでございます」
そう言って悪魔は頭を下げる。振り向くと《変態》の二人が立っている。
「ど、どうしてここが?」
「ああ、他の悪魔は全部倒してあとはここだけだから」
絶句する。あの数の悪魔を倒し切ったというのか。
「大丈夫か?」
「あ・・・・・・ああ。いや、大丈夫じゃない!逃げろ!そいつはお前たちでも勝てるような相手じゃない!」
「それはやってみないと分からないだろう」
そう言ってイビルアイの前に男が立ったとたん、城壁に守られているような安心感を感じる。非常に腹が立った。女を裸に剥いて喜び、とぼけた感じで周りを煙に巻いているこんな呑気な男に守られてなんでこんな気持ちにならなければならないのだ。後ろから悔し気に睨みつけていると男と悪魔が情報戦を繰り広げていた。
「あれ?その仮面・・・・・・どっかで見た気が・・・・・・?ああ!」
男がポンと手を打つ。
「私の名はヤルダバオト。お名前を伺っても?」
「は?何を言ってるんだデミウルゴス」
「デミウルゴスでありんすよね?」
二人の声は相変わらず呑気だった。こいつらには緊張感と言うものがないのか。だが、それに対する悪魔の反応は顕著だった。
「ええー!?え、ええ、そ、そうです。私の名はデミウルゴス=ヤルダバオト。デミウルゴスと呼んでもらえれば幸いです」
「知り合い・・・・・・なのか?」
「ふふふ、そう。私と彼らは不倶戴天の敵。いつか滅ぼしてやろうと願っていましたがそれが叶うとは幸いです。それではもうこんな仮面など必要ないですね」
そう言って仮面を投げ捨てるデミウルゴス。敵としてかつて戦った相手らしい。デミウルゴスはペロロンチーノにウインクを送っている。何の合図だろうか、恐らくはからかっているのだろう。
「え、おまっ・・・・・・裏切・・・・・・えー?」
「さて、あなた方もここで殺さなければなりませんね。お覚悟を」
そう言った直後、シャルティアがどこからか奇妙な形の槍を出し、デミウルゴスの腹を刺し貫く。
「正気かデミウルゴス!ペロロンチーノ様に敵対するとか!殺すぞ!」
「ちょっ、ぐはっ・・・・・・やりすぎ・・・・・・」
血を吐きながらデミウルゴスが飛びのく。
「ぐぅ、まったくあなたは・・・・・・。私一人では辛いですか。では行きますよ!」
《
地面から全身から炎を吹き出し怒りの顔に燃えた巨体が現れる。
「てめぇ!デミウルゴス!本気か!本気で私たちとやる気かゴラァ」
以前よっぽどのことがあったのだろう。シャルティアが怒りに顔を歪ませている。そのシャルティアの振るう槍を今度は巨体の悪魔が防ぐ。
「では次の一手です」
そう言ってウィンクをしているが、されたペロロンチーノは顎に手をあて頭をひねっていた。
《
イビルアイでは到底相手にできないほどの高位の悪魔が次々に現れる。
「なるほど、そういうことか。マッチポンプだ!」
マッチポンプとは何だろうと思うイビルアイの前でペロロンチーノは納得したように手をうち、弓を手に取った。
◆
そこから始まった戦闘はかつでの英雄と魔神の戦いを彷彿とさせるものであった。飛び上がった両者は空中で対峙し、イビルアイの理解を超えた攻撃の応酬がいつまでも続く。ヤルダバオトの爪が、腕が恐ろしいほどの速さで振られる中、あり得ない速さでペロロンチーノが攻撃をかいくぐる。数の上では劣勢だが、シャルティアが前衛を務め他の悪魔たちの手をペロロンチーノに届かせない。そして見事なのがペロロンチーノの動きだ。あれほどの高速で移動しながら射撃攻撃を一切外さないのだ。きりもみしながら、または逆さに飛びながらでも確実に攻撃を当てていく。その攻撃も安物の弓にも関わらず炎を、氷を、雷を様々な属性の輝きを持った矢が空中に弧を描く。
「すごい・・・・・・」
イビルアイにはそれしか言葉が出てこなかった。彼らは何者なのか。神の血を引いた神人と呼ばれる者たちは強大な力を持つとされるが、あれがそれではないのか。いや、そうでなくては説明がつかないだろう。
そんな常人を超越した彼らだが、悪魔たちの力も強大だ。降り注ぐ隕石、地獄の業火、しかも所々でいきなり消えたりしている。あれはもしかして伝説と言われる時間停止能力ではないのか。そんな悪魔たちの攻撃は《変態》たちにも決して軽くはない傷を負わせ、彼らの体から血が滴っていた。
「お見事です。私をここまで追い詰めるとは。ですが、私の部下から目的は達したとの連絡が入りました。ここはこの辺で退散させて・・・・・・」
その言葉を遮り、シャルティアの咆哮が響き渡る。血も凍らせるような叫びだ。
「許すかこのアホがあああああああ」
シャルティアの手に何らかのエネルギーが集まっていき、そのエネルギーは槍の形への変形していく。恐ろしいまでの神聖なるエネルギー。どれほどの信仰を捧げればあれほどの聖なる力が得られるのか。イビルアイは息をのむ。
そして投擲される槍に《必中》《回復阻害》《威力上昇》などの
「ぐはぁ!ちょ、だからやりすぎ・・・・・・もう・・・・・・やめて・・・・・・」
血を吐きながらデミウルゴスが背を向けて逃げ出そうとする。
「これで終わるわけねえだろ!」
《
聖属性の光の柱がデミウルゴスを中心に立ち上る。
「ぐあああああ!い、いい加減にしたまえ!《
「あああああ、逃げられた!しまった転移阻害をしておけば・・・・・・くぅううう」
間違った廓言葉を使うのも忘れてシャルティアが悔しがる。
「ペロロンチーノ様もうしわけありんせん。逃げられてしまったでありんす」
「気にするな。あれでよかったんだ」
「え・・・・・・そうでありんすか?でもなんであのデミウルゴスが?」
「その話はあとにしよう、それより・・・・・・」
ペロロンチーノがイビルアイを見つめる。今まで神話に出てくるような戦いをしていたとは思えないほど、気軽に話しかけてくる。
「大丈夫か?」
そう言って伸ばされた手を一瞬躊躇したが取る。
「あ、ああ・・・・・・助かった。ありがとう」
あの《変態》に助けられたと言うのになぜか気分は悪くない。
「いや、助けられなかったな。彼女たちは・・・・・・」
そう言って、ガガーランとティアの遺体を見つめる。
「大丈夫だ。あとでラキュースが
「
「わらわがでありんすか?」
「嫌か?」
「いいえ、ペロロンチーノ様のご希望とあらば喜んでやらせてもらうでありんす」
「し、死者の蘇生を行えるのか?」
「その程度大したことありんせん。では、いくであんす。
ガガーランとティアを白い光が包み込み、青かった肌に赤みがさす。イビルアイは目を見開く。見たこともないような高位の魔法だ。
「な、なんだその魔法は・・・・・・代償もなしに蘇生だと!?」
「いや、代償はいるはず・・・・・・ん?ポケットが軽く・・・・・・あ、金貨が・・・・・・」
「も、申し訳ありんせん!わらわが金貨を持っていなかったからペロロンチーノ様の金貨を」
「
イビルアイはチラリとペロロンチーノの武器を見る。どう見ても安物の弓だ。それも戦闘用ではなく狩猟用。金があればあんな武器を使ってはいないだろう。なけなしの金を使わせたことに罪悪感を感じる。
「金はあとで私が払わせてもらう。いや、払わせてくれ」
「いやー、子供からお金取るのは・・・・・・」
「誰が子供だ!・・・・・・あ、す、すまない命の恩人に。私は駄目だな、こんな態度しか取れないんだ」
ペロロンチーノは不思議そうな顔をする。
「いいんじゃないか?好きにすれば。自分を偽るなんてつまらないだろ」
そう言って笑っている男を見ながらそういうものだろうかと思・・・・・・わなかった。いや、お前はもう少し恥じらいとか常識を持てと思う。しかし何となくこの男らしい言葉だなと思った。
「そうだな・・・・・・」
イビルアイは少し羨ましく思う。馬鹿のくせになんて自由で楽しそうな冒険者なんだと。自分を偽ることなく曝け出して生きていけたらどんなに幸せなんだろうと。吸血鬼の自分にはその勇気がないし、それを世間が受け入れてくれることもないことは知っている。だが、この男ならそんなことも気にせずに失敗しよう何と思われようが自由に生きていくのだろう。
遠くから声が聞こえる。ラキュースの声だ。ティナの声も聞こえる。王都の炎が消えた中、今度は朝日が王都を赤く染めようとしていた。